Musical Theater Japan

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東啓介&青野紗穂が語る、出会いの奇跡の物語『Color of Life』

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(右)東啓介 95年東京都出身。主演舞台『命売ります』やグランドミュージカル『マタ・ハリ』まで幅広く活躍。(左)青野紗穂 97年兵庫県出身。シンガーとして活躍する一方、音楽劇『人魚姫』で舞台デビュー。『RENT』、『オン・ユア・フィート!』等にも出演している。©Marino Matsushima

一組の男女の物語を通して出会いの奇跡を描くミュージカル『Color of Life』(脚本・演出=石丸さち子さん、音楽=伊藤靖浩さん)。NYのMidtown International Theatre Festivalで最優秀ミュージカル作品賞他を受賞、16年に日本初演を果たした本作が、新キャストを迎えて上演されます。

『マタ・ハリ』等の大作ミュージカルに抜擢、注目を集める東啓介さん、『RENT』ミミ役や『オン・ユア・フィート!』ヒロインの妹役が記憶に新しい青野紗穂さんは、本作のテーマ、そして二人きりで物語を紡ぐという体験をどうとらえているでしょうか。

 

*ストーリー*東日本大震災を機に絵が描けなくなってしまった和也と、恋人を亡くし、絶望の淵にあるレイチェルは、NY行きの飛行機で隣り合わせる。何気ない会話の中で惹かれ合った二人は、NYのレイチェルの部屋で同居することに。観光ビザで訪れていた和也は90日の期限が近づく中で"運命の出会い”を意識するが、レイチェルは或ることを言い出せないでいた…。

シンプルに見えて、複雑で奥深い作品と格闘しています

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『Color of Life』

――本作について、どんな第一印象をお持ちでしたか?

東啓介(以下・東)「あたたかな音楽と、(登場人物の)二人の幸せな空気が印象的でした。でも出演が決まって台本をよく読んだら、二人の揺れ動く内面がもっと掘り下げられていて、印象が変わりましたね」

青野紗穂(以下・青野)「私も台本を読んだ時に、あたたかくて、人と出会うことの奇跡が素敵に書かれている作品だと感じました。でも稽古に入って、もっと深い部分が見えてきましたね」

 

――どんな部分でしょうか。

青野「私が演じるレイチェルは内面が複雑で、何種類もの感情が同時に流れる時もあるし、構造的に時間がジャンプする箇所もあって、感情の整理が大変でした。またこの作品は単純に同性愛者がストレートになる、というような話ではないので、和也に対して向ける愛情が男性に対してなのか一人の人間としてなのかというところを表現するのが難しかったです」

東「僕もこれまで時を飛ばすような作品をほとんど演じたことがなかったので、感情のジャンプをひきづらずに進めるのが難しかったです。それに楽曲もロックもあればクラシックもジャズもと多彩で一色ではないし、(メロディに乗せる)言葉も多いので、大変でした」

青野「一曲の中でも時間がジャンプしたりするものね」

東「音楽を成立させることがこれほど難しいとは、と思いました」

 

――劇中、何年に何々があって…というナンバーがありますよね。とてもシンプルなだけに表現する側は大変そうと感じましたが…。

青野「すごく大変です(笑)。台詞のような歌なんですよね。時間を数えるというのは、(3か月ビザでアメリカに滞在している)和也とレイチェルにとっては縛りであると同時に、楽しみのような部分もある。なので、年号を数えるこのナンバーはとても大切な曲で、緊張感もあります」

 

――本作で描かれるラブストーリーには、どの程度共感されますか?

東「あるよね、こういうこと。たまたま女性の設定がLGBTだけど、そういうこと抜きで、こういう出会いってあると思います」

青野「本作でレイチェルはLGBTであることをなかなか言い出せないんですが、そういうことって人それぞれにあると思います。ごく一般的にあるドラマとして、自分に置き換えられる物語だと思いますね」

 

――二人はお互いのどこに惹かれたのでしょう?

東「和也の場合、3.11(東日本大震災)がきっかけで絵が描けなくなっていたのが、飛行機で知り合ったレイチェルの寝顔を見ているうち、急に彼女を、それも色をのせて描きたくなるんです。悲しいことも楽しく喋るレイチェルが愛おしく思えてきて、一緒にいることに幸せを感じ始めたのだと思います」

青野「レイチェルの場合はそうすぐにということではなくて、もともと男性に対しては嫌悪感を持っています。それが恋人を亡くし、どうしようもなくなっていたときに和也と飛行機で乗り合わせ、喋った後でなぜか彼の寝顔に嫌悪感を感じなかったんですね。ずっと見ていたい。一緒に過ごしてみたいというふわっとしたものが募ってきます」

東「でも、自分はLGBTだからという壁が彼女の中にはあって」

青野「なかなか乗り越えられない。でも、女性だから男性だからということに関わらず、人間として自分を受け止めてくれる彼に対して、少しずつ思いが積み重なっていく。そして最終的に“この人じゃないとダメなんだ”という確信に変わっていきます」

 

――異性が好きになったというわけではなく、彼女の心の壁が無くなった、ということでしょうか?

青野「どの男性でもOKになったということではないんです。女性が好きだったのに、男性が嫌いだったのに、この人を男性ではなく、人として好きになった。性別ではないんです。それってすごい奇跡ですよね」

この世のすべてのカップルが"奇跡”だと思う。

――そういう奇跡、あると思いますか?

