Musical Theater Japan

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UNIT-mask「life goes on vol.3」永野亮比己・鎌田真梨インタビュー:“自分を解放する機会”としてのダンス劇

 

永野亮比己 神奈川県出身。17歳で渡欧、ルードラ・ベジャール・ローザンヌでモーリス・ベジャールに学ぶ。後にNOISMに所属。その後劇団四季で『キャッツ』『ウィキッド』等に出演。『ウエスト・サイド・ストーリー Season 2』『ビリー・エリオット』『ジェイミー』『東京ラブストーリー』等に出演する傍ら、宝塚歌劇団などで振付も行う。 鎌田真梨 宮城県出身。英国ランベール・スクールに留学し、ケント大学にてBA学士号を取得。 2010年世界的振付家マシュー・ボーン率いる『New Adventures』に入団。数多くの作品に出演しワールドツアーに参加。『眠れる森の美女』では日本人初主演・オーロラ姫を演じる。ミュージカルやバレエコンクールでの振付助手・通訳なども務める。ヨガインストラクターとしても活躍中。(C) Marino Matsushima禁無断転載

 

2018年に劇団四季を退団後、『ビリー・エリオット』『ジェイミー』等のミュージカルで活躍してきた永野亮比己さんが、3月に自身のユニット“UNIT-mask”最新作を上演。演劇性豊かなダンス・プレイの第三弾『live goes on~vol.3』では、日常に疑問を抱く高校教師が不思議な世界に迷い込む物語を、俳優たちによる芝居を交えながら描きます。

今回、座組が発表されて特に話題を呼んでいるのが、マシュー・ボーンの秘蔵っ子の一人としてNew Adventures『眠れる森の美女』『シザーハンズ』に主演するなど、多数の舞台に出演してきたスーパー・ダンサー、鎌田真梨さんの参加。屈指の表現力を持つ鎌田さんと、モーリス・ベジャール仕込みの創造性を花開かせている永野さんのコラボは、どのような化学反応を起こすでしょうか。今回が初共演となるお二人に、手ごたえをうかがいました。

 

UNIT-mask life goes on vol.3リハーサルより。

 

――永野さんは今回なぜ、鎌田さんに声をかけたのですか?

永野亮比己(以下・永野)「僕のひとめぼれです。New Adventuresの来日公演を観に行った時、一人素敵なダンサーがいて。華やかなオーラも、女性らしさの中に芯の強さもありましたし、僕が好きな、芝居のようなダンスをされていて、それが(鎌田)真梨さんでした。いつか共演できたらと思っていたら『ジェイミー』で彼女が振付助手をされることになり、これは何としてもお声がけしようと…」

鎌田真梨(以下・鎌田)「『ジェイミー』の稽古場ではちょうど隣の席だったんです。もともと永野さんのお名前やどういうダンサーさんであるかは少し存じ上げていましたが、ベテラン揃いのドラァグクイーン役の方々に囲まれて、真摯に稽古に臨んでいらっしゃる姿も印象的でしたし、踊りも素晴らしいな、劇団四季で鍛えられたんだろうな…と思っていました。振付助手はダンサーと良好な関係を築くことが大事なので、話しかけていただいて嬉しかったですし、10代で海外に留学しているという共通点もあって、すぐに仲良くなれました」

――鎌田さんはイギリス、永野さんはスイスで学ばれていたのですね。

永野「僕が師事した(モーリス・)ベジャールも、真梨さんが出演されていたNew Adventuresのマシュー・ボーンも、演劇の要素が強い振付家です。何もないところから生み出す幾何学的なコンテンポラリーではなく、物語やテーマからインスピレーションを受けて、独自の表現をつくりあげてゆくスタイルでした」

鎌田「これまでいろいろな振付家とお仕事してきて、中には“これはなんなんだろう”というような振りもあったりしましたが(笑)、永野さんの素敵な振り付けや表現したいものは、これまで私が経験したきた様々なジャンルを凝縮したものが多く、ナチュラルに私の中に入ってきました」

永野「今回は“愛と生と死”というテーマで脚本を作っていますが、そのベースには高校教師役で出演する役者の実体験があります。彼は現役の高校教師で、ミュージカル俳優になりたいという夢と現実の間で、葛藤があるそうなのです。

本作では、高校教師がカオスを経験する物語を通して彼自身の心の叫びが引き出せるといいなと思っていて、稽古で皆が絡み合い、生み出すものを生かしながら、見て下さる方々にも自分を解放するきっかけのような舞台を作れればと思っています。

