Musical Theater Japan

ミュージカルとそれに携わる人々の魅力を、丁寧に伝えるウェブマガジン

ストレート・プレイへの誘い『アーモンド』観劇ミニ・レポート:感情を持たない少年が問う、“本当の共感”

『アーモンド』©Marino Matsushima 禁無断転載


タイトルは、脳の中で特に“負”の感情に関わる部分“扁桃体”が、アーモンドのような形状であることに由来している。

 

『アーモンド』©Marino Matsushima 禁無断転載


主人公ユンジェは生まれつき扁桃体が人より小さく、怒りや恐怖を感じることがない。そのため周囲の人々からは“怪物”として気味悪がられていたが、シングル・マザーの母は彼に、感情があるようにふるまう方法を根気強く教え、祖母も彼を“かわいい怪物”と呼び、こよなく愛した。

 

『アーモンド』©Marino Matsushima 禁無断転載


しかしユンジェの15歳の誕生日、食事に出かけた一家は通り魔に遭遇し、祖母は死亡、母も植物状態になってしまう。そしてその様子を、ユンジェは“無表情で”見つめていた。

 

『アーモンド』©Marino Matsushima 禁無断転載


隣人の“シム博士”に助けられながら一人で生き抜くユンジェの前に、ゴニという少年が現れる。ユンジェとは対照的に、激しい感情を持つゴニは、はじめユンジェを痛めつけるが、“何も感じない”ユンジェが気になり、毎日彼の側にやってくる。同級生のドラとも親しくなり、ユンジェは少しずつ“変化”してゆくが…。

 

『アーモンド』©Marino Matsushima 禁無断転載


日韓で累計150万部のベストセラーとなったソン・ウォンピョンの小説を板垣恭一さんの脚本・演出、桑原まこさんの音楽で舞台化し、2022年に初演された『アーモンド』が、新キャストを迎えて再演。キーボードと弦楽器(ヴァイオリンとチェロが日替わりで登場)の優しい音色に彩られた舞台は、コンテンポラリー・ダンス(振付・ステージング=山田うんさん)も織り交ぜつつ、130分間ノンストップでユンジェの激動の半生を描き切ります。

 

『アーモンド』©Marino Matsushima 禁無断転載


感情を持たず、したがって無表情の難役ユンジェに挑むのは、戸塚祥太さん。訥々とした口跡は終始キープしつつも、声の強弱で重要な台詞を浮かび上がらせ、観客をユンジェの世界へといざないます。クライマックスを経て、微かに台詞に“表情”が加わる終盤、また(ゴニに殴られても映像を巻き戻すようにするりと起き上がる際など)自在の身体表現も見どころとなっています。

『アーモンド』©Marino Matsushima 禁無断転載


崎山つばささんは自分の感情を制御できず、満たされない思いを激しい言葉や暴力で発散してしまうゴニを、荒々しく好演。首藤康之さんはユンジェをあたたかく見守るシム博士と終盤に登場する不気味な某役を巧みに演じ分け、ダンスにおける無駄のない動きは元・日本を代表するバレエダンサーならでは。松村優さん、平川結月さんはともに実年齢よりかなり年長の役どころを含め、複数の役を手堅く演じ、ユンジェの母役・水夏希さん、祖母役・久世星佳さんは元(宝塚)トップスターとしての華やぎが、各役の“バイタリティ”に転換されています。

 

『アーモンド』©Marino Matsushima 禁無断転載

一人の少年の“成長物語”であるだけでなく、ユンジェが叫ぶように発するある台詞に、“共感が失われた社会”への痛烈なメッセージが滲む本作。ユンジェ世代のみならず、親世代、あるいはそれ以上の世代にも“刺さる”もののある作品と言えるでしょう。

 

『アーモンド』取材会にて。©Marino Matsushima 禁無断転載


(取材・文・撮影=松島まり乃)
*公演情報『アーモンド』8月30日~9月14日=シアタートラム、9月19日~21日=近鉄アート館 公式HP