Musical Theater Japan

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柴田麻衣子の連載エッセイ『夢と夢のあいだ』Vol.7 “工作お母さん”

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「工作お母さん」画・柴田麻衣子

娘が今年から幼稚園に通い出した。
その幼稚園には「クラブ」と呼ばれる学童のようなものがついていて、幼稚園の時間が終わった後も夕方まで子供たちをみてくれる。
クラブの時間は、ほとんどが子供たちの自由時間で、みんなそれぞれ好きなことをやっているようだ。
 
娘は工作が大好きで、毎日のようにクラブで工作した物を持ち帰ってくる。
幼稚園が夏休みの時は、朝から夕方までずっとクラブの時間なので、工作できる時間も長かったのだろう。
毎日大量の作品を作り上げていた。
 
お迎えに行くと、両手いっぱいに作った物を抱えて近づいて来て、一つずつその日の作品たちの説明が始まってしまうのでなかなか帰れない。
 
ある日、牛乳パックを5個ほどくっ付けてできている大きな銃みたいな物を抱えて帰ってきた。
「オバケが出てきたら、ここを押して、ここからビーーーー!ってでて、オバケを倒すんだよ!」と説明してくれた。
オバケ退治のために娘が作ったそれには、首にかける紐まで付いていて、私には“ゴーストバスターズのプロトンパック(バスターズが使用するレーザー装置)”そっくりに見えた。
 
次のお休みの日、娘とTSUTAYAに出掛けた。
まだ娘には早いかなと思いつつ、映画『ゴーストバスターズ』を借りに行くことにしたのだ。
 
私はDVDを見つけると、「これ、クラブで作ってきたのと一緒でしょ?オバケを倒すやつ」と言って、本物のゴーストバスターズが抱えるプロトンパックを指して見せてみた。
娘は少しの間じっと見つめて、「本当だ!一緒だ!」と喜んだ。
 
家に帰って早速、娘と映画を見た。
『ゴーストバスターズ』を観るのは十数年振りだ。
それでもあのテーマ曲が流れると、懐かしさで満ち満ちて、胸が踊る。
娘は少し怖がりながらも、ゴーストが出てくると、自作の“プロトンパック”を握りしめ、最後までちゃんと観ることができた。
 
映画を観終わると、娘と私は、映画に出てきたゴーストを思い出しながら、紙皿と画用紙で体と手を作り、ペットボトルの目をつけて、ゴースト達を作った。
そして、iPhoneであのテーマ曲を流しながら、“ゴーストバスターズごっこ”をしたのだ。
 
私の大好きな映画のひとつに、『僕らのミライへ逆回転』という映画がある。
レンタルビデオ店の店員と、その幼馴染が、オーナーの留守中に店のビデオの映像を消してしまい、慌ててホームビデオでハリウッド映画のリメイクを製作するというコメディだ。
 
映画『ゴーストバスターズ』をリメイクするシーンもあるのだが、彼らの作る“手作り感満載のゴーストバスターズ”は遊び心が詰まっていて、微笑ましく面白い。
 
子供の頃、金曜ロードショーを録画して何度も観た『ゴーストバスターズ』を、娘と工作したもので再現する楽しみは、『僕らのミライへ逆回転』のそのシーンとも重なって、とても嬉しかった。
 
思い返すと、私も子供の頃、母とよく工作をしていた。
母は幼稚園の先生なので、“季節の工作”に詳しかった。
毎年、季節毎に一緒に工作をしたのが懐かしい。
 
クリスマスに家に飾るリースは、新聞紙を捻って輪を作り、色を塗ったどんぐりやリボンを飾りつけた手作りのリースだった。
お正月にはゴミ袋と竹ひごで凧を作り、節分には折り紙で枡を作って豆を入れた。
身近にあるものを工夫して、物を作る楽しみは母に教わった。
 
小劇場で演劇を作っていると、その楽しみで溢れている。
簡単には手に入れられない物が必要な時がある。
予算が少ない中、手に入る物を使って、なんとか“それっぽく”なるよう工夫しなければいけない。
美術デザインを考える時だって、沢山の制約の中で、“工夫のしがい”を楽しむのが醍醐味だ。
大変なことも多いけれど、どんなに大変でも自分たちなりに遊び心を織り込みながら作っていくと、それはきっと観る人に伝わって、魅力的な舞台になると思っている。
 
今年、定年を迎える母は、長く務めた「幼稚園の先生」という仕事を退職する。
仕事が忙しく、子供の頃は寂しい思いをすることも多かった。
だけど、忙しい中でも、私と妹に季節を楽しむ心や、工夫して物を作る楽しみを身に付けてくれた。
今、自分が娘の母親となり、舞台を作る者として、母にはとても感謝している。

(文・画=柴田麻衣子)
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柴田麻衣子 愛知県出身。早稲田大学在学中に劇団TipTapの旗揚げ公演「Flag of Pirates」に参加。それ以降、俳優として参加。劇団解散後、プロデュースユニットとしての活動では美術・制作を担当。「Count Down My Life」よりプロデューサーとして作品のプロデュースを担いながら、作品のプロダクションデザインを手がけている。舞台美術家としても活動しており、主な参加作品に「Working」、「幸せの王子」(映画演劇文化協会)、「Sign」(ミュージカル座)などがある。(画・上田一豪)