Musical Theater Japan

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『アナと雪の女王』富永雄翔インタビュー:“愛と童心”を体現するオラフを演じて

富永雄翔 東京都出身。幅広いダンスのレッスンを重ね、声
楽、演技の研鑽も積む。入団以前は、テーマパークのダンサーとしてショー等に多数出
演。ダンス講師としても活躍し、数多くのミュージカルにも出演した経験がある。
『ロボット・イン・ザ・ガーデン』コーリー、『アナと雪の女王』オラフ、『ウィキッ
ド』フィエロを演じている。『赤毛のアン』『アラジン』にも出演。 🄫Marino Matsushima 禁無断転載


2013年の世界的大ヒット映画を舞台化し、2018年にブロードウェイで開幕したディズニーミュージカル『アナと雪の女王』。
日本でも2021年に東京で開幕し、大きな反響とともにロングランが続いています。

魅力的なキャラクターがひしめく本作の中で、アナとエルサ姉妹の幸福な幼少期の思い出から生まれ、成長したアナの冒険に寄り添うことになるのが、雪だるまの“オラフ”。
映画版誕生時から屈指の“愛されキャラ”として知られるこの役を演じる俳優の一人が、富永雄翔さんです。

オラフとはどういう存在なのか。パペットと俳優が一体となって演じる難しさ、そして本作に込める祈りとは?

2023年からこの役を演じ続ける中で見えてきたもの、改めて抱く思いなど、たっぷりと語っていただきました。

 

【あらすじ】アレンデール王国の王女エルサは、雪や氷を操る魔法の力の持ち主。幼い時にその力を妹アナに当ててしまい、以来人々から魔力を隠すため、自分の部屋に閉じこもる。

海難事故で王夫妻が亡くなり、エルサは女王として王国を継承するが、戴冠を祝うパーティーの席でアナと言い合いになり、思わず感情が爆発。城を逃げ出し、氷の宮殿で一人で自由に生きることを決意するが、自身の放った魔法が王国を凍らせてしまったことには気づかないまま。

残されたアナは王国を救うため、クリストフや雪だるまのオラフとエルサを探す旅に出るが…。

 

『アナと雪の女王』

 

――映画版の『アナと雪の女王』は、公開時にご覧になっていましたか?

「当時は町中、どこにいっても“Let It Go”が流れていましたね。僕も小学生の頃からディズニーランドが大好きで、年間パスポートを親に買ってもらっていたほどのディズニー・ファンだったので、この作品ももちろんすぐ観に行きました。

第一印象として感じたのが、この作品はいつものディズニー作品とはちょっと違うタイプなのかもしれない、ということ。ヒロインがプリンスと出会って恋に落ちて…ということより、家族愛だったり、人間がもともと持っている(根源的な)愛がフォーカスされているような気がして、僕としては稀な作品に感じられました」

 

――では舞台版の第一印象は?

「劇団四季で上演するにあたり、稽古場での通し稽古を見学しに行ったのですが、まずヤング アナとヤング エルサがとにかく愛おしくて、彼女たちの冒頭のシーンで号泣してしまいました。僕は家族に対して思い入れが深いので、彼女たちの姿に、自分の家族も重なって見えたんです。

映画を観た時にはそこまでそういう見方はしていなかったのですが、目の前で生身の人間が演じていると、やっぱり何かが違うんですね。アナやエルサが確かにそこにいると実感できて、胸に迫るものがありました」

 

――本作へのご出演は、どのように決まったのですか?

「開幕後に追加のオーディションがありまして、そちらを受けて決まりました。
当時、劇団内ではロングラン作品のオーディションがいくつか重なっていて、僕は3作品受ける予定がありました。ちょうど『アラジン』にアンサンブルとして出演している時期で、キーの高いパートで喉も酷使している状態でしたが、毎朝頑張って練習をして臨んだ記憶があります。

オーディションは、意外にもものすごく楽しめました。一次審査が一幕の登場シーンで、二次審査はそれをパペットをつけて行うというものだったのですが、稽古用のそのパペットが可愛いらしくて。それを使ってお芝居をするのが、すごく楽しかったんですよ。オーディションって、緊張したなぁ…とか、あそこでミスしてしまったなぁという印象が残ることが多いので、“楽しかった”と思えたのは、僕の中ではかなり珍しいことでした」

 

――はじめからオラフを志望されていたのですか?

