
家族を鬼に殺され、唯一生き残ったものの鬼にされてしまった妹・禰󠄀豆子を人間に戻すため、鬼殺隊に入った少年・竈門炭治郎と周囲の人々の死闘を描く、吾峠呼世晴さんの漫画『鬼滅の刃』。
世界的なヒットとなったこの漫画は、2020年のシリーズ1作目を皮切りに、2021年の2作目、2022年の3作目、2023年の4作目、2025年の5作目と、物語の順を追って舞台化され、6月に待望の6作目が開幕します。
「柱稽古・無限城 突入」と副題がつけられた今回は、鬼たちとの最終決戦に備えた隊士たちの特訓の日々から、炭治郎たちが無限城へと落とされ、胡蝶しのぶと上弦の弐・童磨、そして我妻善逸と元兄弟子の獪岳の闘いまでが描かれる模様。脚本・作詞・演出は前回に続き元吉庸泰さん、音楽は和田俊輔さんがつとめる今回の舞台で、優し気な風貌とは裏腹に抜きんでた冷酷さで人間たちを殺す鬼・童磨を演じるのが浦井健治さんです。
実は筋金入りの『鬼滅の刃』ファンで、中でも童磨役を熱望していたという浦井さん。念願叶った舞台に、どんな心境で臨んでいらっしゃるでしょうか。稽古開始前の某日、じっくり語っていただきました。
(前半は合同インタビュー、後半が個別インタビューとなっています)

《合同インタビュー》
――まずは出演にあたっての心境をお話いただけますか?
「前作に続き、上弦の弐、童磨を演じさせていただくことに、大興奮しております。
前作では映像出演でしたが、今回は(実際の舞台に)しっかり立たせていただけますし、物語もいよいよ無限城の戦いに突入します。胡蝶しのぶとの戦いを演じることに、光栄さと同時に莫大なプレッシャーも感じています。キャラクターを背負うことの醍醐味を味わいながら、童磨を本当に愛し抜いて演じたいと思います」
――前作の映像出演に対しての反響は、ご自身に届いていましたか?
「世界中で大人気のキャラクターですし、たくさんの反響がありました。黒死牟役の加藤和樹くんと童磨役の浦井健治の映像出演の発表も含めたイベントがあったのですが、緊張しながらスタッフさんたちと一緒に解禁の時を迎えたり、発表後はSNSなどで話題にもなって、その時間がとても幸せでしたし、『鬼滅の刃』ファンの方々の反響はもちろん、関わっている方々の思いも感じて、こういう熱量の中で『鬼滅の刃』という作品に参加させていただけているんだな、と喜びをかみしめる時間でもありました」
――浦井さんはそもそも、『鬼滅の刃』のどんなところがお好きなのでしょうか。(質問・松島)
「個人的には、家族愛だったり、兄弟愛だったり、師弟愛だったり、いろんな愛の形を描いている、人生のバイブルにも近い作品だと思います。日々の生活に追われ、忘れがちだったり、いい加減になってしまいそうになるけれど、炭治郎や禰󠄀豆子の純粋さは、見つめ直すことができるきっかけにもなると思っていて、それが僕にとって一番の魅力です。
同時に、本作には鬼それぞれの魅力があると思っています。猗窩座や、堕姫と妓夫太郎の(人間だった頃の)過去に触れると、なんて悲しいんだろう、でもそうならざるを得ないときもきっとあって…。いっぽう、誰しもの中に潜んでいる鬼の片鱗を浮き彫りにするのが産屋敷と無惨の関係であって、長年の因縁の二人がようやく対峙する瞬間も、鳥肌が立ちました」
――童磨役について、現時点ではどんなキャラクターであって、どんなことを大切に演じようとお考えですか?
「これなんですよ(笑)。この発言一つで、世界中の童磨ファンの皆様から解釈違いじゃないかと言われないか、いろいろ思ってしまうわけです(笑)。自分も一応全部網羅したつもりですが…。
童磨には、万世極楽教の教祖の息子として生まれて、その(虹色の瞳を持っていたため「神の子」としてまつり上げられるという)環境の中で感情の欠如・欠落を背負ってきたなかで、胡蝶しのぶとの闘いを経て、これまでになかった新たな感情が芽生えたと思っています。
カナエからしのぶへ、しのぶからカナヲへと伝えられてゆく思いや絆、そのストーリーすべてに、童磨は全部関わっているんです。この役を演じる上で、胡蝶家と童磨の関係を大事に演じていけたらと思っています」

――しのぶ役の門山葉子さんとは初共演ですね。
「はい。歌唱力の化け物と言われている方でもあり、素敵な方だとも聞いています。門山さんはこれまで胡蝶しのぶ役を演じられてきて、そこに急にミュージカル界から浦井健治が現れるというのも、役柄とリンクしているように思います。門山さんはそういう部分も楽しんでくださるような方だと思っていますし、しのぶに“とっととくたばれ”と思われるような(笑)、そこまで持っていけるような関係性を目指していきたいです」
――これまでの舞台シリーズは全てご覧になっていますか?
