様々な角度から人間をじっくり描いてきたconSeptが、「ミュージカル・ドラマ」シリーズ第七弾としてオリジナル・ミュージカルを製作。高橋亜子さん(『フィスト・オブ・ノーススター』)の脚本、桑原まこさん(『GREY』)の音楽、下司尚実さんの演出で、目が見えず、話すこともできない少女とその家族の実話を舞台化します。
この新作で主人公・千璃を演じるのが、山口乃々華さん。E-girlsのメンバーとして活躍後、昨年から女優活動を本格化させた彼女が、身体表現を駆使しながら少女の実体とその“魂”を体現します。一つ一つの舞台に懸命に取り組む中で出会った“難役”への思いをうかがいました。
【あらすじ】 NYで活躍するキャリアウーマン、美香。彼女は夫・丈晴とともに第一子の誕生を心待ちにしていたが、生まれてきた女の子の両目に眼球が無く、また知的障がいを抱えていることを知る。
衝撃を受けながらも千璃(せり)と名付けた我が子を必死に育てて行こうとするが、いつしか疲弊。美香はマンションから千璃とともに身を投げかけるが、地上で行われていたあるイベントを耳にして千璃が笑った瞬間、我に返る。もう一度“この子と生きていこう”と誓う美香だったが…。
――山口さんにとって、ミュージカルはどんな存在ですか?
「小さいころからディズニー作品や『サウンド・オブ・ミュージック』『オズの魔法使い』といったミュージカル映画が大好きで、お芝居の中に歌が入っていることを自然に受け止めていました。
その後、E-girlsとしてデビューしましたが、私はパフォーマーだったので、マイクを握るということは縁遠かったんです。それが、映画に出演した時に少しだけ歌わせていただいて、 監督に“ミュージカルに挑戦してみたら?”と勧められました。歌うことはもともと好きでしたので、“頑張ってみよう”と思い、昨年から『ジェイミー』や『あなたの初恋探します』といったミュージカルに出演させていただいています。まだまだ(共演の皆さんを)見上げる立場ですが、その都度、助けていただきながらがむしゃらに頑張っています」
――ボーカルのレッスンはいつ頃から積み重ねて来られたのですか?
「ミュージカルにお声がけいただいた頃から続けています。
私はパフォーマー出身ですが、最初からダンスが得意だったというわけではなくて、自分の中で“ダンスが踊れるようになった”と思えるまでに5年くらいかかっています。もともと3歳からバレエをやっていたのですが、小学6年でヒップホップに出会い、先生に勧められたオーディションでスクールの特待生に選ばれ、中学三年生で(E-girlsとして)デビューしました。
とんとん拍子にことが運んで行く中で、うまくついて行けず、一度はダンスが嫌いになってしまいましたが、それでも続けることでもう一度好きになりました。何でも器用にこなせるタイプだったらどんなにいいだろうと思いますが、私はこういう生き方しか出来ないんだろうなとも思うので、歌についても自分を信じて、修行を続けていきたいです」
――本作のベースになっている実話は以前からご存じでしたか?
「原作本は以前、(別のカンパニーによって)リーディング・ミュージカル化されていて、私はたまたまその公演を拝見していました。その時は千璃ちゃんの視点で観ていたからか、お母さんが自殺を考えるほど思い詰める姿に、“お母さんが希望を持ってくれなかったら、子供はどうしたらいいんだろう”と、胸がしめつけられたのを覚えています」
――そうだったのですね。今回の台本を読まれての第一印象はいかがでしたか?
「読み進めるうち、台詞やト書きの一つ一つを通して、希望が見えてきたような気がしました。お母さんが発する言葉や選択は、千璃に対して“どうにかしてあげたい”という気持ちによる、愛に溢れたものだったんだなと理解できて、その愛が希望なんだな、と思えて。桑原まこさんの音楽も温かく、カラフルな感じのものなので、ポジティブなメッセージをお届けする作品になるのではないかな、と思いました」
――本作の重要なシーンに、思い詰めたお母さんが千璃を抱いてマンションの屋上に上がるという場面があります。この時、千璃が見せる笑顔を現時点でどうとらえていますか?
