Musical Theater Japan

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『コーラスライン』来日公演観劇レポート:オーディションを舞台に描く“誰もが特別な一人”

『コーラスライン』”One” Photo by Marino Matsushima 禁無断転載 🄫コーラスライン2022来日公演

“ステップ、キック、キック、リープ、キック、タッチ…”
アップテンポのピアノの音色とともに振りを指示する声が響き、裸舞台を埋め尽くすダンサーたちが真剣な表情でステップを踏む。    

『コーラスライン』演出助手のラリー(右 Nick Nazzaro)を手本に、振りを覚えるシーラ(中央 Graceanne Pierce)らダンサーたち。Photo by Marino Matsushima 禁無断転載 🄫コーラスライン2022来日公演

ここはブロードウェイ、とある新作ミュージカルのオーディション会場。ダンス審査でふるいにかけられた17名のダンサーたちは、男女各4名の枠を懸けて次の審査へ。だが演出家のザックからは“自分自身について話してほしい”と、風変わりな課題が出される。

『コーラスライン』"I Hope I Get It" 演出家ザック(左 Hank Santos)が鋭く視線を走らせる中で踊る受験者たち(中)。下を向く癖のあるフランク(中央写真左から二人目 Arnie Rodriguez)は「ヘアバンドの君!」と注意され、今度は上ばかり向くように。片隅ではトリシア(右 Melissa Jones)が「心からこの仕事が欲しい」と歌う。Photo by Marino Matsushima 禁無断転載🄫コーラスライン2022来日公演

トップバッターに指名されたマイクが戸惑いつつも幼年期の“ダンス事始め”を語り、他のダンサーたちもこの道を志したきっかけや性の目覚め、家族との軋轢などそれぞれに自身の体験を披露。ザックの元恋人で挫折した元スター、キャシーも参加していたことで、観客は“選ぶ側”のザックも“克服できない過去”を抱えていることを知る。

『コーラスライン』自分の受験番号を忘れ、慌てるジュディ(Ashlyn Fenn)。Photo by Marino Matsushima 禁無断転載 🄫コーラスライン2022来日公演

そんな中、ある事態が発生し、ザックは皆に究極の質問を投げかける。“もし踊れなくなったら、どうするか”。ダンサーたちの答えは…。

演出・振付のマイケル・ベネットが、ショービジネスの世界に全てを懸ける若者たちのリアルな声を集めて一つのミュージカルを創り上げ、1975年にオフ・ブロードウェイで開幕。たちまちブロードウェイに進出、トニー賞作品賞やピューリッツァー賞を受賞した『コーラスライン』の来日版が、4年ぶりに上演中です。

『コーラスライン』”Gimme The Ball” 運動神経抜群、大学で花形選手だったリチー(Jonah Nash)を待っていたのは…。Photo by Marino Matsushima 禁無断転載 🄫コーラスライン2022来日公演

ダンサーたちの物語を通して“誰もが自分の人生の主役”であることを描き、多くの人々の心を動かしてきた本作。コニー役のオリジナル・キャストで現在演出・振付・再構成をつとめるバーヨーク・リーに率いられた今回のカンパニーは、各役をのびのびと体現。特に中盤、それぞれの個性があらわれてきたところで思い思いに思春期を振り返り、エネルギーを爆発させる“モンタージュ”が目を奪います。“個”としては終始全身にクラシック・バレエ愛を漲らせ、ぶれずに誇り高くあろうとするシーラ(グレースアン・ピアース)に大きな存在感。

『コーラスライン』”What I Did For Love” ディアナ(中央写真手前 Zoe Maloney)が口火を切り、ダンサーたちは愛するもの=ダンスに捧げた日々に悔いはないと歌う。Photo by Marino Matsushima  禁無断転載 🄫コーラスライン2022来日公演

70年代ならではの固有名詞もいくつか登場するものの古さは感じさせず、ノンストップ2時間強の舞台はあっという間。はじめは“大勢の人々”にしか見えなかったダンサーたちがいつしか“特別で、大切なひとり一人”に映り、フィナーレではゴールドの衣裳に身を包み、歌い踊る彼らを心から祝福したくなる舞台となっています。

『コーラスライン』”One” Photo by Marino Matsushima 禁無断転載 🄫コーラスライン2022来日公演

なお、今回の公演ではスペシャル企画として全回、アフタートークを開催。日替わりでキャストやスタッフが登壇し、15分程度、観客からの質問に答えています。筆者の鑑賞回にはプロダクション・ステージマネジャーのケヴィン・ブラニックと、そのアシスタントで小道具も担当するアビー・ボルが登壇。ステージマネジャーとは一言でいえば“皆のハブとして、各セクションを連携させる役割”、“本作は基本的に演劇界の私たちについての物語なので、それが伝わるよう意識している”等のコメントがありました。公式HPでは登壇者スケジュールを発表していますので、興味のあるキャスト、スタッフのトークがある回を選べば、さらに楽しみが増えることでしょう。

(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報『コーラスライン』8月11~28日=Bunkamuraオーチャードホール 公式HP