Musical Theater Japan

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作品を“反芻する”愉しみ~『Hundred Days』「観劇を深める会」レポート

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『Hundred Days』写真提供:conSept
舞台を一人で観に行き、作品世界の余韻に浸りながら帰途に就くのもいいけれど、時には他の人の感想を聞いたり、自分はこう思ったのだけど、と意見を交わし、作品の新たな側面を発見するのもまた楽しいものです。
 
そんなミュージカルの“もう一つの楽しみ方”をご紹介する場として、Musical Theater Japanでは折に触れて「観劇を深める会」を開催。第一弾『In This House~最後の夜、最初の朝~』(レポートはこちら)に引き続き、『Hundred Days』2月24日昼公演後、プロデューサーをお迎えして第二回の“深める会”を実施しました。 

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『Hundred Days』写真提供:conSept
この日鑑賞した『Hundred Days』は、実在のロックバンド「The Bengsons」のショーンとアビゲイルが出会い、結婚し、“今”に至るまでの心の軌跡を多様な楽曲で綴るミュージカル。これまでは本人たちが米国各地で演じていた自伝的作品ですが、日本では藤岡正明さん、木村花代さんがそれぞれ“ショーン”“アビゲイル”に扮し、ドキュメンタリーと劇世界のはざまを絶妙に演じているのが見どころです。(藤岡さん・木村さん・音楽監督の桑原まこさんのインタビューはこちら
 
フォークとパンク、そしてロックが融合した独特の音世界に圧倒され、少々放心状態の皆さんと劇場近くの喫茶店に移動し、さっそく「深める会」がスタート。この日の参加者は“桑原まこさんのファンで、今回もほぼ毎公演リピートしています”というAさん、本作を主催するconSeptの舞台に惹かれているというBさん、そしてふだんは大劇場ミュージカルからストレートプレイまで幅広く観ていらっしゃるCさん。(参加予定だったDさんは体調の都合で鑑賞後ご帰宅)。観劇歴も年代も多彩な顔ぶれとなりましたが、さて、どんな感想を抱かれたでしょうか。 

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『Hundred Days』写真提供:conSept
Aさん「この作品って、音楽に身を委ねられる作品ですよね。見終わった時、ライブが終わったあとのような気持ちよさがあります。出演者の皆さんがそんなライブを“演じて”いらっしゃるのですが、台詞をまさに今、思いついたことのように喋っているのがすごくお上手で、同じ時間軸を過ごしていると実感できます」
Bさん「私は『いつか~one fine day~』で(演出の)板垣さんと(作曲の)桑原さんの作品のファンになりました。自分に近い何かを突きつけてくれる舞台だなと感じていて、今回も最後に自分の人生を振り返っていくところで、共感ポイントがありました。そういうことを不自然でなく訴えかけてくれる作品で、劇中、何度も涙が。」
Cさん「(Bさんに)そういえば泣かれてましたね~」
Bさん「(アビゲイル役の)木村さんが上手いのですもの!」
Cさん「私は『ヘドウィグ&アングリー・インチ』的な作品かと思っていたけれど、『ヘドウィグ』ほどロック・ミュージカル色は強くないなと感じました。むしろトークが多めで、引き込まれました」
 
ここで筆者(松島)から、初めて台本を読んだ時に“うん?どういうこと?”と思わず読み返した部分があったことをお話すると、参加者の方々からも“そこは私もわからなくて”“~~なのかと思ってたけど…”という声。ニコニコと皆さんの話を聴いていた宋元燮プロデューサーが“実際はこういうことで”と解説すると、“うわ、完全に誤解してた!”“今日、(この会に)参加してよかった~”とどよめきが起こりました。(作品の根幹にかかわるネタバレとなるため、内容は書けませんが、この時点で本作が、たとえ根幹を“誤解”したとしても感動ポイントは失われないという、なかなか珍しい作品であることが判明。)

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『Hundred Days』写真提供:conSept
この部分を軸に、しばしショーンとアビゲイルの人物像や、演じるお二人のパフォーマンスが話題に。木村さんについていわゆる“王道ミュージカル”のヒロインというイメージを持っていた方は今回の、つぶしながら高く飛ばすような発声に驚かれたようでしたが、宋さんによると、あの歌声は稽古過程の木村さんの工夫の賜物で、はじめは(喉にとって)まずいかもと思われたけれど、いつしか心地よく歌えるようになったのだとか。また今回、公式HPで募集していたアンコール曲については、今回はしっとり系の3曲をピックアップ。日替わりで1曲ずつ披露し(この日はJUDY AND MARYの「小さな頃から」)、それプラス(躍動感のある劇中曲)“Hundred Days”を歌ったのだそう。
 
「(舞台は上演の)どれくらい前からとりかかるのですか?」との質問には、「だいたい1年半から2年くらいです」と宋さんが回答。上演作品を決めるにあたっては、まず楽曲に触れ、良いと思ったら次に台本を取り寄せて読み、決めていらっしゃるのだとか。これまで『In This House~最後の夜、最初の朝』『いつか~one fine day』、そして本作と“生と死”をじっくりと見つめる作品を選んできた彼は、様々な葛藤を舞台を通して表現し、観客の皆さんと対話したい、という思いでこれらの作品をプロデュースしてきたのだそう。「それと、これらの作品は過去を描いているようで未来を語っているんです」。“誰か”の人生が舞台上で丹念に語られることで、その先にある未来が微かな希望とともに見えて来る。それが観る者の心に響く…。そんな舞台作りの姿勢がうかがえ、「だからconSeptさんの舞台は私たちに“刺さって”来るんですね」という声が上がりました。 

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『Hundred Days』写真提供:conSept
この作品選びは次回作の『Fly By Night~君がいた』(9月上演)にも踏襲されているらしく、皆で質問を繰り出す中で宋さんからはオフレコ話が続々。すっかり“次も楽しみ~!”というムードが醸成されたところで、会はお開きに。和やかな空気のまま、宋さんは夜の部が上演される劇場へ、皆さんはそれぞれの方角へとカフェを後にしました。
 
(取材・文=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
『Hundred Days』3月8日16時ライブ配信のお知らせ:3月4~8日に予定されていた中野公演は新型コロナウィルスの感染状況を鑑みやむなく中止となりましたが、作者Bengsonsから“お見舞い”として特別許可が下り、一日限りのライブ配信が決定。中野公演をご覧になる予定だった方も、鑑賞予定の無かった方も、スタッフ・キャストの思いのこもったステージをぜひオンラインで応援してはいかがでしょうか(視聴料2000円)。詳しくは公式HPをご覧ください。
*Musical Theater Japanでは今後も機会があれば、こうした「観劇を深める会」を通してミュージカルの“もう一つの愉しみ方”をご紹介していければと思っています。“この作品で開催してほしい”等のリクエストがあれば検討しますので、お気軽に編集部迄ご連絡下さい。mtjeditor@outlook.com