Musical Theater Japan

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『ミセン』観劇レポート:“可能性は常に、ある”。懸命に生きる人々へのエール

 

『ミセン』🄫Marino Matsushima 禁無断転載


幼いころから目指していたプロ棋士を諦め、知人の商会で大手貿易会社のインターンとなった青年チャン・グレ。エリート揃いの同期と違ってこれといった技能を持たず、コピーすらとれない彼は周囲から呆れられるが、人情に厚い上司オ・サンシク課長にやる気を認められ、少しずつ仕事に順応して行く。同期とも支えあい、正社員を目指すグレは、“自分の居場所”を見つけることができるのか…。

 

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ドラマ化もされ、韓国で社会現象となったウェブ漫画を舞台化した新作ミュージカルが、大阪で世界初演。愛知公演を経て、東京公演が開幕しました。

 

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チェ・ジョンユンさんによる親しみやすい音楽、ステージを碁盤に見立てた美術(石原敬さん)、スーツ姿の会社員たちによるコンテンポラリーダンス的な所作(振付・ステージング:KAORIaliveさん)に彩られながら、物語はチャン・グレが挫折から再起し、道を切り拓いて行くさまを爽やかに描写(演出:オ・ルピナさん)。圧倒的学歴社会である韓国で、高卒のグレが囲碁で培った戦略的思考を生かし、懸命に課題に取り組む姿が共感を誘います。

 

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後半には日常的に性差別に直面する女性社員たちの心の連帯、そして韓国ドラマに欠かせない(⁈)母と子の親子愛を情味たっぷりに描くシーンも。前者では何度も壁を乗り越えてきたであろうソン・ジヨン次長をさばさばと、後者ではグレを大きな愛で包む母を一人二役で演じる安蘭けいさんの好演が光ります。

チャン・グレ役の前田公輝さんは、芯の強さを感じさせる明瞭な口跡が際立ち、まっすぐな立ち姿が大きな存在感を放ちます。同期3人、アン・ヨンイ役の清水くるみさん、ハン・ソギュル役の内海啓貴さん、チャン・ベッキ役の糸川耀士郎さんはスマートなオーラの中に向上心を溢れさせ、キム・ドンシク課長代理役のあべこうじさんは、世慣れたサラリーマンを軽妙に、パク・ジョンシク課長役の中井智彦さんは、たぎる野心を色濃く表現。

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彼と手を組むパク・クォンイル役の東山光明さんは、もう一役の居酒屋店長役(そしてさらにもう一役)で、場をチャーミングに盛り上げ、チェ・ヨンフ専務役の石川禅さんは、部下たちの成功も失敗もブラックホールのように吞み込みながら組織を昇りつめてきた人物の凄みを見せます。

 

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そして本作でチャン・グレに匹敵するインパクトを残すのが、橋本じゅんさん演じるグレの上司、オ・サンシク課長。懸垂をする姿に仕事への情熱が漲る彼が、社会人としては無垢そのもののチャン・グレの奮闘を見守り、彼とともにある騒動に巻き込まれて行くうち、自分にとっての仕事とは何かを見つめ直す。そしてある結論に至るまでを、橋本サンシクは誠実に、赤裸々に見せ、社会経験のある世代に感慨をもたらします。

 

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韓国の囲碁用語で、“死に石”に見えてもまだ可能性を秘めている石を意味するという、本作のタイトル『ミセン』。一連の公演は東京公演をもっていったん終了となりますが、今後本作がどのように可能性を発揮し、展開して行くのかが注目されます。

 

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(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報 『ミセン』(大阪、愛知公演は終了)2月6~11日=めぐろパーシモンホール 大ホール 公式HP

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