
星風まどか 東京都出身。2014年宝塚歌劇団入団。2017年に宙組トップ娘役に、2021年に花組トップ娘役に就任。『アナスタシア』『TOP HAT』等でヒロインを演じる。2024年に退団後『ニュージーズ』『ラブ・ネバー・ダイ』『1789-バスティーユの恋人たち-』に出演。
©Marino Matsushima 禁無断転載Fact(歴史的事実)とFiction(虚構)を織り交ぜた“ファクション・ミュージカル”として、女性科学者のパイオニアの半生を描いた『マリー・キュリー』。2023年の日本初演時に圧倒的支持を得た韓国ミュージカルが、新キャストを迎えて上演されます。
マリーをダブルキャストで演じる二人のうち、今回は星風まどかさんにインタビュー。トップ娘役をつとめた宝塚歌劇団を2024年に退団後も、大作ミュージカルにひっぱりだこの星風さんの中にある“マリー・キュリー的要素”を探りつつ、作品や役について、さまざまに語っていただきました。

【あらすじ】19世紀末。ポーランド人のマリーは、ソルボンヌ大学で学ぶためパリ行きの列車に乗り、アンヌに出会う。科学者として頭角を表した彼女は、ピエール・キュリーとともに新しい元素ラジウムを発見し、ノーベル賞を受賞。人類のためさらなる研究に邁進するが、いっぽうでアンヌの働く工場では、体調を崩す工員が現れ始めていた…。
歌っていると“呼吸が流れなくなる”のは
この作品が初めてです
――星風さんはもともと、理科はお得意だったのですか?
「子供の頃は計算より、記憶力に自信がありました。得意なのは歴史や国語のような科目だったので、専門用語もたくさん出てくる今回の内容はとても難しいです。
でも、アンヌ役の石田ニコルさんが大学の放射線学科で学ばれていたことがあるそうで、方程式の書き方を教えてくださったりと、皆さんに助けていただいています。千穐楽までになんとか、理系頭脳になれたらいいですね(笑)」
――韓国版を現地でご覧になったそうですね。
「韓国語は趣味でコロナ禍の時に勉強していたのですが、その後忘れてしまった部分もあって、(何を言っているか)わからない台詞もありましたが、それでも感情は伝わってきました。音楽も素晴らしく、二幕はずっと泣きながら観ていました。
ブロードウェイ観劇もそうですが、言葉が分からなくても伝わってくる感動って、本物だなと思います。終演後に、たまたま宝塚時代の演出家の先生とお会いして、“これから主演の方に会うよ”と言われ、私もご挨拶させていただいたのですが、実際はとても柔らかい雰囲気の方で。こんなに若くて華奢な方があんなにパワフルな歌声を持っていらっしゃる、そしてあそこまで豹変できるということに、改めて驚きました」
――そのマリーをご自身が演じることになり、台本を読み込んでみて、改めて本作のどんなところに魅力を感じますか?
「文系の私でも、子供の頃に読んだ絵本を通して、マリー・キュリーさんのことは知っていましたが、やはり偉人であり、女性科学者ということで、どこか堅いイメージがあり、演じるにあたっても緊張感がありました。
でもこの台本を読むと、マリーさんと周りの方たちの間にあった友情、家族愛といったものが描かれていて、私の身近にもあるものなので共感できましたし、やっぱり彼女も一人の人間だったんだな、と感じます。自分が演じるにあたっても、そういう部分は大切にしたいと思います。
本作は“ファクション”なので、完全な史実ではないのですが、ノーベル賞を 2回受賞したということよりも、彼女の人間らしさが美しく描かれているのが、私にはすごく響きます。改めて素敵な作品だなと感じます」

――マリー・キュリーは45か月がかりで一つの発見をするわけですが、とても地道な作業ですよね。分野は異なりますが、星風さんも俳優として、コツコツやってきたことである日突然何かが見えたとか、発見されたといった経験はお有りですか?
