
眞島秀和 山形県出身。大学時代に俳優を志し、李相日監督の映画『青~chong~』でデビュー。映画『愚行録』『ある男』、大河ドラマ『べらぼう』、舞台『泣き虫なまいき石川啄木』、CMなど多方面で活躍している。©Marino Matsushima 禁無断転載
1944年、ナチスの手を逃れ、アメリカに亡命していたブレヒトが人類への希望をこめて書いたと言われる戯曲『コーカサスの白墨の輪』。1948年の世界初演以来、各地で繰り返し上演されている傑作が、この春、音楽劇として上演されます。
骨格となっているのは、旧約聖書の「ソロモン王の裁き」や、日本の「大岡裁き」にも登場する、子供の親権を巡る二人の女性の争いの物語。ブレヒトはこれを、戦後の荒廃した世界で対立する人々の前で語られる“劇中劇”として展開させましたが、今回の上演では、“シンギュラリティ(AIが人類の知能を凌駕した状態)が起こった後の未来”で語られるという設定になっています。(演出・瀬戸山美咲さん)。
噛み応えのある舞台が想像されるなかで、物語を演じるキャストはどんな思いを抱いているのか。ひょんなことから裁判官をつとめることになった“飲んだくれの男”アズダク役の眞島秀和さんを筆頭に、キャスト3人へのインタビューを、シリーズでお贈りします。(インタビューは2026年2月に実施)

――眞島さんといえばTVドラマやCMでひっぱりだこですが、『日の名残り』(2020年)では静謐な朗読劇にも関わらず、見る者の心を大波のように揺り動かし、5時間に及んだ木ノ下歌舞伎『三人吉三廓初買』ではしみじみとした情味を醸し出し…と、舞台でも確かな存在感を発揮していらっしゃいます。もっと舞台で拝見したい、という観劇ファンも多いかと思います。
「意識して映像作品が多くなっているわけではなくて、自分としては舞台ももっと出来たらと思っています。お声がけいただければ、年に2本はやりたいですね。
映像と舞台とで芝居が変わるかとよく聞かれますが、全く一緒とは言わないまでも、芝居そのものはそれほど変わらないと感じます。違いとしては、自分にかかる負荷の、サイズ感が違うというイメージですね。目の前で観客の皆さんを前にして演じるのと、映像での、もっと内面的な負荷のかかり方の違いという感じです」
――ブレヒトの『コーカサスの白墨の輪』については、以前から親しまれていたのでしょうか。
「ここに出てくる(子争いの)エピソードって、何となくご存じの方が多いと思いますが、僕もそうでした。まずブレヒトの戯曲に目を通しましたが、今回は(演出の)瀬戸山(美咲)さんがかなり構成を変えるらしいと伺っていたので、どういう台本が仕上がって来るのか、楽しみに待っていましたね」
――そして届いた台本をどのように読まれましたか?
「設定が近未来になるらしいというのは伺っていたので、それをどういうふうにこの物語に落とし込むんだろうと思っていたのですが、こうきたか、と。どことなく、手塚治虫さんの作風に通じるものを感じました」
――ネタバレを避けつつのお話なのであまり詳述はできないのですが、かなりディストピア的というか、人類に対して、全く楽観的ではない設定ですね。
「今はまだ稽古前半というのと、登場人物が多くて作品全体の流れをまだ体感できていないというか、パートに分かれて稽古を進めている部分もあるので、構造的に劇中劇として物語が始まるというのは共通認識としてありますが、そこが(人類に対して)どんなトーンで描かれているかというのは、まだ意識していません。
一つの要素として“AI”が登場するのですが、それに対してもカンパニーの皆がどういうふうに感じているのか、まだ話したりはしていないです。まずは一通りやってみようということで、どんどんシーンを進めていっている段階です」

