Musical Theater Japan

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『ジェイミー』髙橋颯インタビュー:“愛を与えられる人”を目指して

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髙橋颯 埼玉県出身。2020年にデビューしたホリプロ初の男性ダンスボーカルグループWATWINGのメンバー。俳優としても活躍し、2020年『デスノート THE MUSICAL』でミュージカル・デビュー。©Marino Matsushima 禁無断転載

自分らしい生き方を切り拓く高校生を描き、2017年に英国で誕生以来大ヒットを飛ばしているミュージカル『ジェイミー』。その日本初演でタイトルロールをダブルキャストで演じているのが、髙橋颯さんです。

昨年の『デスノート THE MUSICAL』再演のL役でミュージカル界に彗星のように現れた髙橋さんですが、ミュージカルとの出会いはどのようなものだったのでしょうか。稽古も佳境に入っての手応えを含め、たっぷり語っていただきました。

ミュージカルには、そこにいる
全員の人生を変えるほどの
パワーがある、と感じます

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『ジェイミー』

――颯さん、というのは素敵なお名前ですが、ご本名ですか?

「はい、本名です。読み方と書き方で、それぞれに意味があります。
まず書き方ですが、もともとは“風”という字が候補だったそうです。でも生まれる時、僕が未熟児だったことで、母は“どうか死なずに生きてほしい”、そして“困難にも立ち向かっていって欲しい”という思いで、“立”をつけ、“颯”になったと聞いています。

そして、この字を“ふう”と(柔らかい音で)読むのは、優しい人間になってほしい、という願いをこめたからだそうです。文字では“強さ”、音では“優しさ”を表現したこの名前を通して、母は僕に“本当の強さとは何か”ということを考えてほしかったみたいですね」

――その問いは、ご自身の中でずっとテーマに?

「20年ぐらい、ずっとテーマになっていました。或る時、一人暮らしを始めて親と距離を置くようになり、頭から少し離れるようになりました。それまでお母さんと一つ屋根の下で生きるなかで、自分がいかに母の考え方の影響を受けてきたかを痛感しますが、子供って、みんなこういうものなのかな。母にこれまで育ててくれたことに感謝しながらも、これからは僕自身の考え、生き方とはどういうものかも追求していかなきゃ、と思っているところです」

――芸能界に入ったきっかけは何だったのでしょうか。

「アンパンマンの影響が大きかったです。…って、驚かれるかもしれないけれど(笑)、正確に言うと主題歌の歌詞(作詞・やなせたかしさん)です。“なんのために生まれて なにをして生きるのか”というところがあるじゃないですか。この部分が自分の中ですごくひっかかっていて。自問自答するなかで、自分はテレビっ子で、テレビが好きだったので、ここに出る人になろう、と思ったんです」

――人に喜びを与える存在に、と思ったのですね。

「よく、お父さんに野球の試合に連れていってもらって、選手に憧れて野球を始めたという話を聞くじゃないですか。それと同じで、僕にとってはテレビが身近なもので、素敵な人たちが出ているのを見て、こういうふうになりたいな、と思って…。気が付いたらこうなっていました」

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髙橋颯さん。©Marino Matsushima 禁無断転載

――はじめはアイドルの世界にいらっしゃったのが、ミュージカルに辿り着いたのは?

「高校生の時にシンガーソングライターになりたいと思って、方向を変えました。でも、自分の殻に閉じこもって歌っているような気がして、多くの人に喜んでもらえる、役に立てるような存在になるにはどうしたらいいんだろうと悩んで、悩んで…。そんな中でいろんな方と出会って、お話をしているうちに、ミュージカルという世界を知りました」

――『デスノート』のL役でのミュージカル・デビューは鮮烈でしたが、ご自身にとっても大きな出来事でしたか?

「大きかったです。半端な心意気ではとてもLにはなれないと感じて、『デスノート』に関わった期間は、自分が生きてきた中で一番努力しました」

――フランク・ワイルドホーンさんの楽曲は馬力を要するものが多いので、大変という方も多いのですが…。

「ボリューミーな声を出さないといけなくて、すごく大変でした。いまだにLのソロの“ゲームの始まり”を歌ってと言われると、心の中で“わーっ”となってしまうくらいです(笑)」

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『ジェイミー』歌唱披露イベントにて、wキャストの森崎ウィンさんと。(C)Marino Matsushima 禁無断転載

――そして今回、またミュージカルに挑まれているのは、『デスノート』でミュージカルの面白さを発見してのことでしょうか?

「お芝居を音楽が膨らませていて、こんなに素晴らしいエンタテインメントはないなと思うし、同年代の人たちにもっと見てほしい、この凄さを見せつけたい、という気持ちもあります。『デスノート』の時には言葉でその良さが伝えきれなくて、なかなか周りの友達が来てくれなかったんですよ。僕が出続けていくことで、若い人たちにももっと来てもらえるようになったら、と思っています」

――『ジェイミー』という作品に触れての第一印象は?