「ありますね。メンタルも影響するので、突然うなぎ登りにうまくなるということはないのですが、私は宝塚時代、本当に声が出なくて、蚊の鳴くような声からスタートしたのですが、お稽古を重ねるうちに、“あ、ここが出るようになった”と思えるようになって、さらに突き詰めてやっていくと、見えない景色が見えてくるのが、すごく楽しかったです。ダンスにしても、お稽古の中で“これができるようになった”と実感できて、技術として自分の身についていくというのが、芸事の楽しいところだなと思えます。
芸事以外だと、先ほどもお話した韓国語は夢中で勉強しました。ふだんは勉強は嫌いなのに(笑)自分が興味があると、自分が“よし”と思えるまでやらないと満足できなくて、検定試験も受けましたね。本作のマリーの台詞に、好きなことだから(どこまでも追究できる)というようなものがあるのですが、私も興味のあるものにはとことん向き合いたいタイプなので、彼女が子供の頃からの好奇心をずっと持ち続けたということが、少しわかるような気がします」
――このお役がオファーされたということは、もしかしたら星風さんの中にマリーがいる、マリー的な要素がある、ということなのかなと想像されますが、ご自身的にはいかがでしょうか?
「私は情に弱いというか、自分のためだけなら一歩踏み出す勇気が出なくても、誰かのため、例えば家族のためなら頑張れるし、そのためなら怖いものも無くなるというタイプです。
マリーのように人類のために頭脳を使う方とは次元が違って、せいぜい落とし物を拾うぐらいのことしかできないけれど(笑)、誰かのためにと思うことって物凄く大きな原動力になるし、そこはちょっとマリーと似ているのかなと感じます」
――では、皆のために積み重ねた研究が、逆の結果を招いてしまったと彼女自身が気づかされた時の傷心には、かなり共感できるのではないでしょうか。
「これまで、私が演じるキャラクターを守るために誰かが亡くなるような作品に出演したこともありますので、そういう辛さは役として、たくさん味わってはいます。
1幕を稽古していると、演出の(鈴木)裕美さんが、“ここまでは(マリーは)幸せだから、今のうちにたくさん笑い声を聞かせてください”とおっしゃるんです。マリーは希望に満ちて研究を進めていくけれど、その結果、大切な人々が次々亡くなってゆくという事態に直面します。私ならとても耐えられない、ものすごく残酷なことだなと思います。本番ではどんな心境になるのか、まだ想像できません」
――ミュージカルなので楽曲も多々ありますが、本作の楽曲はいかがですか?
「難しいです!というか、難しすぎます(笑)。歌稽古や自宅で練習しているときと、芝居の流れの中で歌うのとで、ここまで感覚が違うというか、歌っていて呼吸が流れない感覚は初めてです。
今まではそういうことがなかったので、お稽古場では失敗してもいいから怖がらずにどんどん挑戦しよう、と思えたのですが、今回はなぜかそれができないんです。
出ずっぱりだからなのか、理由がよくわからないのですが、すごく難しい作品なんだなと、今、身に染みて感じています。基本的に、台詞では表現しきれない心情が歌になっている、芝居寄りの曲ばかりなのですが、音が高かったり低かったり、いい意味で大暴れなんですよね(笑)。これを難なく歌っていた韓国の方は、本当にすごいなと思います。これを息が上がった状態、感情が高ぶった状態で歌うので、呼吸が流れていないことに気づいて…。初日までにうまく歌えるようになるのかな、とドキドキしています」
――鈴木裕美さんの演出はいかがですか?
「裕美さんは演劇が好きというオーラを全身から発していらっしゃる方ですが、ミュージカルもとても愛していらっしゃり、毎日パワフルに教えてくださいます。
曲の表現、曲への導入についても的確に指摘してくださいますし、裕美さんの中でビジョンがあって、それをブレずに言葉で伝えてくださるので、こちらは迷うことなく、そのレールの上を走ることで、役として生きていけるのがありがたいです。
私は今回、(退団後に)タイトルロールを演じるのが初めてで、加えて科学者の話なので専門用語など覚えることがたくさんあって、帰宅するとへとへとになっているのですが、それでもダブルキャストなので、稽古では(自分は動かず)見ている時間もあるんです。
でも裕美さんは一日中稼働されていて、休憩もほとんど取らず、お稽古場では誰よりもパワフル。本当にお芝居がお好きなんだなというのがすごく伝わってきて、私も裕美さんの熱量に負けないくらい頑張って、いい作品にしたいと思える、本当に尊敬する素敵な方です」
――どんな舞台になったらいいなと思われますか?
