Musical Theater Japan

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『ドリームガールズ』開幕直前特集(上海公演観劇レポ、キャストインタビュー、バックステージ探訪)

60~70年代米国のショービジネスを舞台に、スターへの階段を駆け上がる若い女性たちの姿を描き、81年にブロードウェイで初演。以来、世界各地で上演されている『ドリームガールズ』が、4度目の来日を果たします。ゴージャスなビジュアルとエネルギッシュな歌声、清々しいストーリーで人気の舞台を、来日にさきがけて上海で鑑賞。キャスト・インタビュー、舞台裏探訪を含めてレポートします!

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『ドリームガールズ』©️Tsuyoshi Toya
【『ドリームガールズ』上海公演レポート:迫力のパフォーマンスに沸く大劇場】 

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上海での上演地、上海文化広場(C)Marino Matsushima

会場の上海文化広場は、中国を代表するミュージカル劇場として2011年に開場。『オペラ座の怪人』『キャッツ』『コーラスライン』など欧米からの引っ越し公演をメインに年間260回以上ミュージカルを上演、16年からは『春のめざめ』等有名作の中国人キャスト上演にも力を入れているそう。共産圏ということもあってか価格帯は幅広く(『ドリームガールズ』の場合80~1080元、この日のレートで1360~18360円)、富裕層に限定せずミュージカルを広めようとする姿勢が見られます。

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ロビー内の巨大なフォトスポット(C)Marino Matsushima
ガラス張りの巨大な劇場に吸い込まれてゆくのは学生や若いOLが中心、家族連れもちらほら。「紙チケット」「電子チケット」に分かれて入場(後者利用が半数超)、空港と同じ手荷物のX線検査を通ると、巨大な吹き抜けが印象的なロビーに迎えられます。その一角にはミラーボール付きのフォトスポット・ステージが設置されており、来場者はかわるがわるSNS用の写真を撮影。スタンドマイクを傾けて熱唱、など思い思いのポーズで作品世界を楽しむ姿から、彼らが既にかなりの“ミュージカル・ファン”であることがうかがえます。キャパシティ約2000の客席空間は微妙に丸みを帯びて舞台を包み込み、木を多用した仕様に温かみが。二階席は7つのVIPルームから成り(日生劇場のグランドサークルが細かく仕切られているイメージ)、それぞれ専用の休憩室があるのが特徴的です。舞台横の壁には巨大なパネルが設置され、上演中は字幕、それ以外は今後の公演のPR映像を上映。後者はエンドレスに繰り返されるので、この後上演される“知らない”オリジナル・ミュージカルにも自然に親しみが沸いてきます。

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『ドリームガールズ』©️Tsuyoshi Toya
さて、舞台はほぼオンタイムで開演。60年代、NYはアポロシアターで開催される名物オーディションの様子が、華やかなパフォーマンスと舞台裏での様々な人間模様を交錯させる形で、シームレスに描かれます。

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『ドリームガールズ』©️Tsuyoshi Toya
シカゴから歌手を夢見てやってきたエフィー、ディーナ、ローレルのグループ「ドリーメッツ」は、遅刻のため一度はチャンスを逃しかけますが、車のディーラーでショービズに関わろうとするカーティスの口利きで何とか出場。優勝は逃すもののスター歌手、ジミーのバックコーラスの職を得、後に「ドリームス」としてデビューします。ヒットに恵まれ、たちまちスターの座を掴む彼女たちですが、カーティスの“彼女”として付き合っていたエフィーは彼の変心を知り、グループ内でもセンターを奪われ傷心。故郷シカゴに帰り、ソロ歌手として再起をはかりますが、思いがけない横やりが入り…。

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『ドリームガールズ』©️Tsuyoshi Toya
まだ女性の地位が確立されていなかった時代に、歌唱力だけを手掛かりに海千山千の世界に飛び込み、厳しい現実に傷つきながらも“夢”をかなえてゆくエフィーたち。巨大なLEDパネルに映し出される映像が音楽と見事に連動するビジュアルと、ノリノリのダンス・ナンバーから肉厚のソロまで多彩な音楽に彩られながら、一度は不和となり、袂を分かった彼女たちが再会し、絆を取り戻してゆく過程が感動的に描かれてゆきます。

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『ドリームガールズ』©️Tsuyoshi Toya
上海っ子たちのリアクションは総じて(体感では日本以上に)率直で、ジミーの弾けたパフォーマンスやエフィーが女心を歌い上げるド迫力のソロには曲途中で拍手喝采。しかしこの日、一番拍手が大きかったのは2幕、エフィーとディーナが友情を蘇らせるしっとりとしたナンバー“Listen”。心温まる一曲に“しみいる”観客の様子に、同じアジアの血が感じられた瞬間でした。

