
モダンな邸宅を模した、箱型の舞台美術。
屋上部分でバンドが力強いサウンドを奏で、街灯やエッフェル塔のシルエットが浮かび上がると、奥から現れた人々が息の合ったハミングを披露。場内に親密な空気が生まれ、物語が始まります。

事故で全身麻痺となった、大富豪のフィリップ。
妻の死以来、心を閉ざした彼のもとには介護人がなかなか定着しませんが、ある日面接にやってきた元受刑者のドリスは自由奔放に喋り、場を翻弄。実は失業手当申請のため“不合格”のサインをもらいに来ただけでしたが、フィリップの鶴の一声で“お試し”採用が決まります。

学歴も、もちろん介護の専門知識も無いドリス。
ひととおり手順は教わるものの、フィリップが足の感覚がないことを悪戯半分に確かめたり、“車椅子対応車では気分が乗らないだろう”と、スポーツカーにフィリップを乗せたり…と、やりたい放題。しかしそんな自然体の介護こそが、フィリップを面白がらせ、徐々に心を開かせます。

そんな中、ドリスはフィリップに文通相手の女性がいることを知りますが、互いに顔も声も知らず、文学的な手紙を交換するだけだと聞き、唖然。まだるっこしい状況に風穴を開けようと、勝手に彼女に電話をかけ、フィリップを慌てさせます。
“荒療治”の甲斐あって、二人は遂にカフェで会うことになりますが、フィリップは自分が障がいを持つ身であることを彼女に知らせておらず…。
そしていっぽうでは、ドリスもある問題を抱えていて…。

2011年に公開され、フランス本国はじめ世界各地でヒットを飛ばした映画『最強のふたり』が、板垣恭一さんの脚本・作詞・演出、桑原あいさんの音楽でミュージカル化。大筋は映画版を踏襲していますが、キャラクター設定においては様々なアレンジが見られます。

とりわけ、映画版ではドリスが“青年”であったのに対し、舞台版のドリスは、息子との関係がうまくいっていない“父親”。ミュージカルならではの“歌”でドリスが親心を、そして息子アダマが子としての心情を吐露することで、それぞれのキャラクターが大きく膨らみ、普遍的な共感を誘います。桑原さんの音楽はバラエティに富み、特にアップテンポのナンバーが躍動感たっぷり。

川平慈英さん演じるドリスは、これまでの川平さん出演作の中でもおそらく一、二を争う(?)テンションの高さ、破天荒ぶり。だからこそ、息子との確執が露呈した際のペーソスが際立ちます。演者の持ち味が存分に活かされた演出は、オリジナル・ミュージカルならではのアドバンテージでしょう。
いっぽう浦井健治さん演じるフィリップは、車椅子上で身動きできないのに加え、心を閉ざしている間は声や表情の芝居も制限されるというチャレンジングな役柄。浦井さんは豊富なストレートプレイ経験を活かし、川平さんから手裏剣のように次々飛んでくる言葉をキャッチしては的確にポイント、ポイントを立たせて台詞を返し、観客を引き込みます。

すらりと立ちながら客席をのぞき込むようなポーズと、口跡の随所にまぶしたコミカルな味わいが印象的な秘書イヴォンヌ役・紅ゆずるさん、富裕層のゆとりと少々の嫌味を漂わせるフィリップの従兄弟アントニー役・宮原浩暢さん、ドリスの息子アダマ役で人生の目標が見つからない“青さ”をリアルに表現する小野塚勇人さんはじめ、複数の役柄を軽やかにこなす共演陣もまさに“最強”。中でも、福田えりさん演じるフィリップの文通相手エレノアは、登場シーンはごく短いながらも知性と内に秘めた芯の強さがほの見え、本作で描かれる顛末の“その後”をあれこれと想像させてくれる造型です。

それぞれに何かを抱える人々が出会い、影響を与え合うことで、思いがけない道が拓けて行く。
ミュージカルという表現で人生の可能性をポジティブに描く、ヒューマン・ミュージカルの誕生です。
(取材・文=松島まり乃)
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*公演情報『最強のふたり』5月1~10日=ヒューリックホール東京 その後、大阪・名古屋公演も有り 公式HP