「最初はオラフとオーケンでオーディションを受けようかなと思ったのですが、募集要項が出た時に、キャラクター設定としてオーケンは“40代に見える”と書かれていて、僕は少し違うかもしれないと思いました。

オラフに関しては、“いつどこで何をしていても満ち足りているキャラクター”というようなことが書かれていて、僕自身、そういう人に憧れるし、自分もそうありたいと思うので、この役を受けたい、と思ったのです」

 

――実際に演じることになり、オラフをどんなキャラクターとして演じていらっしゃいますか。

「本作におけるオラフは、シンプルに言えば“愛”、それも“アナとエルサの愛”の象徴だと思いますが、個人的にはそれに加えて、オラフはアナやエルサ、そしてお客様に、幼少期を思い出してもらうキャラクターだと思っています。

オラフのお芝居に対して、客席の子供たちはいろいろなリアクションを見せてくれますが、その笑い声の大きさや、“こんなところで笑ってくれるんだ”といった意外さに、僕はハッとすることがあります。

大きくなる過程で、人は“こんなことをしたら恥ずかしい”と感じるようになってゆくものだと思いますが、子供たちにとってはそんなことは関係なくて、面白いものは面白い、だから笑う。彼らの無邪気さに触れることで、大人の方々も自身の幼少期、例えばあんな仲良しの友達がいたなとか、“ケーキ屋さんになりたい”と夢見ていたな、といったことを思い出せる。そこから、今の自分を新たな角度で見つめなおすこともできる。オラフはそんなきっかけになりうる存在なのかな、と感じています」

 

『アナと雪の女王』オラフ(富永雄翔)🄫Disney 撮影:樋口隆宏


――先日拝見しましたが、二階席からでも、オラフを演じる富永さんの瞳はとても無垢に映りました。ご自身の中でも大切にされているのですね。

「僕自身、オラフ役を通して癒される実感は確かにあります。演じていても本当に楽しい役です」

 

――思ったことを何の気なしに言っているように聞こえて、実は示唆に富み、気づきを与えてくれる台詞を発する役どころでもありますね。

「アナとエルサがなぜこういう関係性になっているのか、考えるきっかけにもなっていますね。幼少期の二人の間には強い結びつきがあったのに、エルサの魔法が問題とされ、彼女はアナへの愛を隠すようになってしまいます。しかしそれを思い出すことで、(彼女の精神世界の象徴でもある)氷を溶かすことができるようになる。やはり、オラフは幼少期を思い出すカギのようなキャラクターなのかな、と感じます」

 

――映画版にもありますが、“この人のためなら溶けてもいい”…という、実にほろりとさせる台詞もあります。

「日本のオラフ役を初演から演じてらっしゃるお二人から聞いたのですが、このくだりの、“愛は、自分よりも誰かを大切に思うこと”という台詞だけは、(役ではなく)自分自身として言ってほしいと演出がつけられているそうです。

オラフが発している台詞で、パペットも動かしながらの台詞ではありますが、ここは作品で一番大事な台詞だから、自分の言葉として、目の前の人に教えてあげてほしいというふうに演出がつけられたんだよと教わって、演出の方法も仕方も含めて、素敵だなと思いました」

 

――演じる側の人間性も問われるようなお役なのですね。

「はい。そのうえで、細かなニュアンスが人それぞれに変わってくるのかなと思います」

 

――オラフはパペットを遣うため、普通の役柄とはまた異なる難しさがあるのかなと想像されます。劇団四季のレパートリーを見慣れた私たちとしては、例えば『ライオンキング』のティモンやプンバァと同列にあるのか、もしくは根本的に異なる点があるのか、興味深いところです。

「イメージ的にはティモンがやや近いと思いますが、大きく異なるのは、オラフのパペットは頭、お腹、お尻の三パートに分かれているので、僕自身が体をひねると、三つのパートがねじれたり、ばらばらになりやすいんです。そうならないよう、自分の身体の軸を中心に動くというより、オラフのパペットの軸に合わせて体を動かす必要があります。

