Musical Theater Japan

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『YOKOHAMA Short Stories』五十嵐可絵・岡本悠紀・田村良太・藤倉梓インタビュー:“知られざる横浜”へと誘う、五つの短編ミュージカル

(左から)岡本悠紀 東京都出身。『RENT』『ミス・サイゴン』等の海外ミュージカル、ミュージカル『テニスの王子様』等の2.5次元ミュージカル、『手紙』等のオリジナル・ミュージカルと幅広く活躍。五十嵐可絵 横浜市出身。劇団四季に入団し『マンマ・ミーア!』には7年間にわたって出演。『赤毛のアン』ではタイトルロールを演じた。退団後は『幕末ガール』等の舞台で活躍。藤倉梓 東京都出身。女優として活動するだけでなくミュージカル作家(脚本、作詞作曲、演出)としても活躍。代表作に『カムイレラ』『signサイン』等がある。田村良太 音楽活動を経て2012年『レ・ミゼラブル』マリウス役でミュージカル・デビュー。以後『bare』『In Touch』『BACKBEAT』『Play a Life』などさまざまな舞台で活躍している。🄫Marino Matsushima 禁無断転載

劇作家・河田唱子さん主宰のUkiyo Hotel Projectが、演出に菊地創さんを迎え、横浜にまつわる五つのミュージカル短編を上演。崎陽軒のキャンペーンガールと野球選手の恋を描く、獅子文六の小説を舞台化した『シウマイ・ガール』から、横浜に住んでいた文豪・谷崎潤一郎の破天荒な恋愛を現代の視点で振り返る『谷崎潤一郎・ザ・Musical』 、中華街で作られていた幻のピアノに河田さんの芸術に対する思いが投影された『周ピアノ』まで、多彩な物語が音楽監督の田中和音さん、NY在住のKo Tanakaさんらの楽曲に彩られ、展開します。

1946年建造以来、横浜の歴史を見つめてきたダンスホール“クリフサイド”で雰囲気たっぷりに上演される予定の本作から、五十嵐可絵さん、岡本悠紀さん、田村良太さん、藤倉梓さん(五十音順)に横浜への思いや各作品の魅力を、また音楽監督の田中さんに今回の音楽のポイントを伺いました。

 

――本作に登場する物語はどれも横浜を舞台としていますが、皆さんは横浜について、どんな思い入れがありますか?

五十嵐可絵(以下・五十嵐)「私は横浜生まれも育ちも横浜なので、思い出はいっぱいあります!横浜市歌も歌えますよ〜(笑)。横浜は都会と思われがちだけど、実は緑が多くて、ちょっと駅から離れるとすぐ山に突き当たるんです。自然と都会が共存していて、子供の時には狸も見かけたし、防空壕で遊んだりもしましたね。大好きで、出身を聞かれるといつも“神奈川出身”と言わずに“横浜出身”と言っています」

岡本悠紀(以下・岡本)「僕は何回か横浜で舞台に立たせていただきましたが、開演前に劇場の外を散策すると、空が広くて海が近く、風も気持ちいい。清潔感もあって町全体がパワースポットのように感じます。劇場でふだん仕事をしていると、地下の楽屋でみんなとわちゃわちゃやっていることが多いので(笑)、横浜の街の空気を吸うだけでリフレッシュできますね。横浜公演のある作品だと“横浜に行けるんだ“”とワクワクします」

藤倉梓(以下・藤倉)「私は横浜には全然縁がなくて、人生で20回も行ってない気がしますが、小学校の時に(校外学習で)福沢諭吉の乗った咸臨丸という船のレプリカに乗るというプロジェクトがあって、みんなでマストに登ってイエーとかしていたのが(笑)数少ない横浜の思い出です」

岡本「楽しい思い出じゃないですか」

田村良太(以下・田村)「自分は逆に、遊びに行くなら横浜という感じでよく行きます。自然も感じられるし海も観られて夜景もきれい、桜木町やみなとみらいという街もあるし、反対側に行けば山手のほうに洋館があったり、動物園も…となんでもあるので、いつも選択肢にあります。横浜で泊まるならこのホテルだなとか、サウナはここがいい、自転車で回るのが便利とか、そういう情報を持っているくらい、横浜愛は強いです(笑)」

五十嵐「横浜出身者を代表して、有難うございます(笑)」

『YOKOHAMA Short Stories』稽古より。写真提供:Ukiyo Hotel Project

――今回の台本を読んでの第一印象はいかがでしたか?

