「月刊少年マガジン」で連載中から好評を博し、後にアニメ、実写映画化もされた新川直司さんの漫画がミュージカルに。2020年に予定されていた初演はコロナ禍の影響で中止となりましたが、メインキャストが再結集する形でこの5月、いよいよ初日を迎えます。
高校生たちの揺れ動く心情がみずみずしく描かれた本作で、17歳の主人公・有馬公生を(小関裕太さんとのダブルキャストで)演じるのが、木村達成さん。年明けにはストレート・プレイKERA CROSS第四弾『SLAPSTICKS』で1920年代の青春を生きた彼ですが、今回はぐっと身近に、現代の高校が舞台となります。クラシック音楽という要素もある本作の世界をどのように感じているか、2年越しの初日を迎える心境も含め、うかがいました。
【あらすじ】
かつてピアノの天才児として様々なコンクールで優勝していた公生は、母の死がきっかけでピアノの音が聴こえなくなり、音楽から遠ざかっていた。
それから数年、高校生の彼は幼馴染の椿を通して、かをりと知り合う。音楽コンクールで彼女の自由なヴァイオリン演奏を聴いた公生は強い印象を受けるが、かをりは公生の友人、渡に憧れていた。
“友人A”としてぞんざいに扱われ、コンクールの伴奏者に指名されてしまう公生。かをりによって半ば無理やり音楽の道へと連れ戻された彼は…。
それまで見過ごしていた風景の美しさに
気づかせてくれた作品です
――本作で木村さんが演じる公生は、17歳の高校生。17歳の頃というのは、木村さんにとって“ついこの間”といった感覚でしょうか?
「いえ、すごく昔という感じです(笑)」
――どんな17歳でしたか?
「無敵の17歳でした(笑)。明日のことなど考えず、楽しければいいや、と。このまま大人になりたくない…という気持ちも、どこかにあったかもしれません」
――本作ではクラシック音楽も大きな要素となっていますが、クラシックには以前から親しんでいらっしゃいましたか?
「家にピアノはありましたが、習ってはいませんでした。でもクラシック音楽って優雅で心を落ち着かせてくれるし、これを聴く人ってかっこいいなと思えます。
僕は作品に入っている時、(浸りすぎて劇中の)音楽が嫌いになることがあるのですが、今はまだクラシックを聴けています。…ということは、まだ心に余裕があるのかな(笑)。聴きたくなくなるくらい余裕がなくなったほうが(役に追い込まれて)いいんじゃないかと思いますが…」
――公生はかをりのヴァイオリン演奏に衝撃を受け、以降次第に彼女に惹かれていきますが、公生の彼女に対する愛は、どのようなものだったのでしょうか。
「まだまだ本番に向けて変わっていくかもしれないので、今の段階での話にはなりますが、かをりは公生にとって、トラウマから立ち直らせてくれたり、いろんなことに勇気をくれた存在。歌詞や台詞にも出てきますが、彼女のおかげで公生は世界がカラフルに見えてくるし、彼女がいるだけで自分は最強だと感じられます。
そんな瞬間を味わわせてくれたのは彼女だけだと心の底から思えたとき、これが愛といっていいものなのかは定かではないにしても、“愛してる”、と感じたんじゃないかな。
愛って、僕自身、まだわからない部分もあります。28歳になった今も、“これが愛です”と説明することはできないし、そもそも人によって愛の感じ方は違うと思います。公生としてもまだ“愛とは何か”はわからないけど、かをりに対して、自分の中の最高の表現をするなら、たぶん“愛”という言葉が一番近いんじゃないか、と思っていたのではないかな」
――本作に関してはコンセプト・アルバムが発売されているので、フランク・ワイルドホーンさんによる楽曲に既にふれている方も多いかと思いますが、木村さんは2年前からこれらの楽曲を歌い込んできて、どう感じていらっしゃいますか?
「初めて聴いた時には、もし自分が関わっていなくて、ただ聴いている分には“素敵だな”と思える楽曲だけど、これを自分が歌うとなると壮絶な戦いになるんだろうな…と思いました。そして今、実際に戦っています(笑)。世の中に簡単な曲なんてないとは思うけれど、一筋縄ではいかない曲ばかりですよ。息を吸うタイミングすらないです(笑)。
ワイルドホーンさんは英語の歌詞を想定して書いているので、英語で歌えば息を吸える箇所があると思うけれど、日本語に訳されて(メロディに)日本語が乗ると、ぷつぷつ途切れて聞こえるので“ワンフレーズで歌って下さい”ということになります。その結果、ブレスをとることが出来なくなる。それに加えて、キーがすごく高いので、お腹に息を貯めて吸わないと歌えない。本当に一筋縄でいかない曲ばかりだけど、そこには公生の心の叫びが描きこまれているので、音符に乗せて彼の思いを届けられたらいいなと思っています」
――特に公生的に手強いのはどのナンバーでしょうか?
「音楽コンクールで初めてかをりの演奏を聴いた後にロビーで歌う、“映画みたいに”ですね。すごくメロウで、歌詞も“僕なんか…”と思っている公生の心境にぴったりなので、一見、失恋ソングというか、かをりは自分の友達の渡のことが好きだから僕は心の蓋をしめよう…という曲に聴こえると思います。
でも、実は違うんです。憧れやホープが溢れていて、まるで映画のワンシーンに出会えた時の“喜び”の方向で歌う曲なんです。歌詞にひっぱられると失恋ソングになってしまうので、心を満たしている何かを自分の中に持っていないといけない。そういったところがすごく難しい曲だな、と思いながら歌っています」
――本作は今回が世界初演。オリジナル・ミュージカルならではの“産みの苦しみ”はありましたか?
「作品を創る過程では産みの苦しみはいろいろありますが、自分たちで立ち上げることって楽しいですよ。苦しい先に何かがある、と思えます。それに、この作品は2年前にコロナでいったん中止になったけれど、その後いろいろな現場に携わって、経験を積ませていただきました。今回またチャンスをいただけたことで、そういう経験がどう生かせるかはわかりませんが、言葉の一節一節に魂を込めるとか、その瞬間を全力で楽しむという気持ちを改めて思い出しました。何事もなく進むならそれに越したことはないけれど、障害にぶち当たった時にそれを乗り越えるだけの力は育ませていただいているような気がします。人間的な成長もさせていただいている作品です」
――どんな舞台になったらいいなと思われますか?
「この作品は4月の桜の咲くシーズンから始まるのですが、桜ってきれいなんですよね。実はこれまで、そこまで桜の色を見ていなかったのだけど、この作品に触れることで、感じ方が変わったなと発見できたのが、自分にとっては大きなことでした。
これまでふつうに通り過ぎていた道が桜の花で鮮やかに彩られていることに気づいたりすると、舞台って人間の心を豊かにするような影響力を持つものなんだな、と思えます。僕と同じように、この作品をご覧になって、新たな発見をして下さる方がいらっしゃれば…。そんな影響力を与えられる作品になったらいいな、と思っています」
(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報 ミュージカル『四月は君の嘘』5月7日~29日=日生劇場、その後高崎・名古屋・大阪・富山・博多で上演。公式HP
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