“あの名作がミュージカルに⁈”と話題の『東京ラブストーリー』がいよいよ今月、開幕。稽古も佳境に入り、舞台の輪郭が見え始めてきたところで、メインキャラクターの一人、三上役(ダブルキャスト、“空”チーム)・廣瀬友祐さんへのインタビューをお届けします。
恋愛に奥手な主人公・完治とは対照的に、“56人の彼女”遍歴がある研修医・三上を演じる廣瀬さん。自身初の新作ミュージカルである本作にどのように取り組み、どんな作品が生まれそうな予感をお持ちでしょうか。廣瀬さんの“空”チームと(同役を増子敦貴さんが演じる)“海”チームの比較なども交え、“ラブストーリーの決定版”と呼ばれる本作に取り組む醍醐味をうかがいました。
【あらすじ】2018年春。愛媛に本社のある「しまなみタオル」の東京支社に異動になった永尾完治は、同僚の赤名リカと新プロジェクトを担当することになる。先に上京していた高校の同級生・三上健一と久々に会うと、そこには彼が高校時代に思いを寄せていた関口さとみの姿も。動揺する完治の前に、リカが現れて…。
――現在、お稽古はどんな状況でしょうか。
「1幕がざっくり出来上がり、もうすぐ2幕に入っていきます」
――ということは、まだ全貌は見えていないのですね。
「見えていません。1幕も細かい部分でトライ&エラーというか、修正を繰り返しているところで、まだまだ変わっていくだろうなという予感はあります」
――新作だとしても、かなり丁寧なペースではないでしょうか?
「僕自身、ミュージカルの新作は初めてのことなのではっきりとはわかりませんが、(ジェイソン・ハウランドさんの)素晴らしい楽曲が増えたりなくなったりということもありますし、台詞も目まぐるしく変わっています。確かにとても丁寧に作られている感覚はあります」
――台詞の変更は、どういったことによるものでしょうか?
「物語のうねりは基本的に変わらないのですが、そこに積み重ねていく人物たちの心情だったり、お客様にこういう印象をここで与えておきたいということで言葉遣いが変わったりといった作業です」
――作曲はジェイソン・ハウランドさん。ジェイソンさんの師匠ともいえる存在のフランク・ワイルドホーンさんは、歌う人によってメロディ自体に手を入れているとフランクさん自身からうかがったことがありますが、ジェイソンさんの場合はいかがでしょうか。今回はダブルキャストということで、2パターンあったりとか…?
「基本的には同じ曲ですが、その中で“どちらに行ってもいいよ”という遊びの箇所はいくつかあるようです。三上のパートでも、音階が2パターンある箇所も(現時点では)ありますね。
ジェイソンさんの音楽はキャッチ―で日本人にも馴染みやすいものですが、ある種ストレートなメロディにシンプルな言葉がはめられた時、どう奥行きをつけ、深みを与えるか。歌声だけでなく、台詞や表情を含めて細かく、繊細に見せるということが課題だな、と最近強く思っています」
――舞台という大きな空間で、繊細な表現を追求されているのですね。
「こうした現代劇で映像のようなリアルなアプローチをすることは僕自身、好きなのですが、おっしゃるとおり今回は(東京建物)Brillia(HALL)という(大きな)劇場空間でお届けするので、そのために必要になってくる技術もあると思います。今はその一つ前の、芝居の基盤を作っている段階かなと思っています」
――廣瀬さんは本作の原作はご存じでしたか?
「ドラマ版はリアルタイムでは観ていませんが、日本人として育つ中で、モノマネだったり再現Vなどでとりあげられているのを観た記憶があります。原作漫画は今回のお話をいただいて読み始めましたが、やはりタイトルに“ラブストーリー”とあるとおり、恋愛が中心の物語ですね。東京という、ある種の戦場のような都市に対する思いも込められていますが、メインになっているのはリアルな恋愛事情。読みながら、それぞれのキャラクターの行動に共感したり、“自分は違う”と思ったりしながら楽しめる物語なのかなと感じています」
――その中で、三上が“恋愛依存症”のようにも見えるほど女性好きであることを、どうとらえていますか?
