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メインキャストと作曲家が語る、“古代モンゴル帝国を蘇らせる”醍醐味:特集『モンゴル・ハーン』③

『モンゴル・ハーン』メインキャスト。(ウランバートル公演出演)🄫Marino Matsushima 禁無断転載


古代モンゴル帝国を舞台とした骨太の人間ドラマを、スペクタクルに昇華させた舞台『モンゴル・ハーン』。

一連の特集では「ウランバートル公演レポート」「演出ヒーロー・バートル氏、出演&プロデューサー バイラ・ベラ氏インタビュー」を掲載してきましたが、今回はウランバートル公演終演後にメインキャスト、そして作曲家にうかがったお話をお届けします。

熱のこもった舞台の直後にもかかわらず、快く取材に応じてくれた彼ら。まだ役が乗り移った状態(⁈)での、臨場感あふれるコメントをお楽しみください。

 

アーチュグ・ハーン役 エルデネビレグ・ガンボルド

 

『モンゴル・ハーン』ウランバートル公演より。©Marino Matsushima 禁無断転載


王としての風格と、野性的な色気が全身に漲るガンボルドさんは、モンゴルで60本以上の舞台に立ち、17本の映画に出演(チンギス・ハーンを描いた日本映画にちらりと出演されたこともあるそう)。受賞歴が多数あり、映画監督でもある名優です。

 

――モンゴル語がわからない者にとっても、見事な台詞術に聞こえますが、ギリシャ悲劇やシェイクスピア劇への出演歴もおありなのですか?

「たくさん出演しています。『ロミオとジュリエット』などは何十回もやっていますね」

 

エルデネビネグ・ガンボルドさん、劇場内のイメージ・パネルを前に。©Marino Matsushima 禁無断転載


――本作はフィクションであり、なおかつ古代の物語ですが、どのように役作りをされましたか?

「おっしゃる通り、アーチュグ・ハーンは実在ではなく、作家が鮮やかに描き出した王様です。98年の初演では、当時のトップレベルの俳優がこの役を演じており、これ以上のキャスティングはないと思われていただけに、今回私が演じることになり、大きなプレッシャーがありました。

ただ、実在の人物だと“こうしなければ”というものがあったと思いますが、フィクションで若干の自由度がある点で、やりやすさ、楽しさもありました。

本作の舞台上には豪華な玉座があるわけではなく、アンサンブル俳優たちがその空間を身体で表現します。そこに映画のようなダイナミックな音楽、奥深い台詞が加わり、その中で芝居をすることで、より魅力的な舞台が生まれているのではないかと思います」

 

エゲレグ首相役 ボールド・エルデネ・シュガー

 

『モンゴル・ハーン』ウランバートル公演より。©Marino Matsushima 禁無断転載


長年秘めてきた野望を爆発させるエゲレグ首相を演じるシュガーさんは、インテリジェントなオーラの漂う俳優。70本以上の舞台、20本以上の映画に出演しています。


――ふだんはどのような作品に出演されているのですか?

「この劇場(国立アカデミックドラマシアター)の専属俳優として、25年間役者をやってきました。ハムレットやファウストなどを演じています」

 

ボールド・エルデネ・シュガーさん ©Marino Matsushima 禁無断転載


――『モンゴル・ハーン』のエゲレグは、首相として長く仕えてきたのにもかかわらず、アーチュグ・ハーンを裏切ります。背景にはどんな思いがあったのでしょうか?

「彼には昔から自分が王になりたいという気持ちがあり、その野心が忠誠心を上回ってしまったのだと思っています。

これまでどんなキャラクターであっても、その人物像がぶれないよう、一つずつ演じてきました。エゲレグは確かにとんでもないキャラクターですが(笑)、これまで同様に役の性根を丁寧に演じるよう、つとめています」

 

ツェツェル正妃役 オドンチメグ・バッドセンゲル(取材当日に出演していたキャスト)

 

『モンゴル・ハーン』ウランバートル公演より。©Marino Matsushima 禁無断転載


この日、ツェツェルを演じていたのは、オドンチメグ・バッドセンゲルさん。シュガーさん同様、国立アカデミック・ドラマシアターの専属俳優だそう。

――首相との恋愛関係をどうとらえていますか?

「彼女としては、王には愛されなかった分、首相からは男性として愛されていると信じていました。だからこそ、彼に裏切られたとわかった瞬間の衝撃は大きく、ツェツェルは想像を絶する悔しさの中で生きたと思います」

 

ゲレル側妃役 ドゥルグン・オドゥフー

 

『モンゴル・ハーン』ウランバートル公演より。©Marino Matsushima 禁無断転載


サンフランシスコで演技と脚本を学んだオドゥフーさんは、シンガポール公演では英語版にも出演。20本以上の映画、6本の舞台に出演しています。

――現代に生きる女性として、愛に生きるゲレルにどのように共感され、役作りされていますか?

