男性版『スワン・レイク』等でダンス界に革命をもたらしたマシュー・ボーンの振付作品に多数出演、甘いマスクと豊かな表現力で日本でも多くのファンを持つリチャード・ウィンザー。最近は英国BBCの人気ドラマに出演、俳優としての名声も確立している彼が昨年から主演しているのが、ミュージカル『サタデー・ナイト・フィーバー』です。
ジョン・トラボルタのセクシーなディスコ・ダンスが世界的現象を巻き起こした映画は過去にも舞台化されていますが、今回は映画公開40周年を記念した新プロダクション。映画版のプロデューサー、故ロバート・スティグウッドを師と仰ぐビル・ケンライトが製作と演出を兼ね、自らリチャードに主演を打診して18年、開幕しました。
英国各地を巡演してきた舞台は、12月に来日が決定。英国ツアー終盤の某日、サウス・ハンプトンでの舞台の模様を、リチャードへのインタビューとともにレポートします!
華やかさと現実が交錯する、ドラマティックなダンス・ミュージカル
夏の終わりのこの日、英国ツアー中の『Saturday Night Fever』が上演されたのはサウス・ハンプトン。ロンドンから南西方向に鉄道で2時間、タイタニック出港の地としても知られる港町です。
開演時刻直前、老舗の大劇場Mayflower Theatreには、30代から40代を中心としたカップルが続々訪れ、2200あまりの客席はほぼ満席に。誰もが聴いたことがあるであろうビージーズの「ステイン・アライブ」のイントロが流れ、場内はたちまち高揚感に包まれます。
NYはブルックリン、低所得の若者たちにとって楽しみと言えば週末のディスコ通いとナンパだけ、という状況を示唆するオープニングに、ペンキの缶をぶらさげて颯爽と現れる人影。彼が女性たちの憧れの的であることは、演じるリチャード・ウィンザーの抜群の身のこなしから一目瞭然です。
物語はこの主人公、トニーが冴えない日常から抜け出そうと、高額賞金の出るダンス・コンペに挑む姿を描きますが、安易なサクセスストーリーに終わらず、当時の貧困層の厳しい現実、家族や男女間の新旧の価値観の衝突など劇的要素もちりばめられ、なかなかの噛み応え。かと思えばめくるめくダンスシーンも次々に登場し、純粋にダンスを楽しみたい層、演劇的な要素も求めたい層いずれのニーズにも応える作りとなっています。
またマシュー・ボーン振付作品の常連としてリチャードを知る人にとっては、もごもごとしたブルックリン訛りを貫き、自信たっぷりと見えて実は虚無感に苛まれ葛藤する主人公を骨太に演じる彼の役者っぷりは、嬉しい驚きでしょう。もちろんそのダンス力も大いに発揮され、ジョン・トラボルタスタイルを踏襲したセクシーなソロ・ダンス、社交ダンス的な優雅さとキレが共存したデュエット、トニーの苦悩が表現される終盤のコンテンポラリーなソロ・ダンスも見どころとなっています。
英国では幕間にロビー併設のバーで一杯傾けるながらお喋りする人が大多数ということもあり、二幕の客席はさらにリラックス。主人公が着替えをする場面では、リチャードがシャツを脱いで引き締まった上半身を見せた途端、黄色い歓声が上がります。
そして終幕に続きビージーズ・サウンド満載のカーテンコールが始まると、誰もが自然に立ち上がり、劇場全体がディスコ化。ビージーズ役のハイ・トーン・ヴォイスが響くなか、冷房が効いていたはずの場内が熱気に包まれます。70‘sディスコ・カルチャーをリアルタイムでは知らなかった世代も含め、誰もがその魅力を“再発見”し、堪能できた一夜となりました。
トニー役・リチャード・ウィンザーインタビュー:カーテンコールではぜひ一緒に!
翌日、開演前の楽屋にトニー役のリチャードを訪問。ツアーの間、お供をしている⁈愛用の自転車を壁にかけた部屋でお話を伺いました。
――本作にはどんな経緯で関わることになったのですか?
「BBCのTVドラマ『Casualty』に出演していた僕を観て、プロデューサーが“君の演技が気に入った。『サタデー・ナイト・フィーバー』を新たに舞台化したいのだけど、出てくれないか?”と電話してきてくれたんです。映画版は大好きだったし、(本作は以前にも舞台化されたことがあるが)今回は華やかさだけでなく、映画版で描かれていた生々しい部分もしっかりと描くということで興味を持ち、参加することにしました」
「BBCのTVドラマ『Casualty』に出演していた僕を観て、プロデューサーが“君の演技が気に入った。『サタデー・ナイト・フィーバー』を新たに舞台化したいのだけど、出てくれないか?”と電話してきてくれたんです。映画版は大好きだったし、(本作は以前にも舞台化されたことがあるが)今回は華やかさだけでなく、映画版で描かれていた生々しい部分もしっかりと描くということで興味を持ち、参加することにしました」
――イタリア系のニューヨーカーであるトニーを演じるにあたり、どんなアプローチをしましたか?
