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『コーカサスの白墨の輪』を語る vol.3 予想だにしない運命に巻き込まれるシモン役・平間壮一:シンギュラリティの足音を感じながら描く“大人の闇”

平間壮一 90年北海道生まれ。07年に『FROGS』で初舞台を踏み、『劇団☆新感線 髑髏城の七人 Season月<上弦の月>』『ゴースト』『Indigo Tomato』『RENT』『イン・ザ・ハイツ』『The View Upstairs』『クラウディア』『ヘアスプレー』『キングアーサー』『ダ・ポンテ』『ヴァグラント』『無伴奏ソナタ』『テラヤマ・キャバエー』『ワイルド・グレイ』など数多くの舞台で活躍している。©Marino Matsushima 禁無断転載


アメリカ亡命時代のブレヒトが人類への希望をこめて書いたと言われる戯曲『コーカサスの白墨の輪』。
1948年の世界初演以来、各地で繰り返し上演されてきた本作がこの春、瀬戸山美咲さんの上演台本・演出で上演されます。

戦乱の中で置き去りにされた生命を救い、決死の逃避行を繰り広げるヒロイン、グルーシェの婚約者シモンを演じるのが、平間壮一さん。
あわただしく結婚の約束をして戦地に赴くものの、帰ってくるとグルーシェは“子持ち”になっており、しかも親権を巡って太守夫人と裁判沙汰に…と、予想だにしなかった状況に驚くシモン。彼はそれでもグルーシェを信じ、支えるのか、それとも…?

人間の“性(さが)”を垣間見せるキャラクターの一人を、多彩な作品に出演してきた平間さんは今回どのようにとらえ、演じているのか、たっぷり語っていただきました。

(インタビューは2026年2月に実施)

 

『コーカサスの白墨の輪』


――多種多様な作品に出演され、百戦錬磨でいらっしゃる平間さんですが、ブレヒト劇は今回が初めてでしょうか?

「初めてです。(ブレヒト劇について)あまり詳しく知らなかったのですが、今回稽古場に入ってブレヒトのことを学んでいます。ブレヒト劇はお客さんに“全てを伝える”必要はなくて、考えてもらうことが大事なんです。

普通、“自分はこう思っているよ”というものがあったうえでお芝居をするじゃないですか。でも今回は“答え”を提示しないというか、“これってどういう意味なんだろう”と感じていただくことに重きを置いていて、特徴的だなぁと思いながら稽古しています。

役名一つとっても、掘っていくと意外なところに繋がっていたり、いろんなところにそういう要素が散りばめられていて、そういうところで(ブレヒト劇に)ハマる人が多いんですよね。

僕自身は、まだハマる前の、模索している感じかな(笑)。演劇には“劇的(ドラマ的)演劇”と“叙事的演劇”というものがあって、今回は“劇的”ではない方らしいです。(注・叙事的演劇においては、劇的演劇が目的とする“観客の感情移入”が排されます)。自分は感情移入できる作品が結構好きだったりするのですが、それを敢えてしない演劇もあるんだということを知ることが出来て、また幅が広がるなと感じているところです」

 

――今回はそこに、瀬戸山美咲さんの世界観が掛け合わされています。台本を読まれた第一印象はいかがでしたか?

「なんだか、想像が追いつかなかったですね。最初に読んだ時に、これどうやってやるんだろう、と。今までは結構“こういう風にやるんだろうな”“こういう演出だろうな”と想像して台本を読むことが出来てきたけど、今回はもう本当にどうやってやるのかがわからなくて、瀬戸山さんの頭の中どうなっているんだろう⁈と思いました(笑)」

 

――ちょっと SF的と言いますか…。

「そうですね。設定を未来に変えられているのですが、根っこにはやっぱり、人間の曖昧さというか、一つのことだけをやっているつもりでも、100%ではないということもあるんだな…ということを感じました。簡単に言うと、好きと言いながらも嫌いな部分がある、というようなことかな」

 

『コーカサスの白墨の輪』稽古より。撮影:田中亜紀


――今回、平間さんが主に演じるのは、ヒロイン・グルーシェの婚約者シモン。あまり描き込まれてはいないキャラクターですが、現時点ではどんな男性として演じていらっしゃいますか?

「台本をいただく前は、グルーシェのことを本気で愛している人なんだろうと想像していたのですが、現時点では、よりリアルといいますか、愛してはいるんだけれども、後半になると(彼女が“こども”の安全のために愛してもいない男性と結婚してしまい)率直に裏切られたという気持ち、愛していた分、憎しみが深くなって、“なんでそんなことしたんだよ”みたいな気持ちのほうが勝ってしまうような気がしています。

これまで出演してきた作品だと、それでも彼女を深く愛していて…というような役を演じることが多かったけれど、今回は、好きだったからこそ怒ったり、落ち込んだりというほうが強いキャラクターになるかもしれません」

 

――エピローグではさらに強烈な未来がさらりと語られていますが、そこに至るまでの片鱗が、劇中、ちらちらと現れてきているのですね。

「そうだと思います。シモンは若い年齢で戦争に行くけれど、その時点では兵士であることに強い意志はないと思います。警備の仕事をしている筈なのに、グルーシェにいちゃつきに行くくらいですから(笑)。

でも、帰ってきたとき、それほど長い時間が経ったわけでもないのに、シモンは落ち着いて、大人になっている。その“大人”の姿を闇深く見せられたらいいなと思っています」

 

――今回のラストは、人類の行く末について非常に考えさせるものがあると思いますが、平間さんはどんな心持で演じていらっしゃいますか?

