
カンザスの田舎町に、一台のバスがやってくる。
一行を束ねるのは、伝道師のジョナス。数々の奇跡を行うというふれこみだが、実は彼は名うての詐欺師で、バスの故障で立ち往生しただけのこの町でも“ショー”を行い、“献金”を集めようとしていた。
保安官のマーラは彼らの胡散臭さを見抜いて警戒するが、ジョナスは慣れた口調で説教を始め、たちまち町民たちを魅了する。
その中には、マーラの一人息子で足の不自由な少年ジェイクの姿もあり、彼は奇跡を信じてジョナスに近づき…。
1992年のハリウッド映画をもとに2010年にブロードウェイで開幕、トニー賞作品賞にノミネートされた『奇跡を呼ぶ男』(原題“Leap Of Faith”)が、日本に上陸。詐欺師の男の心の軌跡をアラン・メンケンの音楽に乗せて描く本作で、保安官マーラの息子であり、数年前の事故で車いす生活を送る少年ジェイクをダブルキャストで演じるのが、川口調さん、小林佑玖さんです。
川口さんは『ビリー・エリオット』、小林さんは『オリバー!』でタイトルロールを演じるなど、子役時代の活躍が記憶に新しいお二人ですが、大人の俳優としてのスタート地点に立つ現在、どんな境地で演技に対峙しているでしょうか。
本作のキーパーソンの一人と言っても過言ではないジェイク役への思い、稽古の手応えなどとともに、じっくり語っていただきました。

――まずは本作の第一印象から伺えますでしょうか。
小林佑玖(以下・小林)「とにかくパワフルで楽しいな、と感じました。エネルギーをもらえる作品は沢山あると思うけど、その中でも特別なパワーが溢れていると思います」
川口調(以下・川口)「佑玖くんが言ったようにパワフルですし、楽しいエネルギーが溢れる作品ですが、一方で一人一人の過去の話に目を向けると、それぞれに辛さを抱えていたり、苦しみを乗り越えてきた過去が見えてくるので、表現するのは難しい作品だなという印象を持ちました。
でも、舞台で見ていただく時には、お客さまにはすごく楽しんでいただける作品になるんじゃないかと思っています」
――ジェイクは主人公に大きな影響を与える少年ですが、設定としては13歳だそうですね。
小林「13歳って、16歳の僕からしても遠い感じがするけど、今回は演出家から、自分の13歳の頃に戻る必要はないと言われています」
川口「ジェイクは内面的に大人な部分があるので、どちらかというと、今の僕らのままでいいよと言われています」

『奇跡を呼ぶ男』撮影・宮川舞子
――ジェイクは最初に登場した時から、奇跡はきっと起きると、強い信念を持っているようですね。
川口「ジェイクは十歳の時に交通事故に遭ってしまったのですが、立って歩けるようにさせたいと、お母さんがいろいろなお医者さんに連れていってくれたり、お金をかけてリハビリもやってきました。それでもいまだに立つことが出来ないという現状があるなかで、伝道集会で奇跡を起こした人がいるという話を聞いて、これが本当に最後の望みだと思ったんです」
小林「“藁にもすがる思い”だよね」」
川口「だからこそ、彼が起こしてくれる奇跡を待ち望んでいるのではないかな」
小林「最初から、強い信念を持ってるわけではないと思うんですよ。それまでたくさんリハビリを受けてきたけれど治らない、でもジョナスの様子を見ているうちに、この人なら…と思うようになっていったのではないかと思います」

