
天才高校生・夜神月と探偵・Lの攻防を描くベストセラー漫画を、フランク・ワイルドホーンさんの音楽、栗山民也さんの演出で舞台化した『デスノートTHE MUSICAL』が、5年ぶりに上演。
豪華キャストの中でも話題を集めているのが、2015年の初演、17年の再演で夜神月を演じ、今回は死神リューク役を演じる浦井健治さんです。
久々の『デスノート』ワールドに浸りながら今、改めて思うこととは。死神のサイドから改めて見えてきたものとは。ご自身も憧れていたというリューク役に取り組む心境を、じっくり語っていただきました。
【あらすじ】死神リュークが気まぐれで落としたノートを偶然拾った天才高校生、夜神月。このノートに名前を書きこまれた者は死ぬという効力があることを知り、月は凶悪犯罪者たちの名前を書き込み、“神”の境地を味わう。不審な連続死を捜査する警察の協力者として、これまで数々の難事件を解決してきた探偵「L」が立ち上がるが…。

宣伝ビジュアルに並んだ写真からうかがえる
今回の『デスノート THE MUSICAL』の大きなテーマ
――初演、再演に出演時、『デスノート THE MUSICAL』はどんな醍醐味のある作品でしたか?
「『デスノート』は日本が誇る世界的なコンテンツですが、そのブランドを超越したところでフランク(・ワイルドホーンさん)や栗山民也さん、そしてみんなで一緒に創り上げた舞台でした。フランクが“君たちはこの作品のオリジナル・キャストだと誇りに思っていいんだよ”と言っていただけて、みんなで切磋琢磨して、粘りに粘って台本も練り上げた結果、こうして10年間、お客様に受け入れられ、世界中で愛されるミュージカルになった。その過程全てが豊かで幸せだなと感じています。
とても素敵な経験をさせていただいた作品に今回、八年ぶりに参加させていただく、しかも今回は違う役、それも憧れていた役をやらせていただくというのは、本当に感謝しかありません」
――出演されていた頃、稽古をしながらリューク役に対して“やってみたいな”というお気持ちが芽生えたのですか?
「本番も含めてですね。リュークは多くの場面で月と一緒にいるので、演じる先輩方の凄みというか、お芝居の面白さというか、そういったものに触れさせていただいている中で、先輩方の演技に対して“こういう表現って素敵だな、面白いな”と、ある種の目標のように感じていたので、今回自分なりにまた解釈を深めて、栗山さんと作っていけるのは贅沢だなと思っています」
――先輩方が演じるリュークのどんなところが魅力的に映りましたか?
「言葉を大切にしながらも、俯瞰して見ている、そういう超越した感覚、人ではないものを演じるっていうのはすごい役者冥利だろうなと思っていました。死神や神を演じることには、生きている人を演じるのとはまた別のカタルシスがあるような気がします。例えば、ハロウィンで仮装は独特の興奮状態になるんだと思いますが、板の上で人ではないもの、死神や鬼のような存在を演じる時にも、そういったものがあると思います」
――稽古が始まり、現時点ではどんな感触でしょうか?
「初演再演とこの作品を何回も演じさせていただいていることで、その時のヒリヒリ感だとか、相手と対面している時のリュークの表情、栗山さんのノートといったものが蘇ってきます。意外と、覚えているものなんですね。先輩方の音色や台詞の入り方が、自分の中にインプットされています。だから初めての役ではあれど、初めて感がないんですよ。『天保十二年のシェイクスピア』でも、役が変わってこういう不思議な体験をしました。やはりその作品に関わっている時間は裏切らないし、自分の糧となっているんだな、と思います」
(注・この後、作品を深掘りしたお話になっております。鑑賞前にお知りになりたくない方は、鑑賞後にお読みください)
――リュークを演じるにあたり、特に大切にされたいポイントはありますか?
「人ではないものとして(台詞を)発すること。
あと、アニメ版では、最初に月とリュークの顔がポンと同時に映し出されて、二人とも“退屈さ”を感じているということがわかりやすく表現されています。
同じ感覚を持っている同士が出会い、共感する。そこから物語が始まって、月は人間としての愚かさと正義感に突き動かされていく中で、精神状態が崩壊していく。リュークはそれを見つめながら、“何にも残らねえ、何の意味もねえ、こういうのが一番面白くねえんだよ”と言うけれど、このセリフの裏にある逆説の意味も、表裏一体で存在するライトとリュークの代弁になればいいなと。
“何かが残る。何かしらの意味がある。ほんとこういう人間らしい悪あがきというのも、そこら辺にゴロゴロ転がっていて、ちょっとは面白いだろ?”なんてセリフが聞こえてきたら、時代を映す演劇思考も培われるのかなと思ってます」
――舞台版を観ていて多くの方が最初にぞっとするのが、リュークの登場シーンかと思います。舞台下から手が出て来て、リンゴを掴むという…。
「あの瞬間に、何百年もの間、どれだけ退屈してきたかを表現したいですね。(最初の一声で)人ではない声を出せるか(が勝負)だと思います」
――リンゴは何かを象徴しているのでしょうか?
「原作漫画では、リュークがリンゴについて、死神界にはない食べ物でジューシーというようなことを言っているのですが、今回、栗山さんはリンゴについて、“心臓”や“魂”をイメージされていて、具体的には最後、月の胸からリンゴを取り出してかじり、“何も残らねえ”の台詞を言っています」
――では、序盤からことあるごとにリンゴをかじっているということは、リュークは少しずつ月の命を食べているのでしょうか。
「そういう比喩もあるかもしれませんよね」

