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『メリー・ポピンズ』上川一哉インタビュー:子ども心を大切に、“不可能”を超えてゆくバート役に挑む

上川一哉 島根県生まれ。12歳でジャズダンスを始め、05年に劇団四季研究所に入所。 『リトルマーメイド』はじめ多くの作品で活躍。21年に退団後は『ケイン&アベル』『ムーラン・ルージュ!』『ジキル&ハイド』『ある男』等の舞台で活躍している。

 

P.L.トラバースの児童文学をジュリー・アンドリュース主演で映画化、不朽の名作として知られる『メリー・ポピンズ』。2004年に誕生したその舞台版が、2018年の日本初演、2022年の再演に続いて上演されます。

大がかりな舞台美術にカラフルなキャラクターたち、そして次々に登場するビッグナンバーが楽しい本作において、今回新たにメリー・ポピンズの旧い友人バートを演じるのが、上川一哉さん。本作への出演を熱望していたといいますが、実際に稽古に入ってみると、さまざまな試練が待っていたそう。稽古も佳境に入り、全貌が見えてきたなかで、バート役、そして本作への思いを、たっぷりお話いただきました。

 

『メリー・ポピンズ』

 

バート自身も“メリー学校の卒業生”だからこそ
どんな状況でもナチュラルに
居られる人なのだと思います

 

――上川さんは『メリー・ポピンズ』について、思い出などはありますか?

「日本初演の時に拝見させていただきました。当時、僕は劇団四季在団中で、当時はまだ先のことは考えていなかったけれど、いつかこういう作品に自分もチャレンジできたらな…と思ったのを覚えています。

また、劇団四季でもディズニー・ミュージカルは上演しているけれど、それらとはまた違ったテイストの作品だなと感じました。ファンタジーに溢れる中で一つのシンプルなテーマを掘り下げるというより、よりリアルにいろんな形の愛を伝えているというか。現代を生きる人々にすごくフィットする、肌で感じられる作品のような気がしました」

 

――子どもに対してだけでなく、大人に対するメッセージ性ということでしょうか。

「そうですね。この作品のメッセージって、むしろ大人の方が響くかもしれません。もちろん観るタイミングや年齢に応じて、感情移入できるキャラクターは違うと思いますが、心のドアにグサッっと来るような言葉があったり、背中を押してくれる言葉がたくさんちりばめられた作品だなと思います」

 

――ご出演はオーディションを経て決まったとうかがいました。どんな思い出がありますか?

「劇団を退団以来、マネージャーにはずっと、『メリー・ポピンズ』が上演される時には必ずオーディションを受けたいという話をしていました。

そんな中で今回のオーディションのお話をいただいて、絶対に受けたい!と思い、バート役で受けさせていただいたんです。

でも最初の審査の時には、やりたい気持ちが強すぎて空回りしてしまい、頭が真っ白になって終わりました(笑)。観たことがあるだけに、イメージをちょっと固めすぎてしまったな…もう駄目だ…と、頭を抱えて帰ったのを覚えています。

バートのナンバーはタップを使ったものが多いのですが、劇団時代はそこまでタップを専門にやっていたわけではなかったので、そこでもぶち当たりました」

 

――踊りの名手でなければつとまらないと言われる『人間になりたがった猫』のライオネルが当たり役の一つである上川さんだけに、“ぶち当たる”というのがちょっと信じられません…(笑)。

「いやー、タップってもちろん身体表現ではあるのですが、ある意味、楽器を奏でるようなところがあるんですよ。(ステップを)覚えるのにすごく頭を使うイメージがあるので、最初はなかなかうまく体が動きませんでした。それに加えて、オーディションならではの緊張感があったのだと思います」

 

――“こういうふうに、ああいうふうにやってみてください”といったリクエストはあったのでしょうか。

「ありました。今の稽古にも繋がるんですが、キャンパスに自分で色を塗りすぎないように、その場で言われたことをちょっとずつちょっとずつ、色付けしながら組み立てていくようつとめました。“うまくやろう”ではなく、“等身大でやろう”と。それが僕ならではの表現になると信じて、シンプルに取り組むようにしました」

 

上川一哉さん


――そして見事演じることになったバート役ですが、彼についてはどこか謎めいた部分もあります。現時点ではどんなキャラクターととらえていますか?

