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『フリーダ・カーロ 折れた支柱』遠山裕介・田村良太・田中なずなインタビュー:人生に影響を及ぼす一本

(左)遠山裕介 東京都出身。『アナスタシア』『ラヴズ・レイバーズ・ロスト』『キンキーブーツ』『タイム・フライズ』『モーツァルト!』『何処へ行く』等の舞台で活躍している。 (右)田村良太 東京都出身。2013年に『レ・ミゼラブル』マリウス役で舞台デビュー。以降も『プロパガンダ・コクピット』『20年後のあなたにあいたくて』等に出演。音楽活動も展開している。(中央)田中なずな 大分県出身。『ポーの一族』『KID VICTORY』等の舞台のほか、TVドラマ『鎌倉殿の13人』にも出演している。写真提供:Tip Tap

 

幼くして片足が不自由になり、後にバスの事故で瀕死の重傷を負うも貪欲に生き、47歳で没したメキシコの画家フリーダ・カーロ。その鮮烈な“生”を描いたミュージカル『フリーダ・カーロ 折れた支柱』が、3年ぶりに上演されます。(作・演出=上田一豪さん、フリーダ役=彩吹真央さんの初演時インタビューはこちら

初演では濃密な空間で展開される“苦しみの果ての人生賛歌”が大きな反響を呼びましたが、コロナ禍、戦争という未曽有の事態を挟んでの上演となった今回は、どのような舞台に仕上がりそうでしょうか。前回に引き続きの出演となる遠山裕介さん、田村良太さん、そして今回初参加の田中なずなさんに、白熱の稽古の様子をうかがいました。

『フリーダ・カーロ 折れた支柱』

 

――遠山さん、田村さんは初演について、どんな思い出がおありでしょうか?

遠山裕介(以下・遠山)「フリーダ・カーロという人物をよく知らないまま、出演が決まって台本を読んでの第一印象は ”この人、めっちゃ恋愛してるな“でした(笑)。事故であんなに大けがをして体が不自由な中でも、画家として活躍して、あんなに恋愛をして…って、すごく強い女性だな。皆さんにこの人の生き方を知っていただけたら、きっと生きる力がもらえるのではないかな、と思いながら取り組みました」

田村良太(以下・田村)「彼女の激動の人生を2時間に詰め込んだ作品なので、起伏の激しさに、やっている方も追いつくのが大変でした(笑)。でも、このエネルギーをお客様に届けたい、それによって自分の死生観を見つめ直せる機会にもなったら…と思いながら取り組みましたね」

――田中さんは今回が初参加なのですね。

田中なずな(以下・田中)「初めて台本を読んだ時に、登場人物たちがお客様に向かって喋り、いろいろな時代をワープしながら話が進んでいくという構成に衝撃を受けつつ、これがどう立体的になるのだろうと思ったのですが、資料映像を観ると想像と全く違っていて、こうなるんだ!と驚きました」

遠山「出演者は全員出ずっぱりで、フリーダと一緒に各シーンを創っているという感じで…」

田中「実際にやってみると、ついフリーダに感情移入してしまいます」

遠山「こういうスタイルの作品は、僕があまりやった事がないので面白いですね!」

――再演にあたっては前回作ったものを思い出すところから入るイメージでしょうか。

田村「そうですね。3年経っているので、今の自分なら違うことが出来るんじゃないかと思ったりもしますが、結局、稽古していると前回のやり方が素直に正解なのかなと思ったりしています」

遠山「前回と感覚が違うところもあります。(演出の上田)一豪さんにも話しましたが、自分がお父さんになったことで、フリーダが流産するシーンで感じるつらさというのが、前回とは比べ物にならないです」

田中「私は初参加なので、最初はついていくので精一杯。稽古がどんどん進んでいく中で、皆さんの間で3年前に話したことか今回の稽古で話したことかわからない状態で進んで“私、それ知らない…”ということもあったりしました(笑)。一生懸命覚えながら、自分なりにトライしていけたらと思っています」

2019年『フリーダ・カーロ』より 写真提供:Tip Tap

 

――ご自身が演じる役について教えてください。

遠山「僕が演じるのはイサム・ノグチという彫刻家です。お父さんが日本人、お母さんがアメリカ人で、ロスで生まれて来日するけれど、ハーフということでいづらく、アメリカに帰国しても戦争でいづらい…そんな境遇から、ユダヤ系のフリーダと通じ合うものがあって仲良くなったんだろうと思います。彼は医学を学んだ後にダヴィンチ美術学校で彫刻を習って、さらに工芸を学び、造園もやり、札幌のモエレ沼公園も設計しています。あと、あの李香蘭と5年間ぐらい結婚していたんですよね。本当に才能のある方で、僕とは違う…と思いました(笑)」

田村「僕はアレハンドロ・ゴメスという、メキシコの政治系のコラムニスト、エッセイストを演じます。彼はフリーダの最初の恋人で、読書もすれば一緒に爆竹を投げたりする悪友だったようです。手紙のやり取りも残っていて、まさに“ザ・初恋”という間柄でしたが、デートで乗ったバスで事故に遭い、フリーダの体を貫通した鉄の棒を他の乗客と一緒に引き抜くという経験をして、次第に疎遠になってゆきます。でもその後もことあるごとに彼女のことを思い出していたと言われています」

――どうして疎遠になったのでしょうか。

田村「憶測ですが、親に反対され、会うことも難しかったし、事故のトラウマもあったかもしれないし、正直、(彼女の存在が)重かったのかもしれません。若すぎて、愛しているのかいないのか、自分でもわからなくなったりと、いろいろな葛藤があって、自分の心を整理するために言い訳をつくって去っていったのではないかと思います」

