Musical Theater Japan

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『ISSA in Paris』岡宮来夢インタビュー:“若き日の小林一茶”に思いを馳せて

岡宮来夢 長野県出身。2015年ジュノン・スーパーボーイ・コンテストで準グランプリを受賞。主な出演作にミュージカル『刀剣乱舞』『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』『王家の紋章』『進撃の巨人-the Musical-』『ロミオ&ジュリエット』『1789-バスティーユの恋人たち-』『四月は君の嘘』等がある。©Marino Matsushima 禁無断転載

現代を生きるシンガーソングライターと、後に“小林一茶”と名乗ることになる俳人志望の青年。ともに悲しみを抱えた二人が、時空を超え、1780年代のパリで出会う――。

『タイタニック』『ファントム』等で知られるミュージカル作家、モーリー・イェストンが、学生時代に出会って以来、関心を抱いてきた小林一茶。その“空白の十年”を巡る大胆なアイディアから生まれた新作ミュージカルが、間もなく開幕します。

脚本を高橋知伽江さん(『手紙』)、演出を藤田俊太郎さん(『ジャージー・ボーイズ』)が手掛けるこの歴史ファンタジーで、“後の小林一茶”=弥太郎を演じるのが、岡宮来夢さん。偶然にも小林一茶と同じ長野県の出身で、幼い頃から彼の俳句に親しんでいたといいます。

稽古も終盤を迎えた某日、一茶役への特別な思い、そして間もなく誕生しようとしている舞台の手応えを、限られた時間の中で一秒も無駄にすることなく、丁寧に語ってくださいました。

 

【あらすじ】

現代。シンガーソングライターのISSAこと海人は、亡くなった母が立てていた、“俳人・小林一茶は青年期の空白の10年の間に、パリに行っていた”という仮説を検証するため、パリへと向かう。

1780年代。鎖国中の日本を抜け出した弥太郎(後の小林一茶)は、パリに辿り着き、革命運動に身を投じる若者たちに出会う。

それぞれの時代を生きていた二人だったが――。

 

『ISSA in Paris』

本作の小林一茶は、海人の亡き母の
“息子への思い”を乗せた存在でもあると思います

 

――岡宮さんは今回演じる小林一茶と同じく、長野県のご出身。例えば小学校で小林一茶に親しむような機会はあったでしょうか?

「僕らの小学校では無かったのですが、小さい頃、実家に“小林一茶かるた”があったので、小林一茶という名前には馴染みがありました。一般的に“俳句”というと松尾芭蕉を思い出す方が多いようですが、僕の中では小林一茶のイメージが強かったです。

ですので、本作の情報が解禁になってすぐ、両親からも“あの小林一茶なの⁈”と連絡がありましたし(笑)、こんなことってあるんだな、とご縁を嬉しく感じています」

 

――台本をお読みになっての第一印象はいかがでしたか?

「日本が鎖国をしている中で小林一茶がパリに行き、現代を生きる海人に出会ってどんな影響を与えていくか…というストーリーなのですが、これをどういうふうにミュージカルという形にしていくのか、想像ができなくて。(海人役の)海宝(直人)さんも“チャレンジングだね”とおっしゃっていて、全くそうだなと思いました。

でも稽古を経ていく中で、みんなでトライアンドエラーを繰り返し、これがいいんじゃないかとか、こうやってやってみたいんだとか、たくさん意見を出し合ううち、リアルな世界とファンタジーがうまく融合していけば、すごく面白いものになるんじゃないかと感じるようになってきました。今日はこれから初めての通し稽古で、ドキドキしています」 

 

――これまでのご出演作で、複数の“時”が交錯する世界観を体験済みの岡宮さんとしては、江戸と現代の青年が邂逅するファンタジーにも違和感はないでしょうか。

「そうですね。僕は小さい頃からディズニー好きだったり、どんな設定でも“そうなんだ”と納得できてしまうタイプで。今回もこの世界観にすっと入り込むことが出来ましたね」

 

――心が自由な方なのですね。

「そうなのかな。今回も(作品の世界観を)すごく楽しんでいます。今日は所作の指導もしていただける日なのですが、普段とは違う体の動かし方を身に着けることで、その時代を表現できると思いますので、表現者としても多くを学ばせていただいている作品だなと感じています」

 

――“和”の世界に惹かれるものはありますか?

