Musical Theater Japan

ミュージカルとそれに携わる人々の魅力を、丁寧に伝えるウェブマガジン

『ドリームガールズ』岡田浩暉インタビュー:“僕オリジナルのソウル・ミュージック”を目指して

岡田浩暉 群馬県出身。91年にバンド「To Be Continued」としてデビューし、94年シングル「君だけを見ていた」が50万枚を超えるヒットに。『もしも願いがかなうなら』を皮切りに多数のテレビドラマ、映画に出演。ミュージカルでも『レ・ミゼラブル』(マリウス役)『エリザベート』(フランツ・ヨーゼフ役)『ファントム』(キャリエール役)『next to normal』(ダン役)等で活躍している。©Marino Matsushima 禁無断転載

 

アメリカの音楽業界を活写しながら、スターを目指す女性たちの栄光とその後をドラマティックに描く『ドリームガールズ』。意外にも今回が初の日本キャスト版となる公演で、主人公たちがバックコーラスとして関わるスター歌手ジェームズを演じるのが岡田浩暉さんです。

歌の途中で失神してしまうほど破天荒なスタイルで一世を風靡するも、実は葛藤を抱えているジェームズ。ミュージシャンとして芸能界デビューした岡田さんは、彼のどんな部分に共感しているでしょうか。また、日本語でソウル・ミュージックを歌うためのアプローチとは? 近年のご活躍を含め、たっぷりとお話いただきました。

【あらすじ】1960年代のNY。歌手を目指してオーディションに挑むディーナ、エフィ、ローレルの3人は、カーティスという野心的な男と出会い、彼のマネジメントでスター歌手ジェームズのバック・コーラスをつとめる。やがて「ザ・ドリームズ」としてデビューが決まるが、カーティスはずば抜けた歌唱力を持つエフィから、最も美しいディーナへとリード・ボーカルを変更。カーティスと恋仲になっていたエフィは衝撃を受け、グループを脱退する。デビューしたザ・ドリームズはスターへの階段を上ってゆくが…。

『ドリームガールズ』

 

――岡田さんはまず、映画版で『ドリームガールズ』と出会われたのですね。

「ええ、僕は映画から入りました。(主人公たちのモデルと言われる)シュープリームスを知っていたものですから、彼女たちの歩みを見ているかのような、本当にリアルな感じで見られました。すごく楽しかったですし曲もよかったし、大好きなエディ・マーフィーがあんなに歌えるんだと知ってびっくりもしました。

稽古が始まる前に演出の眞鍋卓嗣さんを囲んでリモート会議のようなことがあったのですが、その時に眞鍋さんが、先行きが不透明な今の日本にあって、舞台をご覧になった方が“まだ頑張れる”という気持ちになる作品にしたいんです、とおっしゃいました。公民権運動が盛んだった60年代アメリカの時代背景についても、(基礎知識を)共有したうえで作って行きましょう、と。お客様にそういったエネルギーが届く舞台になるといいなと思っています」

――60年代の時代感というのは、どの程度表現されそうでしょうか?

「セットについてはかなり表現されるようですが、肌を塗るといったことはしないと思います。人間として抑圧された部分、認められない世界というのは俳優それぞれが学びながら滲みだして行くというか、台詞や芝居の中で出していけると思うので、そこはトライしていきましょうと眞鍋さんはおっしゃっています」

製作発表で抱負を述べる岡田さん。©Marino Matsushima 禁無断転載

 

――今回演じるスター歌手のジェームズについて、岡田さんはどの程度共感されますか?

「僕もミュージシャンとしてデビューしたので、彼の気持ちはよくわかりますね。To Be Continuedというバンドをやっていて、はじめはポップチャートに入るためにどうしたらいいかということを考えましたし、ジェームズのような人種差別は経験していませんが、ミュージシャンとしてレコード会社をクビになったり、不遇の時代も経験しています。ですので彼の欲しているものや喜び、絶望はわかるなと思っています」

――ジェームズはマネジャーから、歌いながら失神してしまう派手なパフォーマンスを求められ、そういうスタイルを変えたがっています。路線をどうするか、というのはアーティストにとって大きな問題なのですね。