「観ています。前作は(自身は映像出演だったので)客席から、カンパニーの絆と『鬼滅の刃』の持つ“絆”というメッセージがすごくリンクしているのが伝わってきました。そこにいくまでには紆余曲折あったと思うのですが、そこからみんなが切磋琢磨して、絆を結んでいったのが前回の舞台だったな…と。
今回はそれを経ての舞台ですし、柱稽古のみならず無限城に突入していくので、楽しみにしつつも、作品のメッセージを僕もちゃんと背負えるように、“思い”というものを感じながら演じたいなと改めて思っています」
――舞台ならではの魅力をどうとらえていますか?
「一つ言えるのは、歌ですね。キャラクターそれぞれに合った楽曲を和田さんが作って下さっていて、上弦の鬼にしても、登場シーンから“お、そう来たか”"それしかないよね“と思える、鳥肌の立つような楽曲がはめ込まれています」
――元吉庸泰さんの脚本・演出に対して、どんな期待がありますか?
「元吉さんは、(井上芳雄さん、山崎育三郎さんとの)StarSというユニットの公演や、『アルジャーノンに花束を』というミュージカルで演出補として入ってくださったことがあって、久々にご一緒します。数々のヒット作を生み出している演出家ですし、役者への愛も大きい方なので、僕もすごくリスペクトしています。
今回は柱稽古から無限城の序盤までをやるということで、脚本や演出がどうなるのか、興味深いですよね。前作だとワイヤーアクションも多用されていたけれど…って皆さん、思いますよね(笑)。今回は新しい劇場ですし、その舞台機構を使ってどういう表現になるか、僕自身も楽しみで仕方ないです。
たとえば劇団☆新感線さんがIHIステージアラウンド東京でお芝居をされた時は、360度のステージを使ってどう演出するか、(演出の)いのうえひでのりさんが劇場を余すところなく有効に使って表現する演出をつけられていたのには、度肝を抜かれましたし、今回も新しい劇場をどう使うのか、演出家の腕の見せ所ではないですが、楽しみどころというのが、今回の舞台にもあると思います」
――浦井さんは幅広い作品に出演されていますが、いわゆる2.5次元作品、漫画が原作の舞台に出演される時に意識されていることはありますか?
「キャラクターを背負うことへの責任が伴ってくると思っています。板の上に立った瞬間に、お客様、そしてキャラクターのファンの方が、そのキャラクターがいると思って、愛してくださるところまで持っていかなければいけないな、と。
ビジュアルだけでなく、生い立ちや、声色も全部背負って、説得力があるところまで持っていくということを、徹底しなければいけないと同時に、それを演劇の中でどう引き算するかということが、役者の醍醐味であり、務めだと思っているので、そこを演出家とすり合わせながら楽しんでいこうと思っています。
『鬼滅の刃』のファンである自分としては、絶対に童磨は童磨だと、自分を信じつつ、自分のファン目線をふんだんに入れて役作りをしたいなと思います。実際に舞台上で童磨が動いたり、歌った時にどのくらい楽しんでいただけるか、勝負だなと思っています」
――しのぶ戦に向けて、何か準備されていることはありますか?鉄扇の扱いですとか…。(質問・松島)
「扇子をどう使うかについては、勉強しているところです。童磨にふさわしい自由さをもって、鉄扇の扱いについてのプランを立てていった方がいいんだろうなと思っています。
もちろん美しい所作は大前提として必要だと思いますが、それを超えた何かが必ずある筈なので、蟲柱の胡蝶しのぶの(動きの)速さをどういうふうに受け流していくか。どうしたら、あれだけの攻撃力を一瞬で出せるのか。自分なりに考え、楽しんで演じていけたらと思っています」

《個別インタビュー》
――舞台上で戦闘のシーンを演じられるときに、漫画のコマで描かれていないコマとコマの間などをどう表現しようと思っていますか?