あとはやっぱり、表情ですね。眉毛と瞼を操作しているのですが、それがけっこう細かいんです。ティモンは目元は動かないと思いますが、オラフは細かく動かしますし、まばたきも一緒のタイミングでしなければいけない、と海外スタッフから言われました。僕自身が眉毛を上げたり、まばたきをしたら、パペットも同時に同じ動きをするというのが、慣れるまで結構大変でした」

 

――『ライオンキング』日本版が開幕したころ、(オリジナル演出の)ジュリー・テイモアさんにお話を伺った際、パペットやマスクを活かすため、俳優にはあまり顔で演技をしてほしくないとおっしゃっていたのですが、本作の場合、俳優とパペットは同等にその役を表現しているという意識でしょうか。

「難しいところではありますね。やっぱり“己を消す”って、なかなかできないじゃないですか。ただ、『ライオンキング』のティモンでは俳優の顔が緑色に塗られているのに対して、オラフでは俳優の顔もしっかり見えているのは、一つの演出なのかな、と僕は思います。パペットと人間が、一心同体となって表現しているような感覚に近いです」

 

――では、パペットと俳優とで合計1になっているというより、もしかしたら2倍の存在感でオラフが表現されているのかも…?

「そうかもしれません。僕の中では特段、自分の顔で演技をすることは意識していませんが、オラフとして僕の中から出てくる表情を、瞬間的にパペットに伝達して同時に表現する…というイメージです」

 

――パペット操作で苦労された点はありましたか?

「オラフ役でデビューしたての頃は、親指一本で眉毛とまぶたを動かすのが難しかったです。例えばエルサのお城に行った時、うわーっと眉毛を上げたまま瞬きできたらいいなと思っても、親指一本で両方を動かすというのがなかなかできなくて。時間をかけて慣れることでできるようになり、悲しさやうっとりした表情もより豊かになってきたのではないかなと思っています」

 

『アナと雪の女王』©Disney 撮影:阿部章仁


――初見ではなかなか気づきにくいかもしれないけど、実はここは見逃せないといったポイントはありますか?

「よく言われるのは、オーケンの店のあちこちに、ディズニー・キャラクターがたくさんまぎれているということ。それを探していただくのも楽しいと思います。

個人的に僕が好きなのは、開演前にも見ていただけるあのプロセニアム・アーチですね。いろんなディズニー作品のキャラクターが象形文字で描かれていて、それを探してみるのも面白いかなと思います。

あと、先日久々に『アナと雪の女王 2』を観た時に改めて気づいたことなのですが、舞台の“誰でも完璧じゃない”というナンバーに、風、大地、炎、水、そして氷…と、五つの精霊のモチーフが登場するんです。舞台版には『アナと雪の女王2』の要素も盛り込まれていることを再確認しました。また、(舞台版の序盤で)イドゥーナ妃が隠れびとを呼ぶ背景も、『2』を観ることでわかります。舞台版をご覧になる前後に『2』をご覧になると、より面白さが増すのではないかと思います」

 

――出演を重ねることで、より強く感じることなどはありますか?

「もちろんお芝居の勉強にもなっていますが、一人の役者として、やはりロングランならではの貴重な経験をさせていただいているなと感じています。

ロングランの過程で、キャストはいろいろと変わるのですが、人が変われば、細かなしぐさや表情、言い回しもおのずと変わってきます。オラフの場合、アナやクリストフと一緒にいることが多いのですが、3人の組み合わせが変わるだけで、作り出される空気感も微妙に異なるんですよ。だからといって身構えることなく、まずはそこに飛び込むことで、“演技を披露する”のではなく、“役としてそこに居る”ことができる。回を重ねるうちに、そんなことを実感するようになってきました。

ミュージカルでは(メインキャストが)“ダブルキャスト”や“トリプルキャスト”で上演される作品もたくさんありますが、劇団四季の場合、さらに多くの俳優が一役に対して配されていることもあります。もちろん相手が変わることで大変なこともありますが、慣れきってしまわず、新鮮さも保てますので楽しいし、とてもやりがいを感じています」

 

