Musical Theater Japan

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『イン・ザ・ハイツ』田村芽実インタビュー:“HOME”に気づく物語

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田村芽実 群馬県出身。ハロー・プロジェクトのアイドル・グループ「アンジュルム」を経て、ミュージカル・デビュー。『ラヴズ・レイバーズ・ロスト』『ウエスト・サイド・ストーリー』『CALL』(「TOHO Musical Lab.」)等で活躍。8月には『ジェイミー』に出演予定。

NYの移民街ワシントンハイツで逞しく生きる人々を描き、2008年トニー賞では作品賞を含む4部門を受賞。リン・マニュエル・ミランダ(『Hamilton』)の出世作となったミュージカルが、2014年の日本初演から7年を経て再演。エネルギッシュなこの群像劇の中で秘密を抱えたヒロイン、ニーナを演じるのが田村芽実さんです。

昨年は『ウエスト・サイド・ストーリー』のマリア役、そして「TOHO Musical Lab」『CALL』で飛躍を遂げた彼女が、新たに取り組む現代的ヒロインとは? アイドルを経て飛び込んだミュージカルという世界の魅力など、プロフィールについてもたっぷりお話いただきました。

上京した経験ゆえに
ニーナに共感できる部分もあります

――『イン・ザ・ハイツ』のことは以前からご存じだったのですか?
「日本初演の時は、上演されていたのは知っていたのですが拝見することは出来ず、今回お話をいただいて、初めて作品に向き合いました。
最初にサントラを聴いたのですが、ミュージカルには珍しいタイプの音楽だなぁ、と衝撃を受けましたね。登場人物ごとに曲調が全然違うのも面白いですし、曲に物凄くエネルギーがあって、“すごく好き”と思えるナンバーがいくつもありました」

――今回演じるニーナという役については、どう感じましたか?
「『イン・ザ・ハイツ』に出てくる登場人物が比較的、“濃い”人が多い中で、ニーナは普通の子というようなキャラクターなのかなと感じました。だから私からああしようこうしようということは考えず、相手からお芝居を受け取って、それに対して自分もお返しして、作品の中で生きる、ということを、まず第一に目標にしました」

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『イン・ザ・ハイツ』

――ニーナはスタンフォード大学の学生という設定なのですが、スタンフォード大は全米トップランクの大学ですよね。彼女はそこに通って何を目指していたのでしょうか?
「そこについては、今日も稽古場で、お父さん役の戸井勝海さん、お母さん役の未来優希さんとお話していました。ニーナは何を目指しているのか。ワシントンハイツを出たいのか、スタンフォードを卒業したらどこかに就職して、そのあとまた戻ってきて親孝行したいのか。それによって(役の作り方が)違ってくるよね、と。
お父さんのケヴィンはプエルトリコの農家で生まれ育って、お前も農業を継ぐんだといわれても野望を持って、お母さんと一緒にNYに移民してきて、すごく努力してタクシー会社を運営している。そんなお父さんの背中を見て育ったニーナとしては、家族のためにどうにかしたいという気持ちは小さいころから持っていたんじゃないかと思うんです。
台本には“これがしたい”というような具体的なことは一切書かれていないのですが、私としては、まず大学を卒業して華々しく帰郷して、お父さんの会社をもう少し大きくしてあげたいと思っていたんじゃないか。だからこそ、そこで起こってしまったことは、彼女にとって悲しく、重いことだったと思うんです」

――ミュージカルでこういう挫折をするヒロインは珍しいかもしれないですね。
「そうですよね」

――共感できますか?
「私は群馬から上京して仕事をしていて、つらかった時に ”今、地元に戻っても学校のみんなに何て言ったらいいかわからない“ということを感じたりしたので、彼女の気持ちがわかる部分もあります。劇中、彼女がワシントンハイツに戻ってきて町を見渡すところがあるのですが、そこで私自身の故郷だったり、最寄り駅の風景を思い出したりしました」

――本作の舞台であるワシントンハイツは、東京で言えば下町のようなイメージで、ご近所さん同士、人と人の距離が近いような気がします。時節柄、人と人が関わりにくい中でこの作品を上演する意義を感じたりなさいますか?
「ワシントンハイツの人たちの距離の近さ、というのはすごく感じます。ニーナにとってはそれが重たいんですよね。夜ご飯には近所の人たちも来てしまって、お父さんは(里帰りした娘の顔を見に皆が来て)喜んでいるけれど、ニーナにとってはプレッシャーなんです。
でも、本作ははじめから皆がコミュニティの大切さに気付いているわけではなくて、移民として皆、葛藤やコンプレックスを抱えています。こんなところ絶対に出ていって(もっといいところに住んで)やるとか、故国に帰りたいとか。それが最後に“そう HOME”、と気づく。カップルだったり家族だったり、ワシントンハイツのみんなだったり、その大切さに気付く。それがこの作品の核なのではないかな、という気がします」

――ご自身の中で、今回、テーマにしていることはありますか?
「お芝居の技術的なところについて毎日挑戦しつつ、私の中で今思っているのが、ニーナが背負っているものは彼女一人のものではない、ということです。友達のことだったり、両親の期待、特にお父さんがタクシー会社を運営しているのは移民としては大変なことだと思うのですが、そんなお父さんからの期待も背負っている。自分よりもほかの誰かのために、というのがニーナの中にはあるので、意識を自分に向けすぎず、心を解放して、周りの人物や環境にベクトルを向けられるように頑張ろう、と意識しています」

