Musical Theater Japan

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『ジェイミー』森崎ウィン インタビュー:自分らしく、勇気を持って

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森崎ウィン ミャンマー出身。小学校4年生の時に来日。音楽活動を展開しつつ、俳優として様々な作品に出演。S・スピルバーグ監督映画『レディ・プレイヤー1』に主要キャストで出演、ハリウッドデビュー。20年『ウエスト・サイド・ストーリー Season 2』にトニー役で主演。22年に『ピピン』主演を予定している。©Marino Matsushima 禁無断転載

16歳の高校生ジェイミーが、偏見を乗り越えて自分らしい生き方を切り拓いてゆく…。2017年に誕生以来、英国で大ヒットしているミュージカルが日本に上陸、間もなく開幕します。

この舞台で高橋颯さんとWキャストでタイトルロールを演じるのが、森崎ウィンさん。歌手・俳優・ラジオパーソナリティーと幅広く活動する彼ですが、昨年の『ウエスト・サイド・ストーリー』出演を機に、ご自身の中でミュージカル熱がぐっと高まっているそう。最高のタイミングで出会った本作にどう取り組んでいるか、うかがいました。

【あらすじ】
大きな公営住宅団地の一角で母・マーガレットと暮らしている、16歳の高校生ジェイミー。ドラァグクイーンに憧れる彼は、誕生日に母から赤いハイヒールをプレゼントされ、夢の実現のため一歩を踏み出す。学校のプロムに自分らしい服装で出席しようと計画し、学校や保護者たちから猛反対を受ける彼だが…。

表現したい世界に音楽が
連れて行ってくれる「ミュージカル」に
魅せられています

――今回はどんな経緯で出演が決まられたのでしょうか?

「本作のことは存じ上げなかったのですが、『ウエスト・サイド・ストーリー』で初めて本格的なミュージカルに触れて、もっとやりたいなと思っていたところにお話をいただき、またミュージカルが出来るかもしれない、と嬉しく思いました。それから作品の内容に触れて、これはぜひチャレンジすべき作品だ、と思いました。この作品は海外版のキャスティングも本国(イギリス)の承認が必要ということで、推薦を受ける形で音資料をお送りしたところ、ぜひジェイミーをやって下さい、ということになりました」

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『ジェイミー』

「自分自身については、わかっている部分もあれば自分ではわからない部分もありますが、僕自身としては純粋に歌を歌えるということと、『ウエスト・サイド~』で主演ができたという点で信頼をいただいているのかなとは思います」

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『ジェイミー』稽古場のぞき見会より。撮影:田中亜紀 写真提供:ホリプロ

――楽曲を聴いて、ご自身の音楽性との親和性を感じたりは?

「楽曲はどれもいいし、好きなタイプですね。ポップだし、僕の得意分野だと思いますが、ここは跳ねるんだなとか、自分にはないリズム感も含まれていて新鮮です。ただ、役として歌うのと、アーティストとして歌うのではちょっと違ってくると思っていて、ジェイミーとして歌うとなると、前後に芝居が入ってくるので、気持ちの変化によって歌声もいつものウィンとは違うと感じられるかもしれません」

――台本を読んでの第一印象はいかがでしたか?

「ドラァグクイーンの華々しい部分に注目するのかと思ったら、それ以上に一人の人間が自分らしく生きる物語で、すごく勇気をもらえる作品だと感じました。ジェイミーの明るさ、心に抱えていてもなかなか言いにくいことを“僕はこうしたい”と言える強さ。こういう人もいるんだと思うと、自分が抱えていることにちゃんと向き合って自分らしく生きてもいいのかな、と勇気をもらえる作品だな、と」

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『ジェイミー』稽古場のぞき見会より。撮影:田中亜紀 写真提供:ホリプロ

――誰もが共感できるような、普遍性がある作品だと?