五十嵐「私は『谷崎潤一郎・ザ・Musical』 という作品で女1を演じるのですが、この作品は女1、2、3が谷崎の恋愛遍歴を歌い、その模様を他のキャストが主に動きで見せるというもので、歌詞を覚えていると、谷崎先生って“何やってくれてるんだ!”というくらい恋多き男性で。それも三姉妹と順番に関係を持っているんです。しかも史実では、谷崎先生はバツ二どころかバツ四なんですって」

「へえ〜」

五十嵐「私はいったい谷崎潤一郎を好きになる日が来るんだろうか…と思いつつ(笑)、昔の文豪の作品はこれまで敷居が高くて手に取れなかったけれど、今回の舞台が終わったら『痴人の愛』あたり読んでみようかな」

藤倉「私、『痴人の愛』大好きなのでお勧めです」

五十嵐「じゃあ読んでみます」

岡本「今日初めて可絵さんの稽古を拝見して、あまりのクオリティの高さに“すみませんでした”となりました。マスクしているのに肺活量と声量が凄くて、あの情報量なのにしっかり頭に入ってきます」

五十嵐「褒められちゃった♪ これは本当に劇団四季様のおかげです」

――女1、2、3は歌うというより、ジャジーな義太夫を語っているような感じですね。

五十嵐「13分のビッグナンバーで、ここまで長いのは台詞含めて初めて。毎日がチャレンジで、歌ってこんなに汗かくんだっていうくらい、マラソンを走った後のようになります(笑)。(田村さんを向いて)谷崎潤一郎も汗かいてるよね」

田村「自分はこのナンバーで、動きで谷崎を演じているのですが、谷崎を再現するというよりは、こういう男がいましたというのをコミカルに、わかりやすくお伝えしています」

五十嵐「他の4作品とは全然違ったテイストの仕上がりになりそう」

田村「歌詞にあるとおり、谷崎って関わり合いにはなりたくないけど、存在としては面白い、バカな男がいたな〜と楽しんでいただければ。でも彼みたいな男、今でも全然いると思いますけど(笑)」

五十嵐「三姉妹に手を出すというのがね…。ご両親はどう思われたのかな」

田村「そういった興味も含めて観ていただけたらと思います」

――岡本さんがメインで演じるのは、『マッカーサーズ・スイート』ですね。

岡本「降伏式の調印で来日したマッカーサーを迎える、ホテル・ニューグランドの従業員を小西のりゆきさんと僕とでやらせていただいています。当時の時代背景もナレーション的にお話しつつ、ジャズの名曲を4曲交えながら敗戦国の人間の葛藤を演じるもので、ただの2人芝居ではないというか、やったことのない感覚にとらわれています。どかーんとエネルギッシュな『谷崎〜』とは対照的に、僕らはたぶんしっとり大人の、音楽を聴きながらのお勉強会のような感覚になるかもしれません」

――マッカーサーをおもてなししなくてはいけないけれど、家族は戦争で亡くなっている。複雑な心情ですね。

岡本「複雑さもあり、でも一方では、どんな人が来るんだろうというわくわくもあります。まだ稽古に合流して間もないのですが、他の班のお芝居を見ながら、“僕はこういうテイストでやろうかな”と色々考えているところです」

――ジャズの名曲「サマータイム」も歌うのですね。

岡本「歌っちゃってますね(笑)。今までもライブでジャズは歌っているんですが、今回はあの小西さんと歌わせていただけるのが光栄で。スタンドマイクだけではなく、ステージングもついているので、そのあたりも楽しんでいただければと思います。前の作品から渡されたバトンを“よろしくね”と次の班に渡せるようにと思っています」

『YOKOHAMA Short Stories』稽古より。写真提供:Ukiyo Hotel Project

『YOKOHAMA Short Stories』稽古より。写真提供:Ukiyo Hotel Project

――田村さんは『クリフサイド』で、ダンスホールの設計者・中村順平を演じます。

田村「僕が演じる中村順平とダンサーが二人、そしてダンサーを好きになった男の4人で、今現在も使われているダンスホールの歴史を再現します。ここで歌われるのが全部夏木マリさんが歌っている曲で、中村順平が日記に書いていた“自分はローマの大聖堂を作れるようになるんだろうか“”という文章にちなんで、僕は“ローマを見てから、死ね。”というナンバーを歌います」

岡本「僕は4曲目を担当しますが、この4曲はどれも歌詞が横浜に刺さっているんですよね。そういうところから選曲されているんだろうなと思います」

五十嵐「私はクリフサイドで一番の売れっ子だった踊り子役で、今は伊勢佐木にお店を持たせてもらって独立していて、“私は私よ”というナンバーを歌うのですが、この曲を歌わせていただけるのがすっごく嬉しくて。私は私でいいのよ、と勇気づけられるような曲で、舞台で歌うのが楽しみです」

『YOKOHAMA Short Stories』稽古より。写真提供:Ukiyo Hotel Project

――そして藤倉さんがメインで演じるのが、ラストの『周ピアノ』です。

藤倉「今回、初めて河田さんの作品に出演させていただくにあたり、プロフィールをみたら私と生まれ年が同じだったんです。女性で同い年の作家がどういうことを考えているんだろうと興味を持ちましたが、周ピアノという着眼点がまず素敵だなと思いました。おそらくピアノが弾けるということでキャスティングしていただいたと思うのですが、私もこれまでの人生でピアノを好きでいたので、戦火にあって焼けそうなピアノを何とか救い出したい、ピアノがなかったら自分の命がないのと同然、と思っている少女の話は、自分から芸術をとったら何も残らないという藤倉の感覚に似てるところがあるのかな、と共感するところがあります」