田中「そのシーンで、私は良太さんの横に座っているのですが、初演の映像を観たときは、女性としてフリーダに感情移入してつらいなと思っていたけど、今回はゴメスの感情にもらい泣きしてしまう自分がいて、驚いています。フリーダはもちろんゴメスもとても苦しんで、結果別れることを選んだんだろうなと思います」

田村「これ以上恋愛を続けることは難しいという材料が揃い過ぎていたのかもしれません」

田中「私は、フリーダを最後に担当した、マイエットという看護婦を演じます。担当期間は1年未満の若い准看護婦だったようで、そうなると彼女はフリーダのパワフルな姿よりも、衰弱して命が消えかけてる姿を見ていて、ノグチさんやゴメスさんの印象とは違うんじゃないか…きっとフリーダは守ってあげたい、お世話したいと思える存在だったのではないかと思います。フリーダ役の彩吹さんは、“フリーダは若い彼女には優しくしてあげたんじゃないかな。例えば、彼女が帰る時に、戸棚のケーキを持っていっていいよと言ってあげるような関係性だったのではないかな”とおっしゃっていました。その後の彼女の人生はわかりませんが、フリーダを看取った点で、他の方々と同じく、大事な存在だと思っています」

2019年『フリーダ・カーロ』より 写真提供:Tip Tap

 

――台本を集約すると、フリーダ・カーロが絵を描き続けたことの背景には、死への恐怖や、自分を残したいという願望があったようですが、表現に関わるお仕事をされている皆さんには、共感できる部分はありますか?

遠山「僕らは“お見せしたい”という気持ちを持って表現しているけれど、フリーダの絵って、そうではないと思うんです」

田村「自分のために描いているというか」

田中「描かないと自分を保てない、溢れ出てきたものを自分のために必死に描いていたんだと思います」

遠山「それに対して、他の人たちが深い意味を見出したりとか」

田中「以前、演技をするときに、大勢に届けることより対象を一人に決めたほうが逆に大勢に届くと聞いたことがありますが、フリーダも自分のために描いたからこそ大勢の人に届いたのではと思います」

遠山「フリーダにはそういう動機があったいっぽうで、僕自身は、自分を通してお客さんの気持ちを変えられたらという気持ちで表現をしています。100人のうち一人でも、僕の芝居を通して影響を与えることができたらと思っています」

田村「僕もほとんど同じです。僕は、好きなアーティストのインタビュー記事にも影響されているのですが、何かを残して死後も思い出してほしい…という願望は無くて、それよりも今だったらフリーダの芝居を通して、そのメッセージが伝わればという思いです。だから演劇という、公演期間ですぱっと終わる仕事をしているのかな」

田中「フリーダの死への恐怖だったり、自分がいたことを忘れられるのが怖いという気持ちはわかります。でも、私自身は、死後に知ってもらうより、今同じ時期に生きている人たちに届いたら嬉しいなという思いです。今、ご一緒している時間が濃かったら幸せです」

遠山「それはその場で感じ取れるしね」

――初演から今回の間にはコロナ禍や戦争といった未曽有の事態が発生しましたが、それによって作品に加わったものはあるでしょうか?

遠山「一生懸命やるのは以前も今も変わらないけれど、万一、誰かが明日コロナになったら止まってしまうということもありますので、以前にも増して大切に作っています。何より、中止というのが一番嫌なので、ちゃんとお届けしたいという気持ちでいます」

田村「コロナ禍と戦争によって、皆さん、“死”というものをいっそう身近に感じるようになったと思いますが、それは僕らにとってもそうです。本作は“生死”を扱っている作品なので、今観ることでさらに届くメッセージもあるのではないかと思います」

田中「演じる側も観に来て下さる方も、命がけという緊張が続いていますが、だからこそいいものを作りたい、覚悟をもって臨みたいという気持ちがあります。お客様がいらっしゃることに感謝して全公演無事に終わりたいです」

遠山「本当にそうですね」

――今回、ご自身の中で持っているテーマはありますか?

田中「“生きる歓び”です。フリーダはつらいことばかりの人生を送っていたけれど、その終わりに“人生万歳”と描けるってすごいことだと思うんです。今は不安な世の中ですが、彼女のように人生万歳と言えるように、喜びをテーマにしていきたいです」

田村「“死の肯定”ですね。死って怖いものですが、本作を観てそれが少し変わるかもしれない。こういう考え方もできるなと思っていただけたら、この公演の意味があると思いますし、そう思えるようにしていきたいです」

遠山「僕は“愛”です。この作品、みな愛を持っていて、すべては愛があってこそ。それが今回の私のテーマですね」

――どんな舞台になったらいいなと思われますか?

遠山「起伏の激しい作品ですが、お客様と一緒に時間を共有できたら嬉しいです!」

田村「皆さんに問いたいことがあります。これまで御覧になった作品で、きれいだったとか、あの人が素敵だったという作品はたくさんあると思いますが、心にメッセージが残った作品って、何本ありますか? こういう考え方は素敵だなとか、人生に影響を及ぼす作品って、実は何本もないと思いますが、本作はきっとそのうちの一本になると思います。でも、重いばかりではなくて、音楽的にはラテンのノリで軽快ですし、きっとメキシコの空気にお連れできると思いますので、ぜひ気楽に観ていただきたいです」

田中「私はTip Tapさんの舞台を観る時はいつも(胸が)痛いのですが、その激痛の跡に謎の解放があるんです(笑)」

遠山「メッセージ性が強いからね」

田中「皆さんにもぜひそれを体感していただけたら、と願っています。きっとその後、新たな境地を味わっていただけると思います」

(取材・文=松島まり乃)
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*公演情報 Tip Tap『フリーダ・カーロ 折れた支柱』6月30日~7月3日=東京毛記述劇場シアターウエスト 公式HP
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