Musical Theater Japan

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演出家に訊く『ボディガード』日本版の見どころ

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ミュージカル『ボディガード』
大スターとボディガードの切ない愛を描いたハリウッド映画を舞台化、昨年9月には来日版も好評を博したミュージカルが、新演出による日本キャスト版として上演。映画版ではホイットニー・ヒューストンが演じたヒロインを柚希礼音さん、新妻聖子さんがダブルキャストで演じることでも話題の本作を演出するのが、18年に宝塚歌劇版『WEST SIDE STORY』で演出・振付を担当したジョシュア・ベルガッセです。ミュージカルドラマ『SMASH』の振付でエミー賞を受賞し、世界各地から引っ張りだこの才能は、人気作の新版をどう作り上げようとしているでしょうか。振付における信念など含め、たっぷりうかがいました。
 
【『ボディガード』あらすじ】謎のストーカーから脅迫を受け、優秀なボディガード、フランクの警護を受けることになった大スター、レイチェル。彼の忠告を聞かずにライブに出演し、トラブルに遭った彼女はフランクに助けられ、心を開きかけるが…。 
レイチェルという一人のスターの内面を
知ってゆく過程を楽しんでほしい

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ジョシュア・ベルガッセ NBCミュージカルドラマ『SMASH』振付でエミー賞受賞、ほかトニー賞、ドラマデスク賞、アウタークリティクス賞などにノミネート。『On The Town』(2014年)でアステア・アワード賞受賞。ほか『チャーリーとチョコレート工場』(17)『GIGI』(15)等数多くのブロードウェイミュージカルを振付。日本では宝塚歌劇団『WEST SIDE STORY』(18)を演出・振付。(C)Marino Matsushima
――ジョシュアさんはこれまでも日本でお仕事をされているのですね。
「ええ、俳優としては96年の『West Side Story』、07年の『Movin' Out』で来日していますし、日本の大学でダンスを教えたこともあります。演出・振付家としては18年の宝塚歌劇団の『West Side Story』が初仕事でした。大好きな日本にまた戻ってくることができ、嬉しく思っています」
 
――『ボディガード』がミュージカル化されていることは以前からご存じでしたか?
「ええ、映画版も好きだったし、ホイットニー・ヒューストンの音楽は子供のころからファンだったので、今回のお声がけはとても光栄です。
 
サスペンス映画はカットがスピーディーに切り替わるので舞台化はとても難しいはずなのに、このミュージカルはとてもよく出来ていると感じます。台本には手を入れず、今回はデザインをがらりと変えて、日本の優秀なチームと新たな『ボディガード』を作っています。
 
それに舞台というものは、キャストが変わるとがらりと変わって見えるんです。今回、僕はオーディションで柚希礼音さん、新妻聖子さんという二人の才能溢れる女優さんをレイチェル役に選ばせていただきましたが、まさにこの二人が今回のプロダクションを形作ることになります。それぞれの個性を生かすため、振付にしてもボーカルにしても、演出を変え、二つのバージョンをお見せする予定です」 

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レイチェル・マロン(新妻聖子)
――冒頭は華やかなライブ・コンサートのシーン。まずはここでドーム・ツアーコンサートのような臨場感が求められますね。
「レイチェルは既に大スターという設定なので、お客様たちに実際にライブに来ているような感覚を味わっていただかないといけません。今回、稽古前にアンサンブル役の方たちとワークショップをやって、彼らがどんなテクニックを持っているか、よく観察しました。その結果を活かしたステージングにしているので、彼らも自分がショーに貢献できていると感じてくれると思うし、お客様にとっても興味深いシーンになるのではないでしょうか」
 
――英国でツアー版を観た時には、セットから本火がぼんぼん噴きだしていて圧倒されましたが…。
「それは今回は使いません。というのは、僕らのバージョンでは物語や登場人物の関係性、そして迫力の歌声をお伝えすることを第一に考えているので。技術面の調整よりも芝居の稽古に時間を割きたいと思うし、そういう舞台のほうが日本のお客様にも合っているような気がします」
 
――どんな舞台になりそうでしょうか?
「ドラマとしては、一人の大スターを皆で知ってゆくという過程が楽しめると思います。先日、レオン(柚希礼音さん)とも話していたのだけど、いわゆるセレブリティは自分を守るために壁を作ることもあります。周囲の人々が彼・彼女からとめどなく何かを得ようとするなかで、たとえ気取っているように見えたとしても、壁を作ることは自分の身を守る手段なんです。レイチェルもそうして自分の周りに壁をめぐらしているけれど、ある瞬間からフランクに対して信頼が生まれ、徐々にその壁が取り払われてゆく。観客もフランクとともに真実のレイチェルを知ってゆく…という体験をしていただけると思います。
 
そしてなんといっても、名曲揃いのナンバーを最高の歌声、ヴィジュアルでお届けします。その美しさにぜひ浸っていただければと思います」 

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レイチェル・マロン(柚希礼音)
――プロフィールについても少しうかがわせてください。ジョシュアさんはどちらのご出身なのですか?
「ニューヨークです。母がダンス教師だったこともあって3歳でダンスを始めましたが、はじめは自分でもわかるほど、ド下手で(笑)。それが10代になってある日ふとコツが掴めるようになって、母のスクールで自分も教えたりしていました。23歳で初めてオーディションに挑戦したのですが、受かったとしてもダンスコーチのままのほうがいいかもとリラックスしていたのが逆によかったらしく、合格。『ウェストサイド・ストーリー』のツアー版に出演しました。
 
――ジョシュアさんの振付スタイルはどう表現したらいいでしょうか?
「一つのスタイルにはこだわりません。その作品にふさわしいスタイルを心がけています。本作であればヒップホップやジャズ。作品によってはコンテンポラリーであったり、バレエであったり。物語を伝えるために、柔軟な振付家でありたいと思っています。まずは物語と登場人物、音楽をよく理解し、頭の中で動きをイメージ。それをスタジオでやってみる。しっくりこなければまた次のアイディアを試す、といった具合です」
 
――浮かんだアイディアがいいかどうか、どう判断していますか?
「直感に任せていますが、時にはビデオに撮って、客観的に判断します」
 
――ミュージカルドラマ『SMASH』のダンスナンバーを拝見しましたが、何人かのダンサーは横に、何人かは縦にと動きを組み合わせ、常にエネルギーが空間全体に行き渡るよう意識されているように感じます。
「それは意識しています。どんなに美しいセットも、活かしきれないほど残念なことはないですからね。空間全体を使うということは大切にしています」
 
――ジョシュアさんは世界各国でお仕事をされていますね。
「米、日本のほかオーストラリア、中国、カナダ、メキシコ、ブラジルで教えたり、振付や演出を行ってきました。“ベストを尽くせば、次(の縁)に繋がる”、というのが僕の信条。国によって文化は違えど、舞台が物語を伝えようとしていることはどこも同じです。宝塚で『ウェスト~』を演出した時は、50年代の人種差別について皆さんと突っ込んだディスカッションをして、僕自身も学ぶところがありました。これからも、いろいろなところからお声がけをいただける幸運に感謝しつつ、物語をしっかり伝えること、お客様をハッピーにして、何か考えるきっかけにしていただくということを続けていけたらと思っています」
 
(取材・文・撮影=松島まり乃)
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公演情報『ボディガード』3月19日~29日=梅田芸術劇場メインホール、4月3~9日=東急シアターオーブ 感染症対策の政府方針を受け、3月19日の公演は中止となりました。以降の公演については、公式HPでご確認下さい。