Musical Theater Japan

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音楽劇『クラウディア』田村芽実インタビュー:演劇の力を信じ、わが身を捧げて

田村芽実 群馬県出身。ハロー!プロジェクトのアイドルグループ「アンジュルム」での活動を経て、ミュージカルデビュー。『ラヴズ・レイバーズ・ロスト‐恋の骨折り損‐』、『ウエスト・サイド・ストーリー』Season2、『CALL』(「TOHO MUSICAL Lab.」)、『イン・ザ・ハイツ』、『ジェイミー』、『グリース』、『薔薇と海賊』、『弥生、三月‐君を愛した30年‐』等の舞台で活躍している。

2004年に初演、翌年には地球ゴージャス10周年記念公演として上演され、12万人を動員した伝説の音楽劇『クラウディア』が、18年ぶりに再演。二国の争いの中で生まれる愛の物語をサザンオールスターズの楽曲にのせ、ダイナミックに描く作品で(wキャストで)タイトルロールを演じるのが、田村芽実さん。昨年の『イン・ザ・ハイツ』、今年の『弥生、三月‐君を愛した30年‐』等様々な作品で活躍中の彼女ですが、特に思い入れがあるという本作について、じっくり語っていただきました。

音楽劇『クラウディア』

【あらすじ】その時代、世界には「根國(ねこく)」と「幹國(みこく)」の二つの国しか存在しなかった。愛を禁じられ、戦いに明け暮れる世界の中で、掟を破って生まれる二つの愛の行方は…。

非常に意味のある作品に参加させていただける喜び

――岸谷五朗さんと寺脇康文さんの演劇ユニット「地球ゴージャス」は以前からご存じでしたか?

「DVDで過去の作品を拝見していました。地球ゴージャスさんは何と言っても、和製のミュージカルを作っていらっしゃるところに惹かれます。しかも日本では海外ミュージカルが上演されることが多い中で、商業として、毎回多くの人の胸を打っていることが素晴らしいと思います。出演する側の私としても、感謝の気持ちでいっぱいです」

――その中で、『クラウディア』にはどんな印象がありましたか?

「初めて拝見した時には、私が尊敬する事務所の先輩、本田美奈子. さんの存在感と、岸谷さん・寺脇さんの掛け合いの面白さが印象的でした。ミュージカルってやっぱり生(なま)で観るのが一番で、映像だと眠くなったり休憩したくなることもありますが、この作品は食い入るように最後まで観た記憶があります。

その後、ちょうどロシアのウクライナ侵攻が起きた頃にも観たのですが、それまで観た印象とこんなにも違うのかというほど感じ方が変わりました。製作発表で岸谷さんも“タイムリーな作品になってはいけないのに”とおっしゃっていましたが、実際問題として(戦いがモチーフになっているので)タイムリーになってしまっているんですよね。生半可な気持ちでこの作品には向き合えないな、このタイミングで私は表現者として非常に意味のある作品に参加出来るのだな、と思いました。光栄なことですし、誠心誠意演じたいと思っています」

音楽劇『クラウディア』撮影:NAITO

――田村さんが演じるのは、タイトルロールのクラウディア。愛を禁じられた世界で敵国の細亜羅(ジアラ)と恋に落ちる彼女を、どうとらえていますか?

「好きなものに対してまっすぐな女性ですよね。彼女の中には“愛”というものが溢れんばかりにあって、まるでマリア様のように全てを受け入れられるし、反対に自分の愛を相手にぶつけることもできる、素敵な女性だなと思っています。クラウディアは18歳で、『ウエェストサイド・ストーリー』や『ロミオとジュリエット』のように若さゆえに起きるドラマという側面もありますが、それプラス、彼女はマリア様のような愛が大きな要素になっているのではないかな、と現時点では思っています」

音楽劇『クラウディア』撮影:岩村美佳

――細亜羅とはどんなところで惹かれあっているのでしょうか?

「それは昨日の稽古でも話し合っていて、ひとめぼれなんじゃないかな、という意見が出ました。私としては、それでも作っていくことは出来るけれど、その中に理由を持たせたいタイプなので、彼のどこを好きになったのか、これから組み立てていきたいと思っています。大野拓朗さん細亜羅、甲斐翔真さん細亜羅、それぞれに自分の中で理由付けは違うものになっていくような気がしています」

――本作は桑田佳祐さんやサザンオールスターズの楽曲に彩られた、いわばジュークボックスミュージカル。ポップスとして作られた曲を歌うとなると、ミュージカルとは違った唱法になるでしょうか。

「ミュージカルは(それに適した)テクニックがないと歌えない歌が多いのですが、J-POPの場合、歌う人によってビブラートにしてもおかずをつけたり、引き算することが出来て、自由度が高いですよね。海外ミュージカルに比べると比較的音域も狭いですし、そういう中で、普段のミュージカルより感情を乗せることに集中して、“喋るように歌う”ことが出来るのではないかな、と思って探求しています」

――ナイトクラブで歌手として歌う最初のナンバーは、特に自由度が高そうで楽しみです。

「確かに、あの曲だけ“喋るように歌う”タイプではないですね。歌手・クラウディアが、細亜羅に見つけて欲しいという気持ちで一生懸命歌うナンバーになると思います」

音楽劇『クラウディア』撮影:岩村美佳

――今回、ご自身の中でテーマにされていることはありますか?