二人「(即答)あると思います」

東「今、世界中のカップルの一つ一つが、奇跡なんじゃないかと思います」

青野「一緒に暮らしてその人を受け入れることって、すごく大変なことじゃないですか」

東「もともと赤の他人だった二人が一緒になるわけだからね」

 

――一組の男女の愛を通して、本作は何を描いていると思いますか?

東「一つはその“出会いの奇跡”、もう一つは“自分探し”の物語だと思っています。レイチェルは恋人を失い、僕は画家として絵が描けなくなっている状態で出会うわけですが、その出会いがなぜか妙にマッチして、彼は絵が描けるようになるし、レイチェルも乗り越えられるようになるんです」

青野「単なるラブストーリーではなくて、その裏に渦巻いてる二人の環境だったり、二人が合わさっているように見えてずれていたり、相手を思うゆえに自分の中に起こる障害、新しい自分といったことが描かれていると思います」

 

――石丸さち子さんの演出はいかがですか?

東「さち子さんは作品によって演出を変えるそうなのですが、今回は“本当に心が動くまでやる”ということを大切にされていました。それが出来るまで寄り添ってくれましたね」

青野「私は当たって砕けろ精神で、わからないことについてはわかりませんと言っていましたが、その都度“こうすればここに行けるよ”と教えてくれたし、役に向き合うための時間をたっぷりとってくれました。丁寧で濃密でエネルギッシュな時間を共有してもらえて嬉しかったです」

 

――どんな舞台に仕上がるといいなと思っていらっしゃいますか?

東「今、何かを抱えている方にも観てほしいし、楽曲を聞いて何かをキャッチしてくれると有難いし、観終わってあったかい気持ちや何か挑戦してみたい気持ちになれる、そういう空気が劇場に溢れるといいなと思っています」

青野「自分の中にある幸せであったり、自分の存在って何だろう、と思っていただいて、家に帰った時に自分の今までの時間を感じてもらえたら有難いです」

ミュージカルの面白さ、難しさ

――プロフィールについてもうかがわせてください。もともと東さんは俳優志望、青野さんは歌手志望だったのですよね。ミュージカルとはどんな形で出会われたのですか?

青野「私はひょんな出会いでした。もともとアーティストとしてライブ活動やコンテストに出場したりしていたのですが、藤田俊太郎さんが寺山修司さんの生誕80年記念で『人魚姫』を演出する際、動画サイトでアメリカのコンテストで歌う私をご覧になって、声をかけてくださったんです。最初は“え?私?”と驚きましたが、藤田さんが“大丈夫です”とおっしゃって。そこからミュージカルに関わるようになりました」

東「僕は最初のお仕事がミュージカルだったので、違和感はなかったですね。ただ、僕はわりと自由に歌うタイプだったので、ミュージカルって正確さも求められるジャンルなんだなと感じました」

 

――ミュージカルに取り組まれてどんな部分に面白さや難しさを感じますか?

東「よく(演技の一部としての歌唱という意味で)“歌わないように歌う”ということを聞くのですが、いかに言葉を発するかが難しいです。それが自然に聴こえてくる作品、例えば『レ・ミゼラブル』はすごいと思うし、言葉プラス音楽がとても重要な『レント』のような作品も素晴らしい。ひとくくりに出来ないのがミュージカルの面白さですよね」

青野「曲の作り方はミュージカルの一般の曲も、たぶん一緒だと思うんです。ここでこの歌詞で感情も一気に上がるからこういうメロディ…という作り方は似ています。ただ、シンガーとして歌っているときは、ゴスペルだったら対・神様だし、ジャズだったら共演者とのセッションでいいグルーブをお客さんと共有するといった具合に、自分と誰かとの関係性で歌っているけど、ミュージカルの場合、そこに物語が加わってきます。物語の中で生まれた感情を、役として伝えるのが面白くて難しいと思いました。

はじめは、フェイクというか、こういう人ってこういう感じで歌う、喋るといった“型”を作って、他の人になりきらなくちゃいけないのかなと思っていたのですが、やっていくなかで違うと思いました。自分と役との共通点を見つけながら、ふだんはこういう歌い方だけどこの役だとこういう表現にしようというものが生まれてきました。

あと、メロディに言葉をのせるのではなく言葉にメロディをのせるというのが難しいです。シンガーとして、音の中で生きている感覚があったので、まず音楽があって気持ちがあがった上でこの歌詞いいね、今グルーブできてるねというのではなく、物語の中で生まれた感情に後ろから曲がついてくるというのが難しいなと感じますね」

 

――どんな表現者を目指していますか?

東「簡単に言葉では言い表せないけれど、人の心を動かせる表現者になりたいです。そのためには、作品を愛することじゃないかな。僕一人では何もできないけど、作品の思い、作者や演出家、スタッフさんたちの思いを伝えられれば、そういうふうにもなっていけると思うんです」

青野「将来的には世界に出ることを目指していますが、今一番したいこととしては、ミュージカルとミュージックシーンをつなげる事です。ミュージカルが好きで観に来てくれる方と、音楽が好きで来てくれる方は、ちょっと距離があると思うんですね。でも歌とミュージカルをやってみて、共通点もあれば、違った面白さがあることが分かりました。私が表現することで、音楽の楽しさやストーリーにのめりこむ楽しさが共有でき、両方楽しめるシーンを作れたら嬉しいなと思っています」

 

(取材・文=松島まり乃)
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*公演情報*New Musical『Color of Life』5月1日~27日=DDD青山クロスシアター 公式HP

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