Musical Theater Japan

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「松竹ブロードウェイシネマ」公式アンバサダー・城田優インタビュー:プレイヤー/クリエイターならではの視点で語る『エニシング・ゴーズ』『インディセント』『タイタニック』

城田優 東京都出身。2003年に俳優デビューし、TV、映画、舞台、音楽など幅広く活躍している。近年の舞台に『ダンス・オブ・ヴァンパイア』『キンキーブーツ』『エリザベート』、あいまい劇場 其の壱『あくと』『ブロードウェイと銃弾』等。『ファントム』や『カーテンズ』等では演出も手掛けている。ヘアメイク Emiy、スタイリスト 黒田領 コート/BODYSONG.(TEENY RANCH)、その他スタイリスト私物。©Marino Matsushima 禁無断転載


映像分野での活躍にとどまらず、『エリザベート』『キンキーブーツ』などのミュージカルに出演、『ファントム』では主演に加えて演出も手掛けている城田優さん。

日本のミュージカル界を牽引する一人である彼が、この度「松竹ブロードウェイシネマ」公式アンバサダーに就任しました。

パフォーマーであり、クリエイターである城田さんは、「松竹ブロードウェイシネマ」シリーズ、そして今秋~冬にかけて上映される3作品をどのようにとらえているでしょうか。

日米の演劇事情や将来のヴィジョンも含め、じっくり語っていただきました。
(前半が合同インタビュー、後半が個別インタビューの内容となっています)

 

松竹ブロードウェイシネマ



『インディセント』にインスピレーションを得て
自分でも脚本を書き始めています

 


――「松竹ブロードウェイシネマ」は、ブロードウェイやウェストエンドの選り抜きの舞台映像を、映画館で鑑賞するシリーズ。これまでも『キンキーブーツ』はじめ多数の作品が上映されてきましたが、城田さんはこのシリーズをどうとらえていらっしゃいますか?

「とてもいいことだと思います。ミュージカル・ファンの裾野が広がるきっかけになると思います。

(いきなり劇場で生の舞台を観るのではなく)映画として観ることができるので、初心者にとっても入りやすいと思いますし、今回はラインナップの中に、歴史的にもよく知られた“タイタニック”の物語もあります。

世知辛いもので、最近のミュージカルは土日ともなるとS席チケットが一枚16000円というケースもあり、僕もはじめはとても驚きましたが、それだけ実際問題、人件費がかかってきているんです。

僕自身、NYに行った時にブロードウェイでどうしても観たい舞台のために10万円程度払ったこともあります。ダイナミック・プライシングといって、(需要と供給の関係で)刻々と値段が変わるシステムのためです。そしてそういう作品はロングランを続けていく。

個人的には日本でも、こういうふうになっていってほしいと思っていますが、日本は興行のシステムとして、まず1か月単位で劇場がおさえられているんですよね。そのために稽古の段階で完璧な状態に仕上げられるのだけど、ブロードウェイは(ロングランを想定しているので)プレオープンもあれば、開幕してからも手を加えていて、かなりやり方がちがいます。

 

城田優さん。©Marino Matsushima 禁無断転載


そんなこともあって、日本ではミュージカルはどこか敷居が高いし、どんな格好をして行けばいいかわからないという声もよく聞きます。

でも「松竹ブロードウェイシネマ」さんだと、寝間着みたいな服装で行ったっていいわけですよ(笑)。 僕は映画館に行くときはとにかく楽な格好で観たいから、そういう服で行っています。帝国劇場に行くときのような“ちゃんとおめかししていかなきゃダメよね”というようなマインドを持つ必要もないし、言い方は悪いけれど、ノーメイクに帽子とマスク姿で行ったっていいわけです(笑)。“これちょっと興味あるな”と思ったミュージカルを、生の舞台の5分の一程度の予算で観られて、しかも気をつかわなくていいんです。

最近、ドラマの現場でスタッフの方に、“ミュージカルって観たことないけど観に行きたいんですよね。何かお勧めありますか?”と聞かれることがあるのですが、そういう時、このシリーズは勧めやすいです。“じゃあ一回、ミュージカル映画をご覧になってください。 それでもし好きだったら、実際の舞台もぜひ観て下さい”と言っています。ヘルシーというか無駄がない、素敵なプログラムだと思います」

 