――今回は“音楽劇”として上演されます。作品にとって音楽は重要なパーツを占めていると感じられますか?
「そう思いますが、私自身、今回、音楽劇に初めて参加しているので、音楽劇ってこうやって立ち上げていくんだな…というところからして、新鮮です。まず歌稽古の期間があって、出演者全員で歌うところを徹底的に練習していったりとか…」
――眞島さんも歌われるのですよね。
「皆さんと一緒ですが、はい、歌います。芝居と芝居の合間に音楽が入ってくるので、まだそこには慣れてない部分もありますが、自分が観客として客席にいたら、(音楽が入ることで)疾走感というか、一つの流れを感じるのかな、という予感がしています」
――ストレート・プレイに慣れている方にとっては、台詞だけで進行していたところに音楽が差し挟まれることに違和感を感じる方もいらっしゃるようですが、眞島さん的にはいかがでしょうか?
「うーん、そういう感覚もちょっとはありますけど、それ以上に、今回はエンターテインメントとして、観た時に楽しさがあるだろうなという感じがします」
――ちなみに、どんな音楽でしょうか。
「おそらく皆さん、この『コーカサスの白墨の輪』というタイトルからは想像つかないような曲調の曲が多いと思います。タイトルだけを聞くと、例えば落ち着いた、しっとりした曲が多そうなイメージがあるじゃないですか。それよりはかなり、ポップな曲調が多いような気がしますね。ギター、ドラム、ベースの入った、バンド形式だと思います。最初にみんなで聴いた時、“こうなるのか!”って、皆さん驚いていました」
――眞島さん演じるアズダクを皆で語るナンバーもありますね。
「ありますね。アズダクの歌は、役柄もなんだか、酔っ払っているのか、いい加減なのかよくわからない男…というところもあるので、陽気な曲になっていると思います。僕も今は楽しんでやっていますけれど、実際、お客様を前にしたら、なにせやったことがないので、歌の箇所に来たら緊張するかもしれません(笑)」
――内乱後の荒廃した世界に、ふらりとやって来るのが酔っぱらいのアズダク。ナレーター役の歌手(一路真輝さん)からは“クズ”とも称されますが、ひょんなことから裁判官をつとめることになります。その裁判官ぶりも適当というか、“地獄の沙汰も金次第”というか、無茶苦茶ですが(笑)、二人の女性が“子供”の親権を巡って争う、クライマックスの裁判では、驚きの裁きを見せます。彼はいったい、何者なのでしょうか。
「まだその箇所の稽古には入ってないので(決定的なことは)わからないのですが、今のところ、よくありがちな、“実は心根の優しい人物”というふうには考えないようにしています。もしかしたら、その時“たまたま”そういう判断をしただけ、というような解釈でやってみようかなと思っています」
――例えば作者が、最も意外な人物に人類の希望を託している…みたいなことではないのですね。
「そうですね。人間の希望みたいなところをアズダクという役が背負うというか、そういうところを担っているというのは、ちょっとストレートすぎるような気もしていて。“たまたま”そんな判断をするのもまた人間なのかな…というような方向性で、やってみようと思っています。まだまだ、探り探りの状況です」

――お稽古は現在、どの段階でしょうか。
「二幕の序盤にかかったところですね。裁判官に“なってしまった”ところはやりましたが、場面転換が多いというか、どんどん場面が変わっていく、その中で裁判官になって行くので、全体が繋がった時に果たしてどうなるのかというのは、まだ見えていない状態です」
――瀬戸山美咲さんの演出はいかがですか?
「演出された舞台は拝見していましたが、実際に出演させていただくのは、今回が初めてです。作品を観ていて、“俳優に寄り添ってくれる方なんだろうな…”と予想していましたが、実際、非常にいい意味で予想通りでした。世代としても同年代で、同じような空気感の時代で育ってきたと思うので、最初から共有できるところが多いかなというふうに私は思っています」
――今回のカンパニーには、ミュージカルをメインに活躍されている方も少なからずいらっしゃいますね。
「初めてご一緒する方が多いのですが、木下晴香さん、平間壮一さん、saraさん、加藤梨里香さん、そしてもちろん一路真輝さんと、歌を完全に自分のものにしたうえで稽古に臨まれている方の凄さというのを、目の前で見て改めて感じています」
――歌のコツを尋ねたり…?
「いやー、恐れ多くて聞けないです(笑)。こちらはただただ、本当に耳に心地いいな~と思いながら、稽古場で聴かせていただいています」
――どんな舞台になったらいいなと思われますか?
「今回の舞台のちらしは非常に華やかで躍動感があるものになっていますが、実際に瀬戸山さんが設定を変えて作っていらっしゃる舞台も、すごく躍動感や疾走感があるなと、稽古をしていて感じます。このチラシをご覧になった方の期待を裏切らないようなエンターテインメント作品になっていったらいいな…と思っています」
――本作はもともとポリティカルというか、強烈なメッセージを放つ作品だと言われますが、日本では芸術は社会に対して影響力を持ちにくいと感じる方も多いと思います。眞島さんは芸術の持つ力を、どの程度信じていらっしゃいますか?
「そこまで大きな影響力を持つことはないのかもしれません。どこか自分の中で諦めている部分が無いといったら噓になりますが、それでも、社会がこうなっていけばいいな…とか、そこに芸術作品が良い影響を与えていってほしいという期待というか、願いみたいなものが自分の中に絶対に残っているからこそ、この仕事を楽しみつつ、頑張っているんだろうな、と思います」
――今回初めて音楽劇に挑戦されましたが、これからも音楽劇やミュージカルのジャンルにチャレンジされようというお気持ち、ご興味はおありですか?
「もちろんあります。が、やっぱり今回改めて、ミュージカルをたくさんやっていらっしゃる方々の歌の素晴らしさを感じているところなので、もし“歌はみんなで歌うから大丈夫ですよ~”とか、“踊れなくても大丈夫”という役があれば(笑)、ぜひお声がけいただきたいです。今回、新たに共演させていただいている方々の舞台を拝見する機会も増えていくと思うので、そんな中でいろんな作品に触れていければと思っています」
(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『コーカサスの白墨の輪』3月12日~30日=世田谷パブリックシアター その後兵庫、岡山、佐賀、愛知で上演。公式HP
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