そんな世界観の中に“blood(血)”として存在してくれるのが、真梨さん。彼女のような圧倒的存在感を持つ人がいることで、稽古ではみんながいい意味でひっぱられています。最終的にどういう形に仕上がるか、僕自身すごく楽しみです」

鎌田「“血”って、生命だったりエネルギーだったり、死に繋がるイメージもありますよね。強さだったり感情を表現するものでもあるということで、私もこの役をどう練り上げようかと楽しみです。永野さんから渡される振りのなかで、自分の味を出せるといいなと思っています」

UNIT-mask life goes on vol.3リハーサルより。

 

――鎌田さんのダンスの魅力の一つに、驚異的な“流麗さ”があると思います。骨自体が柔らかいのかと錯覚してしまいますが…。

鎌田「実は私、後屈は苦手なのですが、柔らかく見えますか?(笑) 私が一つ心がけているのが、書道の一筆書きのように、ということです。はじめにどん、と筆を置いてそれを払うまで、細く、長く、どう繋げるか。レッスンで生徒さんにも言っていますが、ぷつんと途中で途切れないように、ということをモットーとしています」

永野「それは俳優が台詞を喋る時にも大事なポイントですね。劇団四季のある先輩が以前、台詞は一息で喋ると伝わりやすい、と教えてくれました。喋り続けている時のある種の緊張感を届けることによって、聞き手が引き込まれる。そしてそれはブレスをとって(フレーズを)歌いきるということにも共通する。ダンスにも台詞にも歌にも、全てにおいてリンクしているんですね。これらが全部、完璧に出来ているミュージカルは最強なんだろうと思います」

鎌田「踊っているとき、その緊張感を(踊り手が)楽しめるかどうかでフレーズの質は変わりませんか?払うまでの緊張感も楽しめれば、いいものができるような感覚があります」

 

UNIT-mask life goes on vol.3リハーサルより。

 

――ダンスは難しいものというイメージを持たれている方もいらっしゃると思いますが、ダンスの魅力をアピールするとしたら…?

永野「そもそも人間には動きたい、踊りたいという本能がありますよね。大昔に、雨ごいのためにみなで踊ったりしていたものが、“踊り”というジャンルとして確立されていったわけで…」

鎌田「ダンスは一つの言語だと思います。ダンサーのちょっとした動きで悲しさも、楽しさも表現出来、身体表現の極致と言えるのではないでしょうか。まずは映画を観に行くような感覚で、身近にダンスに触れていただけたら嬉しいです」

永野「一つもったいないなと思っているのが、日本のミュージカルではダンスはアンサンブルに任される傾向があるけれど、本来、ミュージカルは(歌だけでなく)ダンスも含まれているものです。プリンシパルがスタイリッシュな身のこなしを見せるような公演がもっと増えていけばいいなと思っています」

鎌田「確かに、私のいたイギリスでは、日本と(舞台の在り方が)いろいろと違っていました」

鎌田真梨さん、永野亮比己さん。(C) Marino Matsushima 禁無断転載

 

永野「お客様が、出演者名より作品名や作り手の名前に惹かれて足を運んで下さる機会が増えるといいなとも思っていて、そのためにも自分たちが理想とする作品をどんどん創っていけたら、と思っています」

鎌田「政治と同じで、変化には何十年もかかるかもしれないけれど…」

永野「続けていくことが大事だと思っています。特に今は、自然災害や戦争が物価高騰や金融の破綻にも影響し、社会的にも貧富の差が激しくなっている中で、エンタメに何が求められているのか、考えないといけないと思います。社会的なメッセージを送るべきか、人間の本質を表現するべきか。

今回は会場での上演ですが、UNIT-maskの前回、前々回公演は配信ライブという形で行い、その中でいろいろな発見もありましたので、配信を一つのジャンルとしてとらえ、その可能性も考えながらやっていきたいです」

鎌田「私は今回、永野さんからお声がけをいただいて、率直に“やりたいな”と思いました。人生って全部タイミングだと思っていますが、今の私は“生と死”というテーマがとても身近に感じられます。ダンサーとして一人の女性として、今回の舞台で自分なりに、今の全力を出せたらなと思っています」

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報 UNIT-mask 「live goes on ~vol.3」 3月10日=Studio K (夜公演完売につき、15時に追加公演を開催。2月8日より発売)公式HP
*永野亮比己さん、鎌田真梨さんのポジティブ・フレーズ入りサイン色紙をプレゼント致します。詳しくはこちらへ。