「お母さんを元気づけようとか、何かしてあげたいということは考えていなくて、目の前で起こっていることに対して素直に笑っている、生きていることを楽しんでいるという象徴なのかな、と思っています。“私、生きていることが嬉しいんだよ”という、本能的な笑顔には、理由はいらないんじゃないかなと思うんです」
――千璃には知的障がいがありますが、今回の舞台では“自我”は出すのでしょうか?
「難しいですよね。私の中では、自我はまだ芽生えていないと思っています。
まだ自我を持たない“赤ちゃん”がどんなふうに笑い、泣くか、身体表現としては引き出しに貯めて臨んでいますが、千璃は感情を自分から発信するというより、お母さんに可愛いと言ってもらうことで嬉しくなったり、お父さんとお母さんが喧嘩しているから“嫌だな”という気持ちになったりと、周囲に反応しながら感情が動いていきます。彼女の心が動いて、笑う。心地の悪さを感じて、手足をばたばたさせる。実体の千璃としては、そういうことを大切にしながら、お客様にもわかりやすく表現できるといいなと思っています」
――千璃の動きはコンテンポラリーとマイムを足したような感じと伺っています。山口さんがこれまで慣れ親しんでいる、音楽にのせて身体を動かすダンスとは違ったものになりそうですね。
「コンテンポラリー・ダンスはレッスンではやったことがありますが、人前では踊ったことはないです。コンテンポラリーにもいろんな種類があって、最近はジャズもコンテンポラリーぽいものが増えてきて、垣根がなくなってきているなと感じますね。他のジャンルより感情的な要素が大きいように感じられて、お芝居をするようになってから好きになりました。今回の演出・振付の下司(尚実)さんは、日常の動きを巧みにダンスに溶け込ませる方でいらっしゃるので、千璃についても幅広い表現が可能になってくるのではないかな、と思います」
――共演の皆さんは“初めまして”の方が多いでしょうか。
「『ジェイミー』でご一緒した樋口麻美さん以外は、皆さん“初めまして”です。お母さん役の奥村佳恵さんも、お父さん役の和田琢磨さんも優しくて、心を開いて待っていてくださるのが心強いです。存分に甘えていこうと思っています」
――新しいタイプの作品で予想がつかない部分もありますが、どんな舞台になるといいなと思っていますか?
「お話自体は重ためですが、優しい気持ちであったりあたたかい愛情をお伝え出来たらと思っています。自然の音や楽器の生演奏、私たちの動きを通して、“包む”“支える”、そんな柔らかなものが最後に残る作品になれば。歌とお芝居で創られるミュージカル、という枠を超えた、感覚的な空気を受け取れる、アート作品のようなものになるのかな、と私自身、楽しみにしています」
――障がいのある無しに関わらず、皆が互いに支えあえる社会でありたいよね、といったメッセージも感じられたら素敵ですね。
「それはもちろんです。作品の最後のメッセージにもありますが、障がいがあってもなくても、人間、生きていればいろいろあって、そんなに楽に生きているわけではないと思います。そんな中でも、みんな誰かに守られながら生きていて。見終わった後に、誰かがいてくれるから存在できるんだ、誰もが繋がる世界でありたい…というメッセージを伝えられたらいいなと思っています」
――昨年出演された『ジェイミー』のメッセージとも繋がりますね。
「♪みんなの居場所~♪ですよね。そういった意味では、私は作品に恵まれて来たなと思います」
――どんな表現者を目指していますか?
「私の呼吸で感動してもらえる。それぐらい“伝わる”役者になりたいです。一つため息をついただけで、ある空気をお伝え出来たら。私の存在そのものがお芝居になって、そこからたくさんのことをお伝えできるよう、頑張ります!」
(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報 ミュージカル『SERI(セリ)~ひとつのいのち~』10月6日~16日=博品館劇場、10月22~23日=松下IMPホール 公式HP
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