「“和”も“洋”もどちらもいいなと思いますが、子供の頃から日本の神社仏閣や四季には惹かれるものがありました。

それを強く意識したのが、社会科見学で江戸東京博物館に行った、小学6年生の時。江戸の暮らしを再現した展示を見て、僕は“日本”が好きだな…と改めて感じました。

今の時代、モノも情報も溢れていますが、人間同士のコミュニケーションという点では、昔の方が密接だったりしますよね。江戸時代の人たちのほうが、実は心豊かな暮らしを送っていたのかもしれません。そんな人たちに囲まれながら俳句を詠んでいた本作の一茶も、どれだけ心豊かな人だったんだろう、と稽古をしながら考えたりしています」

 

『ISSA in Paris』小林一茶(岡宮来夢)

――一茶の“空白の十年”とは、だいたい15~25歳くらいでしょうか。

「実際の一茶については、僕もいろいろ調べてみました。彼は15歳くらいで江戸に奉公に来るのですが、そこからの記録が無く、25歳くらいでポンと“小林一茶”の名前で世に出てきます。

その空白の10年が本作では描かれているのですが、稽古を経ていく中で、あまり年代にとらわれると混乱が生じるので、(実録風に“この年にはここにいて…”と追っていくのではなく)あくまで、一茶がしたかもしれない旅、ありえたかもしれない物語を描こう、ということになりました。良い俳句を詠むために、一茶は(当時は禁じられていた)密航までして、パリへ行った。これほどの情熱を注げる男が、この旅を通して未来を切り開き、海人に影響を与えていくさまをお伝えできれば、と。

本作における小林一茶は、海人のお母さんの思いを乗せた存在でもあります。彼女はパリ時代の一茶という仮説を通して、海人に、あるメッセージを伝えたかった。いわばお母さんの思いの中の存在でもあるので、演じる僕としては、あまり詳細な史実にとらわれることなく、本作ならではの、海人に影響を与えられる人物になれたらいいなと思っています」


――本作の一茶は、若くして旅に出、フランス革命前夜のパリで大きな経験をするわけですが、その人間的な成長も見せて行かれるのでしょうか。

「シーンが限られている中で人間的な成長を見せていくことは、すごく難しいなと感じています。それでも、なぜ彼がパリに行かなければならなかったか、そしてどう変化していくのかをできるだけお見せしたいと、演出の藤田さんや海宝さんともお話しています。

そのために、日本と、フランスの様子をリンクさせることを意識しています。一茶は日本では“自分の場所”を探しあぐねていたけれど、パリに行ったことで大きな成長を遂げた。いっぽうで、やはり日本で苦しんでいた海人もパリに行って、お母さんが遺したノートを読むうち、一茶はこういうふうに行動したんだと知るようになります。

大きなところでは海人の成長物語ですが、そこに一茶の成長物語がどう絡んでいくのかが、本作の肝であり、面白いところなんだなと、今の時点で感じています」

 

――一茶はフランスに渡航する以前から、弱者に対する優しい視線を持っていましたが、フランスでの体験は彼の作風にどんな影響を与えたと想像されますか?

「めっちゃいい質問ですね(笑)。藤田さんともそういうお話をしていました。

小林一茶には、“この俳句は8歳で詠みました”と自慢するような、ちょっと可愛らしい一面がありました。そんな一茶がフランスに行き、テレーズという女性に出会い、そこから革命という、巨大な“一揆”の誕生に立ち会いそうになります。

一茶という人物を考える上で、僕には大切にしたいと思っている一句がありまして、
“痩蛙(やせがえる) まけるな一茶 是(これ)に有り”
という俳句なのですが、ここには彼の、暴力ではなく筆で、言葉で闘うという人となりが凝縮されていると思います。

弱者に対する優しさはパリに行く前から持っていたけれど、現地で革命を目撃することで、弱者に寄り添い、励ましたいという思いはさらに強くなっていったのではないか。そして日本に帰って、皆に見てきたことを話し、その村に優しい連帯感をもたらしていったんじゃないか。そんなことを想像したりしています」 

 

――日本人なら誰もが知る一茶を演じる上で、心がけていることはありますか?

「あまりかっこよくならないといいな、と思っています。

今回、とても華やかな舞台ではあるのですが、その華やかさのなかで勘違いしないようにしたいです。一茶はあくまで庶民であって、田舎から出てきて孤独にもがき苦しんでいるのですが、その必死にもがく姿がかっこよく映る瞬間もあると思います。ただ、演じる自分が少しでもそう見せようと思ってしまったら終わりだと思うので、そこは気をつけながら稽古しています。

あと、小林一茶は息をするように俳句を詠んだと言われるほどの(多作家の)人物なので、僕もなるべく普段から、物事を五七五で表現する癖をつけようとしています。クリスマスの日も、クリスマスを題材に一句詠もう、それをSNSでファンの方たちに紹介しよう、と思って稽古場でずっと考えていたのですが、色々苦しんだあげくに出来上がらなくて(笑)。

句を詠むのは難しいけれど、とにかく息をするように俳句を詠む“がむしゃらさ”と“熱さ”、そして弱者に寄り添う“優しさ”の三本柱を、一茶を演じる上で大切にしたいなと思っています」