『エニシング・ゴーズ』©Tristram Kenton


――城田さんご自身がミュージカルの世界に惹かれたきっかけは、『セーラームーン』だそうですね。

「16歳の時にオーディションを受けるにあたり、正直、高校生の男の子だったので、“セーラームーンのミュージカルって…何なの?”と思いながら資料映像を拝見したら、自分でも驚くことに、観ているうちに涙が出てきてしまって。 原作にのっとってストーリーがしっかりとあり、そこに小坂明子さんという素晴らしい作曲家の方が本当に素敵な曲をたくさん作っていらして、めちゃくちゃ感動して泣いたんです。そこから(オーディションに合格し)稽古に入って、その感動を改めて味わいました。

でも自分から“やりたい”と思ったことはほとんどなく、その後、帝国劇場に『エリザベート』を観に行った時も、“怖い”と思ってしまって。東宝さんの大作ミュージカルのオーディションをたくさん受けさせてもらったのですが、正直、“落ちてくれ…”と思いながら受けていました(笑)。  

でも、やっていく中で、こんなに奥が深くて、こんなに苦しくてしんどくてやりたくないと思うほどやりがいのあることって他にないな、と思うようになりましたし、映像で活躍するには自分の身長や顔が足かせというか、どうしても邪魔になってしまうけれど、ミュージカルでは映える、優は絶対舞台向いてるよ、最高の役者になれるよと先輩方に言われたことがありまして。自分が他の人たちと並んだ時に勝てる要素って何があるだろうと思った時に、歌がちょっと歌える、身長が高い、舞台映えする、ならばこれを自分の中でライフワークの一つにしようと思ったんです。全部ミュージカルということではなく、一年に一回とか二回ぐらいミュージカルをやることで、自分のブランディングをしていけるのではないか、と。

僕はミュージカルがめちゃくちゃ好きだと思われているかもしれないけれど、それは観ることであって、やるのは大っ嫌いです(笑)。怖くてしょうがないし、本当にお腹も痛くなります。最近『ダンス・オブ・ヴァンパイア』に出演しましたが、二十何年ミュージカルをやっていても、やっぱり直前は緊張してうずくまっていました。精神的にも弱い人間なので、何かの理由で“あなたもう二度とミュージカル出られませんよ”ということになっても、“えー!”とはならず“よっしゃー!”となるかもしれません(笑)」 

 

『インディセント』©Carol Rosegg


――月に何本ぐらいご覧になっていますか?

「自分のスケジュール次第ですが、ミュージカルや演劇、コンサートを含めて、多い時は週に二つぐらい。でも明日はドラマの撮影、明後日はこれという風に、基本的に毎日埋まっていて、ギリギリにならないと自分のスケジュールがわからないので、事前にチケットを取れないんですよね。行けると思った時に連絡しても、もうチケットがないということもあるし、こればかりは巡り合わせなので、ニューヨークに行った時は五日間で七本とか六日間で八本とか、とにかく滞在日数よりも多い本数を見るということを心がけています」

 

――御覧になる時はクリエイター視線、それともパフォーマー視線でしょうか?

「ここ数年は完全にクリエイター視点ですね。 あの演出、照明、舞台装置やお芝居の方向性は…とか、考えながら観ています。

舞台監督さんは誰かな、キューがちょっと遅いんじゃないかな、と感じることもあります。ここで消えてほしいというタイミングで灯りが消えなくて、「早いよ」とか「遅い」とか…。たった一秒の差で全部変わると僕は思っているので、人の作品を見ていても、今のはどういう意図でこういう転換をしているのだろうとか、え、これって意図的? だとしたらすごく攻めてるなとか…。

役者さんに聞いたりもします。この間も、ある作品を観終わった後にその作品の出演者と食事をして、「あそこって、こういうこと?」「よく気づいたね、そこはこうなんだよね」みたいに、質問攻めにしました。すごく勉強になりますよね。つまらなく感じる作品があったとしても、“僕は苦手だな”と確認ができるということは有難いことなので、どの作品にも感謝します。お皿に並べられている食材に対して“これどんな感じの味だろう? わ! 美味しい”と思える日もあれば、“これはどうだろう? まずっ!”と思う日もあるけれど、有難くちゃんといただいてから、うん、これはちょっと合わないなとか、もう少しこうしたら美味しいかな、という風に、必ず学びがあるなと思っています」

 

『タイタニック』©Pamela Raith


――この秋「松竹ブロードウェイシネマ」で上映される3本については、どんな印象を持たれましたか?