「クリエイティブチームが原作に対してリスペクトをこめながら、お客様の中で、“あのシーン、あの戦闘だ”と思ってもらえる表現に、演劇的な見せ方で創り上げてくださっています。例えばただ単に速い動きというのではなく、それをどう見せたら怒りの表現になるか、というところを意識して体現して行く、という感じになると思います。
特に、今回は高輪ゲートウェイの新劇場での上演とあって、お客様もどうやって血鬼術を目の前で見せてくれるんだろうと、ワクワクしてくださっていると思います。血鬼術にしても童磨だけで何通りもありますが、実際にどういう形で目の前に現れるか、ぜひ楽しみに待っていてくださったら嬉しいです」
――童磨が何を求めていたのかということについて、少しうかがいたいのですが、前作の舞台では彼を含む鬼たちのコーラスの中で、“永遠の命”という言葉が繰り返されていました。童磨にとってもそれがゴールだったのでしょうか。
「おそらく、あの歌は基本的に無惨の歌だと考えています。その無惨の血を分けた鬼たちの存在を示すのに、無惨の志した思いや目標が掲げられた、鬼の存在理由の歌だと思います」
――ということは、童磨は必ずしもそこにこだわっているというわけではなく…。
「例えば猗窩座であれば、あの(壮絶な)過去があって、そうならざるをえない環境の中で鬼になった瞬間があり、炭治郎との闘いの果てに、過去を思い出し或る行動に出るわけです。
そう考えると、無惨は太陽を克服し、永遠の命が欲しいという思いに衝き動かされているけれど、上弦の鬼たちは必ずしも全く同じものを求めていたわけではないんじゃないかと思います」
――『鬼滅の刃』で、鬼たちは人間を喰らうことで命をながらえるという設定ですが、童磨は“死を恐れる人々のために、彼らを食べることで永遠を実現してあげている”というようなことを言っていたかと思います。それは彼の本心であって、彼の中では善行を積んでいるというような意識なのでしょうか。それともまずは人間を食らうことが先にあって、理屈は後付けなのでしょうか。
「童磨は本気で、本当に救おうとしているんだと思っています。ただ、神の子と呼ばれて育っていく過程で、何かが欠落しているるんですよね。でもそれが童磨の個性でもあると思います」
――仮定の話ではありますが、もし『鬼滅の刃』で“どの役でもやっていい”となったら、他にやってみたいお役はありますか?
「やっぱり童磨です。僕にとっては童磨が一番です」
――そうだったのですね…。では、今回のストーリーでなくても結構なのですが、本作の中で、お好きな台詞はありますか?
「『鬼滅の刃』では例えば、炭治郎と禰󠄀豆子、そして妓夫太郎と堕姫という二組のきょうだいを対比させながら、きょうだいの絆、きょうだいの思いというものを描いていますし、例えば、童磨の“いい夜だねぇ”と、しのぶの“月が綺麗ですね”という台詞がリンクしているのも面白いなと思います。『鬼滅の刃』は台詞の一つ一つがリンクしていて、改めてすごい作品だなと思います」
――炭治郎や周囲の人々が“人としての生き方、在り方”を語り、小さなお子さんにも染み入るようなポイントも随所にありますね。
「鬼のストーリーにしても、残酷な部分もあるけど、それって実は誰でも持っているものだと感じられるかもしれません。
そして先ほどもお話したように、カナエ、しのぶ、カナヲの絆を通して、幸せって何だろうということを考えたりもできますね。カナエから受け継いだ思いをしのぶは背負って、そしてその思いはしっかりカナヲに受け継がれていきます。
今の時代、人との関わりが薄くなったり、スマホばかり見ているような世の中だとしても、アナログな繋がりを持って人を信じる心が芽生えていけば、きっと実を結んでいく…と思わされます。彼女たちに関わる童磨役としては、皆さんがどんなことを感じとってくださるか、とても楽しみにしています」
※禰豆子の「禰」は「ネ(しめすへん)」、鬼舞辻の「辻」は「一点しんにょう」が正式表記となります。
(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報 舞台『鬼滅の刃 其ノ陸 柱稽古・無限城 突入』6月13~28日=MoN Takanawa: The Museum of Narratives Box1000 公式HP
*浦井健治さんのポジティブ・フレーズ入りサイン色紙をプレゼント致します。詳しくはこちらへ。