Musical Theater Japan

ミュージカルとそれに携わる人々の魅力を、丁寧に伝えるウェブマガジン

2020年1月のミュージカルPick Up

謹賀新年、本年もMusical Theater Japanは、皆様の“ミュージカルのある日常”がより充実したものとなりますよう、選りすぐりの取材記事をお届けして参ります。どうぞお楽しみに!
 
【1月の“気になる”ミュージカル】
『bare』1月30日開幕
 
【別途特集のミュージカル(上演中・これから上演)】
『パリのアメリカ人』←石橋杏実さん・宮田愛さんインタビュー/『ドリームガールズ』来日公演←上海公演観劇レポ・キャストインタビュー・舞台裏探訪/『フランケンシュタイン』←中川晃教さん、加藤和樹さんインタビュー、観劇レポート/『シャボン玉とんだ宇宙までとんだ』←土居裕子さんインタビュー、観劇レポート/『デスノートTHE MUSICAL』←甲斐翔真さん、パク・ヘナさんインタビュー/『CHESS』←ラミン・カリムルーさんインタビュー/『アナスタシア』←葵わかなさん、内海啓貴さん、麻美れいさんインタビュー/『ボディガード』←演出家インタビュー
 
高校生たちの“愛と苦悩”が胸を衝くミュージカル『bare』
 1月30日~2月9日=草月ホール 公式HP

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『bare』
カトリックの高校を舞台に性とアイデンティティに揺れる若者たちを描き、2000年にLAで初演。日本では原田優一さん(『ミス・サイゴン』『マリー・アントワネット』)演出で14年、16年に上演された『bare』が再び登場します。作品の様々な側面の中から、今回は“一度聴いたら忘れられない”と多くの人々を虜にしている音楽(デーモン・イントラバルトーロ)に注目。多彩な出演者の中から、ミュージシャンでもある田村良太さん(ピーター役)、作曲家でもある林アキラさん(神父役)に、本作の音楽の魅力をたっぷり語っていただきました。
 
【あらすじ】全寮制のセント・セシリア高校の生徒ピーターには、学校一の人気者ジェイソンと愛し合っているという秘密があった。その愛をさらけ出したいと願うが、ジェイソンは社会の目を恐れ、美形の女子アイヴィと急接近。シスター・シャンテルの指導のもと学内で演劇『ロミオとジュリエット』に参加する生徒たちそれぞれの思いが交錯する…。
 
【田村良太・林アキラインタビュー:主人公たちの不安定な内面が鮮やかに音楽化されています】

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田村良太 東京都出身。13年『レ・ミゼラブル』マリウス役で舞台デビュー。以降『プロパガンダ・コクピット』『Before After』『in touch』等に出演、音楽活動も行う。林アキラ 静岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒。1981年から4年間「おかあさんといっしょ」にうたのおにいさんとして出演。その後はミュージカル(『レ・ミゼラブル』『回転木馬』等)を中心に俳優、歌手、作曲家、歌唱指導と多岐にわたり活動している。©Marino Matsushima
――田村さんは今回、3回目の出演ですね。本作にこれほど惹かれる理由とは?
田村「たくさんあるのですが、一番大きいのは、人の心に響く作品であることですね。キャラクターの心が揺れ動き、それをお客様が受け止めて下さるところがいいなと思っています」
 
――林さんは初出演ですが、本作のどこに魅力を感じましたか?
林「オファーをいただいて作品について調べてみたら、音楽的にも衝撃を受けましたし、これまで私は『レ・ミゼラブル』司教とか『MA』ローアン大司教といった聖職者の役をいただくことが多かったけれど、今回の神父役は現代の聖職者で、これまでとは全く違う面があるのが興味深く感じました」
 
――田村さん演じるピーターが神父に相談する終盤の場面は大きな見どころですね。
田村「とても複雑な状況で神父様のもとに行くのですが、ある意味ピーターの成長が描かれているし、神父の別の一面が見えるシーンでもあって面白いと思います」
林「神父は本音と建て前的なところを含めてものすごい葛藤があり、終盤のある意味キーパーソン。私の出した結果がすべてを持って行ってしまうので、ものすごくつらいです(笑)。寛大である、でも聖職者としての立場もある。その葛藤を静かな流れの中で出せれば、と思っています」
 
――海外では“若者たちの通過儀礼のミュージカル”と称されることもある本作ですが、そうとらえると、この物語はピーターの目線の物語なのですね。
田村「そうですね。ピーターの夢、悩みから始まって、彼の一人称の中にジェイソンという絶対的な存在がいて、いろいろな人々が絡んで皆壊れていく、という…。今回も物語に、目の前の相手に誠実に、嘘のない芝居にしていきたいです。高校生同士の繊細なやりとりだったり、宗教に関する繊細な部分が中心の作品なので、丁寧にやっていきたいと思います」
林「稽古を見ていると、田村さんはその場その場で感じる空気をキャッチしてピュアなお芝居をされているなぁと思いますね。だからこそ、終盤の絡みがつらいです(笑)」
 