――なぜそこまでジョナスを信じることができたのでしょうか。
川口「最初は本当に騙されて信じているとは思うんです。でも彼と関わりと持って接していくなかで、本当の彼が見えてきたのではないかな。
僕が今、感じているのが、ジェイクはお父さんが事故で亡くなっているので、自分の話を聞いてくれたり、手品を優しく教えてくれるジョナスの姿に、どこか父のようなものを見ていたのではないか、ということ。そこから“あなたなら出来る”という思いが生まれてきたんじゃないかな、と考えています」
小林「本当にその通りだなと思います。ただ“奇跡を起こしてくれる”だけの人だったら、あそこまでジェイクも心を持っていかれることはなかったんじゃないか。心からぶつかりあったり、本音を言い合える人が少なかったジェイクにとって、その数少ないうちの一人がジョナスだったから、父のような親しみを感じたし、信じたいと思えたんじゃないかなと思います」
――ジョナスを演じているのは竹内涼真さん。彼の演技から触発されることはありますか?
小林「とにかく(放つ)エネルギーがすごいので、それを受けたらこちらもその分返さなきゃという気持ちになって、すごく刺激をいただいています」
川口「一緒にお芝居をしていると、視線を通して、こちらの心の奥底を見られているような気がして、びっくりします。ジェイク役として、必死に心の内を隠したり、逆に正面からぶつけたりできるので、すごくお芝居がしやすいです。演技ではあるけれど、本音で喋っているような感覚になれるのは、本当に竹内さんのパワーだなと感じています」

――前作の『17 AGAIN』で竹内さんが放ったエネルギーは驚異的でしたが…。
川口「さらにアップグレードしているくらい、すごいパワーです。ずっと出ずっぱりなのに、どうやってあのエネルギーを保てるんだろうと不思議なくらいです(笑)。初速がバンって出る方なので、稽古場で座って見ているだけでも、とにかく圧倒されます」
小林「一緒にお芝居しているとこちらも消費エネルギーがすごいけれど、本当にいい経験だし、毎日が楽しいです」
――アラン・メンケンの音楽を楽しみにされている方もたくさんいらっしゃると思います。ジェイクはソロもありますね。
川口「大変です(笑)。でも歌唱指導の花れんさんがいろいろな引出しを使って支えて下さるので、毎日成長しているのを自分でも実感しますし、これならできるというものが少しずつ掴めてきている感覚もあるので、本当にありがたいですね。緊張はありますが、怖さはなくなりました」
小林「二日ほど前にオケと合わせたのですが、めちゃくちゃ綺麗なメロディで鳥肌が立ちました。緊張するけれど、あの音色に乗せて歌えるのが気持ちよくて、大好きな曲です」
川口「全体的にはゴスペル調の曲が多いけれど、ジェイクの曲はいかにもアラン・メンケンさんが作った曲だなと感じられる、綺麗なメロディの曲ばかりなので、歌うにあたっては、とにかく綺麗に声を乗せることと、気持ちを前に乗せて歌うこと…奇跡や希望をまっすぐに、届けたいところにしっかり届けるということは意識して歌っています」
小林「ゴスペルには憧れがあるので、自分のナンバーではなくても待ち時間に皆さんと歌ったりしています」
――演出は英国の新進気鋭の演出家ジェニファー・タンさん。お二人はこれまでも海外の演出家さんとはお仕事をされていますが、今回はどんな演出家さんでしょうか。
川口「今回は日本版オリジナル演出なので、進め方はこれまで自分が経験してきたものとは違うなと感じています。いろんな人のいろんなアイディアを集めて、最終的にジェニファーさんが道を作ってくださって、そこに自分たちが入るという、すごく時間がかかるし、大変な作業です。
これまで粗通しを何度かやっているのですが、通す度に修正されて、完成形に近づいていくと、袖から見ていても、達成したい目的がすごく伝わりやすくなったり、作品がどんどんブラッシュアップされているのが感じられて、とても楽しいです」
小林「これまで自分がやってきた(海外)作品は(演出の)基盤が出来ていて、それをこなすようなイメージでしたが、今回は作っては全部壊して、また作って…ということがたくさんありました。どんどん完成形に近づいている感覚もあるし、まだ変わるかな?という予感もあって、どうなるのかな」
川口「けっこう変わるよね」
小林「焦ったり楽しんだり、今までにない感覚です」
――演出そのものに特徴はありますか?
川口「ジェニファーさんは、その場面ごとの目的や意図をはっきりさせたり、キャラクター一人一人の背景、過去を固めてから入る方で、“事実”を大切にする方だなと感じています」
小林「稽古の時も、“ここは何日の何時で”と、どの場面もすごく細かく設定してくださっているので、イメージしやすいです」
川口「アメリカの中西部が舞台で、宗教が関わっている作品ということもあって、最初に皆でスライドを見ながら、ここはこういう町で、宗教と人がこういうふうに関わっていますという事実を学ぶ時間もありました。演技をさせていただく上ですごくやりやすい環境を作っていただいています」
――今おっしゃったように、アメリカの伝道集会というものが出て来ますが、観劇にあたっては事前に何かリサーチしたほうがよろしいでしょうか?
小林「それについてはなじみがなくても全然楽しめると思います。
ジェニファーさんは、今回は日本人がアメリカに移住して(この物語を展開させて)いる感覚で演じて欲しいので、日本人独自の感覚も入れて大丈夫だよと言って下さっています」
川口「本作の公式 X で、伝道集会とはどういうものかとか、背景を纏めて下さっている投稿がいくつか上がっているので、事前に見ていただけると、より分かりやすくなると思います。
あの台詞はそういうことなんだとか、今こうなっているのはそれが原因なんだとはっきりすることで、舞台を観たときに得られる情報量も違ってくるんじゃないかな。
例えば、事前知識が全く無いと、どうしてこの町の人たちはそんなに雨を望んでいるのだろうと不思議な気がしますが、あちらの方では年単位で何十年と雨が降らず、地下水も消えてしまうという、とんでもない状況があるそうです。雨が降るのが本当に“奇跡”だという感覚があれば、より物語に共感できると思います」
――稽古も大詰めという段階の今、どんな舞台になったらいいなと思われますか?
小林「観て下さる方にエネルギーを届けたいです。それがこの作品の一番の魅力だと思うので、皆さんが少しでも元気になってくれたり、楽しんでいただけたらすごく嬉しいなと思います」
川口「まずはお客様に楽しんでいただきたいです。
そして何かを信じたり、希望を持つことの後押しになるような舞台になったらいいなと思います。生きていれば悩みだったり葛藤などいろいろあると思いますが、それでも諦めなかったり、諦めずに挑戦したりとか、歌詞にもあるように希望を持って明日に進む、そんなきっかけに少しでもなれたらいいなと思っています」

