
ロンドンのダーリング家。ウェンディ、ジョン、マイケルが眠る子供部屋に不思議な少年ピーター・パンが現れ、永遠の若さの国“ネバーランド”へといざなう。そこではピーターの宿敵、フック船長が手ぐすねを引いていて…。
バリの戯曲をミュージカル化し、1954年に初演。日本では1981年に初演以来、多くの人々に愛され続ける『ピーター・パン』が、今年も長谷川寧さん演出、山﨑玲奈さん主演で上演。この舞台に今回初めて、ダーリング夫人役で登場するのが皆本麻帆さんです。
子役として活躍し、現在も『SIX』アン・ブーリン役等で個性を発揮する皆本さんですが、“お母さん”役は今回が初めてだそう。ピーター・パンに“選ばれて”冒険に赴く子供たちの母、ダーリング夫人はどんな人物なのか…。現時点での本作、そして役への思いをたっぷりお話いただきました。

――皆本さんは『ピーター・パン』について、何か思い入れはおありですか?
「小さい頃、(この作品を上演していた)青山劇場に毎年観に行っていて、私もピーター・パンになりたいな~と思っていました(笑)」
――皆本さんは子役のご出身で、当時すでにミュージカルをなさっていたのですね。
「はい、デビューが1996年なので、今年(芸能生活が)30年目です。
私は広島生まれなのですが、千葉に引っ越した時、近所にミュージカルを教えているスタジオがあったんです。そこに母が入れてくれて、歌ったり踊ったり、お芝居をするようになりました。
『アニー』のオーディションを受け、一番ちっちゃいモリーという女の子を演じたり、次はアニー役を演じたり…と、本当に“気が付けば”この道に迷い込んでいたという感覚です」
――ご近所がご縁で、ミュージカルと出逢われたのですね。
「幸せな出会いでした。
先日、『フィガロの結婚』という音楽劇に出演したのですが、そのカンパニーの衣裳さんが、私の初舞台の時にスタッフとして入っていらっしゃったんです。こんな偶然ってある⁉と嬉しくなって、当時の私がどんな感じだったか尋ねてみたら、“モリーをやっていた時から、(いつか)絶対アニーをやるんだと言っていましたよ”と教えてくれました(笑)。アニーがかっこいいお姉ちゃんに見えて、憧れていたようです。
そのころもう一人憧れていたのが、まさにこの『ピーター・パン』です」
――ピーター・パンのどんなところがお好きでしたか?
「まず、客席の方まで飛んできてくれるというのが、子供にとっては夢のようでした。劇場空間全体が夢の中にあって、客席の自分もそこに巻き込まれて行くというか、物語の中にいるような感覚になれるのが、すごく楽しかったです。
視線としてはピーターというより、迷子の視線で観ていたかな。迷子でなければ鳥とか、草だったかも…??(笑)。とにかく、ピーター・パンかっこいい〜!って、憧れていました。
あと、フック船長の怖さもとても印象的でした。面白い箇所もあるのですが、私が小さい頃は、古田新太さんやROLLYさんという、“濃い”方々が演じていらっしゃったので、子供の目には怖く映ったのだと思います」
――今回皆本さんが演じる、ダーリング夫人については、どんなイメージがありますか?
「子供の頃は、外国のお伽話に出てくる、綺麗で優しいお母さん…というか、どこかお姫様のように見えていたかもしれません。日本のお話ではなく、遠い世界のお話なので、女神様のような美しい存在というイメージがありました。
なので、今回ダーリング夫人にとお話をいただいて、本当にびっくりしました。『ピーター・パン』でオファーをいただいたとうかがって、一瞬“ピーター・パン役⁈”と思ったくらいです(笑)。
私は今回、お母さんを演じるのが初めてなのですが、おそらくお客様の中にも、私が演じる母というのが、あまり想像つかないかもしれないので、いい意味で新たな挑戦をさせていただけるのが有難いですし、これから実感を持って、“母という存在”に向き合っていかないといけないな、と思っています」
――演出の長谷川(寧)さんからは、既にヒントなどは渡されていますか?
「まだあまりお話出来ていないのですが、どんなイメージを持たれているのか、とても興味があります。
今までの舞台だと、夫や子供たちをうまく操縦しているというか、実際に家庭を運営しているのはお母さんなので、強い女性ですよね。きちんとした家庭に生まれ育って、その時代の女性にとって大事な仕事だった“家を守る”ということをこなせているので、かっこいい女性だなと思います」
――ダーリング夫人は終盤、“どんと来い”というか、驚くべき懐の深さを見せますね。もしかしたらキリスト教的なチャリティー精神もお持ちなのかも…?
「まさにそうかもしれないですね。“受け入れる”という精神性、すごくヒントになるような気がします。そういうお母さんのいる家庭だからこそ、ピーターは(他の家ではなく)ここを選んで訪ねたのかもしれませんね」
――ラストには“大人になること”の切なさも描かれますが、ダーリング夫人もこうした感覚を持っていたと想像されますか? 彼女の中にも、“もはや子供時代は失われてしまった”という感覚はあったでしょうか?