「僕自身はドラァグクイーンを目指したことはないので、直接的な共感ということではないのですが、客観的にリンクする部分で感動しました。僕もふだん、アーティストとして活動している時、アルバムのリリースなどで周りの人たちが皆“こうしたほうがいい”と言っていたら“自分の感覚だとこうなんだけど”とは言いだしにくかったり、今、母国ミャンマーで起きていることに対して、政治家でもなんでもない自分だけれど、どうとらえて意見を言ったらいいかと悩んだり…といった葛藤はあるので、ジェイミーとも通じる部分はあるのではないかと思います。自分が生きてきた30年の経験を活かせるよう、今は稽古でいろいろやってみながら、役と自分との接点を一生懸命探しています」

――生まれながらの芯の強さも大きいけれど、ジェイミーにとっては母マーガレットの存在が大きな支えになっていて、家族の物語という側面もこの作品にはありますね。

「(鍵は)そこかなと思います。ある家族を眺め見る物語でもあると思います。もちろんヒールを履いた時の動きだったりという外見の表現も大事ですが、あまりそこを押し出すのではなく、彼がLGBTとしてカミングアウトして、ドラァグクイーンを目指した時に家族がどうなってゆくのか、という視点は持っていたいです」

『ジェイミー』歌唱披露イベントにて。(C)Marino Matsushima 禁無断転載

 

――今回、ご自身の中でテーマにされていることはありますか?

「今回のカンパニーでは、生徒役の大半が20代前半で、大人役は40~60代。僕はその中間の年代で、20代のがむしゃらな姿勢とともに責任感をもったあり方も求められるのかなと思っています。年下の人たちの前では変なところは見せられない、みたいについかっこつけてしまうけれど、変なプライドを持たず、Wキャストの(高橋)颯君にも“教えて”と言える自分でありたいなと思っています」

――16歳の役ですが、16歳の時のご自身は容易に思い出せますか?

「なんでもできる気がしていました(笑)。その感覚が正解だったのかはわからないけど、素直だったことは確かですね。今は当時より考えられるようになったけれど、もっと物事を素直に受け入れていくことが大事だなと思いますね」

――どんな舞台になるといいなと思われますか?

「たくさんの方に届く、共感いただけるような舞台になればと思います。このご時勢ですので、どの回が最後になるかわからないと思っていますし、座長として、そこを隠すつもりもありません。だからこそ一回一回を全力投球しながら、お客様と一緒にジェイミーの世界を作りたいと思います」

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森崎ウィンさん。©Marino Matsushima 禁無断転載

――プロフィールについても少し伺わせてください。様々な活動をされているなかで、ミュージカルはウィンさんにとってどんな表現でしょうか?

「本格的なミュージカルは今回が2作目ですが、好きですね。音楽が自分を高めてくれる、表現したい世界に連れていってくれる感覚があって、歌っているのか喋っているのかわからなくなるほどです。よくミュージカルでは突然歌いだす…と言う人がいますが、僕はそれに対して全然抵抗がなくて、そこで歌うのは素敵、と思えますね。音楽と芝居が融合している、最高の場がミュージカルだと思います」

――表現者として目指されているのはどういう地点ですか?

「森崎ウィンにしかできないものが生み出せるエンターテイナーになれれば…と思っています。このコロナ禍でいろいろ考える機会があるなかで、やっぱりその人にしかないものが自覚できていることが一番強いんじゃないかと思うようになりました。だから今は経験を積み重ねていって、ウィンにしかできないものをたくさん持ちたい、と思っています」

――ウィンさんはミャンマーのご出身。故郷で起こっていることについては私たちも心配でなりませんが、何か出来ることはありますでしょうか?

「国レベルで動いていることなので、個人でできることは正直、ないです。でも敢えて言うなら、ミャンマーのことを知ってくれたらいいなと思います。ニュースだけでなく、こんな観光地があるんだなとかでも結構です。ミャンマーのことを考えて、知って下さるだけでも、僕にとっては有難いです」

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『ジェイミー』8月8~29日=東京建物Brillia HALL、9月=大阪・新歌舞伎座、愛知芸術劇場 大ホール 公式HP
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