――冒頭、小柄な少女が大きなピアノを避難させようと、一生懸命“うーん”と唸りながら押している…台本のこのくだりを読むだけで、ぐっとくるものがありますね。

五十嵐「稽古を見ていても、あーちゃん(藤倉さん)がピアノを押してる姿だけで泣けてきます。この小柄な体で一生懸命ピアノを守ってる、そこだけでぐわっと来て…」

藤倉「やりすぎないようにします(笑)」

――作者である河田さんの魂を感じる作品ですね。

藤倉「そう思います」

田村「僕もこの少女を手伝う兵士役でこのパートに出演するのですが、メッセージ性の強い作品だと感じていて、それがお客さまに届くといいなと思ってあーちゃんをサポートしています。
実はこれまで、自分は日本兵を演じるということは避けてきたんです。親父がアメリカ人で、戦った国の血が入っているので、演じていいのかなという気持ちがあったんですが、二つの国の人たちが愛し合ったことで生まれた自分なので、今回そこを良い形で届けられたらと思って演じています。責任をもってやりたいですね」

――このパートはKo Tanakaさんが作曲されていますが、楽曲はいかがですか?

藤倉「7月くらいから練習していますが、めちゃくちゃ好きな曲です。Koさんとはこれまでもうっすら交流はありましたが、まさかここでご一緒するとは。ジャズのコードが多用されていて、がっちがちのクラシックしかやってこなかった私の中には、まだ落とし込めていないので、もうちょっとあがこうと思っています」

――全体的に、お稽古の様子はいかがですか?

田村「それぞれのシーンの演出が大体ついたところですね」

岡本「夏休みの宿題を渡された感覚で、これからブラッシュアップしていこうというところです」

五十嵐「でも皆安心できる経験値をお持ちの方ばかりで、不安なことが一切ないですね。だいたいどこのカンパニーでも“この人、大丈夫かな”という人がいるものだけど(笑)、今回は右を見ても左を見ても頼れる人ばかりで」

岡本「僕はまさに可絵さんがいると安心します。演出家に対してきちんと突っ込んでくれますし」
五十嵐「頭で考える前にハートで考えて喋っちゃうタイプなので(笑)」

岡本「心強いです」

――どんな舞台になるといいなと思われますか?

五十嵐「今、皆さんの話を聞いていて、舞台を前から観たい!と思いました」

田村「それ、間違いない」

岡本「僕たちの舞台をご覧になった方が、いつか横浜で電車を乗り換えた時にでも、ふっと舞台を思い出してくれたら。舞台をやっている身としてはいつも、作品を通してハッピーな気持ちになって欲しいと思っているけど、それにプラスして、皆さんの中で横浜と僕らの舞台がリンクして脳裏に焼き付いていただけたら嬉しいです」

田村「横浜の街と一緒に楽しんで欲しいですね。舞台を観て、桜木町でご飯を食べて、ホテル・ニューグランドに泊まるとか。もし泊まったら絶対感じ方も違うし、楽しいと思うんです。そういう贅沢な体験をしていただけたら、普通の観劇が二倍、三倍膨らむのではと思います」

藤倉「同じクリエイターのはしくれとして、オリジナルのミュージカルを推奨して生きている人間なので、こういう作品も通して、オリジナルって素敵なんだよと声を大にして言いたいんですが、そのいい機会になったらいいなと思っています」

【音楽監督・田中和音さんコメント】Ukiyo Hotel Projectには2019年の『ウキヨホテル』トライアウトから関わっていますが、作者の河田さんのアイディアに振り回されつつ(笑)、コラボを楽しんでいます。今回は“谷崎〜”で13分の曲を書いてと言われて、「正気ですか」と頭を抱えました。ずっと同じ曲調というわけにもいかないし、コロコロ変えるのもどうか。曲をどう構築するか、パズルのような作業が続きました。他にもKo Tanakaさんの書き下ろしや既存のジャズ・ナンバーなど多彩な楽曲を豪華なキャストの方々が歌ってくださるので、かなり楽しんでいただけると思います。
僕は普段はジャズ・ミュージシャンですが、リチャード・ロジャースやコール・ポーターなど、往年のミュージカルはどれもジャズがベースにあるので、意外にミュージカルは馴染みやすいです。今後、日本でオリジナル・ミュージカルがさらに発展していくよう、ジャズ・ミュージシャンも積極的にミュージカルに関わっていくと面白いんじゃないかな、と思いますね。

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報 Ukiyo Hotel Project『YOKOHAMA Short Stories』10 月27 日~30日=CLIFFSIDE 公式HP
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