「私は、韓国版を観た時も改めて台本を読んだ時も、情の部分で響くものがあり、涙をこぼさずにいられなかったし、応援してくれる方、支えてくれる家族、会社の方…みんなを大切にしたいと思いました。
そして、マリー役を演じることで、自分自身はなかなか一歩を踏み出せないタイプの人間だけど、誰かのためなら彼女のように先陣切って戦う覚悟は私のなかにもあるなと気づけたので、きっと見てくださる方もそれぞれの立場で、自分の周りにいらっしゃる方との関係を、見つめ直せるような作品になるのではないかと思います。私としてはとにかくシンプルに素直に、丁寧に演じたいなと思っています」

――ご自身のプロフィールについても少し伺わせてください。さきほど、はじめは蚊の鳴くような声だったとおっしゃっていたのがちょっと信じられないのですが…。
「本当なんです。私は小さいころから踊ったり歌ったりすることが大好きでしたが、(宝塚)音楽学校に入ってからは、人前で歌うのが苦手で、声もまだ育っておらず、40人同期がいる中で、歌の成績は36~38番くらいでした。自信もなく、歌うことが好きなのに歌えないということがすごくつらくて、お稽古を重ねに重ねました。毎日、朝日が昇る前から校門の前に並んで練習もしましたね。
入ってすぐに、『王家に捧ぐ歌』という作品の新人公演のヒロインをさせていただくことになったのですが、タイトルに“歌”という言葉が入っているので、電話で(配役を)うかがったとき、思わず“歌は歌いますか?”と聞いてしまいました(笑)。“歌います”ということだったので、こうなったら声が出ないとか言っている場合じゃないな、もうどんなになっても、喉から血が出てもいいから声を出そうと思いました。それがきっかけで、少しずつ歌声を開拓してきました」
――音楽学校の入学試験では、審査の先生方がよくぞ星風さんの眠れる才能を見抜かれましたね。
「その時、私はまだ15歳。日焼けして真っ黒な女の子で、周りを見渡すときれいなお姉さんばかりだったので、振り返っても、よく受かったなと思います。見つけてくださったことにも感謝ですし、両親も宝塚やディズニーが好きで、いつもどちらかのビデオを家で見せてもらっていたという環境にも感謝しています」
――ではいつか、ディズニー・プリンセスも演じてみたいのでは?
「女の子にとっては、永遠の憧れですものね。でも私、最近はどんどん性格が勇ましくなってしまって、どちらかというとプリンス寄りかもしれませんが(笑)、ドレスにはやっぱり憧れます」
――今後チャレンジしてみたいことはありますか?
「映像にも、ストレート・プレイにも興味はあるし、機会があれば挑戦したいとは思いますが、私はやっぱりミュージカルが大好きなんです。
最近、インタビューの度にお話ししているのですが、アメリカ生まれの“ベティ・ブープ”というキャラクターがいますよね。彼女が主人公の『ブープ』というミュージカルが、ブロードウェイで上演されていて、最近クローズになってしまったので実際は観れなかったのですが、ベティ・ブープは祖母がずっと大好きで、私も子供のときからベティちゃんの人形やグッズを持っていて身近だったので、機会があれば挑戦したいなと思っています。
この後出演する『プリティ・ウーマン』の演出をされる、ジェリー・ミッチェルさんが演出・振付をされた作品なので、このタイミングでご一緒できることにも、何かの縁を感じています。曲も良さそうだし、(PR用の)映像を観ると、画面越しにハッピーが伝わってくるんですよ。素敵な作品なんだろうな、とすごく興味を持っています」
――いっそのこと、ジェリーさんが星風さんにインスピレーションを得て、新作を作ってくれたらいいですね。
「お忙しい方なので、そんなことはなかなか…。来世に期待します!(笑)。…でも人生、何が起こるかわからないので、常に全力で体当たりしていきたいです。マリー・キュリーさんと同じで、根底の、演じることが好きという気持ち、演じられる喜びと幸せは忘れずにいたいです」
――どんな表現者を目指していらっしゃいますか?
「嘘のない表現をしたいです。そして、私が演じる役を通して、何か温かい気持ちを抱えてお客様にお家に帰っていただきたいな、という思いがあります。この仕事を通して私ができることって、そういうことなんだと思っています。
私としてはただ一生懸命演じているだけなのに、“おかげで大学受験を頑張れました”とか“明日も仕事を頑張ろうと思えました”といったお手紙をいただくことがあります。皆さんに何かを持ち帰っていただけているならすごく嬉しいことですし、だからこそ、これからも表現者として日々大切に、誠実に生きていきたいなと思っています」
(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『マリー・キュリー』10月25日~11月9日=天王洲銀河劇場、11月28~30日=梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ 公式HP
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