Musical Theater Japan

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ミュージカル映画『トゥモロー・モーニング』ニック・ウィンストン監督に訊く、最高のキャストが描く愛の物語

©Tomorrow Morning UK Ltd. and Visualize Films Ltd. Exclusively licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan

画家のキャサリンとコピーライターのビルは、結婚して10年。いつしか心がすれ違うようになった彼らは、口論の果てに離婚を決意する。
離婚の前夜、出会った頃の自分たちを振り返り始めた二人は…。

ロンドンを舞台に、一組のカップルの結婚前夜と離婚前夜を描き、日本でも2013年にシアタークリエで上演されたミュージカル『トゥモロー・モーニング』が、オリジナル版の演出家ニック・ウィンストンの手で映画化。主人公の夫婦を演じるのはラミン・カリムルー、サマンサ・バークスという、世界最高峰のミュージカル俳優たちです。

2021年に舞台版の再演がコロナ禍で中止となったことで、作曲家のローレンス・マーク・ワイスが「映画版を撮ってはどうか」と発案。ちょうど2020年に日本でニックが演出した『CHESS THE MUSICAL』にラミン、サマンサが主演していたことでとんとん拍子に実現したという奇跡の映画版について、監督のニックに語っていただきました。

ニック・ウィンストン 英国ノーサンプトン生まれ。4歳でダンスを始める。『キャッツ』『美女と野獣』『フォッシー』等に出演後、クリエイターに転身。振付作品にRSC『シェイクスピア・ライブ』、演出作品に『シークレット・ガーデン』(ラミン・カリムルー出演)コンサート、『ボニー&クライド』等がある。日本では17年に『パジャマゲーム』で振付、20年に『CHESS THE MUSICAL』を演出・振付。本作で映画監督デビュー。

――ミュージカル『トゥモロー・モーニング』の魅力はどんなところにあると思われますか?

「シンプルさが魅力だと思います。人生についての物語であるということ。悲しいことに、我々の多くは複雑な人間関係やひびの入った家族とともに人生を歩んでいます。(ローレンスの)音楽が、結婚の歓びと離婚の痛みをエモーショナルに表現していると思います」

――本作は、舞台の再演が中止になったことから始まったプロジェクトだとうかがいました。製作費は巨額ですし、別の畑のスタッフとの仕事にもなり、一般的には舞台の代わりに映画を、という話にはなかなかならないかと思いますが…。

「今回、お金は少ししかかかっていないんです。わずか7人のスタッフで5週間のうちに撮り終えましたし、主なロケ地であるペントハウスやアパート、プールハウスも本作のプロデューサーたちの所有物なので、大幅な経費削減が出来ました。加えて、キャスティングでも皆が大いに協力してくれました。ですから、舞台公演一本と同じくらいの予算で済んでいるのです」

『トゥモロー・モーニング』よりキャサリン(サマンサ・バークス)、ビル(ラミン・カリムルー)©Tomorrow Morning UK Ltd. and Visualize Films Ltd. Exclusively licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan

 

――そのキャスティングですが、日本でもお馴染みのラミン(『オペラ座の怪人』『レ・ミゼラブル』ウェストエンド公演主演等)、サマンサ(『レ・ミゼラブル』映画版エポニーヌ役、『アナと雪の女王』ウェストエンド公演でエルサ役等)はじめ、舞台ファンにとってはたまらない顔ぶれです。個人的には2016、17年の『ジーザス・クライスト=スーパースター』リージェンツ・パーク公演で鮮烈なユダを演じたタイロン・ハントリー(ビルの友人役)の登場を嬉しく拝見しました。

「舞台俳優は芝居が大きくなりがちですが、ラミンとサマンサは今回、いい意味で肩の力の抜けた芝居をしてくれました。その場でのリクエストにもすぐ応えてくれ、エモーショナルなシーンでは何時間も集中力を途切れさせずに演じてくれたのが有難かったですね。

タイロンとは実はエージェントが同じなんです。キャサリンの親友役のフラー・イースト(女優・ラッパー)、ビルの父役のオミッド・ジャリリ(『グラディエーター』等映画多数、『オリバー!』ウェストエンド公演フェイギン役)、それにジョーン・コリンズ(TVドラマ『ダイナスティ』等)も! エージェントのおかげで本作は本当に最高の演技陣に恵まれました」

『トゥモロー・モーニング』キャサリン(サマンサ・バークス)、インディア(中央、フラー・イースト)©Tomorrow Morning UK Ltd. and Visualize Films Ltd. Exclusively licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan

――舞台版では10年前と“今”の主人公たちを2組の俳優が演じますが、今回の映画版ではラミンとサマンサが双方を演じています。なぜそうしようと思われたのですか?

「これは僕とプロデューサー、そして作曲家とで決めました。二つの時代は10年しか隔たりがなく、多くの人は10年ではあまり肉体的に変化しません。二人の俳優が一人の人物を演じうる、という演劇的な魔法は映画ではかけにくいのでは、と僕らは思ったのです。
本作でははじめに“今”のシーンを全て撮り、3週間後にラミンに髭を剃ってもらって10年前のシーンを撮りました」

――ビルとキャサリンは当初熱々のカップルで、出張するビルが彼女のために愛のメモを家じゅうに残していく、という非常にロマンティックな描写もありますね。英国では普通の愛情表現でしょうか…。

「(笑)、少なくとも僕とフィアンセは確実にやっています。ぜひお試しを!」

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――主なロケ地はロンドン東部のワッピングとうかがいましたが、ここを選ばれた理由は?主人公たちがテムズ川沿いに住んでいることは何かを示唆していますか?

「私自身がワッピングに5年間住んだことがあり、気に入っているのです。とても絵になるし、映画向きで、僕らのストーリーにぴったりな場所だと思えました。1988年に『ワンダとダイヤと優しい奴ら』という映画でワッピングが登場した時、街の印象が非常に強く、僕の記憶に刻み付けられました。今回の映画では、ワッピングという美しいロケーションの中で“リチャード・カーティス(注・『フォー・ウェディング』『ノッティング・ヒルの恋人』脚本等で知られる英国ロマンティック・コメディの大家)的美学”を展開出来たらと思ったんです」

――ニックさんが特に気に入っているシーンは?

「“お子さんの中で一番のお気に入りは?”という質問ですね(笑)。僕のお気に入りは、寝室で息子のザックがビルを見上げて“帰ってきて”と言い、カメラが引くとドアの前でキャサリンがそれを聞いていたことがわかるというショットです」

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――日本の観客に本作をどう御覧いただきたいですか?

「エモーショナルに彼らの物語に浸っていただくことで、心に触れるものがあれば嬉しいです」

――ニックさんは現在、どんなプロジェクトに関わっていますか?

「フィリピンでスタートする『WE WILL ROCK YOU』世界ツアーの新演出を担当しています。美学を持った“ディストピア的未来”にフォーカスするのが楽しいです」

――ミュージカル映画の次回作は予定されていますか?日本で演出された『CHESS』はいかがでしょう?

「(『CHESS』は)ぜひやりたい!と思っていました。実は映画化権の問い合わせもしたのですが、残念ながら別の監督で映画化の話が進んでいるようです。僕の次回作はおそらく『ボニー&クライド』になりそうです」

(取材・文=松島まり乃)
*上映情報『トゥモロー・モーニング』12月16日よりYEBISU GARDEN CINEMA、シネスイッチ銀座他、全国ロードショー 公式HP
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