昨秋、代表作『おかしな二人』の女性版がシアタークリエで上演された喜劇の第一人者、ニール・サイモン。彼の最後の戯曲にあたる『ローズのジレンマ』が、昨秋と同じく、大地真央さんの主演で上演中です。
東海岸の高級リゾート、ハンプトンズの邸宅で暮らす有名作家ローズ。5年前に同業の恋人ウォルシュを亡くしてから新作が書けず、負債が増えるいっぽうだというのに、助手アーリーンの催促などどこ吹く風。自分にしか見えない“ウォルシュの亡霊”とのお喋りを楽しむ日々です。
そんなローズを見かねたウォルシュは、自身の未完の小説『メキシカン・スタンドオフ』を若手作家のクランシーとともに仕上げ、印税を稼いではどうかと提案。呼び出されたクランシーは、著書が一冊しかない自分がなぜ選ばれたのかと訝り、共同作業は当然のように難航します。
“果たして小説は完成するのか”を追うと見せかけて、物語は意外な方向へ。男女の愛、家族の愛、そして“死”というものを意識した時、人は何を思うのか…といったテーマが、程よい笑い、晩年の作者だからこそ書けるのであろう味わい深い台詞をちりばめながら、軽やかに描かれます(演出・小山ゆうなさん)。
熟年に差し掛かっても“セレブ”感たっぷり、現役の“恋する女性”でもあるローズを華やかに、嫌味なく演じる大地真央さんを中心に、彼女に振り回されながらも懐が大きく魅力的なウォルシュ役の別所哲也さん、ローズに対する思いに(おそらく)彼女自身の大地さんへの愛着を重ねていらっしゃるであろうアーリーン役の神田沙也加さん、ちょっと斜に構えたように見えて実は…というクランシーをリアルに演じる村井良大さんが、明瞭な台詞術を駆使しつつ、抜群のチームワークを発揮。観ている側はリラックスしながらくすりと笑ったり、人生の機微に感じ入ったり、あたたかな心持に包まれることでしょう。
ある意味“羨ましい”結末の後、この4人が集まったからには…との期待に応えて(?)、カーテンコールには昨秋の『おかしな二人』の時同様、歌のプレゼントが。作品の世界観をスライドさせた選曲も心憎い、素敵なひと時となっています。
(取材・文・撮影=松島まり乃)
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*公演情報『ローズのジレンマ』2月6~25日=シアタークリエ(2月8日17:59まで72時間限定の特別割引チケットを販売中)、その後大阪、愛知にて上演 公式HP