「どうやって(世間に)認知されて行くか、道をつけてそこから上がってゆくかがかかっているので、大きな問題ですね。僕も最初は、硬い発声をしていたんですよ。今のようなミッド・ロウの感じではなく、硬い声で言葉を立たせることで、バンドの色、キャラクターを出していくということをやっていました。それで(ヒットして)山を一つ越えたところで、もっと自分らしさを出したほうがいいんじゃないかと思って、それからはもう少し普通の発声になっていきました。(ジェームズのように)失神して倒れるみたいなことはなかったけれど(笑)、ビッグウェイブカットといって、前髪を作ったりといったことも、キャラクター作りの一環でやっていましたね」

――紆余曲折の後にジェームズはステージ上でとんでもない行動に出ますが、そこでの鬼気迫る表現は意外にもはまっていて、彼の才能はこういった音楽性で開花されていればよかったのかも…⁈

「そうかもしれません。でも、マネジャーのカーティスとしては、ソウル・ミュージックから重さを取り除くことでポップチャートに黒人音楽を上げ、認知させていきたいという視点を持っていて、それはそれでとても意義のあることだったとも思います。

映画版でのジミー(ジェームズ)はああいう結末を迎えるけれど、舞台版はそこまで描かれていないですよね。僕としては、彼はずっとしぶとくやっていくような気がしているんです。歳をとってからまた出てきて、もっといい歌を歌うんじゃないかな、と。あのステージ上のシーンは(精神的には)どん底だけど、そういった未来をなんとなく、ほのかに匂わせるような立ち方をしてもいいかもしれないですよね。どこで出したらいいか。彼は彼なりにすごく努力家だったし、真面目で優しく、まっとうなところを印象付けられたらいいかもしれません」

――優しいとは言え、ジェームズには妻帯者でありながら、バックコーラスについた3人組のうち、ローレルと何年も関係を続けるという一面も…。

「はっきりさせられなかったんですね(笑)。奥さんの気持ちもローレルの気持ちもわかるから両方、縁を切れないと…。そういう面では自分中心で、本当の優しさではなかったですね」

――本作ではソウル・ミュージックを歌われますが、ソウルはもともとお好きでしたか?

「好きですよ。スティービー・ワンダーとか、小さい頃から聴いていました。ただ、聴くのと歌うとでは全然違うので、そのころから真似して歌っていたらよかったですね。英語を日本語に変えるだけでも随分違うので、そこを自分なりのテイストにする。やるしかない!と思っています」

――日本語でソウル・ミュージックを歌うのは初めてでしょうか?

「歌ったこと自体はありますが、今回は次元が違います。曲数も多いし、ただ日本語で歌えばいいわけではないので、杓子定規でなく生き生き歌うために相当フェイクしたり、譜面を超えてゆく何かを体得するということを夢見ています。開幕までに間に合わせたいですね。岡田オリジナルのソウル・ミュージックを作る、というくらいのつもりでないと自分のものにはなりませんので、ハードルは高いです」

――いっそのこと全部英語で歌うというのもありでしょうか?

「英語でも通じるところはそのままだったりしますが、(歌詞の中に)かなりの情報量がつまっているので、お客様に意味をお伝えしたいんですよね。キャラクターが土臭い感じであれば日本語のほうがいい場合もあるし、そのあたりは稽古の中で相談して決めています」

――例えばエフィには演歌のマインドで入り込めそうなナンバーがありますが、ジェームズはいかがでしょうか?

「確かに演歌は日本人のソウルと言われますよね。でもジェームズの曲に吉幾三さんのマインドが入ったら…うーん、ちょっと違うかな。でもわからないですよ。結果的に岡田の中から滲み出てくるならそれも良し、かもしれません。意識せずに作っていって、最終的に皆さんがOKとなればと思います」

――2020年の来日公演版のジェームズ役の方に取材した時、スーツ姿でしたがシャツのボタンを胸まで外し、全身から色気を放っていらっしゃいました。対して岡田さんはどんなジェームズに?