――ご自身についても少し伺わせてください。お二人とも子役として輝かしいキャリアをお持ちです。どの作品も思い出深いと思いますが、特に“好きだった役”と言えばどちらでしょうか。
川口「やっぱりビリー・エリオットです。今この年齢になって、あの時の演技を振り返った時に、あれだけ自分の感情を爆発させるシーンがあって、怒って泣いて、気持ちを前に出すために歌って踊れたというのが、僕にとってとても大事な経験で宝物です。それがあるから今の自分がいるんだな、とも感じています」
小林「僕は『レ・ミゼラブル』のガブローシュです。初舞台で何もかもが新鮮で、本当にいい経験をさせていただきました。あの役が楽しかったから、どんどん次に繋げられたとも思うので、すごく感謝していますし、またいつか出たいなと思っています」
――例えばマリウス役で…?
小林「マリウス! はい、頑張ります!(笑)」
――川口さんには4年前にもインタビューさせていただいていますが、ぐっと大人の面差しになられましたね。
川口「高校3年間を挟んでいますから…。4年間は大きいです(笑)」
――小林さんは16歳、川口さんは18歳と、今ちょうど大人の役者への過渡期にいらっしゃるのかなと思いますが、どんな“大人の俳優”を目指していらっしゃいますか?
川口「僕は結構踊れる方ですが、ミュージカルをやっていくには、もう少し歌を強化していきたいなと思っています。オールマイティーに何でもできる役者さん、何でもチャレンジできる人でありたいなと、現時点で思っています」
小林「今、少し苦戦していることがあって、子役の時ってある程度情報を渡されて、それをこなしていくようなところがあったのですが、大人になるとこちらに委ねられる部分が大きいんです。その自由さに戸惑いつつ、楽しさも感じています。
将来的には、僕だからこそという、唯一無二の武器が欲しいです。そして(ミュージカル俳優としては)踊れないといけないと思うので、ダンスを頑張りたいです」
(取材・文・撮影=松島まり乃)
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