――初演の吉田鋼太郎さんに始まって、歴代のリューク役はそれぞれに鮮烈な造型をされてきましたが、今回はどのように浦井さんのカラーが滲みそうでしょうか。
「リュークは翼を持っている人なので、浮遊感と、俊敏さを出していけたらなと思っています。
原作では、月もリュークも人間界、死神界、それぞれの世界にある種の疑問を抱いています。服装も含めてパンク、ロックな反骨精神があるので、今の自分ならそういう部分を栗山さんと作っていけるんじゃないかなと思っています」
――栗山さんはどんな演出家だと感じていらっしゃいますか?
「栗山さんはいつも、作品をその時代にどう響かせるかを考え、時代を映す鏡としての演劇を目指していらっしゃいます。ノートでは時事問題なども交え、今の日本で生きている我々にとってはこういうことが問題ではないだろうか。だからこの演劇をやる意味がある、と言ってくださいます」
――2025年の今、『デスノート』を世に問う意義をどう感じますか?
「受け取り方は人それぞれに、家族愛だとか正義だとか、いろいろあると思うんですけれども、僕は栗山さんが、現代の人々は“携帯電話に浸食されている”とおっしゃったことが、すごく印象に残っています。僕らは(そこから発信される)情報に操作されがちで、今、一つの情報が発信されると、もう次を求めている。そしてそのためにずっと下を向いている。今のトレンドは何だろう、次のトレンドは何だろうと。
今回、宣伝ビジュアルの写真をご覧いただくと、全員が闇を抱えている感じに写っていると思いますが、栗山さんが初演の時からおっしゃっていた、“みんな下を向いているだけで、目の前のモノを何も見ていない”という傾向がどんどん強くなってきている。それは大きなテーマではないかと思っています。
あと親子愛あるいはきょうだいの愛がいかに尊く、普遍的なものかというのも大事なテーマだと思いますし、人間の脆さ、浅はかさ、人間ならではの愛らしさも浮き彫りになるといいですよね」
――月に寄り添っているように見えていたリュークが終盤、豹変するくだりが印象的ですが、あの台詞をどう発するかなど、プランを練っていらっしゃいますか?
「芝居はみんなで作っていくものなので、プラン無しに挑んで、最終的に作品のテーマを背負えたらいいなと思います。リュークとレムの死神二人は“存在しない存在”で、ある意味、作品をお客様に届ける役どころなのかなと思っているので、決め打ちをせずに行くことでしょうか。
(最終的にどうなるかは)相手役とのキャッチボールでもあるし、作品、お客様、そして時代との兼ね合いですね。だからこそ10年間、日本でも韓国でもこれほど愛されている作品なのだと思います」
――加藤清史郎さんと渡邉 蒼さんがダブルキャストで挑む、新たな夜神月も楽しみですね。
「今回は今回の夜神月像を二人が作れれば、栗山さんが今、作品に込めたいものをおのずと含んだ造型になるんじゃないかと思います。自分としては、夜神月の一番近くにいるリュークとして、一幕では彼を侵食し、二幕ではLとの心理戦、頭脳戦で“生”を迸らせ、崩壊していく彼をじっくり眺めていきたいです」

――初演から 10年。この年月を振り返りつつ、今回、どんな舞台になったらいいなと思われますか?
「この10年の間にはコロナ禍があって、人と会えない時期があったので、人と一緒に過ごす時間の貴重さは痛感しましたね。ライブの素晴らしさというのも再認識できたような数年間だったと思います。エンターテイメントの意義、意味を考えさせられるような瞬間がたくさんありました。
そんな日々を経て、今回の舞台は、今の時代に合う『デスノートTHE MUSICAL』になったらいいなと思います。
例えば携帯電話の在り方にしても、流行りの髪型にしても、今と初演当時とではずいぶん違います。では令和の今の『デスノート』は、どうあるべきなのか。
初演から2年後の再演の時でさえ、栗山さんは“現実が原作になってしまっている、もしかしたら超えてしまっているかもしれない。僕らはそのことを懸念すべきだ”ということをおっしゃっていて、それから8年後の今は、とうにその状況を通り越した世の中になっているんだな、と稽古をしていても感じます。とても残酷な時代になってしまっているけれど、そんな中でも希望の光というものはどこかにある、と願わずにはいられません。
生きることは辛く、世界は残酷かもしれないけれど、僕らは生きていくしかない…。栗山さんのもと、今回はそんな“光と影の物語”が描かれるような気がしています」
(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『デスノート THE MUSICAL』11月24日~12月14日=東京建物Brillia HALL、12月20~23日=SkyシアターMBS、2026年1月10~12日=愛知県芸術劇場 大ホール、1月17~18日=福岡市民ホール 大ホール、1月24~25日=岡山芸術創造劇場 ハレノワ 大劇場 公式HP
*浦井健治さんのポジティブ・フレーズ入りサイン色紙をプレゼント致します。詳しくはこちらへ。