Musical Theater Japan

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柴田麻衣子の連載エッセイ『夢と夢のあいだ』Vol.9 “世界の終わりから21年”

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「世界の終わりから21年」画・柴田麻衣子
西暦2020年。
1ヶ月前に年が明けて、2020年になった。
街やテレビで“2020”を見かける度に、未来を体験しているような不思議な感覚になる。
 
一昨年から昨年、昨年から今年と、ずっと同じ時を刻んでいるはずなのに、2と0を二回繰り返すこのデザインが、未来感を増しているのだろうか。
急にちょっとだけ、未来に飛んできたような感じがして面白い。
まさかこんな時代が来るなんて…
 
子供の頃、従兄弟からノストラダムスの大予言の話を聞いて衝撃を受けた。
それから眠れない夜を何度も過ごした。
人類が滅びるその瞬間はどんな感じなのだろうと想像する。
みんな一緒に一瞬で消えるならそれはそれでいいのかも、とも思いながら、やっぱり怖くて眠れなかった。
 
私の人生は中学一年生で終わってしまうのか。
中学生といったって、まだずっと先のことだったけれど。
目の前で眠る両親は、学生時代青春を過ごし、大人になって、結婚して、子供を育てて、それまでの人生を経験できたなんて羨ましいと思っていた。
 
それと同時に、不思議と私は、心のどこかで少しほっとしていたのを覚えている。
中学生と言ったら、このまま小学生を何年か過ごし、卒業して入学する。
そのレールの上を進んでいくだけ。
その頃の私にとって、世界は未知で、途方もなく大きいものだった。
大人になって、そんな世界に飛び出していかなければいけないことが、不安でならなかった。
でも、私の人生はそのレールの途中で終わってしまうはずだったのだ。
 
1999年7月。
ノストラダムスの大予言は、外れた。
 
私の人生は中学一年生で終わることなく、大人になるためのレールを進むことになった。
中学を卒業し、高校に進学して、深く考えることもなく大学を受験した。
大学に入ると、子供の頃恐れていたことがだんだんと近づいてきているような気がして、学生生活を周りの人と同じように楽しめなかった。
 
そして、大学卒業を目前にして、それまで敷かれていたレールが突然なくなると、漠然とした不安に襲われ、大人になることを先延ばしにしてしまった。
 
拠るべきものが何もなくなった私とこの世界を、微かに繋ぎ止めてくれたのが演劇だった。
 
演劇を作っていて面白いことの一つは、沢山の人生、時代に出会えること。
歴史に名を残した偉人と向き合うこともある。
どれだけの偉人だって、その役を演じる役者と、演出家と、自分と、他の誰かと、繋がるところが見つかってくる。
その時代を生きた人々と、今を生きる自分たちと、繋がるところが見つかってくる。
繋がると、自分の世界が少し広がったような気がする。
途方もなく広く不安に感じていた未知の世界は、縦にも横にも繋がって、少しずつ私の世界に見えてきた。
 
得体の知れない世界に勇気を出して飛び出すことはできなかったけれど、演劇という道を自分なりに歩み続け、少しずつ世界を広げることができてきたのかもしれない。
 
あれから21年。
あの頃には予想もしてなかった2020年に生きている。
ノストラダムスの大予言を信じていた私にとって、2020年はあり得ない未来の時代だ。
あの時、人類が滅びると思っていた私にとって、今の私は未来人。
そう思うと、自分が物語の登場人物になった気分になる。
 
2030年。2040年。
こう書いてみるだけで、本当にそんな時が訪れるの?と思ってしまう。
私にとってますます非現実な、未来の数字。
自分が生きていようがいなかろうが、きっとその時は来るだろう。
誰にも予言できない未来。
 
この世界の小さな小さな一片に過ぎない私が、自分の世界を広げ繋がっていく。
 
2020年代を舞台にして、私たちはどんな物語を紡いでいくのだろうか。
この物語は、子供たちの物語へと続いていく。
その物語に、希望を残せる大人になりたい。
 
(文・挿絵=柴田麻衣子)
*無断転載を禁じます

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柴田麻衣子 愛知県出身。早稲田大学在学中に劇団TipTapの旗揚げ公演「Flag of Pirates」に参加。それ以降、俳優として参加。劇団解散後、プロデュースユニットとしての活動では美術・制作を担当。「Count Down My Life」よりプロデューサーとして作品のプロデュースを担いながら、作品のプロダクションデザインを手がけている。舞台美術家としても活動しており、主な参加作品に「Working」、「幸せの王子」(映画演劇文化協会)、「Sign」(ミュージカル座)などがある。(画・上田一豪)