「稽古では、昨日まで三上について考えていたことが今日は違うイメージに変わったりということもあるので、まだ決定的なことは言えないのですが、彼には、家族愛というものを感じられずに育ったという背景があります。そのため、“もっと愛されたい”という欲求が常にあって、自分に寄ってきてくれる、愛してくれる女の子たちと触れ合うことでバランスをとっている…という感じなのかな、と思っています」
――三上は序盤で“56人の彼女たち”というナンバーを歌いますが、56人と付き合ってきたというのは…凄いですね。
「凄いですよ。とんでもないですよ(笑)」
――ひょっとして身に覚えは…。
「ないですよ!(笑)。56人と付き合ってきたって、どんなペース…と思いませんか? きっと“来るものは拒まず”で、自分を愛してくれる人に対して寄り添ってきたのだとは思いますが、それにしてもちょっと自分の感覚では想像できないレベルの遊び人なので、そこにある種の説得力が必要になってくると思っています。
でも、このシーンの稽古を観ていた(リカ役の)笹本玲奈ちゃんが“(廣瀬さんが演じると)56人いても当たり前に見える”と言ってくれて、喜ぶべきか、ちょっと複雑な気持ちになりました(笑)。現実の世界では恋愛にもいろいろな形があって、複雑なバランスで保たれている気がしているので、さらに想像の範疇を超えた役作りも必要かもしれない、という話を演出家とちょいちょいしています」
――そんな三上も後半、大きな変化を遂げるのですね。
「そうなんですよ。“愛されたい”から、“自ら、本気で愛したい”というスタンスに変わっていく。そんな三上の成長をこのストーリーの中でどう構築していくかという作業をやっているところです。彼は終盤にある行動に出るのですが、そのきっかけは何だったのか、そしてその展開の速さに説得力を持たせるにはどうしたらいいか。日々悩んでいますが、変化の中心にあるものを見つけないと自分自身も積み重ねていけないので、結末に関わってくる役の方とはいろいろコミュニケーションをとっていきたいですし、舞台上で発する言葉、表情をどう見せたらお客様にも伝わるか、(演出の)豊田さんとも話していければと思っています」
――前作の『モダン・ミリー』やその前に出演された『クラウディア』での廣瀬さんはコミカルな部分が全開でしたが、今回はがらりと変わって…?
「そうですね。プレイボーイということで柔らかい空気にさせるような言動は少なからずありますが、『モダン・ミリー』や『クラウディア』の時とは全然違うと思います」
――『モダン・ミリー』ではオペラ的な発声でしたが、今回は違ったタイプの歌声が聴けそうでしょうか。
「というより、地に近い感じでできるかなと思っています。これまでは低い声を要求される作品が多かったですし、『モダン・ミリー』ではオペラ的な発声を求められたりと挑戦の連続でしたが、もともとの声はもう一段高いんですよ。劇場空間のことを考えると芯のある発声を意識しつつも、今回は出来る限り、地の声色でお届けできると思っています」
――今回は“空”“海”の2チームでの上演ですが、お稽古はご一緒にされているのでしょうか。
「最近それぞれ分かれてやることもありますが、基本的には一緒です。“海”チームを一言で言うと…若いです(笑)。20代前半が多い彼らは、その世代を通ってきたからこそ気恥ずかしさを感じる僕らにはできないことを目の前でやっていて、はっとさせられますね。これは必要だな、と思ったり、身が引き締まったり。逆に、自分にはできないから違うアプローチをしようと思うところもあります。
初めてシーンを創る時には僕らのチームから稽古が始まるので、僕らはまず、僕らのやりたいようにやってみます。その後交替して“海”チームを観て、“あー、可愛いな”と思ったり(笑)…純粋にお客さん目線で観ているので、胸がきゅんとなることも多いです。もちろんいろいろな意味でバランスはとりつつも、お互い、今しかできないお芝居を積み重ねていけばいくほど、2チームの色は異なるものになっていくのだろうと思います」
――どんな舞台になったらいいなと思われますか?
「まだ僕らもそれを探している途中ではありますが、『東京ラブストーリー』は柴門ふみさんの漫画が91年にドラマ化され、令和になってリメイクされたほど、知らない人がいない名作だと思うんです。今回、この作品が舞台化され、今後日本の芸能史に残ってゆくとするならば、やはりミュージカルでしか味わえないものがあったり、観た方がいろいろと感想を言いたくなるような作品にしたいです。
あと、ドラマ版は御覧になった方が(5人の男女の恋模様を観て)“私は~~派”と自分を重ねることで愛され続けている作品だと思いますので、今回の舞台版もそうした形で楽しんでいただけるといいなと思っています」
(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報 ミュージカル『東京ラブストーリー』11月27日~12月18日=東京建物Brillia HALL 公式HP
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