Musical Theater Japan

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溢れる愛を叫ぶロック・ミュージカル『Hundred Days』藤岡正明・木村花代・桑原まこインタビュー

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(左から)桑原まこ 東京音楽大学作曲家卒業。作曲家・音楽監督として映画・アニメ・舞台(『いつか~one fine day』『In This House~最後の夜、最初の朝』等)と多彩に活躍。藤岡正明 01年に歌手デビュー、05年に『レ・ミゼラブル』マリウス役でミュージカル・デビュー。最近の舞台に『ジャージー・ボーイズ』『いつか~one fine day』等がある。木村花代 劇団四季で『キャッツ』『オペラ座の怪人』『美女と野獣』等、多くの作品でヒロインを演じる。退団後の舞台に『キューティ・ブロンド』『メリー・ポピンズ』等がある。©Marino Matsushima
不器用な男女のミュージシャンが出会い、恋に落ち、三週間で結婚するが、夫は余命100日と宣告される。二人は懸命に“100日を100年であるかのように”生きようとするが…。
 
ロックバンド、ベンソンズの二人(ショーンとアビゲイル)の実話に基づく『Hundred Days』は、14年にサンフランシスコで誕生、17年にオフ・ブロードウェイ初演。本人たちがライブ形式で演じるというユニークさ、風変わりに見えて純粋な愛の形が話題を集めた舞台が、ミュージシャンでもある藤岡正明さんと、表現力に定評のある木村花代さんの強力タッグで日本初演を果たします。
 
ライブであり演劇でもあるという舞台は、いったいどんなものなのか。そしてフォーキーなパンクロック・バンド、ベンソンズの音楽性とは? 藤岡さん、木村さんに加えて、今、最も多忙な音楽監督・作曲家で今回はベンソンズのメンバーとして“出演”もする桑原まこさんに、本作の面白さを様々な角度から語っていただきました。(ネタばれ回避のため、内容的な部分をセーブしてうかがっています)
“泥臭い”パンク・ロックで、溢れる愛を、人生の痛みを叫ぶ 

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『Hundred Days』
――いろいろなオファーがある中で今回、本作に惹かれた理由は?
木村花代(以下・木村)「私は相手役が藤岡さんと聞いて即決しました。とても信頼できる方で、前から“一緒にやりたいね”と言っていたんです」
藤岡正明(以下・藤岡)「僕はプロデューサーからお話をうかがって、では詳細を送って下さいとお願いしたら、次にお会いした時に“快諾頂いて有難う”と言われまして。どうしてかな、と思って事務所の社長に話したら“あ、お受けしちゃった”って(笑)。でも(演出の)板垣(恭一)さんや(桑原)まこちゃんとは『いつか~One Fine Day』 でご一緒して、遠慮せずにいいものを作っていける人たちだとわかっていたし、共演も木村さんということで、検討したとしてもぜひと言っていたと思います」
 
――桑原さんは先週『bare』の稽古場でお見掛けしたばかりですが…。
桑原まこ(以下・桑原)「いました(笑)。稽古が重なっていたので無理だと思っていましたが、いつの間にか“やります”と言ってしまったようで(笑)。音源を聴いて“かっこいい!”と思いつつ、これはちゃんとやらないとできない音楽だぞ、(演奏も)できる方いらっしゃるのかなと思ったら、藤岡さんということで、それなら、と」
 
――内容的にはどんな第一印象を持たれましたか?
木村「カフェで一人で台本を読んだのですが、この夫婦いいな、と感動して、最後に泣けてきました。心底信頼しあって愛し合っていて、こういう出会いがあったらいいなと羨ましかったです。今も稽古で、アビゲイルとしてショーンの歌を聴いているとすごく幸せを感じます。愛に溢れた作品だなぁと思う反面、ディープな内容なので、きちんと伝えたいなとも思います」
桑原「私は読書が好きで、この作品は好きなテイストでしたが、よくわからない部分もあって。“不完全な小説”のような印象がありました」
藤岡「“脚本”って小説ではないので、それ自体で“珠玉の作品”ということはあまりないんですよね。誰かがそこに入り込んで芝居したり音楽が重なることで、その人や歌の質感が加わって完成するものですが、この作品も、普通に読んだだけではわからない。普段、表に出したくない部分を僕らがどうえぐりとって見せるかが問われるんだろうな、と思いながら読みました」
 