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『ドリームガールズ』©️Tsuyoshi Toya
女の友情が蘇り、不実な男たちへの“倍返し”も描かれた後、物語は華麗この上ないフィナーレへ突入。ポジティブな“気”に包まれたエンディングには誰もが満足、うきうきとした足取りで劇場を後にしていました。 
【キャスト・インタビュー】

公演前に楽屋を訪れると、出演者たちがリラックスした表情で登場。「日本公演が楽しみ」と待ちきれない様子の彼らに、役どころ等についてうかがいました。

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左からシャラエ・モールトリー、カディージャン・オネ、ベランド・ミラス(C)Marino Matsushima
エフィー役(カディージャ・オネ)「私の演じるエフィーは、最初は3人組の中で母親のような立ち位置。責任感があり、ディーナの母に“私が面倒みるから心配しないで”と言うシーンもあるわ。それがデビューして成功すると“姉妹”になり、いったんは喧嘩別れするけれど、ずっと姉の情は持ち続けているの。
本作はかなり前の話ではあるとは言え、女性の社会進出という点では現代にも通じる話だと感じます。エフィーは容姿の点で悔しい思いをさせられるけれど、今だって、例えばDestiny’s Childは美人のビヨンセだけ成功したでしょ。ジェニファー・ハドソンだってはじめはふくよかだったけれど、今は劇的にスリムになってる。男性だったら実力しか問われないのに、女性はプラスアルファ(外見)を求められ続けている。だからこそ本作で彼女たちが成功する姿は感動的なのかもしれないわ」
ディーナ役(シャラエ・モールトリー)「ディーナははじめ無垢で、スターになる過程にわくわくしています。それがカーティスに新たな役割を与えられ、だんだん自分の意思を持つようになるし、自分の声は自分のものだと考えるようになるの」
ローレル役(ベランド・ミラス)「ローレルは3人の中で最年少。“姉たち”からも男たちからも自立し、成熟してゆくしっかり者で、面白いキャラクターだと思います。この後、自伝を書いたり、映画のプロデューサーになるんじゃないかしら」
・3人からMusical Theater Japan読者のために、短い動画メッセージをいただきました。少しだけ歌声もお聴きいただけますので、ぜひご覧ください!https://youtu.be/c8-wWPE70FI

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劇中は憎まれ役?ながら、素顔は気さくなジェレミー・アーウィン。「このパーカーを撮って」と見返りポーズにて。(C)Marino Matsushima
カーティス役(ジェレミー・アーウィン)「カーティスは野心家のビジネスマン。そのためにエフィーと付き合っていたにも関わらず、ディーナの魅力が自分に成功をもたらしてくれると思って、彼女に乗り換えてしまう。人間は間違いをおかすものだよ。きっと後悔したと思う」

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役柄にふさわしくセクシーなアレック・ギブス。かなりジムで鍛えていますか?の問いには「いや、全然」(笑)。(C)Marino Matsushima
ジミー役(アレック・ギブス)「ジミーは生まれながらのスター。ソウルミュージックのショーマンなのに白人に見栄えがいいよう、カーティスにいろいろ指示され、不満を感じるようになる。きっとこの後、ハリウッドで映画に出たり、自分のレーベルを立ち上げるんじゃないかな。いろいろなアーティストのエッセンスを混ぜながら、自分の魂を込めて歌うようにしているよ」 
【バックステージ・ツアー】 

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間近に見るとかなり巨大な衣裳。ゆったりスペースをとって大事に保存。(C)Marino Matsushima

終演後に舞台裏を訪ねると、広々とした舞台袖、舞台裏に“ドリームス”用のお着換え空間、衣裳ラックにウィッグ棚、小道具がずらり。 

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ウィッグは出演者ごとに採寸されているため、間違えないよう整然と並んでいます。(C)Marino Matsushima

ほぼすべての曲で衣裳・ウィッグが変わるため、数あるミュージカルの中でもその量たるや膨大です。

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カディージャ・オネのアクセサリー・ポケット。(C)Marino Matsushima

イヤリングは俳優ごとに収納ポケットに整理されていたりと、“早着替え”をスムーズにする工夫が満載。きびきびと点検してまわるスタッフの姿が印象的でした。

(取材・文・写真=松島まり乃)
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*公演情報『ドリームガールズ』1月29日~2月16日=東急シアターオーブ 公式HP