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『ニュージーズ』観劇レポート:困難に立ち向かう少年たちの“生き抜く力”

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『ニュージーズ』写真提供:東宝演劇部

 

夜明けを待つような管楽器のまろやかな音色に他の楽器が加わり、胸躍る曲調へ。レンガの壁に“NEWSIES”のロゴを乗せた幕が上がると、そこは1899年のNY、ビルの屋上で二人の少年たちが語らっています。

“お前は大都会でちっぽけな生活、俺は小さな町ででっかく暮らすぜ”。
西部の町サンタフェでの、のびのびとした生活に憧れる17歳のジャック。親友のクラッチーも夢想に加わり、二人は美しいハーモニーを響かせます(“サンタフェ”)。

空が白み始めると夢見る時間は終わり、仲間たちを起こした二人は、修道女たちから朝ご飯をもらい、広場へ。彼らはここでその日の売り物の新聞を仕入れ、街行く人に売りさばく“ニュージーズ”たちなのです。

リーダー格のジャックは、負傷した父に代わり家計を支えようとやってきたデイヴィとレス兄弟を仲間に入れますが、その頃、新聞社のオーナーであるピュリツァーは、新聞の卸価格の値上げを命令。販売価格は据え置きのため、ピュリツァーの決定はニュージーズの利益減を意味していました。

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『ニュージーズ』写真提供:東宝演劇部

憤激した少年たちは組合を作り、ストライキを起こしますが、会社側は阻止を画策。社交記事担当に甘んじていた若い記者キャサリンはニュージーズの奮闘を取材し、ヴォードビル劇場のオーナー、メッダも彼らを応援しますが…。

1992年の同名映画をベースとして、音楽をアラン・メンケン(『アラジン』)が続投、脚本を新たにハーヴェイ・ファイアスタイン(『キンキーブーツ』)が手掛けて2011年に舞台化、翌年ブロードウェイに進出。トニー賞では振付賞、ベスト・スコア賞を受賞したミュージカルが、昨年の公演中止を経て、待望の日本上陸を果たしました。

1899年にNYで実際に起こったストライキに想を得て、大人たちの理不尽な搾取に対して立ち上がる少年たちを描く物語。映画版では男性キャラクターだった新聞記者役の、当時は圧倒的に少数だった女性への変更が、舞台版の大きな特徴です。(他にも一部の設定やナンバーに変更有り)。“新たな時代への期待感”を強調したこの脚本を、演出の小池修一郎さんはきめ細かくも流れるようなテンポで立体化し、少年たちの運命やいかに、と終幕までスリルを持続。

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『ニュージーズ』写真提供:東宝演劇部

また『ニュージーズ』と言えば熱気溢れるダンスナンバーが注目の的ですが、今回の振付(桜木涼介さん、AKIHITOさん、タップ振付RON×Ⅱさん)は“跳躍”“アクロバット”“クラシカル”といったオリジナル版と共通の要素を用いつつ、日本のダンサーたちのキレの良さ、舞台の広さを活かしてダイナミックに展開。次々繰り出すこれらのナンバーを、歌いながら無尽蔵のスタミナでこなすキャストが驚異的です。それぞれに躍動しながらも、随所で彼らが見せる一糸乱れぬ同調性は、過酷な環境の中で少年たちが育んだ連帯感を象徴するかのよう。(ニュージーズの実像については、コンパクトな解説資料「NEWSIES TIMES」が劇場ロビーに用意されています。開演までに目を通しておかれると、より理解が深まることでしょう。こちらは主催者より提供いただいたその画像です)

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劇場で希望者に配布される「NEWSIES TIMES」画像提供:東宝演劇部

カラフルなキャラクターたちの中でも、機知に富み、物おじしない人柄でニュージーズの皆から慕われ、絵画という隠れた才能の持ち主でもあるのが、主人公のジャック。演じる京本大我さんには主演俳優に求められる歌唱・ダンス力、芝居心に加え、場を牽引する“カリスマ”が備わり、とりわけ中音域でのニュアンスと安定感あるビブラートが魅力的です。冒頭と1幕最後に歌詞を変えて登場する“Santa Fe”を、“希望”と“失意”という対照的なカラーで歌い分ける表現力も持ち合わせ、今後ミュージカルでのさらなる活躍が期待されます。

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『ニュージーズ』写真提供:東宝演劇部

 

ジャックの親友で足の不自由なクラッチ―を演じるのは、松岡広大さん。ダンスナンバーでは杖と体が一体化した動きで目を奪い、ジャック宛の手紙のシーンでは、一曲の中に悔しさや仲間たちへの思いを濃密に凝縮しています。加藤清史郎さん演じるデイヴィは、両親が健在で帰る家もあるという設定のため、ニュージーズとはやや異質の空気感をもって登場しますが、ジャックたちと行動をともにするうち使命感に駆られてゆく過程が鮮やか。

記者キャサリン役の咲妃みゆさんは、ストライキを記事化することの意義に気づき、わくわくしながらとりかかるナンバー(“Watch What Happens”)での、迸る高揚感が圧倒的。関わり合う中で少しずつジャックに惹かれてゆくさまも丁寧に表現し、女性のメインキャラクターが少ない本作で大きな存在感を示します。ジャックの画才を見出し、少年たちをさりげなく見守るメッダ役、霧矢大夢さんの嫌味の無い色気と才覚あるオーナーのオーラも好ましく、ピュリツァー役の松平健さんは、ニュージーズたちにとっての“大きすぎる敵役”を、風格と“煮ても焼いても食えぬ”曲者感をもって体現。

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『ニュージーズ』写真提供:東宝演劇部

1幕後半、金と権力を笠に着た大人たちはやすやすと少年たちのストライキを潰しにかかりますが、ジャックはスト破りに走った仲間たちに必死に語り掛けます。学校にも行けず、奴隷のように働く子供たちがいる。でも、貧しさは罪ではない。“俺たちが立ち上がれば、世界は変わるかもしれない”、と。

仲間たちの心を揺さぶるこのジャックの叫びには、21世紀になってもなお貧困や児童労働の問題が存在する世界に対する、作り手たちの思いが込められているのかもしれません。そうした社会的メッセージに、コロナ禍を耐え忍んだ日本版のスタッフ・キャストの思いが加わり、決して爽快さだけには終わらない今回の舞台。困難に立ち向かう少年たちの姿に観る者の胸が熱くなり、今日を生き抜くパワーが得られる、まさに“今”という時代に相応しい日本版『ニュージーズ』となっています。

(取材・文=松島まり乃)

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*公演情報『ニュージーズ』10月9~30日=日生劇場 11月11~17日=梅田芸術劇場メインホール 公式HP  

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