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『Hundred Days』公開稽古より。写真提供:conSept
――音楽についてはいかがでしょうか?
木村「ミュージカルだけどミュージカルではないような音楽で、とてもいいなぁと感じます」
藤岡「今はピアノとギターだけで稽古しているのでこれから全体像が見えてくると思いますが、わりと泥臭いカントリー、フォークで、いい意味でだれている感じがあるので、僕自身もあまりカチカチに演奏しないほうがいいなと思っています。バンド編成の感じがいいんですよ。ベース、ドラム、チェロ…。以前出演した『この森で、天使はバスを降りた』のアコーディオンがものすごく好きだったんですが、そういう“色味”が感じられるんです」
木村「『マンマ・ミーア!』は(アバの)曲がまずあって、そこにストーリーを当てはめているじゃないですか。その逆で、本作はアビゲイルとショーンの物語があって、そこに曲をあてはめている感じです。だから歌っていても感情にリンクしやすくて、“ただ曲がある”という感じでは全然ないです」
藤岡「ギターで作った音楽だなぁ、と感じますね。譜面には、カポ(ギターのネックにつける補助用具)をつけてどう演奏したらいいかが書き込まれているんですよ。ゆる~い感じがして、もしかしたらこの作品、もともと譜面なんて無かったかもしれないな、って。
(ここでプロデューサーから、譜面を取り寄せようとしたら半年待たされた、という情報が。)やっぱり!(笑)」
 
――パンク・ロックのテイストも強いと思いますが、ミュージカルでパンクってあまりないですよね。
藤岡「でも意外とミュージカルにパンクって“あり”だと思いますよ。わかりやすいんですよ、パンクって。3コードで完結できるくらいシンプルなのがパンクの特色だと思うけど、本作もコードが少ない。(と言いながら実際にギターを弾いてみせる)こんな感じ…って、どうやって文字で表現するんだろう(笑)」
木村「藤岡さんがジャカジャカ…って(笑)」
 
――この音楽を日本で演奏するにあたってご苦労もありますか?
桑原「稽古初日は、この音楽のかっこよさをいかに日本語ではめられるだろうと心配だったけど、お二人が歌ってみて大丈夫、と。それよりベースがずっと(音を)伸ばしていたりと、本当にシンプルな音楽なので、それを恥ずかしがらずに、一音一音いい音を出していこうと思っています」
藤岡「僕が演奏するイントロも、本当にシンプルなんですよ。(ギターでひとしきり弾いて)このモチーフがずっと繰り返される。恥ずかしいなと思ってこんなふうにアレンジしてみたら(と装飾的に演奏)、まこちゃんが“それは嫌だ”って(笑)」
桑原「藤岡さん、『いつか~』の飲み会の時、“恥ずかしいこともそのままやればかっこよくなる”って言ってたじゃないですか(笑)」
藤岡「そういうときもあるね(笑)。でもシンプルなぶん、チェロが効いてるし」
木村「バンドの皆さんが“バンドのメンバー”としてコーラスを歌ったり、台詞で絡むところもあって面白いと思います」
藤岡「これからのミュージカルの未来予想図にも通じるかもしれないね」
 

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『Hundred Days』公開稽古より。写真提供:conSept
――キャストとバンドの垣根がなくなる、という?
藤岡「垣根がなくなり、出演者も演奏するということが普通になっていったり。契約の問題とかいろいろあるのかもしれないけれど、もしそういったことが出来たら日本のミュージカルの可能性もすごく広がるんじゃないかな」
桑原「(それには)ただ単に演奏が出来ます、というのではなくて、人と人の相性も大事。その点、藤岡さん、木村さんとはこのまま一緒にバンドを組んでもいいかなぁと思えます」
 
