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『ニュージーズ』2024観劇レポート:少年たちの“思いの強さ”が、希望をもたらす物語

『ニュージーズ』写真提供:東宝演劇部

1899年のニューヨーク。まだラジオもTVもない頃のマスメディア、新聞の流通にとって、毎朝その日の新聞を仕入れ、街中で身を粉にして売り捌く少年たち“ニュージーズ”は重要な存在でした。

マンハッタン地区のニュージーズのリーダー格は、17歳のジャック。いつか西部サンタ・フェでのびのびと暮らすことを夢見ながらも、今日も新入りの兄弟、デイヴィとレスを快く受け入れ、ちょっとした“売れるコツ”も伝授して“頼れる兄貴”ぶりを発揮しています。

『ニュージーズ』写真提供:東宝演劇部


そんなジャックたちを襲ったのが、新聞の卸価格値上げの知らせ。ニューヨーク・ワールド紙のオーナー、ジョセフ・ピュリツァ―が、業績の落ち込みを補う策として決定したのです。少年たちはもともと、売れ残りは返品不可というリスクを背負わされており、その多くが身寄りも家もないニュージーズにとって、卸価格の値上げは大きな打撃です。

ジャックたちは団結し、ストライキで対抗。若い新聞記者のキャサリンはニュージーズを取材し、ヴォードビル劇場のオーナー、メッダも彼らを応援しますが、新聞社側は横槍を入れ、ストライキを阻止しようとします。さすがのジャックも心が折れかかりますが…。

 

『ニュージーズ』写真提供:東宝演劇部


史実をもとにしたクリスチャン・ベール主演の同名映画(1992年)を、ハーヴェイ・ファイアスタインの脚本で舞台化し、2012年にブロードウェイで開幕。2021年の日本初演も好評を博した『ニュージーズ』が、新たなキャストを迎えて帰ってきました。

 

『ニュージーズ』写真提供:東宝演劇部


アラン・メンケンによる、王道ミュージカルらしいメロディアスな楽曲と、少年たちが次々に繰り出す迫力のダンスに彩られたミュージカルは、今回も小池修一郎さんのきめ細やかな演出のもと、澱みなく展開。ジャックたちがNY中の労働少年たちに連帯を呼びかけようと、行動を起こすシーン(「Once and for All」)は特に熱量が高く、彼らが刷る新聞に乗せた“伝えたい思い”の強さは、ピュリツァーらが忘れてしまっているのかもしれない“ジャーナリズムの原点”を思い起こさせます。

 

『ニュージーズ』写真提供:東宝演劇部


今回、新たにジャックを演じているのは、岩﨑大昇さん。隙あらば弱者が搾取される世界で仲間たちを機知で守るリーダーぶりが板につき、1幕を締めくくるソロ「Santa Fe」では、ロングトーンを伸びやかに響かせつつも、各フレーズに思いを込めた“芝居としての歌”で観客の心をとらえます。いっぽうではキャサリンの好意を知り、信じられるもの(=愛)の誕生を噛みしめるデュエット「Something to Believe In」をみずみずしく歌唱。今回がグランドミュージカル初主演とのことですが、力強さも繊細さも持ち合わせた、爽やかな新星の誕生と言えましょう。

ニュージーズの奮闘をペンの力で応援するキャサリン役は、星風まどかさん。新しい時代を切り拓こうとするキャサリンの気概が全身に溢れ、ジャックを鼓舞する姿にも嫌味がありません。ハリのある歌声も役柄にフィットし、2幕冒頭のビッグナンバー「King of New York」では、少年たちの中で紅一点、タップを披露して場をいっそう華やかなものに。映画版では男性だった記者役を舞台版では女性がつとめている意義を感じさせる、魅力的な存在となっています。

 

『ニュージーズ』写真提供:東宝演劇部


日本初演から続投の加藤清史郎さんは、両親が健在で(負傷した父親にかわり一時的に日銭を稼いでいるため)ニュージーズとは異なる境遇のデイヴィを、聡明なオーラで表現。ジャックに再起を促すくだりの台詞は説得力たっぷりです。(ここではデイヴィの弟レスも可愛らしく皆の会話に食い込み、この日演じた中優真さんは場をユーモラスに締め括っています)

今回が初参加の横山賀三さんは、ジャックの親友で足の不自由なクラッチ―を底抜けに明るく体現。感化院での様子をジャック宛の手紙にしたためるソロナンバー「Letter from the Refuge」では、過酷な内容だけにその明るさ、バイタリティが救いとなっています。

 

『ニュージーズ』写真提供:東宝演劇部

 

前回に続いてメッダを演じるのは、霧矢大夢さん。ジャックの画才を見出して劇場の書き割りを委嘱したり、追われる身となった彼を匿ったりと、彼らにとって信頼できる大人であり、本作の“良心”的存在でもある人物を、華々しくもおおらかに演じています。

そして今回、騒動の発端となるピュリツァーを演じるのは石川禅さん。手っ取り早い業績回復手段として卸価格を値上げし、新聞少年たちが困窮しようがお構いなし…というドライさは周囲の部下たちさえたじろぐほどですが、いっぽうで“儲け”に繋がるのならくるりと発想を転換することも厭わない、というしたたかな実業家像を、揺るぎない口跡と歌声で強烈に印象付けています。

 

『ニュージーズ』写真提供:東宝演劇部


相手がどんなに強大であろうと、怯むことなく立ち上がった少年たちの行動が、大きなうねりを生み出して行く…。

今もなお様々な搾取や不公正が存在し続ける世の中にあって、キャストが一丸となって届ける本作は、“思いの強さは未来に繋がる”と確かに信じさせてくれる、“希望の舞台”と言えましょう。

(取材・文=松島まり乃)
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*公演情報『ニュージーズ』10月9〜29日=日生劇場、11月3〜4日=梅田芸術劇場、11月9〜11日=福岡サンパレス ホテル&ホール 公式HP