Musical Theater Japan

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内海啓貴出演、オンライン版”観劇を深める会“『いつか~one fine day』レポート

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『いつか~one fine day』写真提供:conSept

 

一つの作品を鑑賞後、作り手を交えて皆で感想を語りあい、理解や思いを深める、“観劇を深める会”。

ミュージカルの新たな愉しみ方としてMusical Theater Japanが何度か行ってきたイベントですが、コロナウイルス禍で劇場がクローズする中、“配信中の作品を観てオンライン上で語りあう”形もアリなのでは?…ということで、有料配信されていた『いつか~one fine day』をテーマに、4月18日、オンライン版“深める会”が実現しました。
 

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内海啓貴 95年生まれ、神奈川県出身。高校生でデビュー、TVドラマ『GTO』やEテレ『Rの法則』等、TVを中心に活躍。近年は『テニスの王子様』『黒執事Tango on the Campania』『陰陽師~平安絵巻~』など舞台でも活躍している。©Marino Matsushima
この日の出演は、主人公の勤める保険会社の後輩・タマキ役を演じた内海啓貴さん、そして本作のプロデューサー、宋元燮さん(conSept)。会議ツールZOOM独特の不意打ち感(?)で画面にぽん、と内海さんが現れると、歓迎の声がどっとチャット欄にあがります。直前に出演していた『アナスタシア』が一部上演中止となり、どう過ごされているのかと心配していた読者も、内海さんのリラックスした笑顔にほっと一安心。
 
まずは作品を思い出しましょうということで本作のオープニングを飾るナンバー“うつしおみ”を皆で聴き、トークがスタート。舞台写真を眺めながら、内海さんが“(上司の)クサナギ役の小林タカ鹿さんは、千穐楽が近くなるとだんだん芝居が大きくなったんですよ”“このシーンは皆で“ミュージカルしよう”と言いながら、楽しんで歌ったなぁ”等々、懐かしく回顧します。
 
そもそもなぜ、宋プロデューサーは原作の韓国映画をミュージカル化しようと思ったのかというと、2017年に原作映画をソウルの映画館で観ていた時、なぜか途中で宋さんの頭の中で映画のBGMとは違う音楽が鳴り始め、その日のうちに映画版の監督にコンタクトをとったのだそう。
 
脚本・演出を担当した板垣恭一さんとは日本版をどんなものにするかディスカッションを重ねたが、最後まで定まらなかったのがエンディング。最終的に“結果ではなく過程をフォーカスすること”を選び、キャッチコピー“本当の笑顔のカタチを、私はまだ知らない”に応えるようなものになった、と宋さん。“特に、板垣さんは主人公・テルの“生き抜いてもらうんだ”という台詞に(本作のメッセージを)込めました。映画版には、この台詞は無いんです”。
 
いっぽう出演オファーを受けた内海さんは、当時2.5次元の舞台に出演することが多く、本作はちょうど“もっと芝居をしたい”という当時の願望を叶えるものだったのだとか。
稽古に参加するうち、もっと広い層に舞台を観てもらえるよう、学生に無料のチケット(“カルチケ”)を提供している宋さんの頑張りに、役者として奮い立つものがあったのだそう。
 
“本番中、楽屋で皆が壁に“いつか私は~~をする”と夢を書いたじゃないですか。僕が何を書いたか、覚えてます?“
“うーん、覚えてないや”
“僕、“いつかテルを演じる”って書いたんです。何年か経ったら、自分の見方、感じ方も違うと思うし、お客さんもまた違う角度から感じることがあるかもしれない。そういうのも共有しつつ演じたいんです、いつか”。
“年齢的には10年後くらいだね。でも難しいよ、テルの歌は”
“だからやるんですよ”
…と、内海さんはにっこり。俄然、未来が楽しみなものに。
 

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「観劇を深める会」出演中の内海啓貴さん、conSeptの宋プロデューサー。皆でナンバーを聴く間、ふと気が付けば内海さんはマスク姿に(写真・右)。何事?と思いきや、「自分の歌声を聴くのが恥ずかしくって(笑)」と内海さん。
二人の信頼関係が感じられるトークはこの後、視聴者のコメントも拾いつつ、好きなシーン談義、そして質疑応答へ。何と(こっそり?視聴されていた)作曲家の桑原まこさんからもお二人に問いが寄せられ、それに答える中で、内海さんのお気に入り曲として、本編には出て来ない幻のエミの楽曲“ありがとう”を紹介。エミ役、皆本麻帆さんが歌う、まだ見ぬ母に対する無償の愛のナンバーのあまりの素朴な美しさに、それまで絶え間なく届いていたチャットのコメントが一瞬、ストップ。オンライン上で、出演者、視聴者が確かに感動を共有していると感じられた瞬間でした。
 
タマキにまつわるものから舞台装置、照明に関するものまで、多岐にわたる質問にたっぷり回答し、話題は“今、この状況の中で思う事”へ。内海さんは歯がゆい状態の中でも“レベルアップのために出来ることは(自宅で)やっているので、またそれを舞台で見せられるよう、頑張っていきたい”、宋さんも、業界全体が公演中止で大打撃を受けているが、“コロナ収束後に焦土からスタートするより、何とか次に進める状況が作れれば、と今いろいろ考えています”と、力強く語ります。(*)
 
今後のビジョンとして、内海さんからは“例えば『アナスタシア』のディミトリは、若さゆえに光る役だったけれど、これから大人になってゆく過程で、それプラス肉付けをしていって、それが誰かの人生に繋がっていく役者になりたい、と素晴らしい先輩方を見ながら思うようになりました。誰かのために、舞台に出たいです”、宋さんからは“まだまだ日本では一般社会で演劇が市民権を得られているわけではないという現実があるけれど、それをどう変えていけるか、長い目で、こつこつやっていかないといけないと思っています”と語られ、予定時刻を大幅に超過して“深める会”は終了。作品について、今、そしてこれからの生き方について、お二人の思いをたっぷりと聞くことのできたひとときとなりました。
 
(取材・文=松島まり乃)
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*この時、宋さんが“いろいろ考えています”とおっしゃっていたのが、この後発表された「新型コロナウイルス感染症被害対策:舞台芸術を未来に繋ぐ基金=Mirai Performing Arts Fund。全ての舞台芸術関係者(出演者、クリエイター、スタッフ、その他関係者)に対する支援を行う目的の公共基金です。5月下旬現在で支援者は2800名、基金も3500万円にのぼり、助成金の受付も開始。また伊礼彼方さん、藤岡正明さん、成河さんらが出演し、様々なコンテンツを届けるYoutube上のMirai CHANNELもスタートと、目の離せないプロジェクトとなっています。公式HP https://www.butainomirai.org/ 基金へのお申込みはhttps://motion-gallery.net/projects/butainomirai/ まで。