「やはり、一つ一つの曲を自分のものとしていけば、自ずとスターになっていくと思うんです。全部自分のものにできたら、無敵になっているでしょうね。そこに尽きると思います。基本的にエネルギッシュにステージをやるのは好きな方なので、体力がついてくるか?はわからないけれど(笑)、曲を自分のものにしていけば自ずとジェームズになっていけると思っています」

――どんな舞台になったらいいなと思われますか?

「千穐楽を迎えたときに、キャスト全員が“すごく楽しかった!もう一度やれるぞ”と再演を願うほど熱くなれたら、お客さんにも必ず喜んでいただけると思います。音楽も衣裳も含めて、基本的に作品の骨子は出来上がっているわけですから。ジェームズ自身はああいう終わり方をするけれど、俺は(しぶとく)残っていくぞ!という叫びや思いが残るように終わってもいいかなと思いますし。言うは易し行うは難しですが、そんな舞台を目指していきたいです」

 

製作発表で共演の方々、演出の眞鍋卓嗣さん(右)と。©Marino Matsushima 禁無断転載

 

――最近のご活躍についても少しうかがえればと思います。岡田さんと言えば今夏にも上演が予定されている『ファントム』(2020年版の観劇レポートはこちら)のキャリエール役が忘れられないという方が多いのではと思います。

「あの役は辛かったですね。キャリエールの心情を思い出すと、辛さが蘇ります。(いい芝居が出来たのは演出の)城田(優)君のおかげです。彼を全面的に信頼して取り組んだ結果だと思っています。もっと城田君の演出の素晴らしさを(世の中に)知ってほしいですね」

――決定的な作品と思いきや、昨年は『next to normal』でも…。

「そうなんですよ(笑)、あれも辛い役で…」

――妻とは対照的にノーマルな世界に踏みとどまっていたのが、最後に見えない筈の存在が見えてくるという…。

「自分としては見ないように封印していたのが、ついに見ざるをえなくなってしまったんですね。でもそこに娘がいてくれた。彼女がいなかったら妻と同じようになってしまったでしょうね」

――さらに昨年はストレート・プレイ『殺人の告白』でも…。

「辛いお父さんばかりやっていますね(笑)。でも『殺人の告白』の父親役は驚異的に辛かったです。溺愛する娘がある日突然消えて、殺人鬼に殺されたのかもしれない。気持ちのどこかでは殺されてしまったのだろうと思いながらも、絶対生きているはずだと娘を探し続け、犯人を恨み続けているんですよ。そういう人物の心理を掘り下げていきましたが、一日2公演、毎日演じるのはとても辛すぎました。逃げずに向かい続けたけれど、自分が思うようなところにはなかなか辿り着けなかったです」

――お父さんを演じる極意はありますか?

「僕こそ、教えてほしいです。その都度、子を思うことなのかな。それしかないでしょうね。作品が導いてくれるというのはあります。気づかなかったことにも気づかせてもらえるし、作品が(あるべき父親像に)辿り着かせてくれているような気がします」

――いろいろなジャンルで活躍されている中で、ミュージカルというのは岡田さんにとってどんな存在でしょうか。

「ミュージカルには、素敵な音楽があるじゃないですか。それに絡むように、ダイヤのようにキラキラした台詞がちりばめられた芝居がある。そして歌が流れる世界で芝居をするから、役者さんたちもオープンマインドな人が多くて、ミュージカルはすごくエネルギーをくれますね。もちろん大変なこともあるけれど、それ以上にエネルギーがもらえるジャンルです」

――岡田さんはどんな表現者でありたいと思っていらっしゃいますか?

「(その)まんまになりたいんです。そのままの岡田でいい、ただそこにいてくれたら、と言われるようになれたらいいなと思っていますが、それには自分を掘り下げていかないといけないなと思っています」

――映画における笠智衆さんのように…?

「ええ、ミュージカルでもそういう居方は不可能じゃないと思っています。…って、今はまず『ドリームガールズ』をやりおおせなきゃ(笑)。ジェームズ役、頑張ります!」

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『ドリームガールズ』2月5~14日=東京国際フォーラム ホールC 2月20~3月5日=梅田芸術劇場メインホール 3月11日~3月15日=博多座 3月22日~3月26日=御園座 公式HP
*岡田浩暉さんのポジティブ・フレーズ入りサイン色紙をプレゼント致します。詳しくはこちらへ。