富永雄翔さん。©Marino Matsushima 禁無断転載

――ご自身についても少しお話をうかがえればと思います。富永さんは2021年に劇団四季に入団されましたが、何かきっかけがおありだったのでしょうか。

「僕は2010年に入団し、いったん退団して10年ほど、いろいろな舞台に立たせていただいていました。もちろん当時のお仕事もすごく楽しかったのですが、劇団四季ではたくさんの演目を上演していて、その中には僕の大好きなディズニーミュージカルもある。そしてメインキャストのオーディションを受けるチャンスも平等にあるという点に惹かれ、改めて四季を受けて入団しました」

 

――本作のオラフ、『ウィキッド』のフィエロと、早速メインキャストとしても活躍されていますね。

「本当に、運良くチャンスをいただいてきました。

僕にとっては『ウィキッド』も、思い入れのある演目です。小さいころに『オズの魔法使い』のこどもミュージカルを観たり、学校の芸術鑑賞で『オズの魔法使い』(の演劇)を観ていたので、『ウィキッド』が日本で上演されると知った時には、“『オズの魔法使い』のエピソード・ゼロだ!”と、俄然興味を持ちました。まだ10代だったけれど、一生懸命お金を貯めて何度も通った思い出があります。

僕はもともと(ハリウッド映画の)『ジョーカー』や『マレフィセント』のような、“悪者”がなぜそうなったのかを描くストーリーが好きでして。“悪者”として生まれてくる人なんていないのに、なぜそう呼ばれるようになってしまうのか。周囲によって悪者に変えられていったのではないかという掘り下げが、とても興味深いです。

実際に舞台を観て、『オズの魔法使い』との関連性も面白いし、演出も斬新だなと思い、虜になりました。その後、フィエロのオーディションに挑戦した時は、まさか受かると思っていなかったので、ただただびっくりしました。一生懸命取り組みましたが、(また演じる機会があれば)まだまだやれることはあるなと思っています」

 

――現時点で、どんな表現者を目指していらっしゃいますか? 

「周囲からよく“役のふり幅が大きいね”と言われるのですが、僕自身、こだわりを持たず、様々なジャンルのキャラクターや作品に関わりながら、“明日も頑張ろう”と思っていただけるようなお芝居を目指していきたいです。

(劇団四季創設者である)浅利慶太先生は生前、“人生は生きるに値する”と思える舞台を作っていこうとされ、その理念は今も受け継がれていると思いますが、僕自身、初めて劇団の舞台を観た時に活力をいただけましたし、ちょっと大変な思いをしている時にも、舞台で頑張っている方々の姿に励まされてきました。

あと、『アナと雪の女王』を含めて、劇団のレパートリーには愛にまつわるお話が多いですよね。これらの作品に触れ、それぞれの愛や価値観を再確認していただくことで、皆さんの人生がより豊かになっていく。そんなきっかけを作れるような役者になりたいなと思っています」

 

――富永さんには8年ほど前、外部の舞台に出演された際にインタビューをさせていただいたことがあります。その際、出演者全員に“夢”をうかがったところ、富永さんは“ブロードウェイを目指したい”とおっしゃっていたのが印象的でした。アメリカでこそないけれど、ブロードウェイに匹敵するレパートリーを持つ劇団四季で活躍されている今のお姿が、とても嬉しく感じられます。

「僕は高校生でダンスを始めたのですが、その当時からSNSのプロフィール欄に“ディズニーダンサー”“劇団四季”“ブロードウェイ”と夢を明記していました。今考えるとちょっと恥ずかしくもありますが(笑)、幼少期から英会話を習っていたこともあって、ミュージカルに出会ってからは、全部を活かせる場としてブロードウェイを目指したいと思っていたんです」

 

――劇団四季では海外から来日された方の演出を受けることもあるので、そのような時にアドバンテージになりますね。

「そういうこともあるかもしれません。英語から日本語に通訳される時に、通訳の方が少し柔らかな表現に変えて下さっているなとわかる時もあって、二倍勉強になります。これからも真摯に、一つ一つの役に取り組んで行きたいです」

 

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『アナと雪の女王』上演中~2027年1月17日=JR東日本四季劇場[春] 公式HP