Musical Theater Japan

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ストレート・プレイへの誘い 『キャッシュ・オン・デリバリー』観劇レポート:機転の限界に挑む(⁈)男が辿り着くのは…

『キャッシュ・オン・デリバリー』撮影:友澤綾乃 写真提供:東宝演劇部

“ジョージ叔父さん”を名乗る男性のアナウンスに続き、ジャジーなサウンドとともに幕が上がると、そこはロンドン郊外の住宅。一人の男性…エリック・スワンが、社会保障省に電話をかけています。

“我が家の間借り人のノーマンが亡くなったので、彼への社会保障手当を停止してほしい”。

実は、エリックには秘密がありました。

2年前に失業したものの妻リンダにはそのことを言えず、ひそかに何人もの“間借り人”をでっちあげ、社会保障手当を不正受給して給料分に充てていたのです。

 

しかし良心の呵責に耐え切れなくなり、エリックはデータ上の“間借り人”を一人ずつ抹殺し、不正受給をやめようと決意。今まさに最初の抹殺にとりかかったのですが、そこに現れたのがノーマン本人。さらに折あしく、社会保障省の調査員ジェンキンズ氏が来訪します。

 

『キャッシュ・オン・デリバリー』撮影:高橋聖英 写真提供:東宝演劇部

エリックが作り出した架空の間借り人に会おうとするジェンキンズ氏。

ノーマンに頼み込み、なんとかその場をとりつくろうエリックでしたが、一つ嘘をつく度にそれとは矛盾する事態が起き、その都度機転をきかせて新たな嘘をつくことに。叔父のジョージ、結婚生活カウンセラー、福祉事務所の職員、ノーマンの婚約者、葬儀屋と関わる人々が次々に増え、状況がますますカオス化してゆくなかで、ついにスワン家の“怪しさ”に目をつけたジェンキンズの厳格な上司、ミズ・クーパーが現れ、エリックは絶体絶命のピンチに…!

 

『キャッシュ・オン・デリバリー』撮影:高橋聖英 写真提供:東宝演劇部

 

英国笑劇(ファルス)の第一人者レイ・クーニーの子息で、脚本家・映画監督のマイケル・クーニーが執筆、1996年にロンドンで初演以降、世界各地で上演が繰り返されている人気作『キャッシュ・オン・デリバリー』が、小貫流星さんの演出で上演。『千と千尋の神隠し』等で演出助手をつとめ、本作が演出家デビューとなる小貫さんは、クーニーによって緻密に計算された“笑劇的惨事の過程”を、疾走感と“ドタバタの楽しさ”を両立させながら描き出します。

 

 

『キャッシュ・オン・デリバリー』撮影:友澤綾乃 写真提供:東宝演劇部

 

主人公エリック・スワン役を演じるのは、J-POPを代表するバンドの一つであるKing Gnuのリードボーカル、井口理さん。膨大な台詞を滑らかに繰り出すいっぽうで、長身を活かしちょっとした姿勢や動きで“おかしみ”や飄々とした味わいを醸し出し、憎めない人物像を造型しています。なにより、全身から“芝居が好き”オーラが放たれているのが(King Gnuファンのみならず)演劇ファンにとっても嬉しい限り。

 

 

『キャッシュ・オン・デリバリー』撮影:高橋聖英 写真提供:東宝演劇部

 

張りのある声と大きなリアクションで喜劇の楽しさを印象付けるノーマン役・矢本悠馬さん、何気なく職務を遂行しているだけなのにその言動がエリックを追いつめてしまうジェンキンズ氏を絶妙の間合いで演じる小松和重さん、登場するなり“鉄の女”の手ごわさを場に漲らせるミズ・クーパー役・明星真由美さんら、手練れのキャストの共演も心強く、ミュージカル・ファンとしては、エリックの嘘に翻弄される福祉事務所職員サリー役・妃海風さんの活躍も見逃せません。

 

 

『キャッシュ・オン・デリバリー』撮影:高橋聖英 写真提供:東宝演劇部

事態の“泥沼化”を巧みに展開させてゆくマイケル・クーニーの作風は、父レイ・クーニー譲り。これを機に、今回の布陣でレイの作『ラン・フォー・ユア・ワイフ』『イット・ランズ・イン・ザ・ファミリー』等も上演しては…?等、期待が膨らみます。

 


(取材・文=松島まり乃)

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*公演情報『キャッシュ・オン・デリバリー』12月5~21日=THEATER MILANO-Za  2026年1月8~12日=COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール 公式HP