――木村さんも楽器を始めましょうか?(笑)
木村「私は声しか持っていないんですが(笑)、今回はソプラノ封印なので新たな挑戦ですね。昨日もまこさんから“消しゴムのカスのような声で”とか“アングラのような声で”と言われて、“どういうこと⁈”と(笑)。でも意図していなかった声に対して“それ、いいです”と言ってくれたりするので、自分でこうと決めつけずに、まこさんを信頼して頑張っています」
 
――桑原さんはどんな音楽監督ですか?
藤岡「『いつか~』の時に初めてお会いした時、なぜかビビってませんでした?」
桑原「藤岡さんのことミュージシャンだと思ってたので、何か文句言われるかな~と思って(笑)」
藤岡「あの時は作曲もされてたから?」
桑原「曲が嫌で席を立っていっちゃうかな~と(笑)」
藤岡「でもまこちゃんってビジョンがはっきりしていて」
木村「こちらがぶれなくていいんですよ」
藤岡「はっきりしつつ、上から目線じゃないんです。音楽というクリエイティブな場で、上下関係があると我慢しなくちゃいけなくなる。そういう構図になると作品自体がつまらなくなるけど、まこちゃんは裏表がないからいいなと思う。このまま大御所になってほしいです(笑)」
 

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『Hundred Days』公開稽古より。写真提供:conSept
――桑原さんから見てお二人は?
桑原「藤岡さんは、いろんなものが“藤岡正明”をろ過して出て来るんですね。それが素敵だけど、そこにこだわるわけじゃない“ポテンシャルの人”です。あとちょっと緩いところがあって、ギターを弾いていてコードを忘れちゃったりするときもあるけど(笑)、それもまた魅力なんです。花代さんは、想像といい意味で違って“ファイター”。あるところまで行ってそれでよしとするのではなくて、とことん行こうとされるんです。だから稽古が始まってから花代さんの声の幅が広がる、広がる。私がわかりにくい例えでリクエストしても、納得するとばばっと出してくれるんです」
 
――現時点で、どんな舞台になりそうでしょうか?
藤岡「まだ全く想像できなくて、そこが楽しいです。これはお客さんの前に出て初めて完成するんじゃないかな。コメディをやっていると、ここで意外と受けるんだとかお客さんが入って初めてわかるけど、今回は基本、ライブという形なので、お客さんが入らないと絶対完結しないんですよね。お客さんに参加していただいて、一緒にお皿に盛って“いただきます”したいな、という感じです。味見はしていないけど(笑)」
木村「お客様としては、純粋に曲を聴きにくるもよし、芝居を観ようと思ってきていただいてもよし、だと思います」
藤岡「最後の曲なんかはスタンディングで聴いてほしいよね」
木村「ご自身も作品の一部だと思っていただけたら。私たちも観たことのない、新しい舞台の形になると思います」
藤岡「こんなに芝居をしていない感じの作品もないよね」
木村「とはいいつつ芝居なんです。ある意味演じていない、藤岡正明・木村花代を観に来ていただいて、その流れで二人が語るディープな部分、ダークな部分に心を動かしていただけたらと思います」
桑原「今回、私たち(バンド)もがっつり歌うんです。人としての在り方を全員がもって舞台に立って、それを受け取って帰っていただけたらいいなと思います」
 
(藤岡さん・木村さんから特別動画メッセージをいただきました。歌声もお聴きいただけますので、ぜひご覧下さい!)
 
(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*本作を鑑賞し、観劇後に少人数にて、プロデューサーを交えて感想を語り合うプレミアムなイベント「Musical Theater Japan観劇を深める会」を、2月24日12:30の回で開催します。複数の視点から作品を反芻する楽しみを、ご一緒に味わいませんか?詳しくはこちらをご覧ください。
*藤岡正明さん・木村花代さん・桑原まこさんのポジティブ・フレーズ入りサイン色紙をプレゼントいたします。詳しくはこちらへ。
*公演情報『Hundred Days』2月20日~24日=新宿シアターモリエール、3月4~8日=中野ザ・ポケット 公式HP(←HP内では公演のアンコールで演奏する曲のリクエストを受け付けています)