「愛に溢れた物語だな、と思いました。でも同時に、これを僕がやるとなると大変だな、出来るかな、と不安にも思いました。『デスノート』も大役だったけれど、今回は主人公で出ずっぱりだし、台詞も多い。本当に大役だけど、頑張ろう、と心に決めました」

――ジェイミーは16歳の高校生ですが、髙橋さんは自身の16歳の頃の記憶は鮮明ですか?

「覚えています。漠然とではあるけれど、自分が好きなことを仕事にしたい、スターになりたい、と思って放課後にはすぐに家に帰ってダンスレッスンやボーカルレッスンに通っていました。だから、生まれ故郷のシェフィールドを飛び出してサンフランシスコやニューヨーク、ロンドンみたいな輝かしくて夢に溢れた街に行きたいと思っているジェイミーの気持ちはよく分かります」

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『ジェイミー』歌唱披露イベントにて。(C)Marino Matsushima 禁無断転載

――ジェイミーはドラァグクイーンという夢を抱きつつ、8歳の時に父親に言われた一言がずっと忘れられず、深い傷になっているのですね。

「ある一言が何年にもわたって心に残ってしまうことってあると思います。言われた瞬間の景色がまるごと自分の中に残ってしまって、その一言をきっかけにいろいろ思い出してしまうんじゃないかな。僕も言葉で傷ついたことはあるので、彼の気持ちは分かります」

――音楽的にはキャッチ―なナンバーが揃っていますが、髙橋さんのお気に入りは?

「“噂のジェイミー”というナンバーが好きです。2幕の幕開けを活気づけるナンバーで、聴いていてわくわくします。自分が歌うナンバーの中では、お母さんと歌う“我が子、あなたの子”が好きですね。自分と母との関係がだぶって、こみあげるものがあります」

――ジェイミーには“頭の中の壁”という大曲がありますが、これまでの英国人キャストの中には、“超えて行け”というサビ部分を声を張らず、優しく発声するタイプの方もいらっしゃいます。サビの高音は普通は声を張りたくなるものだと思いますが、本作ではいろいろな表現があるようですね。

「僕自身は、まだ決めていません。どちらがいいと思いますか?(笑) 自分で“こう”と決めてしまうと、うまくいかなかったときにそこから抜け出せないことが多いので、決めつけないで、いろいろ試して意見をうかがうようにしています。“超えてゆけ”という気持ちをばーんと前に出すのか、内に秘めるのか。両方ありだと思うのでどちらもトライしていますが、ここ三日間は秘めていますね」

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『ジェイミー』歌唱披露イベントにて。(C)Marino Matsushima 禁無断転載

――ジェフリー・ペイジさんの演出はいかがですか?

「演出を受けている感覚がなくて、ジェフリーさんの目を見て話しているうちに、自分がひとりでにジェイミーになっている感覚です。“ここはこうして”と細かく指示されてゆくというのではなく、ここはなぜこういう行動に出るのか、こういうことなんだと思うよ、と話しているうちに、いつの間にか稽古になってゆく、というか。

歌稽古から立ち稽古に入る時に、頭では分かっていても心ではまだ分かっていない部分がいろいろあって、ジェフリーさんはずっと寄り添って話しながら、ジェイミーってこういう人なんだな、というのを気づかせてくれました」

――これまで2本のミュージカルに出演されてきて、ミュージカルの魅力をどうとらえていますか?

「僕としては、毎回の公演の中で、俳優たちが新鮮に演じることで、人生がドラマティックに変わっていくことが大きな魅力だと思っています。“劇場”という言葉がぴったり当てはまるほど、そこにいる全員の人生が変わる。ミュージカルってそういう力を持っていると感じます」

――その“全員”というのは、観ている人も含めて、でしょうか?

「僕はそう願っています。まだ経験が浅いので、掴めていない部分もありますが、観ている方の人生も変わるほどの舞台を作っていけたらと思います」

――どんな表現者を目指していますか?

「大きな目標としては、愛に溢れた人間、愛を与えられる人間になりたいと思っています。もちろん、そこに至るまでにはいくつもステップを踏んでいかないといけないと思いますが…」

――“愛”にもいろいろな定義があると思いますが、髙橋さんが与えたいのは?

「エロスだったりアガペだったり、隣人愛、自己愛…。いろんなタイプの愛があって、どういう愛を目指すのかは、まだ分かりません。ただ、考えることは続けていきたいです。自分を知ることも、他人を知ることも大事。俳優って、人間について本当に深く知る職業なんだな、と感じています」

――最後に、『ジェイミー』を楽しみにされている方々にメッセージをお願いします。

「今、絶賛稽古中です! どんどん盛り上がってきていて、これからバンドが入ったり、照明や衣裳も入ってきて、本格化してきます。僕自身は、あと二つ三つ、魅力を底上げしていきたいです。とにかく全力でやっています。楽しみにしていてください!」

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『ジェイミー』8月8~29日=東京建物Brillia HALL、9月=大阪・新歌舞伎座、愛知芸術劇場 大ホール 公式HP
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