「一本目の『エニシング・ゴーズ』(10月31日公開)は“鉄板ミュージカル”。タップにダンスに歌に、派手なドタバタコメディ。王道中の王道だと思います。

『タイタニック』(11月28日公開)は、実話を元にしているところも含めて、切なさとか愁いとか、ちょっとネガティブな感情がどうしてもなくしては観られないお話ですが、モーリー・イェストン氏の作る楽曲が救いになっているというか、ただただ絶望させる物語にはなっていない作品です。

そして『インディセント』(11月14日公開)は今回、この「松竹ブロードウェイ・シネマ」を通して初めて存在を知ったのですが、僕の中では(3作のなかで)一番衝撃的でした。内容も含め、音楽の手法も僕自身、一番感銘を受けましたね。

よく、“今だからこそ見てほしい”というふうに作品を形容したりしますが、マイノリティとか多様性といった言葉が一人歩きしてはや何年という今の時代に、この『インディセント』は非常に強く、人の胸に刺さるだろうと思います。誰もが考えさせられる作品かなと感じます」 

 

――この中でご自身でやってみたい作品はありましたか? 

「演じるのであれば、自分が歳をとったら、『エニシング・ゴーズ』のムーンフェイス。今の年齢ならビリーかな。

演出だったら『タイタニック』ですね。 モーリー・イェストン氏の作品はこれまで二作品携わっていて、モーリー氏には思い出もすごくあるし、『ファントム』でも『NINE』でも、彼の音楽にすごく救われているので、もし僕が『タイタニック』というミュージカルを演出した場合、どんなアイデアを思いついて、どんな風にこの音楽を用いてお客様に感動だったり、この感情をお届けできるだろうと想像できるので、演出するならこの作品かなと思います」 

 

『タイタニック』©Pamela Raith


――映像作品にも出演なさっている城田さんなので、舞台を映像化した際の効果についてもお感じになることがあるでしょうか。

例えば、『タイタニック』で機関士が通信士にこういうメッセージを送ってくれと頼むシーンで、メッセージを聞いているうち、これはプロポーズなんだと通信士が気づき、表情が変わるのですが、舞台の客席からは距離的に、この変化はなかなか見て取ることができません。映像だからこそ気づけることもあるのが、このシリーズの一つの魅力ですね。 

「ミュージカルは特に、大きな劇場で上演することが多いので、1階席の奥とか2階席からは、表情が見えにくいですよね。そういった意味では、今回のこの3作品の出演者たちの表情、涙を浮かべているとか、こらえているとか、笑っているということがちゃんとわかるのは映画ならではの魅力ですし、ここに「松竹ブロードウェイシネマ」の魅力が詰まっています。

劇場では、オペラグラスを使えば何倍かにはなるけれど、それでも奥の席からだと、あそこまで鮮明に表情は追えないと思うんですよね。 大きな劇場においては、あそこまで細やかな演者の動きは追うことができないからこそ、映画にする価値があると思います。

 

『エニシング・ゴーズ』©Tristram Kenton


僕も映像をやっていて感じるのは、フォーカスをディレクションしていく醍醐味。監督が、この人に合わせよう、次はグループだ、次はモノをあえて映そう、喋っていても、その喋ってる姿をあえて映さないという選択をしたりできるわけで、それが映像の面白さだと思うんですよね。 

舞台の演出は僕もやらせていただく機会がちょこちょこありますが、そういったディレクションは、舞台では最終的にはお客様に丸投げすることになります。ご自由にどうぞ、どちらを見てもいいですよ、と。ただ、どこを見られてもいいように、後ろを歩いている人まで含め、こちらは全部ちゃんと作っておきます。そのうえで、最終的にカットしていくのがお客様なんですよね。

だから僕の中では基本的に、ディレクションされたものを見るのが映像であって、観客自身がディレクションができるのが舞台。そして、両者のいいとこどりをしているのが、この「松竹ブロードウェイ」だと思います。さきほどおっしゃったように、ここの表情こんな風だったんだとか、ここってこういう動きしてたんだとか、小さな動きも含めて見れるのが魅力ですよね」

 

『エニシング・ゴーズ』©Tristram Kenton



――アングルなど、日本で舞台を映像化するときとは違うなと感じた部分はありましたか? 

「ひとくちに日本はこう、アメリカはこうというのは正直感じませんでした。撮影する方によると思うのですが、誰がカット割りしているのかチェックしていませんので。
映画やドラマでは、例えば僕を撮る時、右から、左から、グループで、引きで、あるいはクレーンで撮る…というふうにいろいろな選択肢がありますが、ミュージカル映画においてはおそらく、基本的には客席の上手か下手か、真ん中からしか撮れないですよね。映像分野でちょっと変わっていて好きだな、と僕が感じる監督さんの撮り方はできないんですよ。カメラを10台ぐらい使ったとしても、やっぱり舞台上で追うわけにはいかない。となると横顔や後ろ姿は撮れないから、基本的にはカット割りは決まってきてしまいます。