「70年代のニューヨークの労働者たちの状況について調べる中で、きれいごとではない、大変な環境だったことがよくわかりました。そんな中で生き抜いているトニーははじめ、いわゆる好青年ではなく、他人、特に女の子たちに対して尊大で、ナイスとは言えない部分もある。それでも感情移入できる、愛される主人公として演じるのは大変だな、と思いましたが、映画版のジョン・トラボルタはそのあたりがとてもうまいんです。大いに参考にさせてもらいました」
「70年代のニューヨークの労働者たちの状況について調べる中で、きれいごとではない、大変な環境だったことがよくわかりました。そんな中で生き抜いているトニーははじめ、いわゆる好青年ではなく、他人、特に女の子たちに対して尊大で、ナイスとは言えない部分もある。それでも感情移入できる、愛される主人公として演じるのは大変だな、と思いましたが、映画版のジョン・トラボルタはそのあたりがとてもうまいんです。大いに参考にさせてもらいました」
――振付は日本にも来日した『TOP HAT』のビル・ディーマー。以前、彼に取材した時“自分の強みはいろいろな時代の振りをバランスよく体得していること”とおっしゃっていましたが、彼の振付はいかがですか?
「映画版の振りを極力生かしてくれているのが、映画版のファンとしてはとても嬉しいです。終盤のソロ・ダンスには僕のアイディアも取り入れてくれ、楽しく仕事が出来ましたね」
「映画版の振りを極力生かしてくれているのが、映画版のファンとしてはとても嬉しいです。終盤のソロ・ダンスには僕のアイディアも取り入れてくれ、楽しく仕事が出来ましたね」
――トニーは出ずっぱりで、ダンスナンバーもとても多く、観客的には嬉しいのですが、演じる側としては…。
「疲れますよ!(笑)」
「疲れますよ!(笑)」
――マシュー・ボーン作品の時よりも?
「もちろん。というのは、『スワン・レイク』などは20分間集中すればよかったけれど、本作では幕開けから最後まで、ずっとストーリーを牽引しながらトニーに集中しなければなりません」
「もちろん。というのは、『スワン・レイク』などは20分間集中すればよかったけれど、本作では幕開けから最後まで、ずっとストーリーを牽引しながらトニーに集中しなければなりません」
――開幕からずっとお一人で演じている、と聞きました。
「代役もいるのですが、今まで彼にやってもらったのは3回だけ。あとの数百回は自分で演じています。どうやってエネルギーを維持するか、ですか? やはり健康的な生活ですね。ヘルシーなものを食べて、たっぷり睡眠をとる。それがベースになっています」
――本作ではこれまでにない、“役者”としてのリチャードさんが堪能できますが、もともとはダンサーというより役者として出発されたのですね。
「ええ、まず演劇を学び、その後にダンス・スクールに行ったのです。最近は前述のドラマのようにTVや映画での活動も並行していて、そろそろまたマシュー・ボーンの作品にも出たいなと思っていますが、ジャンルに縛られず、いつも興味を持った作品に取り組んでいきたいです」
「ええ、まず演劇を学び、その後にダンス・スクールに行ったのです。最近は前述のドラマのようにTVや映画での活動も並行していて、そろそろまたマシュー・ボーンの作品にも出たいなと思っていますが、ジャンルに縛られず、いつも興味を持った作品に取り組んでいきたいです」
――本作ではほんの少し歌っていらっしゃいますが、歌うことはいかがですか?
「好きですよ。本作では、主人公はあくまで踊りを通して自分を表現する人物なのでほとんど歌わないけれど、機会があればもっと歌う作品にも。やってみたいミュージカルや役? 『ウェストサイド・ストーリー』のリフとか、いろいろあります」
「好きですよ。本作では、主人公はあくまで踊りを通して自分を表現する人物なのでほとんど歌わないけれど、機会があればもっと歌う作品にも。やってみたいミュージカルや役? 『ウェストサイド・ストーリー』のリフとか、いろいろあります」
――それはぜひ!でもその前に、『サタデー・ナイト・フィーバー』での12月の来日が楽しみです。
「僕もですよ!日本は文化、人、食べ物…。何をとっても素敵で、これまで6回行ったことがあるけれど、いつも楽しい滞在でした。今回は初の冬の来日なので、どんな体験が出来るか、そして本作を皆さんがどう受け止めてくれるか、非常に楽しみです。カーテンコールはぜひ一緒に踊りましょう!」
「僕もですよ!日本は文化、人、食べ物…。何をとっても素敵で、これまで6回行ったことがあるけれど、いつも楽しい滞在でした。今回は初の冬の来日なので、どんな体験が出来るか、そして本作を皆さんがどう受け止めてくれるか、非常に楽しみです。カーテンコールはぜひ一緒に踊りましょう!」
…と、本作の振りを少しだけやってみせてくれたリチャード(動画メッセージを特別にいただきました!)。来日公演では卓越したダンスとともに、ミュージカル俳優としての新たな顔で私たちを魅了してくれることでしょう。
(取材・文・撮影=松島まり乃)
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