「どの作品でもそうですが、相手役をいっぱい愛せるように、共演者の方をしっかりと見て、感じるようにしています。お芝居の楽しいところって、決して一人ではできなくて、みんなで創り上げるところだと思うので、(カンパニーの)皆さんに興味を持って、信じて、委ねることが大事だと思っています。今回演じるクラウディアは本当に愛に溢れた女性だと思うので、細亜羅のどんなところも愛して、受け止められるような器の大きな心を常に持っていたくて、稽古場にいる時は常にクラウディアに寄せていられるよう、心がけています」

――愛溢れる人物を演じるのはかなりパワーを要しそうですが、田村さんのエネルギーはどこから?

「恋愛する作品の時は、相手役の方の素敵なところを見つけることから始めます。ちょっとした表情の変化だったり声の色だったり、私がにこっと微笑んだ時のキャッチを一つ一つ、しっかりと見て、感じるようにしています。すると自然とその人が気になるようになっていくので、とにかく興味を持つということかな、と思っています」

プレスコール後の取材会にて。🄫Marino Matsushima 禁無断転載

――稽古の手応えはいかがですか?

「製作発表で岸谷さんが“自分なりのクラウディアを演じている”とおっしゃってくださいましたが、私自身、田村芽実がクラウディアを演じたらこうなります、というものを惜しみなく呈示することは出来ているのではないかな、と感じています。この作品の中で、クラウディアはジュリエットやコゼットのような“ザ・ヒロイン”的な描かれ方はしていないような気がしていて、和製のミュージカルとして比較的自由に演じていい印象を受けたので、私もクラウディアに寄せるいっぽうで、クラウディアにも私に寄せてもらうというか。これが二人の細亜羅とお芝居をしてゆく中でどうエッセンスが混ざってゆくか、私自身楽しみです。現時点では自分の心をフルに動かして、楽しくお芝居をさせていただいています」

――どんな舞台になるといいなと思っていらっしゃいますか?

「顔合わせの日に、岸谷さんから“演劇は微力だ”というお話がありました。微力ではあるけれど、この芝居をやるんだ、と。その言葉を通して、演劇を通して少しでも世の中を良くしてやるんだという岸谷さんのパッションが体中を、電気が走るように伝わってきて、本当にそこだな、と思いました。

ただ単に楽しんでもらえればいいということではなくて、この作品を賭して社会を、人の心を変えたいという、私なんかには想像できないくらい強い思いでこの作品に賭けていらっしゃるのだと思います。その思いについていって、観に来て下さった皆さんを通して、この世の中が少しでも明るいものになっていくために、私もこの作品にわが身を捧げたいなと思っています」

プレスコール後の取材会にて。🄫Marino Matsushima 禁無断転載

――プロフィールのお話もうかがわせてください。最近作の『弥生、三月』は、少人数編成ながら、決して大きなカンパニーにひけをとらない、深い感動のある作品でした(観劇レポートはこちら)。後半、田村さんが演じる弥生が理不尽に責め立てられた若い教師をかばってソロを歌うシーンでは、そのエネルギーに圧倒された方も多いと思います。

「あのカンパニーは本当にいいカンパニーだったなと思っていて、座長の林翔太君はじめ、こんなにいいカンパニーにはそうそう会えないんじゃないかな、というほどでした。少人数でオリジナル作品ということもあって、稽古場では休憩中や終わってからも皆ですごく話し合って、全員が作品の力を信じることができたというのが大きかったと思います。学校に乗り込んで行くシーンも、それまでのシーンで他のキャストから体温とか、いっぱいもらうものがあって、弥生としてパワーを放つことが出来たんです。あのパワーは私一人では絶対に出せなかったもので、みんなからいただいたもの。みんなで“渡し合いっこ”が出来るというのが、演劇の面白さだなと思っています」

――高校生から50代までを無理なく演じていらっしゃるのにも驚きましたが、50代ではどんな工夫をされましたか?

「私の母がちょうど私の30歳上なので、ちょうどこの間を行き来する感じなんだなと思いながら、重心の位置を変えたり、50代の人の声を考えたりしましたが、どちらかというと外側よりも内面を埋めてゆく作業を心がけました。それまでいろいろな経験をしてきて、50歳になってどんなことを感じるか、ひたすら考えました」

――以前のインタビューで、今後の抱負として“その時にしかできない役にチャレンジしたい”ということをおっしゃっていましたが、最近、それに加えて何か思っていらっしゃることはありますか?

「私はもともと、“変わったもの”が好きで、目立ちたがり屋のタイプなのかなと思っていましたが、最近、そうじゃないことに気づきました。群れることがけっこう苦手で、大勢の中では一人になりたい瞬間があるんです。“自分ってなんだろう”と考える瞬間がたくさんあるのですが、そんなことをふまえると、今回のクラウディアのようなヒロイン役もいっぱいやらせていただきつつ、ちょっと違う役も演じていきたいです。そしてミュージカルに限らずストレート・プレイ、例えばシェイクスピアやチェーホフのような古典だったり井上ひさしさんの作品にも挑戦して、ジャンルを問わない役者さんになっていけたらと思っています」

(取材・文=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報 Daiwa House Special音楽劇『クラウディア』Produced by 地球ゴージャス 7月4日~24日=東京建物Brillia HALL、7月29日~31日=森ノ宮ピロティホール 公式HP
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