ただし、寄りの表情を見られるという点では、「松竹ブロードウェイシネマ」のような映像は、とてもありがたいですよね。細やかなところまで見えるので、同じ作品も生で見た後にこの映像を見たり、この作品は昔、舞台で観たという方も、改めてこの映画を見ると、役者さんによっても違いますし、発見があるかもしれません。泣く・泣かないも、笑う・笑わないも、その役者さん、もしくは演出家の匙加減次第なので、あの表情が素敵だったなとか、過去に観た舞台と比較したりもできるのが、このシリーズの魅力じゃないかなと思います」 

 

『タイタニック』©Pamela Raith


――ご自身がもし演出するなら、こんな風にやってみたいなといった、具体的なインスピレーションは湧いてきていますか? 

「学びがあるなと感じたのは『インディセント』。『タイタニック』に関しては、使っているカメラ機材も関係しているのかもしれないけれど、個人的にはちょっと照明が明るすぎるかもしれない、もう少し陰影があってもいいかもなと感じました。『エニシング・ゴーズ』も明るいけれど、こちらはもともと明るい作品なのでいいんですよ。『タイタニック』はブランニューの豪華客船だということを差し引いても、終始ぱきっとしすぎていて、衣裳ももう少し(場に)溶け込んでほしいなと感じたりもしました。でも『インディセント』に関しては、そんなふうにディテールで気になるところが全くなく、驚きや興味深さを感じながら観ることができました」


――日本ではなかなか知られざる、ユダヤ文化の世界が描かれていますね。

「正直、僕はユダヤ教でもないので、ユダヤの人たちが経験した迫害というものは…まあ、ハーフとしていじめられるみたいな経験はあったかもしれないから、そういう意味では皆さんよりは指をさされる気持ちはわかるかもしれないけど…。あくまでユダヤ人にしかわからない痛みに最大限フォーカスをして描いているというところが、この作品の面白さだと思います」 

 

『インディセント]©Carol Rosegg



――イディッシュ語の演劇というものが廃れてゆくなかで、それでも継承を続けていこうとする“志”が希望の光となっていますね。

「そういう意味でも面白かったです。最終的には、どの民族や言語が…という話というわけではなくて、日本人なら日本人、スペイン人ならスペイン人が、育った環境とかカルチャーを大事にしたいと思う人たちが一定数いるなかで、その中で、そういう考え方は時代的にダメだよというマインドだったり、それは冒涜になるからよくないよという人がいて、それぞれ否定するみたいなセリフがあって、そういうマインドって日本にも多かれ少なかれあるじゃないですか。日本の良さはこれだ、でもここは良くないみたいな。 それはどの人種においても、どの国においてもあることだと思うんですよね。

ポーラさんが一番描きたかった部分が何なのかは私にはわからないけれど、ユダヤ人でもなければ、戦争を経験したわけでもない、人並みに第一次世界大戦や第二次世界大戦で起こったことを知っている程度の僕でも、この作品を“感じる”ことは出来たし、洗練というか、余計なもののない作品だと感じました。メッセージ性も強いし、この出演者の人たち、みんなユダヤ人なのかな?と思いながら観ていましたね」

 

『インディセント』©Carol Rosegg



――今回の松竹ブロードウェイシネマの3作品含め、日ごろからたくさんのインプットをされている城田さんですが、それらを踏まえて、今後どんな作品を皆さんに届けていきたいなと思われますか?

「『インディセント』に感じたような、オリジナリティのある作品を届けていきたいですね。

これまで、僕が演出をさせていただいたケースでは、『ファントム』にしても『カーテンズ』にしても、オリジナルよりも既存の作品が圧倒的に多くて、もともとあるメッセージを大事にすることは出来ても、新たなメッセージを付け足すということは出来ないんです。

昔から、いつか自分でオリジナルをと言ってきて、実際脚本も色々書いてはいるのですが、飽き性というか、集中力が持たないというか(笑)、これは絶対面白いと思って書き始めても、突然違うなと思ってしまったりして、なかなか進まないんですよね。 スラスラと進んでいかないのは、自分の課題だなと思います。

でもやっぱり『インディセント』のような作品を観ると、インスピレーションをもらいますね。オンラインで試写を観ていた時、“ちょっと浮かんできたぞ”と思って停止ボタンを押して、アイディアを書き留めたこともありました。これを形にできる日が十年以内に来たらいいな、と思っています」

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*松竹ブロードウェイシネマ 『エニシング・ゴーズ』10月31日公開『インディセント』11月 14日公開『タイタニック』11月28日公開 公式HP

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