
フィアンセと都会暮らしを始めようとした矢先に、父が亡くなり、老舗の靴製造会社の経営を受け継ぐことになったチャーリー。だが会社は大量の在庫を抱え、いつ倒産してもおかしくない状態だった。途方にくれる彼はひょんなことからドラァグクイーンのローラと知り合い、彼女たちのための“キンキーブーツ”を製造することを思いつくが…。
2013年のブロードウェイ開幕以来、世界各国で愛され、日本でも2016年、19年、22年に上演された『キンキーブーツ』が、メインキャストをほぼ一新し、2025年の春に上演。期待の公演でチャーリーを(東 啓介さんとのWキャストで)演じるのが、有澤樟太郎さんです。2015年にデビュー以来、舞台、TVドラマ、映画と幅広く活躍する彼が、『キンキーブーツ』に寄せる思いとは。表現者としての矜持をのぞかせつつ、じっくり語って下さいました。

本稽古一日目に自分がどれだけ
“へとへと”になるのか、楽しみです
――有澤さんにとって、『キンキーブーツ』はどんな演目でしょうか?
「もともと大好きな作品でした。『ジャージー・ボーイズ』をやっている時にこの作品を観て、とてもポジティブなエネルギーをいただき、“いつかは僕もこういう作品をやりたいな”と思っていたところ、オーディションのお話をいただきまして。自分が客席で実際に観て“むちゃくちゃいいな”と思った作品に出られることってなかなかないと思うので、今回の舞台は自分にとっても特別な体験になるだろうなと思っています」
――いろいろな作品がある中で、なぜ本作に魅かれたのでしょうか?
「一つには、楽曲の魅力が大きいと思います。そして、キャストの方々の作品愛。みんなが一致団結してやれる要因って何かと考えると、作品に対する愛情ってとても大事で、それによって舞台のクオリティも全然変わってくるように思うんです。
そこから生まれるパワーを僕は観客としてしっかりもらえたし、周りのお客さんたちも、ローラが登場すると“待ってました!”とばかりに声を出していて、すごい熱量、一体感でした。観劇後はみんなでご飯を食べたり、語り合いたくなる作品だと思いますが、僕も『ジャージー・ボーイズ』で共演していたspiさんに“『キンキーブーツ』すごく良くて…”と熱く語ってしまいました(笑)」
――オーディションにははじめからチャーリー役で挑戦されたのですか?
「そうです。もちろん舞台を観ていて、ローラに対して“かっこいいな…”と憧れる気持ちもありましたけれど、僕としてはチャーリーに挑めるというのが本当に嬉しかったです。オーディションはビデオ形式で、生身でないところで自分の持っているものを伝えるのはなかなか難しかったのですが、何とか自分のパワーを伝えられたらという気持ちで臨みました。
その過程でも、クリエイターの方々、スタッフの方々が本当にこの作品を好きで、一人一人、こんなにもこの作品に賭けているんだな、と伝わってきて、合格後もブーツの採寸から衣裳合わせ、ビジュアル撮影まで、ものすごい愛を感じて、皆さんの熱量に圧倒されました」

――本稽古はまだこれからとのことで、現在は台本を読み込まれているところでしょうか。
「今は取材のために、前回公演の台本をいただいて読んでいますが、チャーリーって、客席で観ていた時もでずっぱ(出ずっぱり)だなと思っていましたが、改めて台詞も歌も、ものすごい物量だなと思いました。
ずっと誰かと当たって砕けているというか、ずっともがき続けて、一歩踏み出そうとしてきっかけをつかんでは、思いと違うところに行ってしまったり…と葛藤の多い役なので、観ている方に、チャーリーのもどかしい葛藤が伝われば嬉しいな、でも難しいだろうなとめちゃめちゃ思っています。
この葛藤が『キンキーブーツ』の良さだと思いますし、最終的にはポジティブなメッセージで終わるので、僕としては振り切ってやりたいなと思っています」
――特に後半は周囲の人々との衝突が3つ連続し、その中でソウルミュージックの曲調のソロを歌われるので、相当な馬力が必要となりそうですね。
「ぶつかってぶつかって、その中で“SOUL OF A MAN”を歌うんですよね。オーディションで歌わせてもらったのですが、あくまでオーディション用の台本を使ってやっただけでもものすごくパワーを使って、へとへとになるくらいエネルギーを使いました。もう一曲の“STEP ONE”には“STEP ONE”の難しさがありましたが、“SOUL ~”はぶつかりあう中で歌うので、技術的にもエネルギー的にも大変な曲だなと思います。
3演までチャーリーを演じていた小池徹平さんも、あそこはすごくエネルギーを使うところだったとおっしゃっていたそうですが、僕は観客として観ていた時はその大変さはわからなかったので、いかに小池さんが素晴らしかったか。
まずは稽古の1発目でどれだけへとへとになるか、どれだけのしかかってくるものがあるのか、逆に楽しみですし、お客さんに没入して観て頂けるようにというのが、一つの目標かなと思っています」
――現時点で、チャーリーの人物像をどうとらえていますか?
「この作品には“ありのままの自分”を肯定しよう、というメッセージがあると思います。僕らはつい“男らしくなくちゃ”とか“かっこつけないと”と思いがちですが、ありのままの自分を好きになろう、飾っても飾らなくてもあなたは素敵という、全てを肯定してくれるメッセージが芯になっている中で、チャーリーは一番お客さんに共感してもらえる、等身大の人物なのかな、と思っています。僕も共感できるところがいっぱいあって、だから客席で観ている時に自分を観ているようなもどかしさがありました。いい面も、至らない面もある人物だと思うので、みんなに共感していただける役にしていきたいです」
――例えば工場のマッチョな従業員ドンは、はじめドラァグクイーンに対して明らかに偏見を持っていますが、チャーリーはローラに出会った時もすっと会話をしていて、偏見のない人物のようですね。
「だからこそ、終盤にローラとぶつかった時に口にしてしまうことが、とても衝撃的なんですよね。自分の意見、主観というより、世間で一般的に言われていること、客観をぶつけることで、ローラにはより、刺さってしまう。これはしんどいだろうな…と今から覚悟しています。
それに対して、ドンは“そういうキャラクターだから”ということで、ローラとしてもかわしやすいかも。僕、ドンとローレンって、本当にいい役だと思います。(場を)持っていく役だなぁ…と、台本を読み込む中で、さらに好きになりました。
一時期、主人公と対立する役ばかり演じていたこともあるので、挑戦できるならドンもいつかやりたい役ですが、相当、体を大きくしないといけないですね(笑)。今回は『ジャージー・ボーイズ』でご一緒した大山真志さんがドン役で、地方公演でご飯を食べたりして人となりもわかっているので、共演できるのがとても楽しみです」

