Musical Theater Japan

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『スクルージ』相葉裕樹インタビュー:“本当に大切なもの”が見えてくる、珠玉のクリスマス・ミュージカル

相葉裕樹 千葉県出身。2004年映画でデビュー。『ラ・カージュ・オ・フォール 籠の中の道化たち』『レ・ミゼラブル』『HEADS UP!』『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』『ダンス・オブ・ヴァンパイア』『アナスタシア』『CROSS ROAD』等で活躍。近年は声優の仕事にも取組み、演技の幅を広げている。🄫Marino Matsushima 禁無断転載


ディケンズの『クリスマス・キャロル』を原作とした1970年のミュージカル映画をもとに、映画版と同じレスリー・ブリカッスが脚本・作詞作曲を担当。1992年以来、世界各地で上演され、日本では94年から市村正親さん主演で何度も再演を重ねてきた『スクルージ』が、3年ぶり7度目の上演を迎えます。

今回の公演でスクルージの青年時代と、その甥っ子のハリーの二役を初参加で演じるのが、相葉裕樹さん。市村さんとは息子役を演じた『ラ・カージュ・オ・フォール』(2015年)以来の共演となり、今回は同じ人物役ということで緊張感もあるものの、楽しみも大きいそう。幼少期のクリスマスの思い出や本作に寄せる思い、そして最近のご活躍についてもうかがいました。

『スクルージ』

 

――相葉さんは、“クリスマス”にはどんな思い出がありますか?

「やっぱり、サンタさんがプレゼントを枕元に置いてくれていたことですね。クリスマスの朝、起きると欲しかったゲームソフトやおもちゃが置かれていて、プレゼントを持ってきてくれるサンタさんがいるんだと信じていました。どこから入ってくるんだろうなんて考えもせず、Ho-Ho-Hoと笑っているサンタさん…漠然と、日本人じゃないイメージがありました。そういうことを親がうまく演出してやってくれていたんですね。でも小1か小2の頃、兄に(サンタさんの正体を)ばらされてしまいました(笑)」

――教会に行ったりは?

「そういうことはなく、お祭りという感覚でとらえていました。日本人って、クリスマスもお正月もバレンタインもハロウィーンも祝っていて、行事好き、お祭り好きの民族なのかもしれませんね。僕自身、小さいうちはクリスマスといえば“楽しいこと”というイメージしかなくて。街がイルミネーションに彩られていたり、クリスマスソングが流れていたり、雪が降ったりという夜に、チキンやケーキを家族で食べるのが楽しかったのですが、そういう日本的な楽しみ方もいいんじゃないかなと思います」

――大人になってからは、クリスマスのイメージは変わりましたか?

「大人になると、皆さんそれぞれ大事な人と過ごしたり、過ごせなかったり、いろいろなクリスマスがあると思います。エモーショナルな気持ちになる日ですよね。冬の寒さであったり一年が終わっていくという状況も手伝って、人と関わりたい、つながりを持ちたい、一緒にご飯したり、大事な人に感謝の気持ちを伝えたいという気持ちになるのがクリスマスなのではないかな」

――今回ご出演の『スクルージ』は、以前からご存知でしたか?

「出演が決まって資料を観させていただき、心に残るものがたくさんある作品だなと感じました。お客さまにとっても、刺さるシーンや言葉がきっとあると思います。そして、闇に触れることで光が余計輝くように、自分の人生でふたをしていた闇の部分を見ることって大事だよね、と提示してくれる作品でもある気がします。それを見ないで生活することももちろんできるけど、その闇を置いてきぼりにしないで、箱を開けて解消する時間も大事なんだな、と。

そして何より、市村正親さん演じるスクルージの若き日を演じるということで、なぜ彼が今、こう(偏屈な守銭奴に)なってしまったか、その闇の部分を解明する上で、責任重大なパートを演じるのだなと思いました」

――市村さん演じる老スクルージは、精霊に導かれて過去の自分と対峙しますが、まずは子供時代の自分と向き合うのですね。

「ふたをしていた闇の部分ですよね。それを開けるのは怖いけれど、自分の闇、未熟さを認めないと本当の幸せには辿り着けない。抜本的な解決にはならない…ということで、そこから振り返っています」

ハリー/若き日のスクルージ(相葉裕樹)

 

――そして相葉さんが演じる青年のパートでは、恋人も出来、幸せを掴みかけたスクルージが、いつの間にかお金が第一という人間に変わってしまい、恋人にも去られてしまうのですね。

「それが、彼にとっての正義だったのでしょうね。寂しかった子供時代の蓄積というか、お金がありさえすれば孤独は解消するとか、お金で解決できないことはないというふうに思ってしまったのかもしれません」

――もし相葉さんだったら、ここで去ってしまう恋人を追いかけますか?