「きちんとする(貞淑である)ことが求められた時代に生きていても、あんなに素敵なウェンディという女の子を育て上げているお母さんなので、どこかに“子ども心”を失いたくない、という思いはあったかもしれないですね。そうであってほしいです。子供が寝る前におとぎ話をしてあげているのは、彼女自身、お話が大好きだったということもあると思います。
私は『ピーター・パン』を見ていると、幼い頃のときめきや、自由な発想を思い出してハッとしたり、そうだよね、こうやってもっと自由に楽しんだり、傷ついたりしていいんだな…と、改めて気づかされます。
ということは、子供と向き合いながら生きる中で、ダーリング夫人も子供から教えられることがあったのではないかな。
演出によっては、ダーリング夫人を演じる人が別の役も演じることがありますよね。私が以前観た時には、最後に出てくるキャラクターをダーリング夫人役の方が演じていて、(思いが)巡っていくということが強調されていて面白いな…と感じました」
――お客様の中には、皆本さんならではのダーリング夫人像を期待されている方もいらっしゃると思います。ご自身の中でテーマにされたいことはありますか?
「私は最近、ちょっとトリッキーな役を演じることが多かったので(笑)、今回の“お母さん”役はまさに新境地なんです。
どこまで(長谷川)寧さんに許されるかわからないけれど、ダーリング氏役の内海(啓貴)さんと一緒に、“身近な大人”として存在したいです。大人にならないピーター・パンとの対比も大事だと思うので、地に足をつけた大人でありたいですね。
もちろん人間なので揺らぎはありますが、家庭を守っている母の空気だったり、子供達がお家に帰りたいと思ってくれるだけのあたたかさ、リアルな空気感が作れたらいいなと思います」
――現時点で、どんな舞台になったらいいなと思われますか?
「『ピーター・パン』って、観る時の年齢や精神状態によって、いろいろな気づきのある作品なので、ご家族連れはもちろんですが、子どもの頃に観たな…という方、まだ一度も観ていない大人の方でも、きっと楽しんでいただけると思います。
音楽もいいんですよ。最初に序曲の演奏が始まっただけで、無条件にワクワクしてきます。客席も笑ったり拍手したり、怖かったら“ヤダー”って叫ぶお子さんもいたりして、それぞれに楽しんでいらっしゃる、あの一体感が、『ピーター・パン』ならではの味わいなんですよね。
お客様にとって、終演後に“あそこが好きだった”とか、“あそこが忘れられないな”とか、誰かとお喋りしたくなるような舞台になったら。そして帰り道が鼻歌交じりのルートになったら、私達も幸せだし、そうなってくれたらいいなと思っています」

――ご自身についても少し伺わせてください。皆本さんは『アニー』でタイトルロールをつとめるなど、子役として大活躍された後、一時期は学業を優先されていたのですね。
「ちょこちょこ出てはいたのですが、大人の俳優としては、17歳で出演した『イーストウィックの魔女たち』(2007年)が最初だったかもしれません」
――正統派のヒロインから、弾けたお役まで、レパートリーは幅広いですね。特に『ファントム』のカルロッタは、かなり意外性がありました。
「『ファントム』は、城田優さんの一言がきっかけでした。城田さんと山崎育三郎さん、尾上松也さんの“あいまい劇場”(2021年)に出演した時、稽古場で城田さんが“今、『ファントム』のオーディションをやっているんだよね”と話していたんです。“えー! クリスティーヌ受けたいです!”と言ったら“カルロッタはどう?”と提案してくださって。
私の中でカルロッタはとても遠い役だったのですが、(そこにいた方々が)“オーディション受けてみなよ!”と勧めてくださって、それなら自分なりにいろいろ工夫してやってみようと思って挑戦しました。それを城田さんが“いいじゃん!”と面白がってくださって、さらに“こういう感じでやってみよう”と一緒に新たなカルロッタを作っていけたのが大きかったです」
――もしかして、その経験が『SIX』のオーディションにも活きたでしょうか。
「大いに活きたと思います。私は最初から、あの6人の妃の中ではアン・ブーリンがいい!他の役をやっている自分はイメージがつかない、とまで思っていたので、実際にアン・ブーリンで(オーディションを)受けて下さいと言われた時には“よっしゃ‼”という感じで(笑)、いろいろ作戦を練って臨みました。
でも現地では、全く審査という感じではなく、すごく楽しい空気の中でチャレンジさせてくださって。緊張はしても、余計な力を入れずにやることが出来ました」
――クリエイティブ・チームが非常に気に入ったことで、日本版はロンドンにも招聘されました。どんな体験でしたか?
「はじめはちょっと心配でした。『SIX』はイギリスの歴史を扱ったイギリス生まれの作品で、現地でものすごく愛されているので、日本から来た私たちが、日本語という違う言語でやって大丈夫なのか、“本拠地”で受け入れていただけるのか…と。
でも幕が開いたら、お客様がすごく歓迎してくださって、初日から千穐楽まで、ワー!っと熱狂してくださって。楽しんでいらっしゃるのがダイレクトに伝わる作品なだけに、とても感動しました」
――麻帆さんだけに(⁈)、皆本さんはこれまで順風満帆にキャリアを積んでいらっしゃいますが…。
「順風満帆ではないですよ~(笑)。子供の頃、書類審査で落ちたこともあります。でも大人になってからは確かに、たくさんの機会をいただけて、有難いです」
――どんな表現者になっていきたいなと思われますか?
「お芝居にはその人自身が出てしまうと思うので、まずは、また会いたい、また一緒に仕事したいと思っていただけるような人間でありたいです。そのために日々を懸命に生きたいです。
そのうえでお客様に、次はどんな役をどう演じるんだろうとワクワクしていただける、そんな役者になりたいです」
――今回はダーリング夫人役として…。
「新たな挑戦なので、私自身もワクワクしています。お客様にも楽しみに、待っていていただきたいです!」
(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報『ピーター・パン』7月27日~8月7日=東京国際フォーラム ホールC その後大阪、愛知、山梨で上演 公式HP
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