――本作には、自分が変われば世界も変わるというテーマがありますが、もののとらえ方を変えることで状況が一変した、といった経験を有澤さんもされたことがありますか?
「僕、さぼり癖があって三日坊主タイプなのですが、ある時まで、自分の体のことなんて気にしなくても普通に生きていけると思っていました。でも、ちょっと“健康”を意識することで、体調の変化を感じて体作りをしたり、知識が広がったり、他の人たちとコミュニケーションをとるきっかけにもなって、いいことしかないな、と思うようになりました。
これがきっかけで、ただのんびり生きているだけじゃなくて、もっといろんなことを知りたいなと思うようになりました。意識一つで、生活って変わるんですよね。
その延長に、観劇というものもあるのかなと思います。生の舞台って、何にも代えられない体験だと思うので、僕らも最高の体験を届けられるようにつとめたいし、みんなにも楽しみに足を運んでほしいな、と思っています」
――今回の『キンキーブーツ』、どんな舞台になったらいいなと思われますか?
「長年、世界中で愛されている作品だけに、プレッシャーを感じていないと言ったら嘘になりますが、台本を読み、動き出している中で、ものすごくモチベーションもあがって楽しみになってきています。
最低でも自分が客席で感じたあの高揚感を、今回の新しいキャストで作り出せたらと思っています。一人一人のエネルギーも全く新しいものになると思うので、前回までの公演に対するリスペクトを抱きつつ、何か超えるものが生まれたら嬉しいですね。ただただ、“届けたい”という気持ちでいっぱいです」
自分の武器に気づかせてくれた“ミュージカル”
――プロフィールについても少しうかがわせてください。有澤さんは2015年に舞台デビューをされ、いろいろな作品に出演されています。その中で、ミュージカルとの出会いは必然だったとお感じですか?
「必然だったと思います。と言ってももともとミュージカルを目指していたわけではなく、昔から好きだったのは映画です。そんな僕にとって、『ウェスト・サイド・ストーリー』のベルナルドに始まり、『17 Again』のスタン、『グリース』のケニーと、映画で観たことのあるキャラクターをまさか自分が演じられるなんて思ってもみませんでしたが、機会をいただいたことはミュージカルへの大きなモチベーションになりました。
実際にやってみると、素晴らしい作品ばかりで、ミュージカルを通して自分が出会ってこなかった世界に出会うことができ、つくづくやれてよかったなと思っています。
自分の武器に気づかせてもらえたのも大きかったです。以前から、自分の身長(184cm)を何かに活かしたいと思っていたのですが、ミュージカルって最大限にそれを活かせるんだということを、『ウェスト・サイド~』で知りました。“爪先から足の先まで活かせるんだよ”と、振付の中で教えていただいたんです。
あと、自分の中ではもともと声にコンプレックスがあったのですが、声もいいと言っていただけて。今まで出し切れていなかった自分の武器が、ここでは最大限活かせるのかもしれない、そう考えるとミュージカルとの出会いは必然だったんだな、と思います」
――どんな表現者を目指していますか?
「映像でも舞台でも、観ていて笑っちゃうくらいかっこよかったり、何気ないシーンであっても“この人凄いな…”と思わせるような演技をする俳優に憧れます。人間が何気なく生きているだけでは経験できない感情。そういうものを引き出せるような演技が出来るような役者になっていきたいです。僕自身、そういう演技に出会うと“生きていてよかった”と思うので。」
(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報 ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』2025年4月27日~5月18日=東急シアターオーブ、5月26日~6月8日=オリックス劇場 公式HP
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