「たいていの人は追いかけると思います(笑)。お金より、人とのかかわりのほうが大事じゃないですか。お金って働けばまた手に入るけれど、大事な人は失ったら帰ってきません。でもスクルージにはそれがわからず、追いかけられなかったんですね。それが彼にとって自分を守る術(すべ)であり、生きる術だった。そこは説得力を持たせて(演技を)作っていかなければいけないなと思っています。

自分は悪くない、周りが悪いのだと思い込みながら生きていったスクルージが、老いてから精霊によって振り返る機会を与えられるわけですが、そういう時間って必要だし、僕も大事にしたいなとつくづく思います。いろいろお仕事をさせていただいていると、つい成長している気になってしまうけれど、本当にそうなのか。前を見るばかりでなく、過去を振り返る時間って絶対必要だな、と僕自身、痛感する作品です」

――優しく過去を振り返るというより、“このままだと大変なことになるぞ”と、厳しく突き付けてくるような作品でもありますね。

「恐怖って、もしかしたら最も人間を突き動かすものかもしれないですね。生きたい、という生存本能ってあるじゃないですか。そういう本能を持つことは正しいと思いますし、その中でスクルージは“変わらないといけない”と気づくことができたのでしょうね。だからこそ、本作はハッピーに終わることが出来るのだと思います」

――キリスト教世界の方々にとって、(日本で言う)“厄落とし”の出来る作品なのかもしれないですね。

「そうですね、そういう一つの節目のような作品かもしれません」

――相葉さんは若き日のスクルージに加え、二役で甥のハリーも演じるのですね。

「スクルージとは対照的で、人のいいところを探す人物です。あんなにひどい叔父さんを“好き”だと言える器の大きさがあって、成熟しているなとも思いますし、優しいな、出来た人だなと思います」

――役者として、若きスクルージとこの好青年の二役を演じることでほっとする部分もあるでしょうか。

「人間の光と闇、表裏一体ですよね。ハリーを演じることで若き日のスクルージも(存在感が)立ってくるのかな。ハリーは“希望”ですよね」

『スクルージ』前回公演より。撮影:田中亜紀

 

――市村さんとのご共演は…。

「2015年に『ラ・カージュ・オ・フォール』でご一緒しました。俳優の大先輩というだけでなく、“今日、芝居を変えてみたんだよ”とか“あの舞台観に行ったんだよ”とお話くださって、これだけ第一線で活躍し続けていらっしゃるのに、今も俳優として表現を探求されたり、いろんなことを試し続けていらっしゃるのが凄いと思います。演技には正解は無いと言いますし、それこそが俳優のあるべき姿なのかと思いますが、市村さんほどの経験を積まれても続けていらっしゃることが凄いし、体力もないとできないことですし、本当にエンタメと向き合って、人生を懸けていらっしゃるのだと思います。今回の作品では特に人間としての生きざまが大事になってくるので、市村さんからたくさん勉強させていただきたいと思っています」
 
――そんな市村さんと同じ人物を演じる上で、意識されていることはありますか?

「スクルージの闇の部分を演じるので、お客様が僕と市村さんが繋がって見えるよう、上手く持って行きたいです。僕のシーンを観て、市村さんに感情移入していただけるようなお芝居ができるかがポイントなのかな」

――どんな舞台になるといいなと思っていらっしゃいますか?

「音楽もキャッチーなメロディが多いですし、4歳からご覧になれる作品ですので、どなたにも楽しんでいただけると思います。大事なパートナーや家族、お友達と観て頂けたらいっそうクリスマスが素敵な、心温まる時間になると思いますし、身近な人をいっそう大事にしようとか、何か気づきのある作品になったらいいなと思います」

相葉裕樹さん 🄫Marino Matsushima 禁無断転載

 

――最近のご活躍についても少しうかがえればと思います。先日、玉野和紀さん構成・演出のショー『Dream Co-Star』(明治座)にゲスト出演されていましたが、玉野さんとのコーナーでは、数々の無茶ぶりも楽しくこなしていらっしゃいましたね。

「玉野さんは、たとえ滑ってしまってもそれ自体を楽しまれる方で、そういう考え方って素敵だなといつも思っています。精神衛生上とてもいいな、と。僕があそこでちゃんと対応できていたか…はわかりませんが、ああいった球を投げて来られるのは僕の知る限り、玉野さんだけなので、応じないわけにはいきません(笑)。

――突然“タップやってみて”とか(笑)、技量のない方にはできないことですね。

「玉野さんとご一緒するのは4,5回目なので、そういう感じの球が来るかな~とは思っていました(笑)」

――また、このショーでは改めて、相葉さんの歌唱における歌詞のクリアさに気づかされました。やはりミュージカルの経験を積まれてのことなのかも…。

「そうだといいですね。歌っているとつい音程やリズムにとらわれがちだけど、結局言葉で伝わるものを届けるほうが重要だったりするので、歌詞をしっかり届けるということは意識しています」

――相葉さんの歌声は本質的に“陽”なので、それが生きる作品とたくさん巡り合われるといいなぁという気もしました。

「そうですね。代表作がいろいろ増えていくといいなとは思いますが、機会は自分で作るものというより、タイミングや運も大きいですよね。これからもいい出会いを楽しみにしています」

――前回、相葉さんにお話をうかがったのが2018年でしたが、その後世界はコロナ禍に見舞われました。相葉さんにとってもタフな日々が続いたのではないでしょうか。

「僕らだけでなく、皆さん大変だったと思います。日本ではステイホームとかいろいろな状況があって、その中で各々、自分の生活様式を見つけて…という、不思議な時間でした。今は、舞台をやり続けよう、出来るだけ止めないようにしよう、ということで、僕らプレイヤーはまずお芝居をちゃんとやる。そしてなるべくり患しないようにする。ということを心がけています」

――以前のインタビューでは、今後のヴィジョンとして「求められる表現者でありたい」とおっしゃっていましたが、それに加えて最近、思われていることはありますか?

「密かに“悪役をやってみたい”といった思いもありますが、プレイヤーですので、まずは与えられた役柄を全うしたいです。作品の中でどれだけ生きられるか。“今”を大切に、与えられた役を精一杯演じていきたいです」

(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報『スクルージ』12月7~25日=日生劇場 公式HP
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