Musical Theater Japan

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柴田麻衣子の連載エッセイ『夢と夢のあいだ』Vol.13「誠に勝手ながら…」

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「誠に勝手ながら…」画・柴田麻衣子

 

数年前から毎年、年末に公演を企画するようになった。
いつもはオリジナル作品を上演しているTipTapだけれど、年末の企画では、海外作品をワークショップ公演として上演してきた。
まだ日本では上演されていない海外の埋もれた良作を知ってもらおうという企画で、開演前には演出家のプチ解説から始まるなど、ちょっと変わった雰囲気の公演だ。
ここで紹介した作品が、どこかの敏腕プロデューサーの目にとまり、大きな舞台で上演することになったら夢があるなあ、なんて思っている。
何と言ってもオリジナル作品ではないので、自分たちの作品を作り上げる時とは全く違う挑戦ができるのも楽しみのひとつだ。

年末の公演で、楽しみなことがもうひとつある。
いや、最近はその楽しみが目的で年末に公演を企画していると言っても過言ではないかもしれない。
公演の終了後、空っぽになった劇場で開催するTipTap大忘年会だ。
この大忘年会がなかなかいい時間なのだ。

その時の公演だけでなく、その年にご一緒した方々、これまでご一緒した方々、上田の演出作品に出演された方々やスタッフなど、出来るだけ沢山の方に声をかける。
セットがなくなっただだっ広い劇場に、50名以上の方が入れ替わり立ち替わり参加するので、同窓会のようでもあり、交流会のようでもあり、とても賑やかな会になる。

縁起物のソーラン節を舞ってくださる方がいたり、劇団員が渾身のコントを披露したりする。
飛び入りの余興コーナーや、音響照明付きの豪華なカラオケが始まったりもする。
最後にはみんなで記念撮影をして一年を締めくくる。

思い返せば、劇団時代からTipTapは寒い時期に公演することが多かった。
真冬の外練で、寒さに震えながら、上田の長い長いダメ出しを聞かなければいけないのは今でも大変な思いでとして残っているけれど。
それでも人恋しくなるこの季節に、公演があることは嬉しかった。
特にクリスマスシーズンに上演する公演は特別な気がしていた。
ロビーにクリスマスツリーを飾ったり、開場中にクリスマスソングをかけたりするのも素敵だし、単純に“クリスマス公演”という響きにワクワクしてしまう。

3年前の年末、海外作品『High Fidelity』のワークショップ公演とテレビ番組の企画を同時進行していたことがあった。
毎日家に帰り着くのが24時過ぎで、家族とクリスマスを過ごすこともできなかった。
でもその公演で、そんな苦労を吹き飛ばしてくれる素敵なプレゼントをもらったことを覚えている。
公演を観劇されたお客様からいただいた言葉だ。
「この舞台が僕の今年の観劇納めです。今年最後の舞台がこの舞台でよかったです!」
この言葉は、私にとって最高のクリスマスプレゼントになった。

その言葉がきっかけで、私は誠に勝手ながら“観劇納めのプレッシャー”を感じながら年末公演を制作するようになった。
その年の最後に観た舞台で素敵な時間を過ごせたら、いい一年だったなあーと思えるような気がするからだ。
自分たちの舞台を観てそんな風に思っていただけたら、なんて光栄なことだろうと思うのだ。

今年は12月に新作を上演予定だ。
情報解禁した時に、ツイッターで「年末といえばTipTap!」とツイートしてくださっているのを見かけて、とっても嬉しかった。
今年は12月12日に千秋楽を迎えるので、この舞台が観劇納めになる方はそんなに多くないかもしれない…
それでも!私は誠に勝手ながら例のプレッシャーを感じさせていただき、今年も良い一年だったなあーと思えるような公演になるよう精一杯制作したいと思っている。

今年は新作のオリジナルミュージカル。
自分たちの作品が皆様にとって、コロナ疲れを癒すクリスマスプレゼントになることを願っている。

(文・画=柴田麻衣子)

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柴田麻衣子 愛知県出身。早稲田大学在学中に劇団TipTapの旗揚げ公演「Flag of Pirates」に参加。それ以降、俳優として参加。劇団解散後、プロデュースユニットとしての活動では美術・制作を担当。「Count Down My Life」よりプロデューサーとして作品のプロデュースを担いながら、作品のプロダクションデザインを手がけている。舞台美術家としても活動しており、主な参加作品に「Working」、「幸せの王子」(映画演劇文化協会)、「Sign」(ミュージカル座)などがある。(画・上田一豪)