――カンパニーはどんな空気ですか?
「皆さん、仲がいいです。ノリがいい人が多くて、私は引っ張ってもらっています」

――どんな舞台になるといいなと思っていいらっしゃいますか?
「ダンスナンバーが多かったり、面白い歌やシーンもあって、コミカルで楽しいミュージカルだと思いますが、ああ楽しかったというだけで終わる作品ではなくて、終わった後に、ろうそくぐらいの、小さいけれどずっと消えないような灯が、皆さんの心の中にともされるといいなと思っています。

そのためには、(登場人物の)皆が置かれた環境の中で必死に、楽しく生きている様を皆さんにお届けするということだと思うので、今のコロナ禍で、皆さんが劇場に足を運んでくださるのがどれだけ大変でありがたいことかをちゃんと心の中で感じながら、作品をお届けできたらと思っています」

アイドルになって気づいた
“演技”への情熱

――プロフィールについても少しうかがいたいと思います。田村さんはデビューがお早いですが、いわゆる“子役”からこの世界にいらっしゃったということでしょうか。
「一応子役からやっていましたが、習い事のような感覚だったので、お仕事として意識したのは、中一でハロプロに入ってからです」

――その時は、アイドルを極めたいと思われたのですか?それとも別に最終目標があって、その手前にアイドルがあったのでしょうか?
「子役の時にジュニア・ミュージカルに出たとき、アイドル・グループの子たちが出ていて、それまでアイドルに全然興味なかったのが、アイドルってこんなにもかわいくて優しいんだとわかって、私自身すごくファンになってしまったんです。そのグループの二期メンバーのオーディションがあると何かのニュースで見て、受けるだけ受けてみようと思ったら受かってしまったという感じでした」

――アイドルの世界に実際入ってみて、いかがでしたか?
「楽しさもありましたが、やはり私は演じるのが好きなんだと気づきました。振り返って、アイドルとして歌を歌うということはなかなか上手にできなかったように感じます。田村芽実でありながら別の田村芽実を演じるようなイメージだったので、楽しかったけれど、苦しいこともありました」

――アイドルを卒業されたときは、具体的に目指すものはあったのですか?
「ミュージカルをやりたいと思いました。どんな役でも、出られればいい。事務所にいると甘えてしまうと思ったので、事務所からも飛び出しました」

――それほど思いきるに足るミュージカルの魅力とは何だったのでしょうか?
「小さい時から、ミュージカルの世界に夢中でした。音楽といえばディズニー・ミュージカルの曲ばかり触れてきましたし、女の子がジャニーズに夢中になるように私は宝塚が好きでしたし、他の子たちが恋愛ドラマに夢中になっているように、私はミュージカルが好きでした」

――田村さんといえばまず『ラヴズ・レイバーズ・ロスト』のこまっしゃくれた女の子役が印象的でした。
「それまでは中小のミュージカルやストレート・プレイに出ていて、『ラヴズ~』が初・東宝ミュージカルでした。学生時代に通っていた夢のシアタークリエでしたので、すごく嬉しかったですね。カーテンコールで“学生時代、一番通っていたのがこの劇場だったので…”とお話したら、客席の皆さんが“よかったね”という表情で反応してくださったのが嬉しかったのを覚えています」

――昨年は『ウエスト・サイド・ストーリー』でマリア役。不朽の名作のヒロイン役とあって、プレッシャーはなかったですか?
「プレッシャーだらけで、今も夢に出てきます(笑)。大役というのもあったし、劇場が360度あるので変則的だったり、マリアはソプラノで、私がそれまで歌ってきた歌の種類ではなかったので、全てが大変で。勉強にもなったし、今思い出しただけで心臓がどきどきするぐらい毎日生きていた感じでした」

――古典から『イン・ザ・ハイツ』のようなラップを取り入れたミュージカルまでいろいろ取り組まれていますが、ご自身としてはどんなミュージカルがお好きですか?
「古典も新しいものも、どちらも好きですね。私は作品に入るとその世界に入ってしまうので、『ウエスト・サイド~』をやっていたときは“古典的なこういうもの大好きだな”と思いましたし、今は“こういうの一番好き”と思ってしまいます。作品に入るとその作品が大好きになってしまうので、一概には選べません」

――役どころとしては、やってみたいものはありますか?
「意外に、幅広くやらせていただいていると思っています。マリアのような“ザ・ヒロイン”もあれば、今回は現代的な女の子役ですし…。でも、今、思うのは、等身大でできる役を今のうちにたくさんできるといいな、ということです。今はまだぎりぎり、子供の役だったり、『CALL』のミナモのような役もできると思いますが、30歳になったら難しいと思うんですね。“今、できる役”を大切に、たくさんできるといいなと思っています」

――そしてその積み重ねで、いつか素敵なおばあちゃん役に…。
「そうですね。そうなれたらと思います」

(取材・文=松島まり乃)
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*公演情報 Broadway Musical『IN THE HEIGHTSイン・ザ・ハイツ』
3月27~28日=鎌倉芸術館大ホール、4月3~4日=オリックス劇場、4月7~8日=日本特殊陶業市民会館ビレッジホール、4月17~28日=TBS赤坂ACTシアター 公式HP
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