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『ガイズ&ドールズ』観劇レポート:素晴らしき哉人生、そしてミュージカル

『ガイズ&ドールズ』写真提供:東宝演劇部

 

華やかに鳴り響く序曲。舞台上の紗幕には“東宝マーク”に続いて本作のキャスト、スタッフの名が次々と映し出されます。

『ガイズ&ドールズ』写真提供:東宝演劇部

 

幕が上がるとそこは大都会、NYの雑踏。3人の男たちがフーガに乗せて喋り(歌い)始めますが、その内容はと言うと競馬予想。“こいつが一番”“天気よければ勝てる”…と自信満々、通りかかった救世軍のサラについても“あんないい女が(布教活動だなんて)もったいない”、などと勝手なことを言い合います。

『ガイズ&ドールズ』写真提供:東宝演劇部

 

やがて現れるのが賭博の取りまとめ役、ネイサン。会場費と婚約者アデレイドへのプレゼント代を捻出したい彼は、大物ギャンブラーのスカイに1000ドルの賭けを持ち掛けます。内容は“俺が指名した女を明日、ハバナに連れて行けるか”。

『ガイズ&ドールズ』写真提供:東宝演劇部

 

スカイは“その気になれば女はよりどりみどり”、と余裕のていで賭けに乗りますが、ネイサンが指名したのは救世軍のサラ、堅物中の堅物です。“迷える罪びと”のふりをして伝道所を訪問したスカイは、たちまち彼女に偽装を見抜かれるものの、“集会に1ダースの罪びとを連れてくるかわりにハバナでディナーを”と申し出。伝道所閉鎖の危機に頭を悩ませるサラを連れ出すことに成功します。

『ガイズ&ドールズ』写真提供:東宝演劇部

 

『ガイズ&ドールズ』写真提供:東宝演劇部

 

旅先ではちょっとした事件が起こり、二人はいいムードに。ところが帰国してみると、あろうことかネイサンたちが伝道所で賭け事に興じています。スカイに裏切られたと思ったサラは憤慨。いっぽう、ナイトクラブのスター、アデレイドは14年にも及ぶネイサンとの婚約期間にそろそろしびれを切らしていますが、一向に進展の気配は無く…。

『ガイズ&ドールズ』写真提供:東宝演劇部

 

フランク・レッサーが作詞・作曲し1950年にブロードウェイで初演、以来世界各国で上演を重ねている名作ミュージカルが、『春のめざめ』『アイランド』リバイバル公演でトニー賞にノミネートされたマイケル・アーデンの新演出で登場。セリや盆舞台を駆使し、一つの建物が劇場にも、伝道所、フラワーショップ、ケーキ店にもなる舞台空間(美術=デイン・ラフリー)の中で、二つの恋模様がテンポよく、躍動感たっぷりに描かれます。

『ガイズ&ドールズ』写真提供:東宝演劇部

 

田代万里生さん(ナイスリー)、竹内將人さん(ベニー)、木内健人さん(ラスティ)の美声の“追いかけっこ”が楽しい冒頭の「ハッタリ屋のフーガ」、現地のエネルギッシュな情景をアンサンブル・キャストがダンスとマイム(振付=エイマン・フォーリー)で次々と描き出し、スカイとサラの高揚感がヴィヴィッドに伝わるハバナ旅行のシーン、 賭博師たちと救世軍の人々がナイスリーの珍妙な夢に乗せられ、息もぴったりに大ナンバーを歌う「座れ、船が揺れる」など、数々の名シーンが目白押し。

『ガイズ&ドールズ』写真提供:東宝演劇部

 

百戦錬磨のスマートなギャンブラーがサラとの出会いによって徐々に心の揺れを見せ、クライマックス「俺のレディ・ラック(幸運の女神よ)」では恋のために全てを賭ける様が痺れるほどに魅力的なスカイ役・井上芳雄さん、品行方正な伝道師ぶりと(ひょんなことから見せる)朗らかな一面のコントラストがチャーミングなサラ役・明日海りおさん。

『ガイズ&ドールズ』写真提供:東宝演劇部

 

ギャンブルの世界では皆から“頼れる男”と一目置かれるも、恋人との関係についてはあと一歩が踏み出せず、その話題になる度逃げてしまう姿が情けなくも人間味あふれるネイサン役・浦井健治さん、その浦井さんとの丁々発止の台詞の応酬が楽しく、この役が陥りかねない“なかなか結婚してもらえない気の毒な女性像”からは程遠く生き生きとしたアデレイド役・望海風斗さん…と、主演の4人のキャラクター造型も最強です。

『ガイズ&ドールズ』写真提供:東宝演劇部

 

接点のなかった男女の間に芽生え、スピーディーに展開してゆく恋と、それとは対照的に停滞中の恋(というか腐れ縁?)。並行して描かれる二つの恋は、周囲の人々を巻き込みながら終盤に美しくクロスし、大団円を迎えます。

『ガイズ&ドールズ』写真提供:東宝演劇部

 

劇中、ナイスリーとベニーが“金じゃないのさ”“すべては好きな女のため”と主題歌「ガイズ・アンド・ドールズ」で歌うように、こと恋が絡むと人生は思いがけない方向に転んで行くけれど、それもまた良し…と、大らかな肯定感に包まれる幕切れ。名作が名作たるゆえん、そしてミュージカルの素晴らしさを改めて感じさせる、2022年版『ガイズ&ドールズ』です。

(取材・文=松島まり乃)
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*公演情報『ガイズ&ドールズ』6月9日~7月9日=帝国劇場、7月16~29日=博多座 公式HP