Musical Theater Japan

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音楽劇『クラウディア』甲斐翔真インタビュー:人間の美しさ、可能性を伝えたい

甲斐翔真 東京都出身。16年に『仮面ライダーエグゼイド』でドラマデビュー。映画『写真甲子園0.5秒の夏』『君は月夜に光り輝く』等の話題作に出演。『デスノートTHE MUSICAL』で初舞台にして初主演、その後『RENT』『マリー・アントワネット』『ロミオ&ジュリエット』『October Sky~遠い空の向こうに~』『next to normal』に出演している。©Marino Matsushima 禁無断転載

戦いに明け暮れる人々の中に生まれた恋の芽が、やがて“世界”そのものを揺るがしてゆく…。ダイナミックな物語とサザンオールスターズの楽曲、そして山本寛斎さんによる大胆な衣裳が話題を呼び、2004年、2005年の公演で約12万人を動員した『クラウディア』が久々に上演されます。

過去に寺脇康文さんが演じた主人公・細亜羅(ジアラ)を今回、大野拓朗さんとのダブルキャストで演じるのが、甲斐翔真さん。昨年は『October Sky‐遠い空の向こうに‐』で単独初主演をつとめ、今年は『next to normal』でゲイブ役を演じるなど、めざましい活躍が続く彼ですが、今回演じるのは敵国の娘・クラウディアとの恋に翻弄される剣豪役。愛を禁じられた世界での愛とはどういうものか、また既存の楽曲を使ったミュージカルをどのように感じているか等、本作ならではの注目ポイントをじっくりと語っていただきました。

音楽劇『クラウディア』

【あらすじ】その時代、世界には「根國(ねこく)」と「幹國(みこく)」の二つの国しか存在しなかった。愛を禁じられ、戦いに明け暮れる世界の中で、掟を破って生まれる二つの愛の行方は…。

ジュークボックス・ミュージカルだからこそ
繊細に、神経を使って歌っています

――甲斐さんは地球ゴージャスについて、どんなイメージをお持ちでしたか?

「名前に“地球”という言葉が入っている通り、どこか土くさいというか、地に足をつけたイメージがあります。これまでも虫の世界を描いたり、『ZEROTOPIA』みたいな世界を描くなかで、地球に生きる生命を称賛したり、時に問題を呈示したり。さんざん笑えるのに、笑えきれない自分がいる…という作品が多い印象があります。

地に足をつけたと言えば、数年前、まだ高校卒業したての頃に地球ゴージャスの稽古に参加させていただいたことがあって、出演者全員が体を120パーセント使ってマット運動をしていることに驚きました。でも今、殺陣のある作品に出演していて、これがいかに意味のあることかに気づかされます。戦をしている人たちは自分がいつ斬られるかわからない状況のなかで、地に足をつけて全神経を張り巡らせているわけじゃないですか。そういう人間を演じるのに、全身を使うマット運動がいかに大切か。当時は“どうして?”と思っていたけれど、今こうして実際に出演する中で、ようやくその意味がわかりました(笑)」

音楽劇『クラウディア』プレスコールより。🄫Marino Matsushima 禁無断転載

――2004年、2005年の上演では、寺脇康文さん演じる細亜羅と岸谷五朗さん演じる毘子蔵(ヒコゾウ)の掛け合いも魅力の一つでしたが、今回もこうした“笑い”は踏襲されていますか?

「僕らが演じることで一切なくなっていると思われるかもしれませんが、コメディ要素は勿論あります!(笑) あのお二人の雰囲気は、天才的なコンビネーションによるものですので継承できるものではありませんが、僕らなりに、キャラクターを背負いながら笑いにもって行ければ。無理して笑わせるのではなく、真剣にやればやるほどおかしく見えると思うので、そんなふうに僕らのコメディをお見せできればと思っています。ですので、そこは期待してもらって大丈夫です(笑)」

――本作はサザンオールスターズの楽曲を使ったジュークボックス・ミュージカル。甲斐さんにとってこうした形式の作品は初かと思いますが、実際に歌ってみて、どのような違いを感じますか?

「今回登場するサザンオールスターズの楽曲は、このミュージカルのために生まれたわけではなくて、歌詞にも桑田佳祐さんの遊び心がふんだんに反映されているので、そのギャップは確かに存在します。劇中で歌う時にいかに説得力を持ってある瞬間、ある場で歌うかを問われた時に、一つ効果的なのは表情であったり、歌う“さま”であるのかなと思っています。

あと、演出の(岸谷)五朗さんが“『さっちゃん』のような、いつ習ったか思い出せないくらい小さいころに習って、歌詞やメロディが勝手に出てくるような童謡の感覚で歌ってほしい”とおっしゃっていて、それもヒントになっています。

『真夏の果実』や『蛍』などは劇中の感情と歌詞が合っているので、あまり苦労はしていません。サザンの楽曲の持つ力を信じて歌いたいと思いつつ、いいバランスで…僕らが歌った時に皆さんの中に桑田さんの顔が浮かばないように、と意識しています。『クラウディア』という音楽劇の中でこのナンバーをどう存在させるかは、僕らの力量次第。繊細に、神経を使いながらこれらの曲を歌っています」

音楽劇『クラウディア』プレスコールより。🄫Marino Matsushima 禁無断転載

――ミュージカルでは歌詞を聴かせるため、言葉を真珠のように粒立てて歌うのが通常ですが、ポップスでは必ずしもそれが基本ではないですよね。そういったところで唱法も調整されているでしょうか。

「一般的なミュージカルでは、例えば衝撃的な事実を打ち明けられた際の怒りのナンバーというように、歌で感情を伝え、ストーリーを進めますが、今回はそういうタイプではないのがポイントだなと思っています。(サザンの楽曲の)メロディの力は借りつつも、メロディ自体はストーリーを進めているわけではなく、ストーリーの上に覆いかぶさって助けてくれているというイメージですね。在り方が根本的に違うので、ある種、役者一人一人が自力でストーリーを引き上げていかないといけないな、と思っています」

――本作の面白さの一つに、“愛を禁じられた世界で恋に落ちる”という設定がありますが、初登場時の二人は既に恋に落ちているのでしょうか?