「描かれてないところがたくさんあるので、確かにわからない部分もありますよね。バートは“メリー学校”の卒業生というか、やはり幼少期のメリーとの出会いによって、人生が変わった一人です。

自分がそれを経験してるからこそ、バンクス家の子供たちの気持ちもわかるし、メリーが次にどんな言葉を発するんだろうと、彼自身、ワクワクする気持ちを持っています。子どもたちとは違った意味で、その場その場を楽しめる人なんだろうなと思いますし、謎めいてるからこそ、あまり決めつけず、その場にうまく浸透していくような存在であり続けなきゃいけないな、というふうには思っています」

 

――メリーは“ナニー”ですが、英国でナニーをつけているということは、余裕のある家庭の子女とされています。バートは幼少期、メリーとどのように出会ったのでしょう…。

「僕は、バートは(バンクス家の)ジェーンやマイケルとはちょっと違う形で、メリーと出会ったのではないかと思っています。例えば公園だったり、屋根の上でメリーと出会って、メリーから少しずつ、いろんなことを学んでいったのではないかな。

バートという人物を描くにあたって、演出のマークやJPからはとにかく“普通の人であってほしい、ナチュラルさを持っていてほしい”と言われています。

作品的にはショーアップされたダンスナンバーがたくさん出てきて、それらのシーンはもちろん(華やかに)こなしつつも、それ以外のシーンでは、本当に普通の人というか、煙突掃除だったりとか、いろんな仕事をしている、労働者階級の人物であってほしいと言っていたので、本当にイギリスのどこにでもいるような男性なのかな。

僕は“ナチュラルであれ”という言葉がすごく好きで、そこはすごく大切にしたいなと思っています」

 

――バートの言動や生きざまについて、共感できる部分はありますか?

「共感というか、かっこいいなと思うのが、煙突掃除という自分の仕事だったり、今の自分の人生に対してすごく誇りを持っている点ですね。日々いろんなことがあるけれど、それでも楽しく生きようというメリーの教えがあったからこそ、彼は今も輝いていられるのだろうなと感じます。そんな人になれたらいいなって、なんだか憧れますよね」

 

――所作に関してですが、本作のメリーは“滑るように動く”という基本ルールがあるようですが、バートに関しては何かルールみたいなものはありますか?

「踊りに関しては、エネルギッシュな動きでメリーとの対比を出したいということがあるらしくて、とにかく一生懸命、エネルギーをもって踊ってくださいと言われています。

お芝居に関しては、“パフォーマンスにはしないように”と、シンプルにシンプルに見せていっている分、(ショーアップして)見せるところはやっぱりしっかりと、そしてこの作品のダンスナンバーはきちんと歌詞がハマっているので、バートが持っているエネルギーをしっかり出していけたらなと思っています」

 

――バートにはいくつかビッグナンバーがありますが、中でも最大の見せ場としては2幕の“Step In Time”かと思われます。まず、このナンバーはどんな意味あいのナンバーだと捉えていらっしゃいますか?

「心の成長をとげつつあるジェーンとマイケルに向けての、僕らからの応援歌だなと思っています。曲の前に、必要な時は助けてくれる人が山ほどいるんだぞっていう台詞もありますが、その中でも煙突掃除の人たちは視野を広く持っていて、そんな彼らが力強く、子供たちの背中を押してくれる。群舞の構図としても、横のつながりをすごく感じさせますし、そんなイメージの曲なのではないかと思っています」

 

――大人数でのラインダンスもあり、壮観のナンバーですが、今、お稽古をされていてどんな手応えでしょうか?

「難しいですね(笑)。作品の中でのメッセージとして、その“横のつながり”ってすごく大事だなと感じるのですが、僕自身まだまだそこまで視野を広く持ててないというか、正直、タップの部分で手こずっている部分がありまして(笑)。

少しずつ音を聞けるようになって、鼓動もどんどん激しくなってエンジンがかかってきたように感じるので、もっともっとこのナンバーのメッセージ性を出していかないといけないなと思っています」

 

――このナンバーでバートは、重力に抗う場面があります。なかなかこういう役はないと思いますが、どんな心境でしょうか?

