Musical Theater Japan

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『メリリー・ウィー・ロール・アロング』観劇レポート:“逆行する物語”が照らし出すもの

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『メリリー・ウィー・ロール・アロング』(C)Marino Matsushima 禁無断転載

1976年、ロサンゼルス。映画プロデューサーのフランクは最新作のパーティーで業界人たちにもてはやされますが、旧友の作家メアリーは辛らつな言葉を吐いて去ります。遅れてやってきたスター女優の妻ガッシーとの関係は破綻し、パーティーは衝撃的な幕切れを迎えることに。

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『メリリー・ウィー・ロール・アロング』(C)Marino Matsushima 禁無断転載

“どうして間違えたのか どうしてここに来たのか…”
人々がそう歌う度、時間は数年ずつ遡り、これまでの経緯を再現。もともと作曲家だったフランクが、長年の友で作詞家のチャーリーとの友情をどのように失ったのか。なぜスター女優ガッシーとの恋に溺れたのか。最初の妻、ベスとの離婚で傷ついた彼をチャーリーやメアリーがどう励ましたのか…。

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『メリリー・ウィー・ロール・アロング』(C)Marino Matsushima 禁無断転載

今を去ること40年前の1981年、演出・ハロルド・プリンス、作詞作曲・スティーヴン・ソンドハイム(『リトル・ナイト・ミュージック』)という最強コンビの新作としてブロードウェイで開幕しながらも、その複雑さや結末ゆえに短期間で姿を消した『メリリー・ウィー・ロール・アロング』。

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『メリリー・ウィー・ロール・アロング』(C)Marino Matsushima 禁無断転載

その後、手直しを経て再評価され、日本では2013年、宮本亜門さん演出、柿澤勇人さん、小池徹平さんらの出演で初演された本作が、90年代に英国でメアリー役を演じたことがあり、その後担当した演出でオリビエ賞(2014年)にノミネートされたマリア・フリードマンの演出、平方元基さん、ウエンツ瑛士さんらの出演で、実に8年ぶりの上演を果たしました。

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『メリリー・ウィー・ロール・アロング』(C)Marino Matsushima 禁無断転載

社会的には“勝ち組”だが家族も親友も失い、破滅寸前の男の半生を逆行することで、“なぜそうなったのか”が少しずつ明らかになってゆく構造の本作。時間を遡るにつれ、出世欲や“大人の事情”が削がれた主人公がピュアになってゆく過程は何ともリアルで、演じる平方元基さんの“スマートな業界人”からの変遷が大きな見どころです。とりわけ1957年、まだ何も持っていない、成し遂げてもいないフランクがアパートの屋上でチャーリー、メアリー相手に作曲への夢をきらきらと輝くように語る姿と、“現在のフランク”として現れ、言いようのない寂寥感の中で立ち尽くす姿のギャップが印象的。

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『メリリー・ウィー・ロール・アロング』(C)Marino Matsushima 禁無断転載

相棒だったはずがいつしか“遠いところ”へ行ってしまったフランクへの複雑な思いを歌声に封じ込め、時に爆発させるチャーリー役のウエンツ瑛士さん、出会ったときからひそかにフランクに思いを寄せつつ、親友として彼を支えようとするメアリーの歯がゆさを繊細に表現する笹本玲奈さん、夫婦関係が崩壊し心荒ませた姿とフランクと出会った頃の初々しさ、純粋さの落差に驚かされるベス役の昆夏美さん、ピークを過ぎたスター時代の焦燥感、大スター時代の華やぎと色香、秘書時代の“普通の人”ぶりを鮮やかに演じ分けるガッシー役の朝夏まなとさん、元妻に小遣いをせびりに来る姿と敏腕プロデューサー時代の傲慢な姿の対比が哀愁を誘うジョー役の今井清隆さんもそれぞれに好演。またフランクの弁護士、パーティーの客などの役柄を演じつつ ”コロス“的に場面が変わる度に登場、テーマ曲のバリエーションを歌うキャストも個性豊か、厚みのある歌声で物語を力強くけん引しています。

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『メリリー・ウィー・ロール・アロング』(C)Marino Matsushima 禁無断転載

“道を間違えてしまった”、という前提があるためか、この作品についてはピュアな過去への逆行がいたたまれないという評価もあるようですが、それでは本作は単純に、悔悟の念に沈む物語なのでしょうか。もしそうであれば、物語は老境から始まってもよいでしょう。そうではなく人生の折り返し地点ともいえる年代から物語を始めることで、本作には作り手たちの“まだ軌道修正、リ・スタートは可能だ”というメッセージが込められているようにも見受けられます。フランクの人生の“逆行”を眺めることでどんな感慨を得られるか…。観た者同士で語り合いたくもなる作品です。

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『メリリー・ウィー・ロール・アロング』5月17~31日=新国立劇場中劇場 6月4~5日=愛知県芸術劇場大ホール、6月11日=梅田芸術劇場メインホール 公式HP

*当記事初出時に演出家のお名前を誤って掲載してしまいました。正しくは現在記載のように、今回の演出家は「マリア・フリードマンさん」です。関係者の皆様、また読者の皆様にご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません。お詫びして訂正します。