――数曲聴いた限りでは、モーリー・イェストンさんらしい、美しい音楽に彩られている模様ですが、岡宮さんのソロ・ナンバー「露の世は」は、それぞれの音が長いのが特徴的ですね。

「そうなんですよ、本当に大変です(笑)。重厚なバックサウンドに対して、“(音が)そこに行くんだ”というような難しいメロディーラインを歌うのですが、一つ一つの音が長いので、外したらシンプルにわかりやすいです(笑)。かといって(音程ばかりに注力して)テクニカルに歌うのも違うと思うので、最初はどう歌ったらいいんだろう…とすごく悩みました。

でも稽古をしていくなかで、岡宮来夢としては大変だけど、一茶が助けてくれるというか、一茶が(自分に)乗ってくることで、いい曲だな…とさえ思いながら歌える部分が多いな、と感じるようになってきました。

あと、一茶はテレーズや海人とデュエットするナンバーが多いのですが、テレーズ役の豊原江理佳さんも海人役の海宝さんも、どちらも共演が二度目で本当に大好きな歌声のお二人なので、ご一緒できるのが本当に幸せですし、勉強になることばかりです。

特に海宝さんは僕にとって“こうやって歌えるようになりたい、こうやって演じられるようになりたい”と思っている先輩で、ボイトレの先生を紹介していただいたりもしています。一緒に歌っていると、“海宝さんはこうやって歌っているんだな”と気づくこともあって、自分もその発声に近づけてみると、やっぱり声の鳴りが良かったりするので、そういうところもたくさん学ばせていただけたらなと思っています」 


――今日から通し稽古とのことですが、お稽古の手応えはいかがですか?

「本当にみんなでもがきながら今日まで来ていて、これがよく言われる“新作を生み出す大変さ”なのだなと感じます。とてもクリエイティブな現場で、もちろん空気がピリッとする瞬間もありますが、僕はそういう空気を打破するのが好きなので、この現場にいられてよかったなと思います。

もっともっと詰めていきたい部分もありますが、すごくまとまってきている段階だと実感しているので、きっと10日の開幕に向けて、とてもいいものができていくと思います。おそらく初の通し稽古で見えてくるものがあると思うので、今日は特に大事な一日になりそうです」 

 

岡宮来夢さん。©Marino Matsushima 禁無断転載

 

――ご自身についても少し伺えればと思います。岡宮さんはジュノン・スーパーボーイ・コンテストのご出身ですが、当時から舞台を目指されていたのですか?

「当時は舞台というものを全然知らなくて、ミュージカルも見たことがありませんでした。

(デビューを機に)上京してきて、所属した事務所で劇団が立ち上がることになり、メンバーにしていただいたのですが、まだ大学生で、あまり稽古に参加できなかったこともあって、こういうジャンルがあるのだなとわかったぐらいで。

その次にミュージカル『刀剣乱舞』のオーディションに合格させていただいたことがきっかけで、舞台やミュージカルをいろいろと観始め、“面白いな”と思うようになって今に至る…という感じです」


――その『刀剣乱舞』(2019年 ミュージカル『刀剣乱舞 葵咲本紀』)では、新人でありながら“芯”の役をしっかりと演じていらっしゃいました。特に力強い歌声に驚かれた方も多いと思いますが、もともと歌には自信が…?

「いやとんでもないです(笑)。歌うことはすごく好きですが、習ったこともなかったし、カラオケで歌ったりしていたくらいです。まさかこの業界に入って、皆様に歌を評価していただけることになるなんて、本当に思いもしなくて、今もびっくりしています。

2019年の『刀剣乱舞』の時には、本当に二ヶ月間、稽古で苦しみましたし、厳しい現場だったので、これで大丈夫なのか、みんなに喜んでもらえるのかなという不安もありながら初日を迎えました。(好評をいただけたと聞いて)“本当ですか⁈”と、ちょっと半信半疑な気持ちになったのを覚えています」


――現時点で、どんな表現者を目指していらっしゃいますか?

「“こうなりたい”と思う人物像を、たくさんの先輩から学ばせていただいているところですが…。

現時点で思うこととして、座長を任せていただくことが多い中で、僕は日本で一番、現場の空気を良くできる座長を目指したいです。

空気が良くなることで、おそらくおのずと稽古場でいい作品が出来上がってくると思いますし、今回初めて日本初演のオリジナル・ミュージカルに携わらせていただいて、その楽しさと難しさ、厳しさを体験したことで、これからもっともっと、日本から世界に発信したい、ミュージカルを持っていきたいと思うようになりました。

これからもこういう作品に携われるよう、しっかり力をつけて進んでいきたいなと思っています」

 

(取材・文・撮影=松島まり乃)

*無断転載を禁じます

*公演情報『ISSA in Paris』1月10~30日=日生劇場、2月7~15日=梅田芸術劇場メインホール、2月21~25日=御園座 公式HP

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