「実は僕、高いところが苦手で(笑)。はじめ、(トリプルキャストの)二人がやっているのを見て、(自分も)大丈夫でしょうと思っていたけど、いざやってみたらもういろいろ想像しちゃって、一気に恐怖心を感じてしまって。気が付いたら周りから“目を開けてください!”と言われていました(笑)。

みんなは“本番は絶対大丈夫だよ”と言ってくれるのですが、今はまだどうやって乗り越えたものかと悩んでいます。でもこれが出来たら、そこから見える世界ってバートにしか見えないものだから、それはすごく楽しみです」

 

――重力が存在してこそ、人間はステップを踏めるものだと思いますが、その重力を抜いたところで、どういう感覚でステップを踏んでいらっしゃるのでしょうか。

「そうなんですよね。だからふつうは軽く踏むステップも、かなりしっかり“刺す”ようにやらないと体が安定しないし、音も鳴らないので、その感覚を掴むのにはやっぱりかなり慣れないといけないなと思っています」

 

上川一哉さん


――稽古も佳境を迎え、全体像が見えてきたところかと拝察しますが、どんな舞台になりそうでしょうか。

「今は通し稽古を、(ダブル・トリプルキャストの)組み合わせを変えながらやっているのですが、観る度に、“日めくりカレンダーにしたいな”というくらい、素敵な言葉というか、お客様に届けたいし、受け取ってほしい言葉がたくさんあります。

今を生きる僕らだからこそキャッチしてほしい言葉だったり、胸を打つ言葉もたくさんあって、ただのファンタジーではないな…と強く感じます。

子供たちの持っているエネルギーについ、涙が出そうになるシーンもあるし、この作品、ラストはキャストもみんな袖に集まって、メリーの姿を見守っているよという話を聞いていたのですが、そうしたくなる理由がすごく理解できてきました。

これを客席から観ていただくことで、ただミュージカルを楽しむだけではなく、皆さんも本当に“メリー学校の一員”になれたように感じていただけると思うし、幕が降りた時に、“あの言葉、大切だな”でもいいですし、僕らからの“ギフト”を受け取っていただけたらと思っています」

 

――今回、バート役は大貫勇輔さん、小野田龍之介さんとのトリプルキャストとなります。三者三様のバートが期待されますが、上川さんはどんなバートになりそうでしょうか。

「自分では(どう見えるかは)よくわからないけれど、台本を読んだり稽古を重ねていくなかで、メリーや子供たちから刺激を受けながら、たくさん発見して、心のラインを合わせていって、ナチュラルに『メリー・ポピンズ』の世界に入っていきたいなということを強く思っています。

あと、バートからはどこかピーターパンのような“子ども心”を感じるので、そういう部分も大切にしたいですね」

 

――上川さんにとっては久々に、小さいお子さんもたくさん来場する演目になるかと思います。彼らに対して、特にこんなふうに楽しんでいただきたいというものはありますか?

「僕は劇団時代からずっと、子供の頃に観る舞台って、意外と大人になっても心の中に残っていることが多いなと感じてきました。テーマ曲のサビの部分が、ずっと記憶の中にあったり。

今回の『メリー・ポピンズ』も、子どもたちにはその瞬間を楽しんでもらいつつ、何かしら…、例えば仕事でもどんなことでもいいので、彼らの将来に影響を与えられたら素敵だなと思いますし、大人になっても忘れられない、そんな舞台になったらいいなと思っています。

どの曲もキャッチーで、口ずさみやすいですしね。もちろん子どもさんだけでなく、皆さんにとって、いつまでも心に残る体験となるよう、願っています」

 

(取材・文=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『メリー・ポピンズ』【プレビュー公演】3月21~3月27日、【東京公演】3月28日~5月9日=東急シアターオーブ、【大阪公演】5月21日(木)~6月6日=梅田芸術劇場メインホール 公式HP
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