「本を読んだ段階では、現実を突きつけられるというか、このまま行ってしまったら人類はいなくなってしまうよというようなメッセージを感じて、悲しくなってしまったんですが、瀬戸山さんの中ではそうではないようでもあるので、最後はどういう思いでやろうかなと今、悩んでいるところです」

 

――また、冒頭に“シンギュラリティ”(AIによる人間の知能の凌駕)というワードが出てきますが、この意味を知っている、知っていないで、観客の受け止めは全く違ってくるかと思われます。平間さんはこの問題について、どの程度“ありうるな”とお感じですか?

「僕は、結構前からありうると信じていますよ。コンピューターが人間の脳のレベルを超える世界になる、ってずいぶん前から言われていて、そのころから信じていたけど、今は本当にそうなるんだろうな…って、怖くなっています(笑)。

だから、僕自身、AIは極力使わないタイプです。何かに行き詰まった時に遊びがてらAIに尋ねる方もいると思うのですが、僕はどうしても怖くって」

 

――最終的には、演劇で生身の存在は俳優さんだけ、あるいは…という未来も…???

「どうなんでしょうね。本当に怖い…。今はただ、生身の人間の良さがちゃんと表現出来たらいいなと思いながら、願いながらやっています。人間は完ぺきではない、生身だからこそ、いいところもあると思うんです。遅れたり、台詞を間違えたりと失敗することもあるかもしれないけれど、それが逆に面白さや味わいになるかもしれない。それはAIには絶対出来ない事なのかなと思っています」

 

『コーカサスの白墨の輪』稽古より。撮影:田中亜紀


――音楽については、意外にポップという噂をうかがっています。

「めちゃめちゃポップです!“意外に”というレベルを超えて、まさにポップ。パーティーミュージックみたいです。でもそれも瀬戸山さんの狙いなのかなと思いながら、僕は稽古しています。音楽のギャップも、考えさせるための一つの要素なんだろうな、と思います」

 

――そこで平間さんのダンスが炸裂したり…??

「ダンスはありますね、でもアイドルっぽい、かわいいダンス。手でハート作ったりしています(笑)。こういうことするとは僕も思ってなかったです」

 

――ますます想像がつかなくなってきましたが(笑)、どんな舞台になりそうでしょうか。

「どんな舞台になるんだろう。まさに今、みんなで休憩にはいるたび、どうなるんだろうねって言いながら稽古しています。僕たち自身も未知の領域で、最後までたどり着いた時、何か見えてくるんだろうなと思いながらやっています。

お客様に何を受け取ってもらえたら嬉しいんだろう…。AIと人間というテーマが出てくるけれど、人間というものがなくならないように生きていこう…ということでもないと思うんですよね。人間ってわからない。でもわからなくていいんだよ…みたいなことなのかな。まだ答えは見つかっていないけれど、この作品で強いメッセージを持っているのはグルーシェとアズダクだと思うので、改めて(この二人に集中して台本を)読み返したいなと思っています。彼らの視点で読み返すと、また何か見えてくるような気がしています」

 

平間壮一さん。©Marino Matsushima 禁無断転載



――最近のご活躍についても少し伺いたいのですが、記憶に新しいところで、平間さんは大みそかのカウントダウン・コンサートに出演されましたね。あの時の選曲はご自身でされていたのでしょうか。

「自分で歌いたい曲もお伝えしたし、“この曲どうですか”と提案されたものもありました」

 

――『キャバレー』のMCのナンバー「ヴィルコメン」を軽やかに、お洒落に歌っていらっしゃいました。

「あれは提案していただいた曲です。意外だったので最初は歌えるかなと不安だったけど、歌ってみたらすごく楽しかったですね」

 

――平間さんはどんな世界観でもご自身のものにされてしまうイメージがあります。

「そんなことはないです(笑)。どちらかというと、王子様系というより、ちょっと変わった世界の方が居心地がいいです(笑)」

 

――噛み応えのある、文学的な作品ですね。ジャンル的にも、ストレートプレイ、ミュージカル、音楽劇、フィジカル寄りな作品とボーダーレスに活躍されていますが、2026年はどんな年にされたいですか?

「そうですね。お芝居をする時に、心をもっと開いていけたらと思っています。お芝居をしているとやっぱりどこかで“見られている”という意識があったりするのだけど、もっともっと(自然体の)人間でありたいなと。舞台の上に立っているとか、こういう作品をやっているという意識を外して、本当にそこに存在する人のようになれたらいいなとは思っています。

今まではどこかしら、こういうふうに見えたらお客さんに伝わるよなとか、どこかで演者として立っているという意識が強かったような気がするのですが、もっとリアルに居ることが出来たらと思っています。

いろんなジャンルの作品に触れることが大事なんだろうなと思います。今年に関してはこの後、歌に重きを置く作品や、ダンスをする作品もあるので、パフォーマンス面を磨く年にはなりそうだけど、お芝居に関しては、“見られている”という意識を外せるように心がけていきたいな、と思っています」

 

(取材・文・撮影=松島まり乃)
*無断転載を禁じます
*公演情報『コーカサスの白墨の輪』3月12日~30日=世田谷パブリックシアター その後兵庫、岡山、佐賀、愛知で上演。公式HP

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