Musical Theater Japan

ミュージカルとそれに携わる人々の魅力を、丁寧に伝えるウェブマガジン

『グリース』観劇レポート:50年代の無邪気な青春、生き生きとおおらかに

f:id:MTJapan:20211103084426j:plain

『グリース』写真提供:東宝演劇部

抱擁する男女のシルエットから始まる舞台。甘い空気が場内に広がる…と思いきや、二人の会話からは“もう会えない”“これでお別れ”であることがうかがえます。

場面は変わり、ここはシカゴのライデル高校。不良グループのリーダー、ダニーが夏休み中に出会った素敵な女の子の話をしていると、まさにその彼女、サンディが登場。入るはずだった学校と父親が揉めたことで、偶然ダニーと同じ高校に転校することになったのです。

ふわりと広がったスカートをはいた彼女は見るからに“良家の子女”。ダニーとしては仲間たちの手前、彼女との再会を喜ぶわけにはいかず、冷たくあしらわれたサンディは傷つきます。仲間たちのいない場所で、ダニーはサンディに謝りますが…。

50~60年代に北米で注目を集めた、グリースで固めたヘアスタイルに革ジャン、ロックンロールをこよなく愛する若者たち“グリーサー”の世界を描くミュージカルが、久々に日本で上演。10月30日に東京・シアター1010で開幕し、この後、愛知・御園座、東京・シアタークリエ…とツアーが続きます。

71年にシカゴ、翌年NYで上演され大ヒットした作品が描くのは、1958年、シカゴの架空の高校に通う不良少年たち。彼らの青春は半世紀後の2021年、上田一豪さんの演出、カラフルなキャストによっておおらかに再現され、ふんだんなオールディーズに彩られながら特に甘酸っぱく、時に無邪気な高揚感で場内を満たします。

とりわけ2幕のソック・ホップ(当時流行っていたダンスパーティー)では、若者たちのエネルギーが炸裂。ダンス・コンテストが始まるとそれぞれにペアで踊り始めますが、ダニー=三浦宏規さん、チャチャ=髙橋莉瑚さんペアによる、高校生離れした(?!)ダンスが圧巻です。近年の出演作では台詞や歌唱での確かな表現が顕著だった三浦さんですが、本作ではしなやかにしてキレのあるダンスで本領発揮。カウントのぎりぎりまでポーズを“溜める”センスも心憎く、10年、20年に一度の逸材と呼んでも過言ではないでしょう。“スター・ダンサー”の存在が不可欠な諸演目での今後の活躍も大いに期待されます。

f:id:MTJapan:20211103084521j:plain

『グリース』写真提供:東宝演劇部

f:id:MTJapan:20211103084654j:plain

『グリース』写真提供:東宝演劇部

f:id:MTJapan:20211103084736j:plain

『グリース』写真提供:東宝演劇部

芝居の見どころとしては、予期せぬ事態に陥ったリッゾをサンディが励まそうとするくだりでの、サンディ役・屋比久知奈さん、リッゾ役・田村芽実さんの、心を裸にして対峙する姿に見ごたえ。ケニッキー役の有澤樟太郎さん、ドゥーディー役の内海啓貴さんらも“悪友”の連帯感を生き生きと醸し出しています。“日替わりゲスト”的なティーンスターの場面はキャストによってかなりカラーが異なる模様で、この日はトレンディエンジェルの斎藤司さんがそこはかとないおかしみを振りまいて場内を沸かせました。

f:id:MTJapan:20211103084832j:plain

『グリース』写真提供:東宝演劇部

朗らかでノリのいい“You’re The One That I Want”で何ともハッピーな気分に包まれるラストに続き、カーテンコールでは観客も一緒に手振りをする場面も。公式HPの「MOVIE」の項に内海さん、まりあさんが振付を紹介する動画がアップされており、ちらりとでも“予習”をしておくと、さらに楽しい観劇となることでしょう。

(取材・文=松島まり乃)

*無断転載を禁じます
*公演情報『グリース』10月30~31日=シアター1010、11月4~7日=御園座、11月11日~12月5日=シアタークリエ、12月9~12日=新歌舞伎座、12月17~19日=相模女子大学グリーンホール 公式HP