「現代の感覚で言えば“恋に落ちている”ことに違いないんですよ。ただ、現代と『クラウディア』の時代の恋愛の価値観は全然違っていて、『クラウディア』の世界では、そもそも皆、愛を知らないんです。愛はとてつもなく危険なものとして、人間からとりあげられています。

だから、“これが愛”と認識することが出来ない。胸の高鳴り、触れたいと思う心、顔を見たいという衝動…それが全てアウトとされている世界だけれど、それでも細亜羅とクラウディアは愛に飛び込んで行く。愛という普遍的なテーマが持っているところの、美しい薔薇の花と棘、というところなのかな。今の時点ではこういう、抽象的な表現しかできないけれど…。

いつもそうなのですが、作品を作る時には、どうしたらこの物語を、今を生きる僕たちの心に残るものに出来るか、胸にぐっとくる瞬間を作れるかということを考えています。ただ自分が満足すればいいということではなく、いかに人の心に残るものに出来るか、日々探しています」

音楽劇『クラウディア』プレスコールより。🄫Marino Matsushima 禁無断転載

――それが本作においては、二人のささやかな、苦しいような愛なのですね。

「そうですね。この作品においてぐっとくるポイントは、“誰かのために犠牲になれる”ということ。それって凄いことじゃないですか。愛の持っている悲劇性、とても美しいけれど、同時に危険でもある、という部分は伝えたいです。神(神親殿 カシンデン)が愛を禁じている理由も分からなくはないですよね。愛なんてものがあるから人が死ぬ、だったら人が死なないように、愛は禁じて、人間はただ争っていればいいんだ、という。でもそうなってしまったら、愛がなくなってしまったら人は人ではなくなるわけで…。
細亜羅も、クラウディアのもとに来た時に本当の意味で生き始めるんです。生きるというのは痛みもあればつらいこともある。そしていつかなくなってしまうけれど、だからこそ美しい。難しいけれど、そういうものを体現していけたら、と思います」

――どんな舞台になったらいいなと思われますか?

「この作品は岸谷さんの反戦三部作の一つですが、戦争というモチーフ以上に、人間ってこんなに美しくて可能性のある存在なんだと、忘れかけたものを思い出せるような作品になったらと思います。型にはまった生き方をする人もいれば、理想をかなえられずにもがく人もいるけれど、ちょっと頑張ることで新しい世界が開けるかもしれない、そんなふうに可能性を感じていただける舞台になったら嬉しいです」

音楽劇『クラウディア』プレスコールより。🄫Marino Matsushima 禁無断転載

――プロフィールのお話も少しさせて下さい。『RENT』のミミとの絡みでも思ったのですが、前作の『next to normal』の母とのダンス・シーンで、甲斐さんの演技には官能的なものが感じられました。意識されていましたか?

「意識はしてないですね。何を意識していたかというと、ゲイブとしては、あの場面では“弱く”存在するようにしていました。あの時点では、(わけあって)ゲイブは“押されたら崖の下”というか、消されてしまうかもしれないというギリギリのところにいて、母親に向かって“僕を置いていくんでしょ”と脆い心で踊っていて。その弱さ、儚さが、もしかしたらそういうふうに見えたのかもしれません。人が弱っている時って、意外とそういうふうに見えたりしますよね。(『RENT』の)ロジャーの時もそうです。何もかも諦めて、こんなことをしても無駄なんだという弱さを抱えながらミミと向き合っていたのが、そういうふうに見えたのかな、と思います」

――順調にキャリアを重ねていらっしゃいますが、これまでのところ、演じることの喜びをどんな時に感じますか?

「これまでの数ある舞台の中で数回ぐらいしかないけれど、一つのシーンが終わった時に記憶が無い、という時が最高の瞬間です。自分という人間から離れて、すべて“心”で演じられたんだな、と喜びを得られます。ある種の極限状態ですが、それはこれからも目指していきたいです。
もう一つは、カーテンコールのお客様の反応です。僕は人一倍そういう空気に敏感なので、皆に満足していただけたか、ぐちゃぐちゃだったか(笑)、見渡すことでだいたいわかります。皆さんの心が満ちていることが伝わってくると、“ちゃんと表現できたんだな”と。そういう時に、苦しい思いをしてでもやっている意義があるんだな、このために舞台をやっているんだな、と感じられます」

――そういう瞬間にこれからも立ち会えるよう、楽しみにしています。

「頑張ります!」

(取材・文=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報 Daiwa House Special音楽劇『クラウディア』Produced by 地球ゴージャス 7月4日~24日=東京建物Brillia HALL、7月29日~31日=森ノ宮ピロティホール 公式HP
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