「愛のために生ききるのは時代を問わず、難しいことだと思いますが、彼女は最後まで幸せだったと思います。運命に翻弄されるキャラクターが多い中で、彼女は自分であの形を選んだのですから。最後の衣裳は、一種の天使のようなイメージで作られていると理解しています」

 

アチール王子役 ドルジュスレン・シャダヴ

 

『モンゴル・ハーン』ウランバートル公演より。©Marino Matsushima 禁無断転載


20本以上の舞台と5本の映画に出演し、劇作家、演出家としても活動するシャダヴさんは、なんと(!)1998年の(ストレート・プレイとしての)初演からアチール王子役を演じ続けてきた、本作の生き字引です。

 

ドルジュスレン・シャダヴさん。©Marino Matsushima 禁無断転載

――舞台を何度か拝見するうち、もしかするとアチールは愚鈍、狂暴というより、障がいを持って生まれてきた可能性もあるかと思われましたが、ご自身の中ではどのようにとらえていますか?

「アチールは生まれつきではなく、心の病気を持っている青年だと思います。若い方が観ても共感していただけるよう、自分の生き方が見つからない人物として演じています。こうなろうとしてもなれない。そしてどんどん悪い方に行ってしまう、気の毒な青年。本作で或る意味、一番可哀そうなキャラクターなのかもしれません。

この役を長く演じ、もう50歳になりますので、ちゃんと青年に見えるよう(笑)、ちょっとした所作にも気を配りながら演じています」

 

クチール王子役 サムダンプレフ・オユンサンバー 

 

『モンゴル・ハーン』ウランバートル公演より。©Marino Matsushima 禁無断転載


清廉なオーラでハムレット的な役どころを演じるオユンサンバーさんは、モンゴル文化芸術大学を2020年に卒業。TVや映画で活躍、舞台でも『三銃士』に主演した、期待の星です。

 

――メインキャストの中で一番お若いようですが、先輩方との共演はいかがですか?

「本作への出演は大きな喜びです。短期間に多くの学びがあり、俳優として手応えを感じています。先輩方のような俳優になることが僕の目標です」

 

作曲 オドバヤル・バトグトフ

 

オドバヤル・バトグトフさん。©Marino Matsushima 禁無断転載


これまで40本以上の映画やドキュメンタリー、アニメの作曲を担当し、100曲以上の楽曲を提供してきたバトグトフさん。本作のイメージ・ソングのPV(内モンゴルの有名な歌手テンゲルが出演)では、指揮をする姿も見られます。

 

youtu.be

 

――『モンゴル・ハーン』の音楽は伝統音楽から映画音楽風のダイナミックなサウンドまで、非常に多彩ですね。

「僕は音楽大学のピアノ科を卒業以来、主に映画音楽を作曲しています。映画をやっていると古典的な音楽から現代的なサウンドまで多彩な音を扱わなければなりません。その経験が『モンゴル・ハーン』に活かせたような気がします。

本作は舞台自体が迫力があり、これまで無かったタイプの作品。モンゴルには5000年の音楽の伝統があり、馬頭琴など固有の楽器もあるので、その魅力をどのように世界にアピールしたらいいか、どんなサウンドにしたら伝わるか、かなり頭を悩ませました。西洋音楽にモンゴルの伝統楽器を加えたり、逆にモンゴルの旋律を西洋音楽の楽器で奏でるなど、いろいろな手法を駆使しています」

 

モンゴル音楽に欠かせない馬頭琴。こちらは『モンゴル・ハーン』バックステージに置かれていたもの。©Marino Matsushima 禁無断転載

 

――例えばアイルランド音楽を世界的に広めた『リバーダンス』など、何か参考にした作品はありましたか?

「この作品を作るには全く新しい発想でないといけないと思ったので、参考にした作品はありませんでした」

 

――子供のコーラスが何度か登場しますが、特に終盤、この起用にはどのような意味がありますか?

「何があっても王国は続く、未来があるということを、子供の声を通して表現しています。なるべくかわいらしい声を集めたいと思い、4~6歳の子供たちに歌ってもらっています」

 

――登場するさまざまな楽器の中で、特に重用されたものはありますか?

「全部です。これはたいして重要でない、という音はありません。僕の中には、この音楽を自分が作ったというような功名心はありません。何千年も前からあった、人類が歴史の中で見出してきた楽器の音色を、本作を通じて、世界中の人に聴いていただけたらという思いだけです」

 

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*公演情報『モンゴル・ハーン』10月10~20日=東京国際フォーラム ホールC、10月24~26日=愛知県芸術劇場 大ホール 公式HP
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