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『bare』稽古より。ピーター(大久保祥太郎 ダブルキャスト)(C)Marino Matsushima
――音楽的にはどんな特徴がある作品でしょうか?
林「まず、音の重ね方が特徴的ですね。“テンション・コード”を使うんですよ。例えば“ド・ミ・ソ”という(調和のとれた)和音に、“ラ”のような、ぶつかるような音が加わっています。歌うのはそのテンションの音で、伴奏は“ド・ミ・ソ”の方。そういう箇所が本作には結構多くて、とても面白いんです。その瞬間は“うわ”、と思うけれど、トータルで聴いていくと快感になっていく…(田村さんに)ってならない?(笑)」
田村「なります。稽古をしていくうちに“これが正解なんだな”とやっと思えたり、とか」
林「あと、本作は台本の“?”や“…”の部分まで、すごくよく表現されています。次のシーンに向かっていくときの行間のようなものまで、ロックのスコアにうまく書き込まれている気がします。でも初めて歌ってみたときは自分の歌う部分が掴みづらくて“これであっているのか?”という感覚になったりもしました」
田村「そういう意味で言うと、M23の“See Me”(母親との電話のナンバー)ってすごく覚えづらいんですよ。拍子が4分の4から4分の3に変わって、一小節だけ4分の2を挟んでまた4分の4に戻って…という感じで。もしかしたら(演じる人物の)焦りとかを表現しているのかなと思いますが、いまだに考えながら歌っています。自分の音楽活動の時には4分の4のような割り切れる拍子を歌うことが多くて、その中にちょっと変拍子が入ってくるのは気持ちいいのですが、これだけ頻繁に変わるといつもと違う頭の使い方をしますね」
林「気持ちの流れに(変拍子が)はまればふっと入り込めるのだろうけれど、それが難しいんだよね」
 
――クラシックの楽曲だとこれほど頻繁な変化はあまりないでしょうか?
林「もちろんクラシックでも、近現代の作品であれば見られるテクニックで、必然性があるかどうかですよね。僕も作曲をするときに、ちょっと不安定な気持ちを表現するのにきれいにおさまるのはちょっと違うな、ということで工夫したりはします。『ミッション・インポッシブル』のテーマって5拍子なんですけれど、何ともいえないスリリングな感じがするじゃないですか。そういう(拍子の使い方における)工夫が本作にはたくさんちりばめられています。当時20代の若きアンドリュー・ロイド=ウェバーが『ジーザス・クライスト=スーパースター』で技巧の限りを尽くしたように、この作品の作曲家デーモン・イントラバルトーロも自分の中から溢れるものを注ぎ込んでいるように感じます」
田村「林さん、この作者は理論を持って作ったと思いますか?それとも感情のままに作って後から調整したと思いますか?」
林「自然に出てきた勢いみたいなものを感じますよね、計算してできたものじゃないような気がするんです」
 

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『bare』稽古より。シスター・シャンテル(北翔海莉)(C)Marino Matsushima
――“巧さ”を感じた曲はありますか?
田村「さきほど挙げた“See Me”は凄いなと思いましたね。ほとんどの曲がロック寄りの中で、この曲はクラシックではよくある変拍子だけどポップスではないので、意表を突かれる。この作曲家はポップスだけでやってきた人ではないんだな、と感じます」
 
――序盤の“You and I”でコーラスが“Jason”を連呼する部分は、シンプルですが非常にインパクトがあるように感じます。
林「シーンと音楽がうまく合体しているリフレインですよね。五線譜の上で展開するというより、シーンとして脳内に残るのが本作らしいと思います」
田村「リフレインといえば、ピーターはM3の“Role of a Lifetime”という曲で自分の悩みを吐露するのですが、そのモチーフが終盤、神父様に自分の考えを伝えるときにも出て来るんです。いろいろなことがあった後でのリフレインなので、感慨深いです」
 
――今回は何人編成バンドですか?
林「4人ですね。こういう作品だと、人数より、アレンジを含めて、いかに言葉とキャッチボールができるかというところが大事。それぞれの楽器の主張するものが僕らの芝居を煽ってくれる部分もあるので、どんな演奏になるか楽しみですね」
田村「これまでの二回の公演でも、バンドが入るとぐっと気分が上がるんです。ロックミュージカルの良さですよね。今回もバンドとキャストのテンションが絡み合っていい舞台になるといいなと思いますし、稽古場での(音楽監督・桑原)まこちゃんのピアノが素晴らしいんですよ。盛り上げどころもわかりやすいし、メッセージを飛ばしてくるピアノなんです」
林「楽譜上でこういう音符や記号だから、というのではなく、シーンとしてこういう音を狙いたいというのがすごく的を得ていらっしゃるので、要求になんとかこたえたいと思ってしまいます」
 

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『bare』稽古より。演出・原田優一
――作品について、に戻りますが、本作は高校生たちがメインのお話で、読者の中には自分の世代には関係がないように感じる方もいらっしゃるかもしれません。
田村「学生たちの悩みは普遍的なことで、共感できる部分が多いように思います。例えば、本当の自分をさらけ出して日常生活を送っているかというと、夫に言えないこともあるでしょうし、自由に輝いている人ばかりじゃないんじゃないかな。僕自身、演じる役の倍の年齢で(笑)、共感できる部分もあるので、大人のお客様にもぜひご覧いただきたいです」
林「様々な“マイノリティ”が描かれている作品だと思いますが、上演国に関わらず、偏見といったものがあるなかで、生きる価値観をどこに置くか。ご覧になった後で話したり考えていただくきっかけになったら嬉しいですね。本作の一番最後の曲は、先ほどお話したように“…”がすごく伝わってくる終わり方なんですよ。ピリオドを打っていない。そこで“??”と感じたことを、帰り道に考えてみていただけたらと思います」
田村「初演、再演の時も、最後の“…”の後、客席の静寂がとても印象的でした」
林「この終わり方は作者たちの間であれこれ議論したかもね」
田村「そうかもしれないですね。ぜひ皆さんにも体験していただきたいです。あと、ピーターの夢の中で、アキラさんのチャーミングな姿が登場します。ぜひそこも楽しみにしていてください(笑)」
 
(取材・文・撮影=松島まり乃)
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