Musical Theater Japan

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『キンキーブーツ』観劇レポート:人生&世界を変えるためのシンプルなヒント

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『キンキーブーツ』(C)Marino Matsushima

父の急死で老舗の靴会社を継ぐことになったチャーリー。倒産寸前という現実をつきつけられた彼は、ドラァグクイーンのローラと出会い、彼らのための特別なブーツという“隙間産業”に一縷の望みをつなぎ、デザインを依頼する。

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『キンキーブーツ』(C)Marino Matsushima

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『キンキーブーツ』(C)Marino Matsushima

翌月ミラノで開かれる見本市を目指してタッグを組んだ二人は、何もかもが正反対に見えて、実は父親の期待に応えられない“似た者同士”であることに気づく…。 

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『キンキーブーツ』(C)Marino Matsushima

古めかしい社歌に続いて、二人の主人公の少年時代のエピソードと現在を巧みに繋ぐノスタルジックな“The Most Beatutiful Thing”、華やかなローラのショー・ナンバー“The Land of Lola”等々。これが初ミュージカルとは思えないほど多彩かつストーリーにフィットしたシンディ・ローパーの楽曲に彩られながら、ハーヴェイ・ファイアスタインの脚本はチャーリーとローラが周囲の人々を巻き込み、靴作りに取り組むさまを描いてゆきます。 

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『キンキーブーツ』(C)Marino Matsushima

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『キンキーブーツ』(C)Marino Matsushima

2016年の日本初演から3年、今回の再演ではメインキャストの全員、全体的にもキャストの多くが続投。それもあってか舞台は淀みのない運びの中でチャーリーと会社の従業員たちがローラと本音をぶつけ合い、素敵に変化してゆく構図がいっそう鮮やかです。はじめは保守的に見えた工場の人々がローラの価値観を受容したことが可視化されるフィナーレは、爽快そのもの。 

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『キンキーブーツ』(C)Marino Matsushima

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『キンキーブーツ』(C)Marino Matsushima

チャーリー役の小池徹平さんは大人になっても“情熱”の対象が見つからず、右往左往する主人公を人間くさく造型。特にブーツの仕上がりにこだわるあまり、スタッフにやり直しを命じてしまうくだりで“社長の家系”に生まれたがゆえの傲慢さが垣間見え、決してシンプルな好青年ではない、リアルな人物像が興味深く映ります。

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『キンキーブーツ』(C)Marino Matsushima

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『キンキーブーツ』(C)Marino Matsushima

ローラに対しても取り返しのつかないような暴言を吐いてしまい、窮地に追い込まれますが、最後にはその不格好なまでの懸命さに免じて手が差し伸べられるまでをスリリングに、かつ主人公としての安定感を持って表現。

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『キンキーブーツ』(C)Marino Matsushima

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『キンキーブーツ』(C)Marino Matsushima

いっぽうローラ役の三浦春馬さんはショー・シーンでの“魅せ方”に磨きがかかり、1階前方席ではかなりの観客が彼(彼女)の妖艶なまなざしに射られることでしょう。その自信に満ちた輝くばかりの存在感は、途中、メイクを落として男装での登場時に(それが本来の姿であるにもかかわらず)観ている側も違和感を抱くほど。

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『キンキーブーツ』(C)Marino Matsushima

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『キンキーブーツ』(C)Marino Matsushima

チャーリーと心通わせるきっかけとなる“Not My Father’s Son”や、傷つきながらも乗り越えていこうと自ら言い聞かせるように歌う“Hold Me In Your Heart”での、内面を吐露する歌唱にも陰影が滲みます。 

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『キンキーブーツ』(C)Marino Matsushima

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『キンキーブーツ』(C)Marino Matsushima

充実の共演陣、筆頭はチャーリーの幼馴染で、“イケている”とはいえない女の子ローレンを、今回はデフォルメを抑え目に、より多くの人が自分を重ねやすいキャラクターとして演じるソニンさん、ある時点まで旧世界の既成概念を象徴するドンを小憎らしく体現する勝矢さん。

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『キンキーブーツ』(C)Marino Matsushima

また同じく旧世界に生きながらも案外新しい価値観を面白がれる自分に気づく工場長ジョージを穏やかに演じるひのあらたさん、チャーリーとの溝が深まってゆく婚約者二コラを、彼とは違ってゴールが明確にあり、自分の脚で進んでいけるエネルギッシュな女性として演じる玉置成実さんも好演。

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『キンキーブーツ』(C)Marino Matsushima

そしてなにより、ローラの分身とばかりに一心同体に歌い踊るエンジェルス(この日は穴沢裕介さん、森雄基さん、風間由次郎さん、森川次朗さん、遠山裕介さん、浅川文也さん)が華やかな中にもきびきびとした風情で“芯”を感じさせ、工場の人々に衝撃を与えるに足る存在感を放っています。 

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『キンキーブーツ』(C)Marino Matsushima

人間は一人一人皆違う、という前提に立って他者と交わり、理解しようとすれば人生は、そしてきっと世界さえも変わる。抜群の一体感の中でシームレスに進む舞台は、高揚感に満ちた場内にそんなポジティブなメッセージを投げかけ、ミュージカルの一つの理想形を作り出しています。

 

(取材・文・写真=松島まり乃)

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*公演情報*『キンキーブーツ』416日~512日=東急シアターオーブ 51928日=オリックス劇場 公式HP